21話 地下貯水とポンプ
地下洞窟から地上へと戻って来たシナは早速、"魔封結晶"と"金属結晶"を蔦の屋根に合成した。
最初に魔封結晶を合成した時点で、ある程度の強度が付いたように感じたが、更に金属結晶を合成するとしっかりした屋根になったみたいだった。
マナが屋根に乗って遊んでいたがどうやら、強度は全く問題ないみたいだった。
マナに程々にして降りて来るように言ってから改めて、屋根の下世界樹の周囲に目を向けた。そこには、当然のことながら沢山の草木が植わっている。
パッと目につくだけでも、それぞれ相性の良さそうな草花や、近くに植えてはいけなそうな木々が見て取れた。前世に於いては、そのほぼ全てを把握していたので適切に配置出来ていたが、この世界の植物に関しては初めて見るものが多かった。
一応観察もしたが、その効能や特徴が正しいかの実証はまだしていない。
どうしたものかと思ったシナだったが、ふと思い付いて女王様から貰った知識を確認して見ると、その中に草木の特徴や性質についても存在する事が分かった。
流石に、どの草木同士の相性が良いかは書いていなかったが、それでもその性質について読めばその大まかな所が分かった。
植物的な特徴や性質は、観察した際に推測していた通りだった。しかし、その効能や使い道に関しては初めて見るものばかりだった。
「えっと、……『回復薬の原料となる薬草で、成長の過程で取り込んだ養分に応じてその薬能が変わる』――こっちは、……『最高品質の猛毒の原料となる薬草だが、適切な手順を踏む事で解毒薬を生成する事も出来る』」
……どうやら、かなり特殊な薬草の類もあるみたいだ。
何処かで使い道が有るかも知れない。
確認しながら、一先ず空間魔法で収納して行く事にした。
何方にしても、庭園を造る為には一度、全ての植物や石類を退かす必要があるのだ。
片っ端から収納しながら、改めて空間魔法は便利だなと思った。
収納する対象を選択しさえすれば、全てが収納できてしまうのだ。
便利な事この上ない。
世界樹の周りを回るようにして、順番に草木を収納して行った。
――数時間後。
いつの間にか日が暮れていた。
気が付くと、それ迄ワイワイとしていた一団も静かになり、世界樹の元で集まって寝ていた。ぼんやりと光る精霊達を見ると、其々が小さな妖精の様な姿をしている事が分かった。
途中までは皆が後に付いて来ていたと覚えているが、知らない内に一人で作業をしていたらしい。何となく申し訳ない気持ちになりながら、自分が作業した跡を確認した。
少し薄暗かったので、光魔法『小灯篭』で照らした。
「随分と広くなったわね……」
一帯にあった草木を始め、土以外は全て収納したのだ。
本当であれば、草木を対象にして一挙に収納しても良かったが、自然にどの様に生えているかを知りたかったので、其々種類ごとにその特徴を確認しながら作業していたのだ。
……これがまた時間が掛かった。
広い空間にはなったが本番はこれからだ。
何も無くなったこの空間に、理想の庭園を造って行くのだ。
すっかり眠ってしまったマナやテラ達の横顔を見ながら、今の内に一仕事してしまう事にした。
これが前世だったら、間違いなく体にガタが来ていただろう。
改めて、好きな事が出来る事に感謝すると、早速庭園づくりに取り掛かり始めた。
その後、シナが知らない処で目を覚ました精霊達だったが、真剣な様子で作業するシナを見て、少しだけ心配になっていたりもした。
中でもテラは、『シナ変なの、あれきっと悪いのが憑いてる。追い出さないと!』と言っていたが、そんなテラに対して『違うなの、あれもおかあさんなの! 前からおかしいなの!』とマナが諭していた。
まさか二人がそんな事を話しているとはつゆ知らず、黙々と作業していたシナは、空が白み始めるまでずっと作業をしていた。
彼方此方を歩き回って作業していたシナは、段々と空が明るくなってきている事に気が付き、自分が一晩中作業していた事を知った。
やってしまったと思ったシナだったが、目の前に広がる広がる庭園の下地を見て満足気に呟いた。
「……そうね、これで一先ずは良いかしら」
シナが手を止めたのを見たテラは、そうッと近づいて驚かそうとしていたのだが、シナの言葉を聞いて思わず言った。
「狂ってるわよ」
何となく、昔言われた事のある事を言われた気がして振り向いたシナだったが、そこに居たのが、手をプルプルと震わせて一生懸命に何か力を入れているテラと知って、首を傾げた。
「どうしたの?」
「浄化の魔法なの!」
そう言ったテラを再度不思議そうに見ていたシナだったが、何となく身綺麗になった気がして『ありがとうね』とお礼を言った。
一気に庭園づくりが進み上機嫌のシナと、納得のいかなそうなテラが向かってくるのを見ていたマナが言った。
「おかあさんは、前から少し変だって言ったなの!」
「へ?!」
突然のマナの暴言に驚いたシナは、ショックのあまり『まさかマナにも反抗期が……』と呟いていたが、やがて近づいて来たぽわぽわと浮かんだ精霊達が『ぐあいわるいなの~』と心配し始めたので、何かの間違いだったんだと開き直る事にした。
その後、すっかり様子の変わった周囲を探検したいと言ったマナの言葉で、シナによる庭園のツアーが行われていた。
庭園内には、山になる丘があり、水を通す事で川になる溝があり、その他にも自然を模したものが沢山あった。一見、整地して草木を植える前の状態になっただけにも思えたが、今回シナは少し工夫を施していた。
それは、女王の知識の中から得た女王謹製の結界の術式だった。
土地の生き物の生命力を高める結界を、庭園を造る中に落とし込んだのだ。この結界は、一度発動してしまえば、庭園を構成する土壌を崩さない限り、半永久的に機能する優れモノなのだ。
植物を植えるのを楽しみにしながら、一先ず適切な形に整地された土地とその水路に、水を流してしまう事にした。
今回考えたのは、人為的に地下貯水槽を作り、そこから組み上がった水が庭園内を巡回し、その後再び地下の貯水槽に戻りその間でろ過される――そのような仕組みだ。
勿論都合良く地下に貯水など無いので、地下のある程度の空間を空間魔法で収納し、すぐさま土魔法で固めて貯水槽を作ったのだ。力技だったが、貯水槽と水路は問題なく出来たので良いだろう。
貯水池から地上まで水をくみ上げるのはポンプだが、その仕組み自体は知っていたので、"金属結晶"を使う事で合成できていた。
地下の貯水槽に繋がる場所まで来たシナは、早速水魔法で水を注ぎ込み始めた。相当な量の水が必要だったが、途中で精霊たちの内"水の精霊"が手伝ってくれたので、思いのほか早く終わった。
地下貯水槽に水が溜まると、どうやらポンプが上手く機能したらしく、地下からの水が水路を流れ始めた。その様子を見ながら、テラとマナの表情を見て言った。
「そうね、一先ずは休憩にしましょうか」
そう言ったシナに対して、飛び付いて来た二人を抱えながら、休憩を挟む事にした。
水路を流れる水を見ながら、次はいよいよ植物の配置だと考え始めていた。




