表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/51

25話 トゥフーとナンテツ

 白い毛を纏った狼が、疲れ切った様子でその頭を膝に乗せている。


 その狼の額には、薄っすらと契約の証である紋様が浮かんでいた。


「あらまあ、ぐっすり眠っちゃって……」


 疲労と安心があったのだろう。


 頭を乗せたまま、くーくーと寝息を立てている。


 寝息に合わせて膨らんでいた鼻風船に微笑みながら、テラとマナが戻って来たのを見て言った。


「どうだったかしら?」


 聞くと、マナが飛びついて来たので、狼の子を起こさないようにして受け止めた。


「あのね、皆もとに戻ったなの!」

「何言ってるの、マナはやり過ぎよ! 元に戻す処か元気になり過ぎてたじゃない」


 その話を聞きながら、二人が来た方に目を向けた。すると、確かにそこにはつい先ほど迄存在しなかった、大きな木が数本生えていた。


 ……後で確認する必要があるだろうが、頼んだのは摘んで来て貰った植物の根を元に戻す事と、ダメージの回復だ。植物自体は、"回復薬"の原料に使った植物の事だ。


 何故こんな事を頼んだかと言うと、摘んで来て貰った中には、茎が裂けているモノや根っこから引き抜いて来たモノが有ったのだ。


 一応根や茎も使えるみたいだったが、今回の場合は葉の部分だけで良かったので、生えていた場所に戻して来て貰ったのだ。


 何にせよ取り敢えず、植物を極力傷つけないで摘む方法を教える必要がありそうだ。


 マナを撫でながら、テラと他の精霊達も呼び寄せてから言った。


「あのね、植物には傷付けないで摘む方法があるの」

「"傷付けない"なの?」


 不思議そうに聞くマナに答える。


「そうよ、傷付くと元気が無くなっちゃうでしょ?」

「そうなの?」


 どうやら、マナには傷付くという感覚が、いまいち分からないらしい。周囲の精霊を見ても皆同じ意見らしかった。そんな一同に、どうやって説明すれば良いのか悩んでいたのだが、それを見たマナが聞いて来た。


「……おかあさんは、植物が傷付くとかなしいなの?」

「ええ、そうね悲しくなるわね」


 そう答えると、頷いたマナが言った。


「分かったなの、教えてもらうなの!」


 その後、マナの言葉に精霊達が同調した事によって、植物を摘む講習会が行われる事となった。膝に頭を乗せていた狼の子供は、一瞬頭を上げて見上げて来たが抱え上げると、何事も無かったかのように再び眠り始めた。


 その後、片腕に狼の子供を抱え、もう片腕で植物の摘み方を実演して見せると、真剣な表情を浮かべたマナに触発されたらしく、他の子も真面目に聞いていた。


 あとは、毎朝少しづつ摘んで練習をして貰えば良いだろう。

 一先ず、摘んだモノを入れて置いて貰う用の箱を、小屋の隣に作っておいた。


 箱には植物が痛まないように、状態が保存される女王謹製の結界を組み込んでおいた。これで、多少の時間経過でも中に入れた植物が痛む事は無いだろう。


 そんなこんなしていると、いつの間にか黒狼たちが起きて、少し離れた場所でこちらの様子を伺って居る事に気が付いた。どうやら、十分に休めたらしい。


 黒狼たちの回復が思いの他早いと思ったシナだったが、考えてみれば外傷及び体力は既に回復済みなのだ。問題だったのは、精神的な面での回復だったのだろう。


 それに、どうやら時間はそれなりに過ぎていたみたいで、いつの間にか空が白み始めていた。近づいて来る黒狼たちを見ていると、腕に抱いていた白い狼がモゾモゾと動き出した。


『うぅん……あるじぃ……』


 どうやら、まだ夢の中らしい。


 可愛い寝言を漏らすのを聞いていると、黒狼がこちらに近づいて来て言った。


『我が主、お願いがございます』

「あら、どうしたの?」


 改まった様子に不思議に思いながら聞くと、黒狼の長は何か必死な様子で言った。


『今回の契約の証に我らに一族の名を欲しいのです』

「……名前を?」


 不思議に思って聞くと、どうやら『主に名を貰って、初めて契約が完了する』と言う事らしかった。白い狼の子に関して聞くと、『その者は我らの群れとは別となりました故……』と言っていた。


 まあ、契約ごとに名が必要だと言うのであれば、別々に契約をした其々に別の名を付ける必要がある、と言う事にも納得が出来る。


 少し考えてから答えた。


「分かったわ。別に断る理由はないですからね」


 そう言ったシナだったが、心の中では若干ワクワクしていた。何せ、犬のような獣に名前を付けるのだ。何となく、ペットの犬に名を付ける様で楽しくなる。


 ……まあ、口が裂けても"ペット"等とは言えないが。


 そんなこんなで黒狼たちに名前を付ける事になったのだが、少し考えてみて、中々難しい事に気が付いた。何せ、黒狼の長が求めているのは群れとしての名なのだ。


 これが、それぞれ別の名を付けるのであれば、それこそ幾らでも……クロとかヤミとか……うん。いや、もっと色々凄く良い名前が思い付くはずなのに……。


 その後ウンウンと唸っていると、白い狼の子が起きたみたいだった。


『あるじだぁ!』


 尻尾をパタパタと揺らして体を擦りつけて来る。


 ……可愛い。


 白くて、モフモフしていて、人懐っこくて癒される。


「お! おきたね、豆腐~」


 何も考えていなかったせいだろう。

 チラリと頭に思い浮かんだ言葉を口にしていた。


 すると――


『トゥフー? 僕の名前トゥフーなの?』


 そう言って嬉しそうにした白い狼の子に、ただ頷く事しか出来なかった。せめてもの救いは、この世界に豆腐なる食べ物が無いらしい事と、白い狼の子が良い感じに聞き間違えてくれた事だ。


 ……その後、『僕はトゥフー!』と言って跳ねてるのを横目に、何となく前世の記憶を思い出していた。少しだけ懐かしくもあり、転生してもセンスが変わらなかった事が少し残念でもあった。


 前世で何度かあった、重要な名付け――新種の植物を見つけた時や、親友の子供の名前の名付けを頼まれた時に"あられせんべい"とか"植人(うわと)"とか言う名を付けてしまった事があった。それこそ、直近ではマナやテラにも危うく、変な名を付けてしまう処だったのだ。


 せめて、黒狼たちには良い名前をと考えていたシナだったが、朝日が昇り始めたのを横目に感じていた。朝日を浴びたシナは、自分が転生してから既に一度も寝ていない事に思い当たり、思わず呟いていた。


「何徹かしらね……」


 すると、それを聞いた黒狼達の長は遠吠えと共に言った。


『聞いたか同胞よ! これより我ら一族は"ナンテツ"――黒狼ナンテツだ!』


 その遠吠えを聞いていたシナは、思わず地面に両手を付いて呟いていた。


「あぁぁぁ……私のバカ。あれだけ失敗して来たのに~」


 その後、不思議そうな顔をして覗き込んで来たマナを抱きしめ、何となく事情を察した様子のテラも抱きしめ、テシテシと歩いて来た白い狼の子改めトゥフーを抱きしめた。


 勝手に自爆して負った"心の傷"を癒していると、楽しい事をしていると思ったのか精霊達と、何かの儀式かと思ったらしい黒狼達が寄って来て、一つの大きな団子みたいになってしまった。


 段々と暑苦しくなってくる中で、次こそは失敗しまいと決心していた。


分かりにくいですが、

トゥフーは白い狼の子の固有名。

ナンテツは、黒狼一族の名です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ