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13話 光の精霊

 シナが助けた精霊は、その後色々と教えてくれた。

 どうやら、大分前に人間による襲撃があったらしい。


 事の経緯はこういう事だった――



 ◆◇◆◇◆◇



 それ迄、森に迷い込んで来た人間や瀕死状態の冒険者が近くまで来ることが有ったが、そのままでは死んでしまうので、世界樹が"恵み"として少しだけその枝や葉などを与えていた。


 世界樹の葉や枝に備わったエネルギーは人にとって有用なもので、味を占めた人間が世界樹を求めてやって来る様になった。


 初めの内は大した問題ではなく、途中で引き返す者や運よく辿り着いても少しの恵みで満足する者が多かった。しかし、ある日を境にして、人間が群れを成して森を開拓し始めた。


 木々を切り、森を焼き、そこに有るモノを根こそぎ奪い……


 流石に黙っている事が出来なかった世界樹は、そのエネルギーを周囲に注ぎ、木々やそこに住む生き物に力を与えた。その甲斐があって、暫くの間森には平穏があった。


 世界樹の元に辿り着く人間は以前より少なくなった。


 世界樹の頼みを聞いた精霊が、そこに住む植物に加護を与えたりもした。


 しばらくの平穏があった。


 しかし、それも長くはなかった。


 ある日、異様な雰囲気を纏った人間が現れ、その人間はその力を振るって周囲を燃やした。しかし、火の精霊の加護を持つ植物達は燃える事は無かった。


 すると、その人間達は根こそぎその植物を奪って行った。


 ついに世界樹は、自身のエネルギーを森に棲む獣たちにも与えた。


 また、しばらくの平穏があった。


 しかし、次にやって来たのはそれ迄とは明らかに気配の異なる人間だった。


 仲間内では"勇者"と呼ばれている様だった。


 嫌な予感がしていたものの、精霊である自分が手を出す訳に行かなかった。


 結果、嫌な予感が的中した。


 世界樹は人間の手によって引き裂かれていた。


 その多くのエネルギーは世界各地に散り、辛うじて留めたものの、エネルギーを失った世界樹はその本体の大半を失ってしまった。


 その様子を見た精霊は、我慢する事が出来ず勇者達を襲撃した。


 が、咄嗟にその気配を感じ取った勇者の手によって、封じられてしまった。封じられた際、勇者の出した岩の中に封じられたのだが、必死に抵抗した為余計に強い力で封じ込められてしまい、これまでずっと岩の中に居た。



 ◆◇◆◇◆◇



 話を聞き終わったシナは、同じような事を何処かで聞いた様な気がしたが、思い出せなかったので気のせいだと思う事にした。話を聞いた限りでは、人間側に非が有るように見える。


 しかし、これは飽くまでも一方からの視点での話に過ぎないし、もしかすると人間側にも何か理由が有るかも知れない。


 一応話は心に留めておく事にして、機会が有れば調べてみる事にした。


「――だからね、人間は野蛮だし酷いんです。それに嘘つきだし……」


 目の前の子供(もとい)精霊は、シナの腕の中でそう言ってしぼんでいる。

 何となく、このままはまずいと思ったので言った。


「そうね、確かに人間は時に乱暴になったり、嘘を付いたりもするわ」

「そうです。人間は酷い生き物です。他の存在を傷つけなきゃ生きていけない生き物です!」


 ……どうやら、随分と人間に対する憎悪(ヘイト)が溜まっているみたいだ。


「そう、確かに他の存在――その仲間でさえも傷付ける事もあるわ」

「そうなんです。あいつら、仲間同士でも傷つけたり命を奪ったりするんです!」


 精霊がそう言った瞬間、ある種のイメージが流れ込んで来た。


 そのイメージでは、世界樹の枝を手に入れた人間のグループが、その途中で互いに殺し合っていた。食事に毒を入れたり、眠った隙にその首筋にナイフを突き立てたり……


 それらのイメージを受け止めつつ、口を開く。


「そうね、そう……確かにそう言う事もあるわね」


 そう呟きながら、自身が経験した戦争の記憶――前世で留学中に拉致された時の事や、その結果亡くなった同僚や知り合い、そして――襲撃者達……。


「……これは?」


 シナのイメージした事が、精霊にも伝わったらしい。

 精霊の頭を撫でながら言った。


「これはね、前居た世界での記憶なの」

「前居た?」


 不思議そうにしている。


「そう、前居た世界で私は人間だったし――勿論今でも人間と思ってるわ――それに、その世界には戦争や争いが溢れてたの。それでも、私は人間で良かったと思ってるわ」


 シナの言葉を聞いた精霊が一瞬驚くも、マナとシナを見比べてから頷いた。


「そう言う事なのね……あなたは――貴方は人間が好き?」


 その表情は、少し寂しげだった。


「ええ、好きよ。人間だけでなく植物も好き。それにマナだって好きだし、あなたの事も好きになり始めてるわ」


 一瞬よく分からないと言った顔をするも、マナが『マナもなの~』と言って飛びついて来た。既にマナの葉っぱ(ようふく)は無かったので、そのすべすべした肌が気持ちいい。


「……わたしも?」


 そう言ってきょとんとしている精霊を見て、再び抱き寄せた。

 ……マナに比べると若干小さい。


「ええ、よろしくね妖精さん」


 すると、精霊は一瞬喜んだのだが、直ぐに『違うわ!』と言った。

 どうやら『妖精』と呼ぶのは不味かったらしい。


「えっとね、おかあさん。妖精って言うのは、未熟な精霊か低位の精霊の事なの。この子は高位精霊だから、それだと失礼なの」


 マナの言葉を聞いて、慌てて背を向けてしまった精霊に言った。


「ごめんなさいね、えっと……」

「……私は"****"光の精霊よ。その、人間は好きになれるか分からないけど、貴方はその……他のとは違うから……人間を無暗に攻撃するのは止めるわ」


 最後の方はごにょごにょと話していてよく聞き取れなかったが、どうやら少し態度を柔らかくしてくれたみたいだ。それに、人の事も無暗に攻撃しないと約束してくれたので、何処かで人間に出会う事が有っても心配ないだろう。


「その名前は発音出来ないから……そうね、あなたは"テラ"って呼ぶわね」


 何となく近い言葉を選んだのだが、どうやら気に入ったらしい。

 コクコクと頷いている。


 そんな様子を見て微笑んでみるも、途中でマナが『そうなの! テラはマナの服壊しちゃったなの!』と言い出した。すると、テラが少し驚くも『私も欲しいです!』と言って来た。


 マナを落ち着かせつつ、取り敢えず二人分の服を作る事にした。

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