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2話 可愛いものたち

 4人で昼食を取った後、元孤児で私が親代わりをしていた公平が家族4人、車で到着した。


 長男の輝樹が生まれた後に、一度来てから振りだった。懐かしくて、思わずテンションを上げてしまった。ただ、公平の下の女の子に見られていたので、どうにか落ち着かせたけれど。


 ……初対面の印象って大事でしょ?


「母ちゃん、美穂達もそろそろ着くと思うよ。美穂達も孤児を引き取ってるって話だったから、前会った時よりも人数増えてるんじゃないかな」


 美穂は実の親の顔を知っている。というのも、孤児には2種類いて、実の親の顔を知っているパターンと、実の親の顔を知らないパターンがあるのだ。


 公平は、知らないパターンで、美穂は知っているパターンだ。


 二人が一緒にいた当時は随分と喧嘩をしていたが、ある時気が付いたら中が良くなっていた。丁度今の明菜(高校生)くらいの頃だったと思う。


 美穂の両親は、夕飯の買い物に出た帰りに会った交通事故で亡くなっている。


 美穂は事故後しばらくショックが抜けなかったのだろう、心を閉ざしていた。


 しかし、敢えてそのことには触れず、ただ、近くにいた。


 その後、何が切っ掛けだったのかは分からないが、美穂は笑顔で話をするようになった。それに比例して公平と喧嘩する事も増えたんだけどね……


 何にしても、美穂は自分でも孤児を積極的に育てる事にしたらしい。初めて孤児を引き取ると電話を貰った時に、その切っ掛けを色々聞いた気がするが、少し照れる話なので思い出す度ニヤケてしまう。


「まあ、前回会った時は6人家族になっていたけど、何人家族になってるのかしら」

「ん~、新しく2人家族が増えたって聞いたかな」

「その人数だとダイニングに入るかしら」

「俺達と美穂の家だけで12人増える事になるからな……入らないかも」

「そうよね……どうしようかしら……」


 ウンウン唸って考えてみるが、どうやってもギュウギュウ詰め状態になるのは目に見えている。


「母ちゃん、俺らが居た時にたまにしてたみたくすれば? ほら、植物園の中央広場にシートを広げて、みんなで食べれば良いんじゃないかな?」


 公平と美穂が居た時は10人を越えていた為、時々植物園の広場で食事を食べていた。10人だと、いくら子供達で小さいと言っても、年々成長するにつけて狭くなっていたのだ。あの頃は賑やかだった。


「そうね、そうしましょう。……よし、そうと決まれば、レジャーシートを倉庫から引き出して、綺麗にしないといけないわね!」


 他にもやる事がいくつかあるわね、と呟きながら倉庫に歩き出す。


「……まあ、この後沢山来るしな……」


 公平がぼそっと何やら呟いた気がしたが、それよりもやる事をやってしまおうと、気にも留めなかった。





 あの後、倉庫からレジャーシートを引っ張り出して、植物園まで持って行こうと思っていた。すると、公平から「母ちゃん、久しぶりに車で出かけない?下の美樹とも遊んで欲しいし」そう言われて、公平と公平の子供二人と、街にドライブに出る事になった。


 公平の奥さんは、「母さん、遊んであげてください。私達で夕食の準備を済ませておきますから」と言ってくれた。公平には勿体ないくらいに良い妻だ。


 まあ、『それよりも、植物園を回るのはどうかしら?』と言うと、皆が慌てて、”街の方に行って来て”と言っていたので、察しが付いてしまったが。


 恐らく、私の100歳の誕生日を皆で祝ってくれようとしているのだろう。楽しみは取っておいた方がより楽しめるので、今は何も考えずに公平達との時間を楽しもう。





「もう、可愛い~。公平、二人とも私の所に置いていかない?」


 長男の輝樹(コウキ)と、美樹(ミキ)が二人して、「「植物見たい!!」」と言ったのだ。


「母ちゃん、そんな訳にいかないよ。また近い内に来るからさ、それで……」

「それじゃあ、時間が足らないわよ。植物の事舐めてるんじゃないわよ!植物について知るには、先ず一緒に寝ないとダメ。朝起きるときによく観察してから、話しかけるの。『昨日はいい夢見れた?』って。それで、夜寝るときにも必ず観察してから声をかけるの。『おやすみなさい、良い夢が見れますように』って。そんな日々を繰り返す事で、微妙な変化に気が付けるようになるのよ?」


 思わず、熱が入る。


「あーっと。母ちゃん?」


 ……しまった、やってしまった。


 昔、研究者だった頃、”植物狂い”と呼ばれていた。研究者として、徹底的に知りたいという思いを行動に起こしていたら、周囲からそう呼ばれていた。同じ研究員から言われるのは気にもしないが、研究所の所長や学界の権威と言われる人からも”植物狂い”と言われた時には、流石にまずいかな?と思ってしまった。ただ、その後相談した同じ研究員から、”気にするな”と言われたことで、気にも留めなくなったが……その研究員が後の夫なのだが。


「ばあちゃ?」

「お婆ちゃん?」


 二人の小さい子供も、どこか一歩引いた様子でこちらを伺っている。


「え、ええと、まあ、それくらい面白いし、可愛いのよ?植物って」


 ……この微妙な雰囲気をどうにかしなくては。そう思いながら久しぶりの街をドライブしながら時が過ぎて行くのだった。

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