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29話 山のような食材(にく)

 テラが降ろした獣を見ながら口を開いた。

 少し驚いて口が開き気味になってはいたが、それも仕方ないだろう。


「……これは?」

「これは、近づいて来たのを倒したのよ」


「……近づいて?」

「そうよ、言っておくけどここはかなり危険な森なの。普通の生き物はいないの」


「それがどうして、こんなに沢山……」


 テラと話している間に集まって来たソレ(・・)に目を向けた。


 ソレ(・・)は、精霊達が運んで来た獣の死体だった。


 ぼうっと光っていたのは、やはり精霊だったらしい。


「……えっとね、皆はシナに世界樹に居るように言われたけど、その中でも何人かを選んで護衛する事にしてたの。だって危険なのよ。それで案の定近づこうとする獣が多くて……――」


 ……どうやら、テラと皆は協力して護衛してくれていたらしい。


 確かに、途中一度も獣と出合わなかったので不思議に思ったが、それでも"そう言う事もあるか"程度にしか思っていなかった。


「そうだったのね……」


 テラと皆が守ってくれていた事を知って、嬉しく思うと同時に少し申し訳なく思った。何故なら、シナの前で何人かの精霊が不安げにしているのが見えたのだ。


 恐らく、怒られる事を覚悟していたのだろう。


 俯くテラと、不安げな精霊達を見て言った。


「ありがとうね。それとごめんなさい」


 頭を下げるシナに、驚いた様子のテラが言った。


「……どうして? 私が怒られるのは分かるのに――」


 不思議そうに顔を上げたテラに言う。


「それはね、テラと皆が私達を思ってくれたからよ」

「でもそれじゃあ、ごめんなさいは――」


 首を傾けたテラと、集まって来た精霊に言う。


「それは、私が皆に苦しい思いをさせてしまったから」

「そんなこと――」


 両手を握りしめたテラが『苦しくない』と言おうとする。

 それを、出来るだけ優しい表情を浮かべるように気を付けながら言った。


「いえ、確かに倒す事は問題じゃないかも知れないわ。テラは強いものね。――でも、こうして悲しい辛そうな顔をしているじゃない?」


 そう、テラと精霊達は"シナの言葉に逆らった"という事で、心を苦しめていたのだ。


 それを教えながら言う。


「私には、したい事を伝えて欲しいわ。それに、別に私は皆に強制はしないから、基本的に自由にして欲しいのよ……その方が楽しいじゃない?」


 そう言って、抱き着いて来ていたテラの頭を撫でた。


 どうやら、マナは何も伝えられていなかったみたいだが、それはマナが何も隠せないからだろう。――いや、精霊自体の存在はマナも知っていたみたいなので、恐らくはマナが気に留めていなかっただけかも知れない。何はともあれ、テラはかなり気を回してくれていたらしかった。


 しばらく抱き着いていたテラだったが、マナが『痛いなの?』と言い、トゥフーが『たいへんだぁ!』と駆け回り始めた処で顔を上げてくれた。


「それじゃあ……」

「ええ、怒ってないし嬉しかったわ。ほら、沢山食べ物も手に入ったしね!」


 そう言って、周り――木々の間に、文字通り"山となって"積まれている獣に視線を向けた。トゥフーなど、興奮して登ったり滑り落ちたりを繰り返している。


「……よかった」


 その後も、暫くテラは離れそうになかったので、その状態のまま一先ず"収納"してしまう事にした。テラが腰に引っ付いたまま片っ端から収納して行ったが、これまた食べられるか分からないような獣も多数見受けられた。


 中には、木のような姿をした獣――モンスターも居たが、女王の知識によると『外皮が厚く、燃焼する際に香りの強い煙を出す』とあった。


 何となく、肉の燻製に使えるかも知れないと思い、一応確保しておいた。


 一通り獣を仕舞い終わったところで、精霊達を代表してテラが聞いて来た。


「……この後も続けて良い?」


 主語が無かったので、何を(・・)か分からなかったが、例えそれがどれ(・・)であっても答えは変わらないだろう。


 テラを前にして言った。


「勿論よ、自由にすると良いわ」


 そう言ったのを聞いたテラは凄くうれしそうにしていたし、周りに浮いていた精霊達も周囲を飛び回って喜んでいた。


 そんな様子を見て、一つだけ言っておいた。


「ただし、困ったら必ず相談して頂戴ね!」


 その後、夕食の続きをする事になった。精霊達は、相変わらず森を出るまでは護衛をするつもりらしく、『倒した獣は持って来る』と言っていた。


 ウキウキとしている精霊達の様子を見て、不安になったので『不必要に"狩りに行かない"でね』と釘を刺しておいた。


 下手をすると、シナを喜ばせる為に獣を狩りつくしてしまい、生態系を崩しかねないと思ったのだ。普通ではありえない事だったが、山のように積まれた獣を見た後だと否定しきれなかった。


 飽くまでも『"襲って来た"獣だけを持って来るように』とお願いをしたシナは、その後段々と四方に散らばり始めた精霊を見送りながら、呟いていた。


「みんな強いのね……」


 すっかり皆が散らばり、元の二人と一匹になった所でマナが言った。


「えっとね、おかあさん。あのお腹がぷよぷよしてたのが気になるなの!」


 どうやら、しっかりとリサーチ済みだったらしいマナに苦笑しながら、『それじゃあ、少しだけ作ってみましょうか』と言った。


 その後、満足したらしいトゥフーと良い顔をしたマナ、未だに離れようとしないテラで楽しくお話をした。その内容は、これから向かう先の事から始まり、そこに有るだろう食べ物の事や楽しそうな事。これからしてみたい事についてだった。


 テラとマナは、どうやらシナの記憶にある料理を食べてみたいらしかったが、シナとしてはこの世界にある植物やそこに居る人について興味があった。


 テラは人間の事を嫌っているみたいだったが、恐らくは人間側にも理由があるだろう。何故人間が世界樹に手を出し、あれほど酷い事をしたのかも気になる。


 出来る事を、無理せずのんびりとしていく事にしたシナは、その後トゥフーが寝たのを見てテラとマナにも横になるように言った。


 テラは『精霊は寝ないのよ?』と言っていたが、マナはトゥフーに引っ付くと直ぐに目を閉じてしまった。そんな様子を見て、静かにまねをしたテラにも毛皮で作った毛布を掛けてあげた。


 二人と一匹が眠ったのを確認して、シナは一人色々と作り始めていた。


 それは、先程前世の話をしたのが切っ掛けで懐かしくなったのが理由だったが、出来て行く物を確認していたシナは、つくづく自分の【合成(ギフト)】は反則なのでは無いかと思った。


 次々と想像通りのモノが出来上がっていた。

 出来なかったモノも幾つかあったが、それも素材を集めれば作れそうだった。


 その後、何度か精霊達が獣を運んで来たので、お礼を言ってそれを収納しておいた。


 ――暫く先まで、食料に悩む事は無さそうだった。


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