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18話 テラ先生

 さっそく庭園(いえ)を作る事にしたシナは、精霊達のプレゼントの積まれた場所に来ていた。そこに来たシナは思わず呟いていた。


「ほんとに沢山あるわねぇ……」


 目の前には、シナの身長の三倍の高さは有るか、と言うほどの蔦の山が出来ている。


 その蔦の山を見ながら呟いた。


「さて、先ず必要なのは庭園(いえ)の屋根よね」


 何となく、後で屋根を付ける方が良いのかとも思ったが、そこら辺は困った時に考える事にした。最悪困ったら壊してからまた作り直せばよい。


 ……時間は沢山あるのだから。


 さて、庭園の中心は"世界樹"だ。世界樹とは、直径が百メートル以上に成長するらしいのだが、どうやら栄養もといエネルギー不足らしい。


 状態としてはまだまだ苗木に毛が生えた程度らしかった。

 今後成長するだろうが、成長した際はその時にまた調整して行けばよいだろう。


 世界樹についての情報を確認しつつ、取り敢えず目算で屋根を掛ける為に、おおよその距離を測る事にした。頼るのは、前世からの知識と養って来た感覚だ。


「ええと、樹を中心にして大体五十歩位かしらね」


 シナの歩幅は大体80センチほどなので、五十歩で40メートルと言った処だろう。


 普通、シナの身長であれば一歩当たり73、4センチなのだが、性格が影響しているのだろう。普通よりも歩幅が広くなるのだ。


 歩きながら距離を測っていたシナだったが――


「―― 十三、十四、十五……」


『じゅうに、じゅうよん』

『じゅうよん、じゅうよん』

『じゅう、じゅう、よん、よん』


「ねえ、おかあさん"じゅうさん"で誰なの? "じゅうご"さんはお友達なの?」


 ……周囲をふらふらと漂う精霊に加え、マナまでもとんちんかんな事を言っていた。こんな状態では、何歩歩いたのか分からないと困ってしまったシナだったが、思わぬ助っ人が居た。


「違うわ、じゅうさんは"誰か"じゃなくて、"数字"なの!」

「そうなの? 数字さんなの?」


 不思議そうに頭を肩抜けたマナにテラが言う。


「全く、貴方も基本的な事はマザーから教えて貰ったはずでしょ?」

「ん~と…………忘れたなの!」


 満面の笑みで言ったマナに、腰に手を当ててテラが言う。


「全く、テラが教えてあげるわ!」


 その後、テラがマナと他の精霊達を集めて授業をしているのを微笑ましく見ながら、その間に歩いて距離を測って行った。


 五十歩歩いた先で、どうやって(しるし)を残して置こうかとも思ったが、取り敢えず精霊魔法の一つを使ってみた。


「えっと……こうかしら? ――『石柱(ストーン)』」


 魔法を使う際は、イメージが固まっていて、必要な対価(エネルギー)さえ供給出来れば問題なく発動できるという事だった。


 その為、発する言葉はイメージを固定化させる為の補助の様なものだ。


 今回イメージしたのは、石の柱だったのだが――


『ズッ、ズウゥゥン……!』


 地鳴りをさせて地面から生えたのは、巨大な円柱状の石柱だった。


 優に八メートルは有るかと言う石柱だった。


「……大きすぎたわね」


 少し失敗したなと思いながら、それでも取り敢えず良い事にした。その後、バランスを考えて隣にも同じくらいの大きさの柱を作っておく事にした。


「……おいしょッと、これで良いわね!」


 横に十歩ほどの所に同じように柱を立てたあと、戻ってみるとテラは空中に何やら"光る文字"を書いて説明をしていた。


 ……さすが光の精霊である。


 そんな使い方が有るのかと感心しながら、注意を引かない様にして蔦を幾つか選び、其々を合成し始めた。合成で作るのは、大体60~70メートル程の蔦だ。


 これは、柱から世界樹迄の天井を蔦で覆う為に必要な長さなのだ。


 少しの間、蔦の合成を繰り返していたシナだったが、ふと(一度全部の蔦を収納してから、そこで一気に合成すれば早いのでは……)と思った。


 思い付いたが早い、早速エプロンのポケットに収納しようとしたが、ふと思い出した。


「そう言えば、新しく契約した子が居たわね……」


 "新しく"と言うのは、女王に仲介して貰った"精霊契約"の事だ。


 新しく契約した精霊から得た精霊魔法の使い方は、何となく分かっていた。


 新しく得たのは三種類。


 一つ目が、重力魔法。

 二つ目が、空間魔法。

 三つ目が、亜空間魔法と***魔法。


 ……三つ目だけ何となく定義が定まらなかったが、取り敢えず今試したいのは二つ目の空間魔法だ。この魔法は便利なもので、空間に収納したモノには時間の影響を受けない。つまり、劣化しない事が分かっていた。


「それじゃあ、えっと――『収納(しまう)』!」


 すると、イメージした通りに蔦が消えた。


 ……意識を向けると、蔦が空間に収納されている事が分かる。


「よし、後は合成ね!」


 収納したまま使えるか分からなかったが、どうやら問題無かったみたいだ。意図した通りに合成されている事を確認して、他の物も全て合成してしまう事にした。


 蔦の合成がし終わったので、再び石の柱の場所迄歩いて行こうとしたのだが、こちらを見つけたマナが飛びついて来た。


「おかあさん、1,2,3、なの!」


 ……どうやら、数字を覚えたらしい。


「あら、偉いわね~!」


 マナを褒めていると、その横に少しソワソワとした様子でテラも寄って来たので、微笑みながらテラの事も『ありがとうね』と言っておいた。


 その後、精霊達からも『1,2,3,4、……なの~』と合唱が始まったので、あらゆる方向に『凄いわね!』と褒めながら、石柱の場所迄歩いて行った。


 石柱の場所迄辿り着くと、テラが聞いて来た。


「これをどうするの?」


 石柱をペタペタと触っていたテラに説明をした。


「実はね、今から屋根を作ろうと思ってるのだけど、その為には世界樹と少し離れた場所から蔦を伸ばさないといけないのよ」


 すると、テラが『どんな手順でするの?』と聞いて来たので、その手中についても説明した。その内容はこんな感じだ――


『先ず、樹から40メートル程の場所から、世界樹に向かって蔦をアーチ状に掛ける。アーチ状に掛かったら、次に別の場所(再び樹から40メートルほどの場所)から同じ事をする。これを場所を変えて繰り返す事で、世界樹を中心にしてぐるりと蔦の屋根を掛ける』


 話を聞いていたテラは頭を捻っていたが、少し経って『分かったわ!』と言った。それからは早かった。"教える"要領を掴んだらしいテラによって、マナを始めとした精霊達にシナのしようとしている"屋根づくり"を説明してくれたのだ。


 ……テラの、光を使ってのアニメーションはとても分かり易かった。


「おかあさん、マナも手伝うなの!」


 そう言って来たマナに微笑みながら、どうしようかしらと思ったが、皆の庭園(いえ)を皆で作るのも良いなと思い、手伝ってもらう事にした。


 テラは、きちんと精霊達にも"柱"を立てるようにと言ってくれたらしく、世界樹を中心にしたあらゆる場所で柱が乱立していた。


 テラ先生様様だった。

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