14話 知識と契約
少し時間が掛かりましたが、楽しんで頂けると嬉しいです。
光の精霊"テラ"は、マナが"ギフト"を持っているという事に驚いていた。
どうやら、"ギフト"と言うのは特別な力らしい。
「――そうですよ! それこそ、一つのギフトは種族毎に存在する壁を超えた時、やっと一つ現れるんです。それこそ、私達精霊は数百年で精霊種の壁を上がれるかどうかなんです!」
……壁と言うのがどういったモノかは分からないが、恐らくは成長の先の限界の事を言っているのだろう。どうやら、妖精にも"成長"と言う物があるらしい。
「へ~妖精――じゃなくて、精霊さんも成長するのね」
そう言うと、テラは少し首を傾けた。
「うーん、成長とはちょっと違うんだけど、そうですね……分からないわ!」
少し考えていたものの、テラが胸を張ってそんな事を言う物だからズッコケそうになった。
マナは元々のんびりしているが、テラは何処かしっかりしてそうなイメージがあったのだ。そんなテラが、それこそマナが行き着くような結論を出した事に、不意を突かれたのだ。
……精霊とは軒並みこんな感じなのかも知れない。
「そ、そう。まぁ良いのよ……それより、今は服作りね!」
シナが言うと、マナとテラが『うん!』と頷いた。
小さなテラを見ていると、何だかマナに妹が出来たみたいだ。
……要請に性別は無いらしいが、何となく女の子っぽいので、妹で良いだろう。
二人で『おかあさんと同じ服がいいね~』と言っているが、蔦でワンピースを作る事は出来ないので、出来上がったら少し工夫が必要かもしれない。
「そうね、それじゃあ石のナイフを作りましょうか!」
そう言ったシナだったが、テラが不思議そうな顔をした。
「ナイフ?」
「そう、蔦を加工するのに必要なのよ」
すると、少し考えてから言った。
「おかあさ……シナは、魔法で蔦を切れないの?」
「魔法で?」
マナにつられたのだろう、テラが一瞬『おかあさん』と言おうとしたが、シナの顔を見て咄嗟に言い直していた。シナの楽しそうにした顔を見て恥ずかしくなったらしい。
「そうよ、魔法を使えばいいじゃない。私は精霊だから、使える魔法に制限があるのだけど、シナは出来る筈じゃない!」
そう言って、テラが手の平の上に光の玉を出した。
……どうやら、精霊は自由に魔法が使える訳では無いらしい。まぁ確かに、水の精霊が火の魔法を使っていたら驚くかもしれない。
どうしたの?と見て来るテラに言った。
「わたし、魔法を使った事が無いのよ。それに、女王様からギフトを貰ったのだけど――」
途中まで言った処で、テラが口をはさんで来た。
「ちょ、ちょちょっと待って!」
あわあわしているテラを見て不思議そうにすると、頭を抱えて『一つずつ行くわね』と言って来た。
「ええと、シナは――そうね、そういう事ね……マナ、貴方生まれて間もないでしょう?」
テラはそう言ってマナを指差した。
当のマナは、面白そうに飛んでいた処、急に話を振られて不思議そうにしていた。
「そうだよ~おかあさんの所に行ったの~」
「……色々言いたい所だけど、そうね一つだけにするわ」
そう言うと、テラは言った。
「マナ、貴方シナに魔法の事は教えたのかしら?」
「したなの!」
マナが得意そうに言う。
「……それじゃあ、魔法が魔力を使って行使出来るって言うのは?」
「う~ん、おかあさん知ってたなの?」
首を傾けてそう聞いて来る。
どうやら、マナも良く分かっていなかったらしい。
「いえ、知らなかったわね」
……この場合、問題なのはマナでは無く女王様の様な気がする。と言うか、何となく女王様は『精霊と契約して、使える魔法を増やせば良いのよ~』とか言いそうだ。
困った顔をしているテラに、一応事の次第を伝えておく事にした。
「テラ、実はね――……」
その後、シナの話を聞いたテラは頭を抱えていた。
「クイーン……それは無謀ですよ~だって、私達シナが来るって知らないし、会いになんか行けないじゃないですか~~」
……やはり、問題だったのは女王だったのかも知れない。
何となく、このままだと何処かで困った事態になりそうだったので、女王様に祈る事にした。
「ええと……女王様、ちょっと話が有るので出てきて下さい。もし女王様が如何にかしてくれなければ、私にも少し考えが有ります。そうですね、最初に女王様の事は年増――」
まだ祈っている最中だったが、ふわっとした浮遊感と共に、肌に感じる空気が変わった。恐る恐る閉じていた目を開くと、そこは白い部屋だった。
周囲を見ても、マナとテラはいない。
「……マナと、"テラ"でしたか? あの二人は連れてきていません。そもそもそう何度もこの神聖な神殿に来る事は出来なくてですね……まぁ、良いでしょう。私が直接手を出す事は出来ない中、テラの封印を解いてくれた事には感謝します」
そう言うと、女王は姿を現した。
……相変わらず美しい。
少し強調して(綺麗だな~)と想像する。
すると、反応を待っていたらしい女王様が言った。
「全く、この空間では確かに心が読めますがね……はぁ、まぁ良いでしょう。それで、貴方の用事と言うのは何でしょうか?」
余計な事を考えない様に、ひたすら(綺麗だな~美しいな~)と考えていただけあった。女王様がこちらの話を聞く体制になってくれた。
「お願いがあって」
「なんでしょう――ええ、分かりました。はぁ……マナが統合した際に、其々に教えていた事が全て混乱状態になってしまったのね。今からマナに教え直す事は出来ないので、貴方に知識を与えますが……ただし、"条件"があります」
どうやら、マナは元々必要なだけの情報を持っていたらしい。
それが、一人の存在に変異した時に情報も抜け落ちたみたいだ。
「何でしょう?」
女王様の"条件"と言うのを思い浮かべながら聞くと、笑って言った。
「ふふふ、別に何かを求めたりでは無いわよ」
「……そうですか」
ここで、『マナを返して貰います』なんて言われたら困っていた。
既にマナは娘の様な感覚だし、テラだって可愛く感じて来ている。
マナやテラの事を考えていたシナを見て、女王が『全く、本当であればこのまま一人で放り出しても大丈夫だと思うのだけどねぇ』と言った。そんな女王に対して、『ひ弱な私には無理です』と言ったシナだったが――
「貴方も私の加護を持つ者なのよ?」
女王が、『私の加護を持つ者が危険な目に会うわけないじゃない!』と言っている。それに、何やら仙人がどうたらこうたら話しているが、苦労して身に付けた訳じゃないのにそんなに直ぐ自分の力になる訳が無いと思ってしまった。
「はあ……」
力の抜けた返事をしたシナに対して、女王は少し不服そうに言う。
「全く、全然ありがたさが分かってないんだから!」
そう言って、少し脹れた女王様を見て仕方なく『すみません』と言った。
「……まぁそうね、良いわよ。それより"条件"と言うのは、新たに生み出された物や技術は教えられないわ。そうね、一番分かり易いのは"陣魔法"の"陣"かしらね」
「陣魔法の陣ですか?」
「ええ、アレは元々人間が思いついたもので、陣によって魔力の回路を形成して疑似精霊を再現するのよ。完全に人間のオリジナルだから、知識は与えられるけど陣は学び取らなくてはいけないのよ」
「なるほど……と言う事は、"魔法"と"特異魔法"の方は――」
「ええ、その二つは知識と手段を与えるわ。そうね、それと"ギフト"についても知識を与えておくわね……ええ。それにしても、特異魔法と言うのはあまり好きじゃないわ。『精霊魔法』の方が良いわよ、ね?」
どうやら、手を講じ始めると色々とする事が早いらしく、一気に話を進めてくれた。それは良いのだが……"特異魔法"と言うのは、マナから聞いた言葉なのだ。後でマナに訂正しておいた方が良いかも知れない。
「ええ、助かります。それに、確かに精霊魔法の方が良いですね」
シナがそう言うと、女王様は『そうよね~』と言った。
そんな様子を見ながら、気になっていた事を聞いた。
「それで、"魔法"はともかくとして、"精霊魔法"はどの様に?」
何となく、"魔法"については知識さえ得られれば、後はテラとマナに手伝って貰って如何にかなる気がする。しかし、"精霊魔法"に関しては別だ。
「そうね、確かに色々と間違えちゃったのよね……本当は、マナがその"単一多在"の性質を利用して、色々な所に霊体になって行く予定だったのよ。それこそ、マナにしか方法を教えていない場所に居る精霊も居たのよね……それが、一人に統合されちゃってね~」
どうやら、シナが女王の色々な準備を全てフッ飛ばしていたらしい。
……何となく申し訳なくなった。
「ごめんなさい。色々準備してくれてたのよね」
シナがそう言うと、女王様が俯いていた顔を上げて抱き着いて来た。
「良いのよ~……あらぁ、貴方本当に心地よいわね……」
少し体勢がきつかったが、女王が満足するまで好きなようにさせる事にした。恐らく、女王様は女王様で色々あるのだろう。何となく途中でぽかぽかとして来たが、それはそれで心地よかったのでそのままでいた。
時間の経過が少し気にはなったが、女王様の事だから大丈夫だろうと思う事にした。そう、それこそ女王様であれば幾らでもなんとかなる筈なのだ。
その後、少し経った処で視界がふにゃっとした。
「ふぇっ?」
「――っと、そろそろ器に溜まったみたいね……それにしても、流石新種ね~思ったよりも器が深くて驚いたわ……少しむきになった部分もあるけど、まあこれでいっぱいみたいね。知識を与えた後に随分器が広いみたいだったからつい注いじゃったわよ~」
女王様が何か言っているがよく分からない。
「……」
「ああ、そうだったわ。えっと、精霊魔法の事だったわね」
頭の中が回っていて、思考が中々定まらないが辛うじて理解出来た。
「精霊……」
「ええ、その精霊魔法なのだけど、精霊達には私から連絡しておくわ。それと、折角だから私が三人だけ仲介してあげるわ。少しやり過ぎちゃったみたいだし、お詫びね!」
そう言った女王が、『どんな精霊と取り次ぎましょうか?』と聞いて来る。
ぼーっとし始めた頭を振り絞って考える。
最初に浮かんで来たのは"風の精霊"と"重力の精霊"だ。
しかし、これらの精霊は"飛ぶ"為に契約したいと思った精霊達だ。
何故か分からないが、ただ"飛ぶ"だけであれば急ぐ必要はないと分かった。
結果、条件を定めて女王に選んでもらう事にした。
「……」
喋る事は出来なかったが、考えている事を伝えた。
内容は――『こちらからも向こうからも会いに来れない精霊で、植物の為になる精霊』これが条件だ。すると、考えを受け取った女王が満面の笑みを浮かべて言った。
「どうやら、ちゃんと"知識"を使えてるみたいね……良いわ、叶えましょう!」
すると、その場に見えていた女王が瞬時に姿形を変えた。
――その姿は、目にするには恐れ多く、只感じる事さえも許されない――
その後、声がした。
[我 前 示 その名 ―― "************" "************" "***************"]
するとそこに現れたのは、二体の獣の形を取った存在と、一体のその姿を感じる事すら出来ない程の存在――女王と対極にありながら、何処か親愛の情を感じる者――その名を聞いた瞬間、シナは絆を結んでいた。
――が、すぐさま女王が声を上げた。
[我 不 呼 何故今]
すると、声は聞こえなかったものの感情が流れて来た。
……何処か寂しげだった。
[我 今 来 シナニ]
すると、一体目の獣(の姿を取った精霊)――大鷲と獅子と大鰐の頭を持つ獣が口を開くと、周囲の空間が揺らぎ始めた。
……どうやら、三体目の存在に対して何か力を向けているらしい。しかし、どうやら"三体目"の方が力が強いらしく、揺らぐ気配が無かった。
二体目の獣は、暫く状況を見ている様だったが、女王が命令した事でその口を開いた。その直後――『"バツンッ!"』と音を立て、空間が閉じた。
……"三体目"は消えていた。
それ迄何か言う事も何かする事も出来ないでいたシナだったが、それが女王の考えていた流れでは無かった事は分かった。
――突如襲ってきた疲労感と、引っ張られる様な感覚で意識が途切れた。




