23話 突然の来訪者
しばらくの間、家を建てる場所を探していたシナだったが、良さそうな場所が見つかった為、早速家を取り出していた。
「よし、ここなら良いわね」
家を取り出すと、隣で見ていたマナが興味深そうにしていた。そんなマナを微笑ましく思いながら裏手へと回ると、そこに有った管を確認した。
「後は、水路とここを【合成】っと……良さそうね」
少し手を加えると頷いて、その出来を確認した。
外観は、黒っぽいレンガ造りの家だ。
中に入ると、ちょっとしたリビングとキッチンがある。リビングとキッチンの他にも、扉で仕切られた部屋があるが、そこは寝室となっている。
イメージしたのが、簡単な小屋のような家だったのでこんな形になったのだろう。
因みに、寝室にはベット以外の何も置く予定が無かった為、キングサイズ――大人四人分の大きさのベットを作って置いておいた。
「……うん、想像通りね」
ベットが出来ているのは良いのだが、一つだけ問題があった。
「やっぱり、かけ布団はないわよね……」
どうやら、布団を作る資材は足りなかったらしい。
まあ、鳥や羽のある動物などいなかったのだ。
当然と言えば当然なのだろう。
今は仕方ないが、いずれはふわふわの掛布団が欲しい所だ。
隣で『おっきいなの~』と言ってベットに飛び込んでいるマナを見ながら、癒されていた。再び寝そうになっているマナを見て、自分もベットに横になった。
その後、横ですやすやと眠るマナを見ながら、明日やる事を考えていた。
「……色々と手を加えないといけないわよね」
一応完成した庭園だったが、出来たとは言っても所詮急いで作ったに過ぎない。色々と細かい所を見て行くと、幾らでも調整が必要な所が見つかるだろう。
明日目が覚めたら、先ず植物の状態を確認して、その後順番に補修と整備をしていく事に決めたシナは、収納先にある在庫で思いつく限りの備品を作り始めた。中には、木の屑から作ったウッドチップなどもあったが、それらは一先ず三種類の大きさの物を作っておいた。
その後も黙々と必要な物を作っていたシナだったが、空が白み始めているのを見て、マナを起こす事にした。目を擦りながら擦り付いて来るマナを撫でながら、覗き込んで来ていたテラをこれ以上待たせては悪いと思ったので、早速外に出る事にした。
――2日が経過した。
どうやら、テラ達はマナに遠慮しているらしく、夜はシナが外に作った"ソファ"で寝ているらしかった。タイミングを見て、テラも一緒に寝て貰おうと思ったが未だに切っ掛けを掴めないでいた。
さて、肝心の庭園とその周辺はと言えば、かなり整備が進んでいた。
それこそ、思い通りに弄れる上に魔法や合成の力、そして単純な腕力も上がっていた事で、ある程度理想の庭園が再現で来ていたのだ。
……魔法に関して加減が難しくはあったが、テラの指導と繰り返し練習した甲斐があり、何とか基本的な魔法は使いこなせるようになっていた。
そんなシナは現在、家の中に新たに作った棚を見て満足した所だった。
この棚には、植物を始めとした小物を並べる予定だ。
外は夜なので、明日の朝工作か何かをしよう――そう考えた処で、不意に何か違和感を感じた。それは、何となくの"嫌な予感"ではなかった。
「……何かしら?」
感覚的に、首の後ろ辺りをひんやりとした何かに、撫でられたような感覚だった。
悪寒とも言うべきものは、明らかに一つの方向から感じた。
「……行くしかないわよね」
呟くと、マナにはこのまま家の中に居るように言って、家に結界を張っておいた。
嫌な感じがする方へと向かっていたシナだったが、途中でテラ達と合流した。
「シナ!」
テラは、こちらをこちらを見つけると、嬉しそうにしていた。そんなテラが可愛かったが、今はそんな事を言っている場合では無かった。
「テラ! 危ないから、皆と一緒に家に入っててちょうだい」
そう言ったシナだったが、少しムッとした様子でテラが言った。
「何言ってるの! もし危ない何かだったら、それこそシナの方が逃げないといけないの! それに、私は戦えるの! シナは強いけど、戦い方知らないからダメなの!」
どうやら、テラに引く気はないみたいだった。
仕方が無いので、いざと言う時のバックアップをして貰う事にして、先を急いだ。
問題の場所は、世界樹を通り過ぎて反対側だったが、直ぐに見えて来た。
それがどういう種類のトラブルか分からなかったが、何となく何かが起こっているのは確かだった。何故なら、そこには地面から上空へと約3メートル程の紋様が浮き出ていたのだ。
すっかり日が落ちた後だったので、浮かび上がった紋様が見えた。
何事かと思いながら慎重に近づいて行くと、問題の場所は、庭園から数メートル離れた森の中にあると分かった。
「後ろに付いてちょうだい」
「……仕方ないわね」
先に行こうとするテラに対して、後ろに居るように言うと、紋章の迂回上がっている正にその場所に飛び出した。
そして、少し緊張しながら敵だった場合に直ぐに対応できるように、庭園づくりで慣れた土魔法と水魔法でつくり出した"石の槍"と"水の槍"を左手で側につくり出した。
反対の右手側には、まだ慣れたとは言えない火魔法の"火炎球"を浮かべておいた。これは攻撃に使うと言うよりも、周囲を照らす目的が強い。
瞬時に構えたシナだったが――
「……これはどういう状況なのかしら?」
そう呟いたシナは、目の前で起こっている事が何なのか、理解するのに少しの時間が必要だった。それもその筈、目の前には横たわった獣とその奥――紋様が浮かびあがている奥には、同じように見える黒い獣達が居た。
目の前で横たわった獣と、奥の黒い獣たちの違いは白いか黒いかだった。
その獣は狼のような姿をしており、女王の知識によると"黒狼"と言う種の魔獣らしかった。白い狼を見て、何となく"白狼"と言う名の種の狼も存在するのかと思ったが、どうやらそう言う訳では無いみたいだった。
どうやら、目の前の狼は黒狼の色素欠落個体――アルビノの狼らしかった。
「……これは、生贄のつもりかしら?」
何となく状況を見てそう言ったシナだったが、すかさずテラが言った。
「気を付けて!」
どうしたのかと思ったら、結界の外に居た獣たちが一斉に黒く渦巻いた物を放って来た。慌てて、槍を放ったシナだったが、その結果に驚く事になった。
……シナの放った魔法は、結界のある場所を通り抜け、その奥に居る黒い獣たちを掠めて地面に着弾した。その威力には凄まじいものがあり、余波として小石や木々の破片が飛んで来た。
どう見ても過剰攻撃だったらしい。
獣の放った魔法を途中で掻き消しているのが見えたし、その余波で飛んで来た破片が獣たちの半数を倒れさせていた。
こちらにも破片が飛んで来るかと焦ったが、どうやら結界が機能していたらしい。途中で小石や爆風は全て止まっていた。ついでに、結界は外の音も遮断するらしく爆発音やそれに付随した音は何も聞こえてこなかった。
特別防御する必要が無かった気がしたが、後の祭りだろう。
状況を確認していると、残っていた黒い獣の一体が、こちらに飛びかかって来た。
しかし、当然――
『"パシュンッツ"』
結界に阻まれた黒い獣はそのまま弾き飛ばされ、そこには紋様が残っただけだった。
どうやら、結界は外からの侵入を防ぐ役割を、正しく機能させていたらしい。
となると問題なのは、目の前の白い獣だ。
何故結界の中にこの獣がいて、ひどく弱っているのかが気になったシナだったが、それを確かめる手段がある事に気が付いた。
「ねえ、どうしてこんな事になっているのかしら?」
「……」
なるべく落ち着いたトーンで話しかけたシナだったが、思ったような反応が無かったので、少しだけ不安になった。
女王様の知識によると、ギフト【言語理解】は全ての言語を使いこなせるはずなのだ。当然、その中にはあらゆる動物も含まれる筈なのだが……
少し不安になっていたシナだったが、再び話しかけようとした直後だった。
「いたなの!!」
凄い速さで飛んで来たマナが飛びついて来た。
……何故か、半分泣きそうになっている。
「……どうしたの?」
「光がピカってして心配だったなの!」
どうやら、先程の爆発を見ていて飛んで来たらしい。マナを撫でながら『もう大丈夫よ』と言ったシナだったが、それに反応したマナが言った。
「あそこのを倒せばいいなの?」
そう言ったマナが、シナから離れると手を前に出した。何をするつもりかと思って見ていたシナだったが、直ぐにマナが何をしようとしているのかに気が付いた。
結界の外、シナの攻撃によって破壊された木々が、みるみるうちにその枝を再び伸ばし、再生していた。そして、伸びた枝は獣へと向かってその枝を伸ばし始めていた。




