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26話 山のような捧げもの

 すっかり日が昇った後、シナは家の前に移動しておいたソファに座っていた。


 別に、疲れたから座ってぼーっとしていたとかではない。


「……えっと、外して来た窓枠に透明度の高い結晶を合成して……よし!」


 目の前に、作ったばかりの窓枠を空間収納から取り出すと、そこには窓枠に半透明のガラスのような物がハマっていた。


 最初につくった家の窓枠には、ガラスがハマっておらず、只形だけの窓だったのだ。ついさっき気が付いたのでこうして作ってみたのだが、どうやら問題なさそうだ。


「あとは……仕方ないわよね!」


 少し迷ったが、回収していた黒狼の亡骸を使ってかけ布団を作った。


 出来上がったかけ布団は、艶々とした光沢とさらっとした手触りと何よりモフモフしていた。


 己の仲間から創り出した布団を嫌がるかと思っていたが、それを見たナンテツ達黒狼と白い毛をしたトゥフーは『落ち着きます主!』とか『知ってる匂いだよ? あるじ!』とか言っていた。


 どうやら狼たちは、シナとは少し違う価値観を持っているらしかった。一応前もって確認していたとはいえ、嫌がる素振りがあれば仕舞っておこうと考えていただけに、少しほっとした。


 その後も、カーテンや入り口に敷いて置くマットを作って行った。すると、途中でそれ迄庭園内を歩き回ったりしていた黒狼達が、何故か地面に伏して動かなくなっている事に気が付いた。


「みんな、どうしたの?」


 心配になって聞いたシナだが、黒狼そしてトゥフーの懇願するような視線と、その言葉を聞いてしまったと思った。黒狼達の長はこう言った。


『すみませぬ、我ら少々腹が減りまして……』

「……あ、そっか!」


 すっかり忘れていたが、ナンテツ達黒狼は何かを食わなくては生きていけない。そう、自身だけでなくマナやテラが何かを食べる必要が無かった為、食事をするという事を忘れていたのだ。


 慌てて謝ったシナだったが、この先はどうしたものかと思った。


 何せ、ここには食材は無いのだ。

 有るとしても精々が野菜の類だろう。


 ……狼が野菜を食べるとは思えない。


 少し悩んでいたシナだったが、その様子を伺っていた黒狼達の長が言った。


『主よ、もし宜しければ我々に『狩をして来るように』と命じて下さい』


「……命じる?」


『はい、我々は御命令が無くてはそのように出来ませんので……』


「え、そんな事――」


 思わず「そんな事ない」と言いそうになったが、念の為"女王の知識"で調べてみた。すると、そこには確かに"契約を交わした従魔は、主人の命令に従順になる"と書いてあった。


 そして、続けて"正し、その力の差が大きく離れている場合はその限りではなくなる"ともあったが、黒狼達の様子を見る限り、どうやら黒狼達とシナはそれ程力の開きは無かったのかも知れない。


 ――何故か、自身が黒狼達よりも"弱い"基準で考えていたシナだったが、その実まさか自分が黒狼達等歯牙にもかけないほどの強者だとは、夢にも思っていないのだった。


 その後、慌てて黒狼達に許可したシナだったが、少し心配だったので精霊達に「何か有ったら守ってあげて頂戴ね」と頼んでおいた。


 遠吠えを上げながら走って行ったのを見送ったシナは、一人残されたトゥフーを抱き上げた。トゥフーは、黒狼の長に『主といろ』と言われお留守番のようだった。


 その後、お腹が空いた様子のトゥフーを落ち着かせながら、庭園の細かい部分――道の両脇に溝を作り、地下に土魔法で生成した土管を整備したりした。


 そうこうしていると、何やら黒狼達が帰って来たみたいだった。


『主、戻りました!』

「おかえりなさい。……あら、随分と沢山獲って来たのね~」


 黒狼達は、頭上に巨大な猪と鹿のような立派な角のある獣を、山の様に運んで来た。宙に浮いているようにも見えるが、恐らくは影魔法の一種だろう。


 まじまじと見ていたシナだったが、歩いて来た黒狼の長が言った。


『これは主への捧げものです』


 一瞬断ろうかと思ったが、恐らく黒狼の長は譲らないだろう。少し考えて、一度受け取ってから黒狼達が必要な部分を分ける事にした。


「あら、ありがとう。それじゃあ私は、皮とか他の部分を貰うから、お肉は好きにして良いわ」


 シナがそう言うと、思った通り黒狼の長は『有難き幸せです』と言った。


 その後、早速解体しようと思ったシナだったが、動物の解体は前世の学生の頃依頼だったので、上手く出来るのか少し不安になった。


 どうしたものかと思っていると、黒狼の長が申し訳なさそうに歩いて来た。


 その様子を見ながら、(あぁもしかして、自分が解体しますって言うのかな)と思っていたシナだったが、そもそも狼が解体する筈もなく、要件は全く別の事だった。


 どうやら、自分達のお腹の問題よりも重要らしかった。


『主にお願いがございます!』


「なにかしら?」


 ピンと立った尻尾を見て、可愛いなと思いながら聞くと黒狼の長が言った。


『我らの仲間も主の庇護下に連なる事を、お許し頂きたいのです』


「えっと、どういう事かしら?」


 そう聞くと、若干言いにくそうにしながらまだ一族に名を連ねる者が居る事と、その者達が結界の外で待機している事を説明された。


 どうやら、まだ狼が増えるみたいだった。


「分かったわ。その代わり、自分達に必要な食事は自分達で用意する事。勿論狩の時は自由に出入りして良いわ。あとは……そうね、植物を踏んで傷つけないように気を付けてちょうだい」


 そう言ったシナに『分かりました主!』と答えると、早速森の方へと走って行った。


 その後、黒狼達が戻ってくるまでの間に、試しに猪一体を【合成】で肉にしてみた処、不自然な程綺麗な"肉"が生成されていた。


 他の素材も色々試してみたが、どうやら猪一体を収納して【合成】する事で"牙"や"皮"を完璧な状態で剥ぎ取り(もとい)"生成"できるみたいだった。


 改めて(本当に"何でも"合成できるんだなぁ……)と考えていたシナだったが、どうやら黒狼達が戻って来たらしかった。


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