19話 蔦の屋根
精霊達によって、あらゆる場所で柱が乱立する様子を見ながら、数の力は凄いと改めて思った。一人でやったら手間だった事が、一瞬にして出来てしまった。
柱が立った後、空間魔法で収納していた蔦を取り出すと、其々精霊達が運んで行ってくれた。
蔦を取り出す様子を見ていたテラが、驚いて『空間魔法なの? でも、魔法としては"陣魔法"を知らないといけないし、でも精霊魔法は空間を司る精霊と契約しないとだし??』と不思議そうにしていた。
テラには後で説明する事にして、柱と世界樹の間に渡された蔦を確認した後でマナに言った。
「お願いがあるのだけど、良いかしら?」
声を掛けると、直ぐに『どうしたなの?』と聞いて来たので、蔦の屋根を掛けるにはマナのギフト【生命】を使う事が必要だと説明した。
マナが『分かったなの~!』と言って張り切っていたので、石柱の元まで行くとその柱に根付く力を蔦に付与して貰った。
「これで良いなの?」
石柱にしっかりと根付いた蔦を横に、マナがこちらを見て来たので、蔦の状態を確認しつつ頷いた。
「ええ、ばっちりよ!」
その後、順番に柱に蔦を根付かせて行き、全ての蔦を柱に根付かせた後で言った。
「それじゃあ、後は世界樹に蔦を絡ませるだけね!」
……前世ではあり得なかった判断だ。
樹に蔦を絡ませる――蔦の種類にもよるが、蔦によってはその養分を樹から得て生きる。言い換えると、絡みついた樹本体に寄生するのだ。
前世では選択しない方法だったが、この世界では事情が違う。
女王の知識によると、世界樹はエネルギーを溜め込む性質を持ち、一定周期で溜め過ぎた分を放出する。この放出自体は、必要以上に溜めてしまったエネルギーを放出する事で、常に正常に保つ意味があるらしい。
それならば、いっその事エネルギーの発散先として、蔦を活用すれば良いと思ったのだ。
世界樹の根元迄行ったシナは、半分に割れてしまった幹の内、まだ残っていた半分に触れた。すると、大分痛んではいるがその内部には、弱弱しいながらもエネルギーが流れている事が確認できた。
……そのエネルギーを確認したシナは、少しばかり不安になった。
初めは世界樹から蔦へとエネルギーを供給しようかと思っていたが、その弱弱しさを改めて感じて、急遽直接世界樹に絡めるのは控える事にした。
別の方法を考え始めたシナだったが、取り敢えずは世界樹の近くに支柱を数本立てる事で代替とし、エネルギーは直接地面から得るように【合成】する事にした。
一旦世界樹の近くから離れるように言ったシナは、石柱を立てようと思ったのだが、不意に閃いたことが有ったので試してみる事にした。
「そうね、この子が良いかしらね……」
森の木々の中なら丁度良さそうな樹を見つけ、その種を幾つか拾った。
種を拾っている様子を見たからだろう、マナを始めとして他の精霊達も真似をし始めた。その結果、何故か目の前に種の山が出来る事となった。
苦笑しながら、取り敢えず空間魔法で種を仕舞うと、歩いて世界樹の元迄戻った。戻る途中、テラがモジモジとしていたが、どうやら取って来た種を直接渡したかったみたいだった。
そっと、自分の手の中の種を一つ仕舞うと、テラに言った。
「テラ、悪いんだけど一つ種を見つけて来てくれないかしら?」
不思議そうに見て来るテラに『実は、一つ種が足りないのよね……』と言うと、笑顔をはじけさせたテラが言った。
「そうなの!? し、仕方ないわね……ほらあげるのよ!」
種を差し出しながら『偶然持ってたの!』と言うテラに、お礼を言いながら受け取った。テラのくれた種は、他と比べると少しだけ丸い形をした種だった。
その後世界樹の元に戻ると、等間隔にして世界樹の周りに種を埋めた。
そして、離れるように言うと精霊魔法の一種『成長促進』を使った。
魔力量によって成長が変わるらしいので、気を付けながら供給した。
ある一定以上供給した処で、急に種が芽吹いた。
芽吹いた種は、ぐんぐんと成長して行ったが、丁度良い所で供給を止めると成長も止まった。成長した木を見る限り、高さ20メートルと言った処だろう。
その結果に満足すると蔦を手に掴み、新たに得た精霊魔法の二つ目『重力魔法』を使った。
……自身を対象として、浮かぶように徐々に調整する。
横でテラやサナが不思議そうに見ているが、安定するまでは構う事が出来ない。
思っていたよりも制御に手間取った。その理由は、持続的に制御する必要があったからだが……それも、コツを掴んでからは問題無くなった。
もっと慣れて来れば、重力魔法を使った移動――空を飛んだりは、歩いたり走ったりと同じような感覚で出来るのだろう。
マナとテラは、急に飛べるようになった事に驚いていたが、精霊と契約を交わしたと言ったら納得していた。
その後、テラとマナも一緒に宙に浮くと、蔦の先を掴んで木の先端へと近づけた。
「マナ、頼むわね」
シナが言うと、マナが『分かったなの!』と言いギフト【生命】を使った。
蔦が木に絡みついたのを確認すると念の為、木の一部と蔦を【合成】しておいた。部分的に蔦と木が合成された事を確認し、他の蔦も同じように合成して行った。
――それから十数分後。
全ての蔦を木と繋げ終えていた。
蔦は真っすぐに木と石柱を繋げており、屋根としてはメッシュになっていなかった。その点に関しては、取り敢えず後で蔦と蔦との間を編むように、蔦を通せばよいだろう。
「ふう、第一段階としてはまずまずね……」
一先ず屋根を掛け終えたシナは、テラとマナを交えて天井を見上げて満足していた。
その後、少し休憩したシナは立ち上がると次の作業に入る事にした。
「次は強度よね……」
シナの頭には、次にやる事が思い浮かんでいた。




