表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

3話 最高な贈り物

 結局微妙な空気はどうにもならなかったが、久しぶりに来た街でのドライブは中々楽しかった。久しぶりというだけでなく隣に可愛い孫二人が居たというのも大きいだろう。


「母ちゃん、そろそろ家着くけど、家の近くの広場に車停めても大丈夫かな?」

「ん? 大丈夫だけど、家の駐車場に停めて良いわよ? これでも一応植物園をやってるから、ウチの駐車場もそれなりの広さがあるし」


 家の前にある駐車場は、2台分の駐車スペースしかなく、美穂達の乗ってくるキャンピングカーを停めると、十分な広さが無くなってしまう。だとしても、植物園の駐車場に駐車すれば済む話のはずだ。


 植物園(ウチ)の駐車場は、最大200台は駐車出来る広さがあるから1台くらい車が止まっていても何の問題もない。


「えっと、それは家に帰れば分かると思うから」

「なんね、歯切れ悪い」


 公平にしては珍しくハッキリしない言い方だ。


「取り敢えず、ここら辺に停めるね」


 家の裏側の広場に車を駐める。


 まあ、何処に駐めようと田舎だから誰も文句は言わないだろうし、ここに駐めたいと言うならそれでも良いだろう。


「帰って来た~」

「楽しみ~」


 公平の子供二人が停まると共に、外に飛び出す。


「そんなに焦らないでも、植物(みんな)は逃げないわよ~」

「お婆ちゃん、皆でご飯だよ~!」


 ……どうやら、楽しみだったのはご飯だったらしい。


 知ってた。


 ……うん。


 知ってたわよ……。植物(みんな)を紹介しに行くのはご飯を食べた(英気を養った)後だって。


 どの植物()から紹介しようかなと、ニマニマしながら車の中でトリップしていると、公平が声をかけてくる。


「母ちゃん、着いたよ? ……背負っていこうか?」


 どうやら、家に着いたのに車から降りない私の心配をしてくれたらしい。こう見えても、公平は気遣いが出来る優しい子なのだ。


「そうね……えっと」


 毎朝体操をしている為か、100歳になってもこれと言って体に不具合は無く、自分でしっかりと歩ける。まぁ、強化骨格を入れたのも、大きいのだろうが……何にしても、反射的に(歩けるから大丈夫だ)と断ろうとしたが、折角の善意を無下にする事は無い、と思い直す。


「大丈夫よ……いえ、少し肩を貸して貰えるかしら?」

「母ちゃん、もう年なんだから無理しないでね」


 公平が手を伸ばしてくれるので、その手につかまり、支えてもらう。


「お母さん、反対側支えますね」


 公平の妻だ。何とも気が利く。


「こうしてると、二人が私の親のようねぇ」


 二人とも私よりも背が高いため、真ん中の私に肩を貸すと、必然的に子供を挟む両親の図になる。


「勘弁してくれよ母ちゃん。こんなに手のかかる子供はいないよ」

「ふふっ植物に一直線ですものねっ」


 公平と公平の奥さんにからかわれる。


「何よ、こう見えても優秀なのよ?植物に関しては世界一だと思ってるもの」


 どうだ!とばかりに言い返すが……


「それは間違いないな~母ちゃん、国民栄誉賞とか貰ってたし」

「そうね、間違いなく優秀ねっ!公平を育てて下さったのも、お母さんですし」


 頬に赤みがさすのが分かる。


「あなた達~!」


 一言返してやろうと思ったが、言い返す言葉が中々見つからない。


「そうなると、母ちゃんは植物も、子育ても優秀ってことになるのか」

「そうなるわね、ふふっ」


 これは開き直るしかない。そう思う。


「そ、そうよ! 優秀なのよっ」


 公平がニヤニヤしている。


「ただ、植物になると見境が無くなるのがな~」

「そうね、それは困るわね~」


 二人して頷き合っている。


 知っている、これはいたずらが成功した時の顔だ。


「はぁ、もう良いわよ、私は植物狂いで……」


 確かに、大好きではあるが、狂ってはいないと思う……思いたい。


「それより母ちゃん、準備はいい?」


 ……?


 周りを見る。途中から薄っすらと気が付いてはいたが、ここは植物園の入り口前だ。


 家の裏から出て来て、家の横を通り過ぎ(・・・・)て、少し歩いた植物園の入り口前。車からずっと、二人に肩を支えられて歩いて来たため、植物園まで来たことに気が付かなかった。


「やっぱり植物に会いたかったのねっ! 準備は良いわ! いつでも、誰にでも紹介できるように準備しているもの!」


「……」

「……」


 一瞬顔を合わせてため息を付いた二人が、同時に植物園のドアを開いた。






「……みんな?」


 そこには人が居た。


 いや、みんながいた。


 20人、30人どころでは無いだろう、80、いや100人近くいる。


 全員、知っている。


 去年、自立して出て行った青年が、良平や昭介、明菜と一緒にいる。その隣には、何年か前に自立した女性とその夫が。その隣には、迷彩柄の上下の服を着た中年の男が立っている。恐らく、仕事の合間を縫って来たのだろう。そして、その隣には……


 みんな、知っている。


「なんで……みんな……」


 聞きたい事がある。話したいことがある。でも、あまりの驚きに言葉が出てこない。


「母ちゃん。さあ、中に」


 公平が背中を押してくれる。


 前に踏み出すと、良平、昭介、明菜が寄って来て、手を引いてくれる。


「こっちだよ」

「お母ちゃん、あのね、あっちに座るの」

「母さん、行こ」


 3人に手を引かれると、人込みが割れて道になる。


「久しぶり、母さん」

「母さん、元気だった?」

「帰って来たわ、母さん」

「ごめんね、久しぶりで」


 ……

 …………


 一人ひとり『久しぶり』と、声を交わす。


 40年振りに会う子から、5、6年振りに会う子まで。……久しぶりに会う子達を含めて、みんないる。


 懐かしくて、話しながら歩いて来たため、時間がかかった。


 みんなと久しぶりに顔を合わせたせいか、思い出が溢れて来て、言葉にならない。


「母さん、家族が集まったよ。ココなら植物(みんな)も入るから、ここで夕食にしよう!」


 目の前にいる丈一がそう言うと、何人かが外に行く。丈一は確か、有名ホテルで料理長をしていたはずだ。恐らく、夕食を用意していてくれたのだろう。






「まあ〜!凄いわね」


 次々と料理が運ばれてきて、レジャーシートの上の背の低いテーブルに並べられていく。


 なまじ人が沢山いる為、食事の準備はすぐ整った。


 みんながシートの上に座った後、立ってくれと言われたので、立ち上がる。


「さあ、みんな! 今日は母さんの誕生日だ! 母さんは今日で100歳! 母さんの最高なプレゼントとなるように、皆でお祝いしよう! それでは、母さん、100歳の誕生日おめでとう!」


 迷彩服を着ている男、恭二がドリンクの入ったコップを掲げて声を張り上げる。恭二は昔っから声が大きかったし、運動が好きな元気な子だった。今は国を守る防衛関連の仕事をしているらしい。


 恭二の掛け声とともに、祝いの言葉とコップやグラスが空に上がる。


「「「「母さん、おめでとー!!」」」」


 抑えていた涙が(こぼ)れる。


「みんな、ありがと。100年生きて来て一番うれしい贈り物よ」


 みんなに泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、視線を下に落とす。


「おばあちゃん、食べよ~!」


 もう日が落ちて大分経つ為か、良平はお腹が空いて仕方ないようだ。お腹をさすりながら、上目づかいで懇願してくる。


「ふふっ、そうね、みんな!食べましょう!今日はありがとう!」


 良平のアシストもあって、平静に戻れたため、良平の頭をなでながらみんなに声をかけ、自分も目の前の美味しそうな料理へと手を伸ばす。





 久しぶりに再会した顔ぶれも多く、パーティは深夜まで続いていたが、流石に小さな子供たちは眠くなってしまったようで、親に抱えられた様子が見られるようになっていた。そして、一人、また一人と言葉を交わした後で、植物園を出て行った。


 寝る場所があるのか気になったので聞いてみると、どうやら事前に”テント持参必須”と連絡があったらしい。今回皆を集める主導をしていたのが、公平だった様で公平が色々と手を回しくれていたらしい。


「公平、今日はありがとうね、色々骨折ってくれたみたいで」


 みんなが私を探して挨拶してから出ていくものだから、自然と出口に立っていたのだが、公平が美樹を抱っこして歩いて来たのだ。


「母ちゃんが楽しんで貰えたんだったら、良かったよ。美樹と輝樹を寝かせてきたらまた戻って来るから、ちょっと待っててね」


 そう言うと、公平が美樹を抱えて出ていく。


「母さん、私は子供たちと一緒にいるので、公平と少し話してあげて下さい。今日をすごく楽しみにしてたんです。会社を1週間休んで準備するくらい」


 輝樹と手をつないでいる公平の妻が、そう言いながら、微笑む。


「ありがとうね、本当に。今日は人生で一番の1日だったわ。輝樹もありがとうね」


 そう言って、輝樹の頭をなでると、眠そうに目を擦りながら輝樹が言う。


「お婆ちゃん、パパのお母さんでありがと」


 思わず抱き着きたくなるが、衝動を抑えながらお休みなさい、と挨拶をして見送る。


 輝樹達の姿が見えなくなったのを見て、周りを見渡すと、残っているのは数人の大人たちのみで、(深夜まで語り明かそう)と話した人ばかりだった。


「みんなと一緒に話せるのは、おそらく最後だろうし……今日は徹夜かしら。……最高な贈り物ね」


 そんなふうに呟きながら、みんなが待つ方に歩き始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ