22話 世界樹の元にある庭園
朝日が昇る中、簡易的に作ったベンチ代わりのソファに横になり、休憩していた。
ソファ自体は、前世の家具屋で見たソファそのままだ。大人が五人掛けられるほどの大きさだったので、マナやテラ達が一緒に横になっても、まだ十分な広さがあった。
これも一つの実験だったが、どうやらソファづくりに必要な資材が、空間魔法で収納した収納先に揃っていたらしかった。
丁度良い柔らかさが気に入ったらしく、マナは『これは良いモノなの!』と喜んでソファの上で跳ねていた。対してテラは、暫くその感触を手の平で押して、何かを確かめるかのようにしていた。
「どうしたの?」
不思議そうにしていたテラに聞くと、ソファを押すのを止めずに聞いて来た。
「中に居るのはスライム?」
……どうやら、絶妙な弾力を中に居る生き物が、生み出していると思ったらしい。女王の知識で確認すると、スライムと言うのは何か水の様な生き物で、自身の栄養となるモノを溶かして生きるモンスターだったらしい。
「いいえ、中には生き物は入っていないわよ。この弾力は"スプリング"というモノが生んでいるモノで、"スプリング"は金属を加工したモノなのよ」
続けて『スプリングはこうやって、ぐるぐると金属をねじって作るの』と説明すると、テラは『あのかたいのを……?!』と随分と不思議そうにしていた。
今度、スプリングを使って、跳ねる竹馬の様なモノを作ってあげると良いかも知れない。
"作るモノリスト"に跳ねる竹馬――の様なものを加えて置いたシナは、そのままソファでゆっくりしている様に言って、庭園づくりの続きを始めた。
庭園の下地となる大部分は作り終えていたので、後は植物を配置して行くだけだ。
まだ若干確信の持てない部分はあったが、ほぼ植物の特徴は掴んでいた。一先ずは試験的に植樹してから様子を見て、その後の経過次第で配置を変えて行けばよいだろう。
「さあ、最初は大きな種類の木ね~」
最初に全体のバランスを見て、背の高い木を配置して行く。
「次は、エリア毎に違う種類の低木を植えて……」
背の高い気の次は、種類ごとに相性の良さそうな背の低い木を植えて行く。この際、大きな木の陰に隠れない様に配慮する事が重要だ。
エリアによっては低い木を植えずに、背の高い木一本と踏まれても強そうな草花を植えた。気分的には、ちょっとした運動する広場のようなものだ。
その後も、テラとマナが横になっているソファの近くを木陰になるようにしてみたり、水路を少し大きくして池を作ってみたりと、色々と手を加えた。
「これで、広場と果樹のなる木のエリア、それに憩いのエリアが出来たわね……」
再び日が傾き始めた頃、目まぐるしいスピードで歩き回っていたシナの"庭園づくり"はひと段落付いていた。
細かい部分で手を掛けるとまだ数日、数週間は軽く掛かるだろうが一先ず形にはなっただろう。
途中、気になった部分部分で世界樹の根を抑えて居そうな木の根や、岩盤を取り除いたりもしていた。前世での庭園の基礎工事では、軽くニケ月近く掛かった事を考えると、恐ろしく早く出来たと思う。
少しばかり立ち止まって休憩していたシナは、サワサワと残っていた枝葉を揺らした世界樹が、何となく喜んでいるような気がした。
「……これで形としては、"世界樹の元にある庭園"ね」
ほぼ想像通りに庭園を造る事が出来た。それもこれも、便利な力と便利な体、そして自分で思い通りに弄れるという事が大きいだろう。
色々と気を使ってくれた女王様には、改めて感謝がしたいと思った。
その後、ゆっくりと周囲を確認していたシナだったが、庭園と森の境目に何も無い事に気が付いた。取り敢えず、女王様の結界の一つ"範囲結界"を世界樹を中心にして、半径五十メートルの範囲に渡って掛けておいた。
どれほどの効果があるかは分からないが、一先ずはこれで良いだろう。
日が沈み周囲が暗くなり始めた為か、ソファで寝ていたテラとマナが起きて来た。どうやら、精霊達は基本的に昼寝をしたり、普通に眠ったりもするみたいだった。
「おかあしゃん?」
目を擦りながら歩いて来たマナに『どうしたの?』と聞くと、マナが言った。
「あのね、もうお家できたなの?」
……待ちくたびれていたらしい。
待たせてしまった事を、少し反省しながらマナに言った。
「ええ、皆のお家は出来たわね」
そう言うと、マナは満足気に見渡していたが、シナが呟いた『あとは住む家かしらね』と言う言葉を聞き逃す事は無かった。
「おかあさんのお家なの?」
「いや、まあ休憩所みたいなモノね……」
咄嗟に誤魔化したシナだったが、何となく嫌な予感がした。
「もしかして、シナの"家"?」
……不思議そうな顔をしながら言ったのはテラだ。
「いえ、そういう訳では無いのだけれど……」
少し困った表情を浮かべて返したシナだったが、その様子を見ていたテラは一瞬の間があってから、何かを悟ったような顔をしていた。
そして、再びシナの顔を見ると言った。
「それじゃあ、テラとマナの家なの?」
……どうやら、完全にシナの考えている事を当ててしまったらしい。
少し頭が痛くなりかけたが、嘘を付いても仕方が無いので正直に言う事にした。
「まあ、そうなるわね……ほら、外にソファ置いて、そのまま寝ている訳にも行かないでしょう? それに、私は二人と一緒に寝たいもの!」
言いながら、テラとマナを抱き寄せると(マナはよく分かっていないのだろうが)楽しそうにしていた。それに対して、シナが上手く不意を付けたらしいテラは顔を赤くしていた。
小さな声で『シナには勝てないなの……』と呟いているテラを更に強く抱きしめながら、周囲の精霊達が『ぼくも~』『わたしも~』と寄って来るのを見ながら、結局家の中には精霊達で溢れる事になるかも知れないなと思った。
ただ、別に困ったとか、嫌だとか言う感情は一切なかった。
何方かと言うと、ここまで来たらどうにでもなれという気分だったが、それはどうやら庭園が完成した事による感情の昂ぶりから来ているらしかった。
庭園自体は、かなりの余裕を持って作ったのでしばらくの間は、新しい植物を迎え入れる事になっても問題無さそうだった。それに、いざとなれば再び庭園自体を"拡張"してしまえば良いだろう。
その後、二人を満足いく迄抱きしめていたシナだったが、すっかり暗くなり始めた周囲を見て呟いた。
「……あら、街灯も作らないといけないわね」
とは言っても、この世界で電気を利用した街灯設備を作るのは、難しいだろう。
簡単な物であれば出来るだろうが、特殊な加工によって作り出す材料や、貴金属などを見つけるのが難しそうなのだ。
何か他にうまい方法は無いものかと考えていたシナだったが、先に自分の家を作ってしまう事にした。つくると言っても、既に家の殆どは"空間収納"内でちょこちょこと手を加えて作っていた為、ほぼ完成の状態だ。
「家を建てるとしたら何処になるかしら。……そうね、日が適度に当たって、水路にも近くて、すぐ近くに植物が沢山見えて……う~ん、こっちかしら……いや、向こうの方も良さそうね……」
どうやら、次にするのは場所探しになりそうだった。




