20話 流星の洞窟
天井には、蔦の屋根が掛かっている。
蔦は、世界樹の周りに生えた木々と、上空を通って周囲40メートルほどの位置にある"石柱"に絡んでいる。一応屋根にはなってはいるが、所詮蔦は"蔦"だ。
所々でたゆんでしまっている。
このたゆみを解消し、強度の補強をする必要がある。
これが前世であれば、まだ良かったのだが……女王様から貰った知識の中には、何やら空を飛ぶ獰猛な生物の情報もあった。
それら獰猛な生物の代表的な生き物には、ドラゴン、龍、竜と呼ばれる生き物がいた。前世の記憶では"りゅう"と言えば伝説の生き物であったが、どうやらこの世界には現実に"りゅう"が居るらしい。
いざと言う時の事を考えて、それら外敵から守る"防御"の事も考えなくてはいけないだろう。そうなって来ると、蔦にある程度の強度を持たせる"工夫"が必要となる。
強度を蔦に持たせる事で蔦をドーム状に加工し、より屋根っぽくも出来るだろう。必要な強度を生むためには、ギフト【合成】を使えば良い。
家を作る事を考えた際、【合成】のギフトで作れるか分からない物もあったが、ギフト説明には『その仕組みと内容を知っているモノであれば、合成による生産は可能である』――とあった。取り敢えず、実験も含めて試してみれば良いだろう。
早速蔦に強度を持たせるのに必要な物を周囲に探し始めたシナだったが、しばらく探してみて、硬そうなものは見つからなかった。
テラとマナは、シナが歩き回るのに付いて来ていた。
二人は、『お散歩なの~』『そうね、偶には悪くないわね!』――と、散歩をしていると勘違いをしていたらしかった。
その後も探していたが、結局見つからなかったので聞いてみる事にした。
「皆は、近くにある"硬い物"知らないかしら?」
シナがそう言うと、マナが首を傾げて言った。
「"かたいもの"なの?」
「そうよ、石とかこう叩いても壊れない様なものね」
拳を固めてぶつける仕草をしたシナだったが、そこに居た子達は心当たりがない様だった。テラに関しては、何やら『岩を砕くシナが叩いても壊れない位に硬い物なんであるかしら??』と呟いていたので、慌てて『普通に硬い物で良いわよ』と言って訂正した。
テラとマナは心当たりが無いようだったが、精霊の内一人が何か思い付いたみたいだった。
『あるの~下に行った処に、広いお家があって、そこのは硬いの~』
「あら、下に?」
『そうなの~?』
「お家があるの?」
『そうなの、広い場所があってそこは、ぼくのお家なの~だけど、ここにお家が出来たから、前のお家はもういらないの~』
……どういう事か聞いていたシナだったが、どうやら精霊が自分の家として使っていた場所らしい。詳しい事はよく分からなかったが、どうやら地下にある空間のようだった。
「そこには行けるのかしら?」
シナがそう聞くと、精霊が『大丈夫なの~』言った。
何がどうやって大丈夫なのか分からなかったが、テラが説明してくれて分かった。
「シナは、霊体になれるんでしょ?」
「ええ、そうね……」
「霊体になって、地下のその場所迄行くのよ……多分」
……どうやら、地面をすり抜けながら降りていくという事らしい。
「まあ、やってみるしかないわよね!」
そう言ったシナは、精霊に道案内を頼むと早速霊体化した。
――霊体化するシナを横で見ていたテラは、『シナって結構チャレンジャーよね』と呟いていた。
その後、先導役の精霊の後に付いて地中に潜り始めたが、意識していないと精霊を見失いそうで少し怖い思いをしていた。慣れて来ると、周囲に存在する霊力で物が見えるようになるらしいのだが、未熟な為か怖いだけだった。
しばらくして、精霊の言う"ぼくの家"に着いたのだが、落ち着くまで一度休憩する事になった。
休憩しながら、(次来ることが有ればここ迄の道を作ろう)と心に誓っていたシナだったが、ぼんやりと光る精霊達の光が照らし出したその空間を見て『綺麗ね』と呟いていた。
その空間は、周囲を沢山の鉱石結晶に囲まれており、足場も大きな六角形や八角形の結晶で出来ていた。何より、精霊達の光がぼんやりと結晶を照らし出しており、幻想的な空間を演出していた。
息をするのも忘れて、その光景に見とれていたシナだったが、その様子を見た精霊が言った。
『あのね~こうするともっといい感じなの~!』
その直後、精霊は小さな光の玉を放った。
精霊が放った光の玉は、一つの結晶にぶつかるとその球を更に小さく複数に分裂した。分裂した光の玉は方々に散って行き、洞窟内の結晶に反射していた。
その様子は、まるで流れ星が彼方此方へと流れている様だった。
「……」
何か言うのも忘れ、ただただ見とれていたシナはだったが、近づいて来た精霊が言った。
『綺麗なの~?』
「ええ、ありがとう。凄く綺麗ね!」
そう言うと、精霊は嬉しそうにしていた。
その後何度か精霊に繰り返して貰った後、『ごめんなさいなの、もう光らないなの~』と言っていた。低位の光精霊の一種だったらしいのだが、力を全て使ってしまったらしかった。
お礼を言ったシナだったが、何となく嫌な予感がした。
予感に従って振り返ると、そこには大きな炎や岩の槍を創り出した精霊達の姿があった。慌てたシナは、『岩なんかを放っても反射はしないわよ!』と言ったのだが、若干遅かった。
いや、正確に言うと"岩の槍"は間に合った。だが――
『"ゴォウゥッ――"』
炎の玉は間に合わなかった。
放たれた炎の玉が結晶に衝突しようかと言う寸前、ソレは起きた。
炎の玉が結晶に吸い込まれたのだ。
……そう、吸い込まれたのだ。
……吸い込まれたのだ。
目の前の状況が一瞬理解できなかったが、ここは異世界なのだ。
安易に自分基準で考えない様にしながら、その結晶の様子を見に行った。
結晶を見ているとその知識が頭に浮かんで来た。女王様の知識によると、どうやら目の前のモノは、高純度の"魔封石"が結晶化したモノらしかった。
その特徴は、魔力を持つ類のものを封じるというモノで、一部の高純度の魔封石の場合は、精霊の放つ"霊力"の籠った物まで封じる事が有る――らしかった。
つまり、通常の魔封石であれば魔法を吸収し、純度の高いモノであれば場合によっては霊力でさえも吸収する。そして、目の前にあるのは超高純度の魔封石の"結晶"で、魔法は愚か精霊の放つ精霊魔法でさえも吸収したという事だ。
驚いていたシナだったが、マナが『どうしたなの~?』と言ってしがみ付いて来たので、マナを抱き上げながら、この場所を教えてくれた精霊に聞いた。
「少しだけ、この結晶を貰っても良いかしら?」
すると、精霊が『いいなの~ぜんぶシナのなの~!』と許可してくれたので、端の方で幾つか貰って行く事にした。洞窟内には、魔封石の結晶の外にも何か黒っぽい結晶もあったが、どうやらそれは何か貴金属の結晶の様だった。
すっかり強度の事を忘れていたが、金属を見て思い出し、金属の結晶も持って帰る事にした。金属の結晶は重そうだったので、空間魔法で収納した。
その後、テラが大きな結晶をカットして持って来た事に少し慌てながらも、折角なのでちゃんと活用する事にした。
必要な物が全て集まった事を確認したシナは、再び疲れた時にはここに来る事にして、地上へと戻り始めた。帰り路は、世界樹を目印にして帰ったのだが、行きと違い"光"へと向かって行くような安心感があった。
この魔封石もとい"魔封結晶"と、"金属の結晶"を蔦の屋根に合成すれば、強度と外からのいざと言う時にも対応できるだろう。
一先ず庭園の屋根が出来そうだと安心したシナは、次の計画に頭を向けていた。
「次は、水ね……」
庭園内に花や木が元気に咲いている庭園を思い浮かべながら、イメージを膨らませていた。シナがイメージするのは、"水路"だった。
自然に水が流れる"水路"があり、その周囲に憩う植物がいる。
植物と相性の良い動物を連れて来ても良いだろう。
直後開けた視界に、地上に戻って来た事を知ったシナは、早速合成を始めた。
その様子を見ていたマナは、新しく出来た兄弟たちと並んで呟いていた。
「楽しそうなの……」




