15話 おねだり
……しばらく夢を見ていた気がする。
そこに居るだけで周りを傷つけてしまう。
そこに居るだけで周りを不幸にしてしまう。
誰にも必要とされていない。
誰の為にもならない。
――そんな哀しい夢を。
ふと、遠くで呼ぶ声がした。
「……さん……あさん」
懐かしく愛おしい、そんな感情が生まれる。
が――その瞬間、それらの感情全てが一瞬にして掻き消えてしまった。
何とも言えない"無"の状態。
そして、また聞こえる。
「か……さん、おかあさん……」
再び感情が生まれる――が、感情が再び……
「っつ、ダメッ!」
衝動的に拒絶した。
すると……
残念そうな悲しそうな感覚と共に、その気配は去って行った。
気配が去ると共に、ぼんやりとしていた感覚が戻って来た。
「おかあさん?」
「シナ?」
薄日を感じながら目を開くと、そこには二人の小さな妖精もとい子供達が居た。
「ふたりとも……」
二人の姿を見て不思議に思ったシナだったが、二人の頬に手を当てると言った。
「心配させたかしら?」
すると、マナが飛びついて来た。
「心配したなの。急に倒れたなの。霊体になっても普通、体置いて行かないの!」
「そうよ、まったくじょーしきが無いんだから……」
どうやら、女王様に霊?魂?だけ呼ばれたらしい。
……何か夢も見ていた気もするが、覚えていないので何とも言いようがない。
取り敢えず、心配してる二人に状況だけでも話しておく事にした。
「ごめんなさいね、女王様の所に行ってたのよ」
すると、二人は『だからなのね』とか『そう云う事だったのね』とか言っていた。話を聞くと、どうやらマナやテラ達にも女王からの"連絡"が有ったらしい。
ただ、"連絡"とは言っても、『何か心地よい気配』がしたという事らしい。女王が『直接介入できない』と言っていたから、苦肉の策として取った方法なのだろう。
「それより、二人の洋服を作りましょう!」
女王にして貰ったのは、知識の提供と契約の仲介だ。
知識の中には、魔法の使い方や基本的な情報、そしてギフトの使い方もあった。
聖霊術と言うのは、どうやら『契約した精霊の術を"自身の魔力を補填"して発動できる』というものらしかった。
つまり、契約している精霊が居なくては意味のないという事で……まぁ、そこら辺は良いだろう。飽くまでも"全ての精霊の母である女王"の使う術なのだから、そういうモノなのだろう。
若干、女王様って……と考えそうになっていた思考を振り払うと、そわそわして周りを飛び回っている二人に目を向けた。
……今は二人の服作り、そしてギフトを試してみる事が先だろう。
それと、得た知識で確認した所、どうやら"ギフト"と言うのは、その人物が一定以上の段階――レベルと言う方が分かり易いだろうか――に達した時、それ迄の行動や経験から発現する力の事らしい。
余り待たせても可哀そうなので、早速リクエストを取り始めた。
「二人は、どんな洋服が良いかしら?」
すると、最初に手を上げたのはマナだった。
「えっとね、マナはおかあさんと同じが良いなの!」
「わかったわ、マナにはワンピースにするわね」
嬉しそうにしているマナを微笑ましく見ていると、テラがモジモジとしながら近づいて来た。どうしたのかと思っていると、テラは服の裾を少し引きながら言った。
「あのね、テラもおんなじがいいの……」
破壊力抜群だった。
思わず頬擦りしたくなる衝動を抑えながら、呼吸を整える。
「……ふーはー」
不安そうに見上げて来るテラを持ち上げながら、言った。
「そうよね、皆でお揃いにしましょうね~」
「……やった」
小さく呟いたテラに我慢が出来なかった。
「っも~可愛いーー!」
抱えたテラに頬擦りをしていると、マナも飛び込んで来た。
「マナもっ!」
「はいはい、二人とも可愛いわよ~」
「やめなさいよ、暑苦しいー」
その後、少しの間離れ追うとするテラと、くっ付こうとするマナを堪能していた。
――
寝ていた"世界樹の洞"から外へと出たシナは、蔦を置いていた場所まで来ていた。洞から出る際は、試しに霊体化してみた。
すると――何かフワフワした感覚になって行き、気が付いたら体が半透明にそして、飛べるようになっていた。
歩くのと同じ感覚で、飛べるようになっている事に驚きながらも、色々試してみた。その結果、知識として知っている通りだった。
つまり――"物質をすり抜けられる"事と、生き物の持つ"生命の気配"と"魔力の気配"を感じられた。そして、これも知識で知っている通り、霊体の間はものに触れられなかった。
……まるっきり幽霊と同じな気がするが、まあ良いだろう。
若干落ちていたテンションを上げながら、蔦に目を向けたシナだったが、蔦を見て驚いた。
「え、これは……苔?」
見ると、取って来て置いていた蔦には、苔が生えていた。
ご機嫌な二人に恐る恐る聞いた。
「えっと、私はどれくらい寝てたのかしら?」
驚いていて聞いたシナだったが、テラが言った言葉で更に驚いた。
「えっと、シナは~日が沈んでまた昇る間……大体一日位寝てたよ!」
つまり、一日無いし半日ちょっと、と言う事だろう。半日で苔が生える筈ない、『どうして……』と口にしたシナだったが、マナが言った言葉で納得した。
「えっとね? マナがおかあさんが良くなるように頑張ったら、周りの植物が元気になったの!」
……マナは"生命のギフト"を貰っていた筈だ。
恐らく、そのギフトを使った結果周囲に影響を与えたのだろう。
テラも困ったようにして『まったく、マナったら『体がおかしいんじゃないの』って言っても聞かなかったの!』と言っている。
「そうね、まぁ大丈夫よ。それにこの苔は初めて見る子だから、かえって良かったわ」
そう言うと、マナが『マナのおかげなの~?』と聞いて来たので『そうね、そうよ~』と言っておいた。テラは少し不服そうではあったが、シナが『服を作るわ』と言うと、機嫌を直してくれた。
「さてと、合成するモノは"認識"する必要が有るから……そうね、これを試してみましょうかね」
そう言ったシナは、自分のワンピースの左ポケットに蔦を入れてみた。すると、予想通りポケットにはするすると蔦が入って行き、入った蔦の情報を認識する事が出来た。
このワンピースは、女王様からの贈り物だったらしいのだが、知識を貰った際に"ギフト"の情報の中に、このワンピースの使い方についても含まれていたのだ。
どうやら、シナが『女王様からのギフトは少ないんですね』と言った事がこのようなプレゼントの形で帰って来ていたらしい。
「よし、後は"合成"で作るモノを思い浮かべて……」
シナは、自分の来ている服の少し小さいものを想像した。
……この"合成"と言うギフトは、とんでもないギフトだ。
自分で望んで於いてなんだが、『想像した物を合成によって創り出す。その際、制限される条件は一つで必要なモノが揃っている事』――つまり、想像できるものは、必要な物さえあれば何でも作れてしまうのだ。
マナとテラに合うサイズで想像したシナは、早速"合成"した。
……ポケットの中の蔦が変化し、薄くひらひらとした物に変わったのが分かった。
「どうかしらね……」
少し不安になりながら取り出したシナだったが、失敗した事に気が付いた。
「あら、周りの色も出ちゃったわね」
どうやら、蔦全体――茶色と緑色がまだらに出てしまったみたいだ。取り出したワンピースは、白い部分と茶色い部分、そして蔦の葉の緑が模様の様になっていた。
作り直そうとしたシナだったが――
「森みたいなの!」
どうやらマナの気に入ったらしい。
シナから受け取ると早速着てしまった。
「……茶色とか緑が入ってるけど」
「大丈夫なの、おかあさんの作った服なの!」
気に入った様子なので、次はテラの分を作る事にした。
次は、簡単な加工も加えてみる。
一度蔦を取り出すと、蔦の周囲の皮や葉を"光魔法"で削いで行く。
……最初、加減を間違えて天を衝く様な光の剣を出してしまったが、注ぐ魔力を抑えたら思い通りのサイズになってくれた。
テラは呆気に取られて『テラの魔法と違うの……』と言っていたが、女王とも契約していると言った処納得していた。
何はともあれ、皮を全て剥ぐと蔦の中の白い部分だけになった。
その加工した蔦を再びポケットに入れると、ワンピースを思い浮かべ"合成"した。
「次は……うん、白いワンピースになってるわね」
若干クリーム色ではあるが、"白"と言ってしまっても問題無いだろう。
そわそわしているテラに言う。
「それじゃあテラ、手を上げてくれる?」
すると、不思議そうにしながらも『こう?』と言ってバンザイをした。そんなテラを微笑ましく思いながら、上から服を着せる。
「……どうかしら?」
手であちこち触り始めたテラに聞いてみる。
すると、目をまあるくして言った。
「うれしい」
テラの嬉しそうな様子を見ていたシナだったが、隣に居たマナが服を脱ぎ始めたのを見て驚いた。
「どうしたの? やっぱり白い服が……」
すると、苦労して脱ぎ終えたマナが服を差し出しながら言った。
「マナもおかあさんに着せて欲しいの」
両手をバンザイしてこちらを見て来るマナに悶えたシナは、十分にマナの"おねだり"を堪能してから、服を着せてあげた。その日シナは、パジャマと着替えを作る事を心に誓った。
そして、『朝は必ず着替えを手伝う』という事も。
森の中に降り注いでいる光は、今日も心地よかった。




