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31話 夜の散歩と練習

 夜の散歩に出かけたシナだったが、改めてここ数日で確認した事を振り返っていた。


「えっと、獣の中でも魔力を内在させる存在を魔獣と言って、魔獣には知性の高い種族が居る。その魔獣とは意思疎通が望めて……分かり易いのはトゥフーの種族である黒狼などね」


 そう、この世界では獣の中でも魔力を内に宿す存在を"魔獣"と言う。魔獣には、核となる心臓のような役割をする機関が有るらしく、それを"魔核"と言うのだ。


 魔核と言うと、少し分かりずらいが見た目は"石"のようなものだ。


「あとは、魔物――獣として分類は出来ないけど、その体内に魔力を巡らせる存在。あの緑の小さいのはそんな感じだったわね」


 そう呟きながら、シナ自身が倒した魔物の事を思い出した。


 その魔物は、緑色の体をしておりこちらを見つけるや否や飛びかかって来た。急な事だったので反応出来なかったが、こちらに触れる瞬間何か薄い膜のようなモノで守られて無事だった。恐らく、あれは女王様から貰った"加護"の一種だったのだろう。


 ……ついでに言うと、緑の魔物は一緒に散歩していた精霊達に沢山の魔法を浴びせられ、瞬時に消し炭にされていた。何となく可哀そうな感じがしたが、女王の知識で調べてその正体を知った後は、一切の同情の感情が無くなった。


 女王の知識には――『"ゴブリン"は亜人の一種であり、体内に持つ魔力を筋肉強化へ回す事で、力を強化している。非常に強い繁殖能力を持ち、生後3カ月で成体へと成長しその本能のままに繁殖の苗床となる生物を狩りに出る。苗床となる生物は用が済んだ後は捕食対象とされ、苗床の機能を持たないと判断された場合は同様に食料となる』――とあった。


 ……まあ、あれだ。


 常に"強姦魔"で、"殺人鬼"で、"食人鬼"である魔物だ。


 仙人に性別が無い事を考えると、シナを見つけた瞬間飛びかかって来たのは、食料にしようと襲って来たと考えて間違いないだろう。


 まあ、見た目で性別が判断できるほど賢いとは考えられないので、恐らくは取り敢えず(・・・・・)襲い掛かって来たのだろうが……恐ろしい。


 何はともあれ、魔物には全く話の通じない相手が存在すると良く分かった。黒狼達に話が通じた為、正直どんな相手であっても話せばわかって貰えるという思考になっていた。


 早い段階で魔物の危険性とその在り方について学ぶ事が出来たと思えば、ゴブリンと遭遇したのはある意味運が良かったかも知れない。


 それに、襲われた事で自分の欠点がよく分かった。


 ――と言うのも、急に襲われた時に咄嗟に体が動かなかったのだ。黒狼達の時は、前もって準備が出来たので良かったが、急に襲われたらそう言う訳には行かない。


 咄嗟の事態に対応できる"瞬発力"が必要だ。

 瞬発力を鍛えるには、反復練習を行うしかない。


 ――とまあそう言う事で、今日から散歩と称した"訓練"に来ている訳だが、この訓練にテラとマナの二人が居ない事には理由がある。


 それは、二人が居るとシナが手を出す前に片づけてしまうから。それに、静かに寝ているのを起こすのが忍びないからだった。


 どうやら、テラはシナがしている事に気が付いていたみたいだったが、自由にさせてくれるつもりらしかったので、一人で魔物に対処できるようになるまでは、夜を練習時間として使わせて貰う事にした。


 精霊達は、マナ達の寝ているベッドを中心に守っていて貰っているので、取り敢えずその範囲内から出る為に歩いていた。何度か『強いのに守るなの~?』と精霊に聞かれたが、どうやらマナ達が自分達より上位存在であるにもかかわらず"守る"と言う事が不思議らしかった。


 確かにと思いながら、『そうよね……』と呟いたが『でもシナがそうしたいなら良いなの~』と言ってくれたので、お礼を言って一再び精霊の子達と歩き出した。


 その後、何度か魔物や魔獣に出会う事になったが、意識しているせいか何となく"違和感"から襲ってくるのが分かってしまい、"咄嗟の対処"の訓練にはならなかった。


 それに、どうやら襲撃への対処を繰り返す度に違和感を感じる範囲が広くなっていたみたいで、数キロ先に存在する違和感まで分かる程になっていた。


「……もしかして、これも加護か何かの力なのかしら?」


 そう思って調べてみると、どうやらそう言う訳では無く、単に"魔力探知"という魔力を使った技術の一種らしかった。


 "魔法"では無く"技術"と言う事に驚いたが……一般的には、魔法を使う事で魔力の扱いに慣れると使えるものらしい。どうやら、その保有魔力量でも探知の範囲が変わるらしいのだが、探知を繰り返す度その範囲が広まる事から考えて、それなり(・・・・)に保有量が多いのだろう。


 その後も"魔力探知"を行い、近くにいる魔物を一掃して行った。


 探知を行う度にその可能な範囲は広がり、加えてその違和感の詳細――どんな生き物なのかが何となく分かるようになっていた。探知をすると、"サイズ"や"種族"が何となくわかるのだ。


 シナが夜の内に倒した魔物は多種に渡ったが、今夜の大物は額に赤い魔石が埋まった巨大な鹿のような魔獣だった。どうやら言葉は通じるようであったが、興奮して話が通じなくなっていた為、仕方なく土魔法――土の槍(ランス)で貫いた。


 鹿のような魔獣はシナの三倍以上もあり、仕留める寸前まで口から炎をチラつかせていた。恐らくは"火の精霊"と契約を交わしていた魔獣だったのだろう。出来る事なら、トゥフー達黒狼と同じように平和的に済めば良かったのだが……まあ、仕方ない。


 シナは、精霊の子達とおしゃべりしながら"探知"をして歩いていたが、気のせいか探知をする度に近くから魔物たちが減って行っている気がした。


 結局、かなり遠くまで魔物が居なくなってしまった為、最後に一度精一杯の"探知"をしてから、マナ達の寝ている場所まで戻る事にした。


 精霊達は、何か興奮した様子で話していたが、最後に知った事で興奮していたシナの耳には、その言葉が届く事は無かった。


「ここから一日歩いた場所にある反応、あれは多分……」


 そう呟いたシナの周りでは、精霊達によってこんな会話がされていた。


『すごいね~きっと"一番"だよ~』

『そうだね~きっと"一番"だね~』

『きっと、しばらくは誰も近づいてこないね~』

『そうだね~怖がって近づけないかもね~』


『ね~』

『ね~』


 精霊達が話していたのは、シナが"探知"の為に放った"魔力"に対しての内容だった。しかし、まさか自分のした事の意味を知る筈もないシナは、仲の良さそうな精霊達を眺めていた。


 その後、発見した"行き先"を忘れないようにしながら、二人の側まで戻ると言った。


「二人共、見つけたわよ!」


 ベッドの上で体を起こして待っていた二人は、嬉しそうな顔で言ったシナに対して其々違った反応をしていた。マナは『みつかったなの~?』と先の事が気になるようだったが、テラは頷きながらも小さくため息を付いていた。


「……まったく、その様子だと自分が与えた"影響"については知らないようね……びっくりして起きちゃったじゃない。それに、この分だとこの後しばらくこの場所に近づく魔物はいないんじゃないかしら……」


 テラが呟いている間にベッドを片付けてしまったシナは、そのまま朝ご飯を用意すると、直立不動で震えていたトゥフーを抱えて言った。


「この世界の町に行くのは初めてね!」


 シナは、先程の"探知"である場所を見つけていたのだが、その場所には一つの場所に数十単位で魔力を持つ生物が存在していた。


 詳しく知ろうと探知を行うと、それが良く見知った"人"であろうことが分かった。更に探知を強めようとしたのだが、何となく抵抗を感じた後でその反応が途切れてしまっていた。


 当のシナは、これまで抵抗されると言う経験が無かった為、尚更先に居るのが人間だろうと確信していたが、実はこの町――いや村は普通の村では無かった。


 抵抗されたのは、この村の人々が普通ではない者達だったからなのだが……そんな事を知る筈のないシナは、ワクワクする心を抑えられないでいた。


 テンションの上がっていたシナは、朝食をいつもより多めにしていた。


『あるじ、きょうはいい日だね~』

「そうね、良い日よ!」


「あ、ずるいなの! マナも頭ナデナデして欲しいなの!」

「はいはい、ほらふたり共これで良いかしら?」


 のんびりとした朝食の中、そんな様子を見ていたテラは一人言った。


「……のんきなのは本人達だけ、ね」


 しかし、呟いたテラを横目で見ていたシナは言った。


「あらぁ、そうよねテラもナデナデが良いわよね~」


 そう言って、普段より少し強めに撫でるシナを、少し残念なモノを見るような目で見ていたテラだったが、(これはこれでもう良いのかも知れない)と諦める事にしたのだった。


 朝食が終わるまで十分にシナの手を堪能したテラは、歩き出したシナの横で、少しばかり足取りを弾ませていた。

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