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16話 お見舞い品

 マナとテラの二人に洋服を作ったシナは、自分の家を作る事にした。


 女王から貰った知識で、どんな場所でも体に悪影響は無いと分かってはいた。しかし、身体的には問題無くても精神的には少し厳しいものがある。……()人間としては、必要最低限の人間的生活を送れる環境は整えたい。


 そんな理由があって、取り敢えずは形だけでも"家"と呼べるものを作る事にしたのだ。


「さぁ、最初はどんな家にするかよね……」

「そうなの、おかあさんと一緒なの!」


 抱き着いて来たマナの事を撫でながら、どんな家を作ろうかとイメージを膨らませていたシナだったが、そんなシナの事を不思議そうに見ていたテラが言った。


「私達、この森に住んでるわよ?」

「……私たち(・・)?」


 テラの言葉のニュアンスが何となく気になった。すると――


「ええ、私達"精霊"はこの森に住んでるの。ここはいごこち(・・・・)が良いから、たくさん精霊(みんな)が集まって来るの」


 どうやら、この森は精霊にとっても居心地が良い場所らしい。


「精霊が……そうなのね」


 呟いたシナだったが、ふと気になった。


「集まって来るって事は、()も?」

「そうだよ? 皆は私とマナに遠慮してるみたいだけど、気になってるのは間違いないと思うの。……そうだ! シナが寝てる間にみんなが持って来た"おみまい"あるの!」


 そう言ったテラにどういう事か聞こうとしたのだが、マナも一緒になって『そうなの、マナもみんなと一緒に集めたなの~!』と言っていた。


 何となく嫌な予感がしながら、聞いてみた。


「えっと、それはどんな"お見舞い"なのかしら……」


 すると、テラとマナが二人で手を挙げて言った。


「「持って来るの」なの!」


 そう言った二人は、シナが止める間も無く駆けて行ってしまった。仕方が無いのでそのまま待っていたシナだったが、直後に二人が運んで来たモノを見て驚いた。


「……えっと、それ(・・)は"(つた)"かしら?」


 そう、二人が引っ張って来たのは、抱えきれない程の蔦だった。


「そうなの! 向こうにもっと沢山あるなの!」


「みんなが、シナの好き(・・)なものを沢山持って来てたの。ほんとに沢山持って来るから、後ろに片づけて置いたの!」


 そう言って、少し汚れた手で抱き着いて来る二人に、苦笑いをしながら言った。


「そうだったのねぇ……それじゃあ、他の子も()居るのかしら?」


 シナの言葉を聞いて頷いたマナが言った。


「いるなの!」


 しかし、即答したマナにテラは少し不満そうだった。


「ちょっと、シナが他の子に目移りしたらどうするの?」


 そう言ったテラに、不思議そうにしていたマナが言った。


「大丈夫なの、おかあさんは皆に優しいの!」

「あのねぇ、そういう事じゃなくてシナが他の子に盗られるって話なの」


 ……どうやら、テラはマナに比べ少し独占欲が強いらしい。そんなテラの言葉を聞いて、再び不思議そうにしていたマナが言った。


「大丈夫なの。おかあさんは、みんな大切にしてたなの!」


 恐らく、マナが言っているのは前世での事だろう。マナが信頼してくれている事を嬉しく思いながら、テラの意外な一面が見れた気がしてまた嬉しく思った。


「全く、テラは甘えんぼさんね」


 そう言いながらテラの事を撫でると、少しモジモジとしていたテラが言った。


「わかったわよ、そもそも"遠慮"してるってだけで、シナが呼んだら我慢できなくて出て来るに決まってるのよ……」


 そう言ったテラがまだ心配そうだったので、『大丈夫、テラは一人しかいないんだから、代わりなんていないわよ』と言ってから、周囲に呼びかけてみた。


「そこに居たら、出て来てくれると嬉しいのだけど……」


 控えめにシナが言うと、木々の葉が『"さわさわ"』とざわめいた気がした。そして、次の瞬間――そこには沢山のぼんやりとした"光の影"のようなものが集まっていた。


『"うれしいのー"』

『"ありがとうなのー"』

『"こんにちはー?"』

『"すきなのー"』


 ……――その他、沢山の声が聞こえた。


 それらの声を聴いて、女王に貰った知識の中に"低位精霊は通常形を持つだけの力が無く、見た目はぼんやりとした光の塊の様に見える事が多い"――とある事を思い出した。


「えっと、皆が私に蔦を持って来てくれたのかしら?」


 すると、再びあらゆる処からの答えがあった。


『"そうなのー"』

『"うれしいのー?"』

『"たのしいのー?"』

『"よかったのー?"』


 ……――どうやら、個別に話をする事は難しそうだ。


 どうしようかと迷ったシナだったが、言った。


「ありがとう、嬉しいわ! ……そうね、何かして欲しい事は有るかしら?」


 シナがそう言った途端、周囲から何か"思念"とも呼べるようなものが、無数に伝わって来た。どうやら、それらは全て個々の"真名"だったらしく、認識した瞬間其々と繋がった事が分かった。


 ……どうやら、皆が希望したのはシナとの"契約"だったらしい。


 その"契約"は、時間にして一瞬だったみたいだが、実際にシナが感じたのは数時間とも感じるほど長い時間だった。其々と繋がった瞬間、一人一人と意思の疎通をした為だろうが、意外と一人一人には個性があった。


 一度に沢山の子供達が出来たかのような気分になったシナだったが、女王の知識による"状態確認"で、自分の使える"精霊魔法"の"認識"を行ってみて驚いた。


「あらぁ、沢山の魔法が使えるようになったわねぇ……」


 そう呟いたシナに、テラが言った。


「シナは、もう少し自分がおかしい事に気が付くべき!」


 しかし、そんなテラに反論したのはマナだった。


「おかあさんは、おかしくないなの!」


「マナ、分かってないの!」

「わかってるなの!」


「分かってないの、普通は精霊の持つ"霊力"で体がはじけるの!」

「おかあさんは、はじけないなの!」


「そりゃあ、はじける前に契約を止めるからそうだけど、シナは契約が止まらないし、契約を急いだ他の子達全員分契約しちゃうなんて、色々おかしいなの!」


「それは、おかあさんだからなの!」


 ……――言い合いは終わりそうもなかった。


 二人の可愛い言い争いを聞きながら、(あらぁ、語尾に『の』って付くのはどうやら精霊特有なのかしらねぇ……最初の内はテラはそんなんでも無かったけれど。安心してくれたのかしらね……)と考えていたが、何時までもそうしている訳には行かないと思い、途中だった家づくりを再会する事にした。


 シナの周囲には、楽し気にフワフワと浮遊する精霊達が集まっていた。

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