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ぶっとび!? 教室ラビリンス  作者: 白河らあ
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女嫌いのゲイ と 美少女ハーレム

第一章 密室の教室



目が覚めたら教室だった。しかし一般的な教室ではなく窓がついていない。なので外の様子は見えない、閉鎖的な空間だ。密室状態と言えばわかりやすい。教室に閉じ込められたということだろうか。

 長方形の部屋に黒板や机など教室にあるものがおかれている感じだ。この四方八方が閉ざされている教室はどこか寓意的な場所に思えなくもない。

横を見ると隣には下着姿の女が寝ている。一般的に見れば美人でスタイルもよく華麗な部類に入る魅力的な美少女だと思われる。だが俺から見ればそうは映らない。


なぜなら――

――俺はゲイだからだ。


それも実は女も好きな半端者のゲイとは違う。はっきりと言い切るが俺は女が嫌いなのだ。どのくらい嫌いかというと食用ガエルを食べるくらい嫌いというのが感覚的に一番近いだろう。それくらい女が大嫌いなのだ。

そのカエルのような女が目をこすりながら起き上がり、仰天したエイリアンのような大きくぱっちりとした目が俺を見つめていた。非常に不愉快で気分が悪くなってきた。そのカエル女がエサを求めるように口を開いた。

「ちょっと、どうして下着姿なのよ。あんた! もしかしてあたしに何かしたんじゃないでしょーね!」

頬を赤らめながら、恥ずかしそうに悶えているが俺には滑稽にしか映らない。俺は張った声で言い返した。

「俺はゲイだ! お前の体なんぞに興味はない! 話をするのはモロッコで性転換してからだ」

「え……」

カエル女は驚きを隠せない表情をしている。実にマヌケだ。カエル女からアルパカ女に変えてもいい。そのアルパカ女が机の中にある制服を見つけたようで、まるで人間みたいに衣服を着始めた。

「そんなことより、カエル女。ここはどこなのだ?」

「カ、カエル? それってあたしのこと?」

「もちろん、他に誰がいる?」

カエル女は俺にラリアットを食らわしてきた。中々の身体能力だ。これは褒めてやろう。

「だれがカエルじゃああーーー」

このカエル女は元気活発でうるさい女ということが確認できた。それだけ収穫できればもう俺は死んでもいいだろう。それくらい女と一緒に居たくない。しかも女と密室ときたもんだ、ありえない。このままだと吐血し悶えながら発狂死しそうだ。これなら硫酸を飲み干して死んだほうがぽっくりいける分まだマシだろう。

「あたしには新垣奈々って名前があるのよ。で、あんた何? 本当にゲイなの? ネタとかじゃなくて?」

「ああ、本当の本当だ。俺の名前は吉本カズヤ。趣味は筋トレとパンツレスリングの鑑賞でDVDは完全コンプしているぞ。君も興味があるなら貸してやろうか?」

「い、要らない……」

「それは非常に残念だ。実にだらしねえな」

「何かちょっとイライラしてきた……そんなことよりここはどこなの?」

「うーん。それは俺にもわからない。教室ということはわかるが、もしかしてどこかの地下だろうか? とりあえずどうすればここから脱出できるかを考えることにしよう」

「そうね」

改めて教室を見渡すと、一般的な机と椅子が20台ほどに、後ろには空のロッカー、前方中央には教卓が置かれており、何より一番気になったものが教室の天井の隅にあった。

――監視カメラだ。

また東西南北の壁にそれぞれ4つの扉があった。しかし鍵がかかっており、体当たりしようにも頑丈な扉でびくともしなかった。

「監視カメラのようだな」

「も、もしかして、あたしたちのことをどこかから見てるとか?」

「その推察で間違いないだろう」

そもそも監視カメラなのだから普通どこかから見てる以外に使い道はほぼない。そんな当たり前なこともわからないのか。女は実に哀れな生き物だ。早く男だけの惑星へ移住したい。それがダメなら男だらけの無人島に漂流して厚い胸板で熟睡していたい。安眠の極地とはこのことだろう。

「それよりもこっちだ」

監視カメラよりも目立つ何らかのキーワードのような重要なファクターが堂々と黒板に記されていた。大きく『鬼』と一文字。

「『鬼』って何のことかしら?」

奈々とか言ったカエル女は首を傾げている。そのまま首がもげたら面白いのに。

「今の状況証拠からはいくら換算しても答えはおそらく出てこないだろう」

「そうね……」

出口がないか再度、この教室を細部まで確かめた。ロッカーが一番怪しいと男の勘が疼いていたが箒しか入ってない。色々と模索していると、時計の下に設置されていたスピーカーから雑音が聞こえてきた。

『やあ、こんばんは。君たちは僕のラビリンスに迷い込んだ子ウサギだ』

おそらく変声機を使っているのだろう。機械的な声だ。

「ちょっと、あんた! もしかして犯人? とっととここから開放しなさいよ」

『君たちは実験ネズミだ。僕のミッションを達成したら扉を開けてあげるよ』

子ウサギなのかネズミなのかどっちなんだ? まあ、おそらくこの犯人は生物学的に女だろう。

「ミッション?」

「ミッションとは何だ? それと名前を名乗れ!」

『名前? ああ、ごめんごめん自己紹介がまだだったね。僕の名前は小野G』

「小野Gか。もしかしてそのGと言うのはゲイって意味に違いない? どうだ小野G」

俺はドヤ顔でスピーカーに向かって声を投げた。

『いいや。僕はゲイじゃない、ノンケさ。そんなことよりミッションの内容だけど』

そんなことだと……。こいつは抹殺してから撲殺するリスト入りだ。

『ミッション内容は君たち二人でキスすることさ』

俺はカエル女を見つめた。確か、奈々とかいう名前だったかな。いやナナミ……違うなナミだったか、どっちでもいい。

「そ、そんなこと……出来るわけが……それにあたしはキスするの初めてなのよ」

『しないと扉は一生開かない。ずっとこのままさ』

「そんな……」

「俺は構わないぞ。キスくらい」俺は言った。

「え、あんただってゲイでしょ?」

「この際仕方がない。そもそも俺にとっては女とキスするのも食用ガエルとキスすることも大差ない」

「……ああ、あんたはそういう変態だったわね。あたしもただの変態生物とキスするだけと思えば出来そうな気がしてくるわ」

カエル女は俺を見つめている。おそらく威嚇というやつだろうか。

「あんたってかなりのイケメンよね。それにマッチョだし。中身は相当残念なのに。黙ってればモテるんじゃないの?」

 カエル女は傾いた額縁を見るような目つきで言った。

「ああ、昔から女に告白されたことは度々あった。だが全く興味がないので全て断った。好きでもないのに付き合うのは失礼だからな」

「へー。じゃあ、このキスは失礼じゃないの?」

カエル女はゆっくりと顔を近づけてきた。しかも上目遣いで。この雰囲気はかなりマズイ。

「う……」

「ああ、わかった! もしかして本当はあたしのことに興味津々だったとかー? 心の中では魅力的と思ってたとか?」

「バ、バカな。俺は女には対する興味なんぞ氷点下、摂氏マイナス50度くらいだ」

「そう言えば、あたしが着替えてた時もチラチラと見てたもんねー」

「待て、事実を捏造するな……見てなどない」

「いい、いい。わかってるわよ。あたしのグラマラスな体見て本当は興奮しちゃってたんでしょ? 可愛いんだから」

「可愛いだと……」

この女、中々言語能力が高いぞ。人を言いくるめる天才なのかもしれない。将来は結婚詐欺師か。

「ねえ、小野Gとやら。キスするのはどこでもいいの?」

時計上のスピーカーから、

『場所の指定はないよ』

「なら」

俺は固唾を飲み込んだ。ゆっくり桃色の唇が近づいてくる。死の運命からは逃れられない。

ナルシストカエル女は俺の額に唇をそっと当ててきた。カエル女の体温を額で感じた。これはおそらく人生の罰ゲームに違いない。

「……」

「これでいいでしょ?」

『ミッションクリア。おめでとう! これで扉が開かれた』

西側の扉の鍵が解除された。

「やったー。これでここから開放されるー」

猿が踊るように上機嫌でカエル女は重扉を開けた。俺も外の空気を吸いたくなったので追随し、ついていく。


扉を開けるとそこには――

――また教室があった。同じような密室の教室だ。教室ラビリンスとはこのことだろう。


「「出口じゃないんかーい!」」

俺の声とカエル女の声がハモった。

しかも扉を開けた教室の机の上で女が横たわっていた。つまり女が一匹増えたということだ。これは地獄か。




第二章 陰謀



 教室の扉を抜けると一面の銀世界ではなく、また教室が顔を出した。その教室の中央にある机の上で女が一匹眠っていた。カエル女とは対象的に小柄な少女だ。俺はどちらかというと胸板の厚い人間が好きなのだが、その少女は簡単に言えばまな板だった。だらしねえな。ここから抜け出したらプロテインを提供してやろう。

「ねえ、あなた大丈夫?」

 カエル女がまな板女を介抱している。しょうがなく俺も脈を確認した。

「ただ気絶しているだけのようだな。じきに目を覚ますだろう。それよりも……」

 俺はこのまな板女よりも黒板に書かれてあることのほうに目を奪われていた。そう黒板には『死』と一文字書かれている。

「『死』って何? あたしたち死んじゃうってこと?」

「かもしれん。しかし『鬼』の次は『死』か。どういう意味だ?」

「も、もしかして鬼があたしたちを殺しにくるとか?」

「君が俺をか?」

カエル女は俺にチュークスリーパーを食らわしてきた。何かの民族的な儀式だろう。

「誰が鬼じゃーーーー」

 それにしても、この文字は何かを表していることに違いないが、現段階では情報不足だ。

 そうこうしていると、まな板女が冬眠から目覚めたようだ。キョロキョロと草食動物のように四方八方を見渡している。そして口を開いた。

「ここはどこですか?」

「俺たちにもわからん。君は何か覚えてないか?」

「いいえ」

カエル女が口を開いた。

「ひとまず、あなたの名前を聞かせて。あたしは新垣奈々。ちなみにこの変態ゲイ野郎は吉本カズヤ」

「待て! その変態ゲイ野郎ってのは俺か?」

って無視か。

「私の名前は綾波六花」

「六花ちゃんね。よろしく」

「はい」

このまな板女(通称、綾波六花)はこの世に舞い降りてほんの数年ほどしか経っていないと思わせる華奢な身体に、青色の長い髪に緑色のカチューシャを付けて、凛とした顔立ちに薄桃色の唇をしていた。全体としてはどこか無表情に近い印象を受け、また感情を悪魔にでも消されたような瞳をしていた。が、そんなことなどどうでもいい。なぜなら性別が男ではないからだ。その少女よりも気になるものが机の中に入れられてあった。

「水だな。飲み水だろうか?」

置かれてた2リットルのペットボトルには何も書かれていないラベルが巻かれてあった。澄んだ透明感のある水ということが確認できた。

「あんた、飲んでみて」

カエル女が俺を先に毒味させる気だ。

俺は口一杯分ほど飲んでみた。喉で潤いを感じた。ちょうど喉が乾いていたのでピンク色の液体だとしても飲んでみただろうからな。

「大丈夫。飲み水だ」

俺に毒味させた水をカエル女とまな板女は順番に一口ずつ飲み、貴重な水なのですぐさまキャップを閉めた。

「六花とか言ったな。君について教えてくれ。ちなみに俺の趣味はガチムチパンツレスリング鑑賞だ。君は興味あるか?」

「いいえ。読書くらい……」

「どうしてなんだ!? 義務教育のはずなのに」

俺は頭を抱えた。レスリングシリーズは宇宙遺産のはずだ。いや、人生哲学に近いか。

「どんな義務教育よ!」

カエル女がツッコミをいれてきた。

小野Gからのミッションもなく、30分ほどただ時間だけが過ぎていった。 小野Gは一体どうしたのだ?



俺たちは教室の隅のほうに座り込んでただじっとおとなしくしていた。

「疑問に思ったことがあるんだが、いいか?」

カエル女とまな板女はこちらを伺っている。視線が俺のほうへ向けられた。

「何?」

「ここの施設は誰によって? 何の目的で作られたのか? どうして俺たちが入れられたのか?ということだ」

カエル女は返答してきた。

「あたしも気になってたのよね。目的や理由はわからないけど、誰によっていうのは小野Gじゃないの?」

「確かに小野Gが関わっているのは間違いない。しかしそれ以外にもいくつかのパターンが考えられる」

「へえ。どんな?」

カエル女は興味深そうに返してきた。

「1つ目は君の言った小野Gによって、復讐や報復のために俺たちが入れられたと考えられる。ただ複数いることも考えられる。何せ大規模な地下? 迷宮だ。組織的犯行の線が高い。そもそも小野Gはただの操り人形とも考えられる」

「まあ、そうね」

「2つ目は国家的策略、国家の陰謀が考えられる。国は大規模な公共事業が必要だった。作るものは初めから何でも良かったのだろう。だた大掛かりな予算を使う必要があった。だからこれが作られたと考えられる。その場合作られた本当の目的などなく、出口はないかもしれない。使わないのも惜しいというただそれだけで俺たちが偶然入れられたということもありえる」

「国家規模の陰謀か。飛躍しすぎな気もするけどね」

カエル女はケチをつけてきた。

「3つ目は企業。具体的には多国籍企業だろう。目的は税金対策でとにかくお金を使う必要があった。2つ目のと似ているな。もしくは営利目的で資材調達部のデータ収集の線があるがこのデータをどうするのかは分からない」

「こんなデータ取ってお金になるのでしょうか……?」

まな板女が首を傾げている。

「4つ目は個人。もっと言えばお金持ちの道楽だろう。俺たちを拉致しここに監禁したということが一番現実的か。つまり趣味が講じてモンスターになっちまったってとこだろう」

「この可能性が一番高そうね。大富豪の道楽って線はあるかも」

カエル女と意見がかぶってしまった。お祓いに行ってこようと思う。そのカエル女がこちらを見つめている。

「あんたって中々面白い考察するわね。結構頭もいいの?」

カエル女は言った。

「ああ。県内模試でも常に上位をキープしている。知力は必要だからな」

「顔も体つきも頭もいいのに……一番重要な中身が変態って、つくづく人間って不完全な生き物よねえ」

カエル女が蔑んだ目で見つめてくる。

「その目をやめろっ」

すると、スピーカーからゴソゴソと雑音が聞こえてきた。

『ごめん、ごめん。ちょっと昼寝し過ぎちゃった。許してね』

カエル女は切れそうになっている。俺がすかさずフォローを入れた。

「過ぎたことはしょうがない。それよりも小野G、次のミッションは何だ?」

『こんな状況なのに許してくれるのかい? 君は本当にいい人だ』

「お世辞はいい」

『そんないい子の君には僕からヒントを上げよう!』

「!?」

『この教室ラビリンスの教室の総数は全部で153室。153だよ。がんばって出口のある教室を探してね』

「それはまことか?」

『僕は嘘はつかないよ。信じる信じないは君の自由だけどね。では本題に移ろうとしよう!』

俺たちは小野Gの言うことを聞いていた。

『次のミッションは六花ちゃんの膝枕をカズヤが受けるだ。じゃあ頑張ってね』

「おい、待て!」

返信がない。これは非常事態だ。

まな板女は教室の後方ですっと足を曲げ、小さく正座をしてポンっと掌を膝で軽く叩いている。

「どうぞ」

ギリギリ聞き取れるくらいの澄んだ声が俺に向けられた。正直に言うと俺は男のゴツゴツした膝なら興味はあるが、女の柔い膝などまるで興味がない。そう、俺はパスタでも固麺のほうが好きだ。その感覚に近いだろう。どんなものでも柔らかいより硬いほうがいい。硬いほうがいいのだ。

横にいたカエル女はこちらをチラチラと一瞥してくるだけで何も言わない。

「し、仕方がない……」

俺はまな板女の前に腰を下ろして、そのまま頭を彼女の膝の上へ向けた。予想以上に柔らかく艶もありスベスベとした膝だった。これは相当に筋肉トレーニングが必要だな。ブリーフ・ブートキャンプのDVDを今度貸してやることにする。

そんなことを思案していると、まな板女はこちらをずっと窺っていた。雪のような瞳が向けられ、目線が重なる。

「な、なんだ!?」

「……」

まな板女は人差し指を立てて、そのまま寝転んでいる俺の頬をツンとついてきた。

「これに何の意味がある?」俺は言った。

「なんとなく」

『おめでとう! ミッションクリアーだよ。じゃあ、東西南北好きな扉を選んでね』

スピーカーから小野Gのミッション成功の言葉が告げられた。

「君が選びたまえ」

紳士な俺は協力者のまな板女に扉を選ぶ権利を譲渡させた。彼女は間髪を入れずに、

「北」

短く発せられた言葉通りに北の扉の鍵が解除された。重い扉を開くと、そこにはまたしても同じような教室が視界に映った。

俺たちは次の教室へ足を踏み入れた。そこにはなんと……雲が写っていた。



この教室には北側に扉はなく、ガラス張りで外が映し出されていた。外壁なので教室はないということだろう。この教室が迷宮の端っこだと推測される。しかし地下迷宮だと思われたがここはなんと上空だった。てっきり、北海道の十勝平野あたりの地下だろうと予想を立てていたがまったく外れていた。

「どういうこと? ここは上空なの?」

カエル女は驚愕している。これはギョっという擬音が似合うだろう。

「ますます、謎が深まるばかりだな」

俺は腕を組んで考え込んでいた。隣のまな板女は特に驚く様子もなく、ただ無言でじっと雲を見つめている。すると小さな口が開かれ、

「国家の陰謀」

まな板女は鈴虫のような小さな声でその言葉を発した。

「確かに上空に迷宮などといったものを普通は個人で作れる規模ではない。国家プロジェクト級の予算が必要だ」

一番あり得ないだろうと思われていたパターンが急浮上してきた。

「それにしても良かったこともある」俺は言った。

「何?」カエル女は言った。

「俺はてっきりまた女が一匹増えると思っていたからな。扉の先の教室には女がいるものばかりだと思っていた」

「流石にないない……」

「だな」と俺は頷いた。

この言葉を発したと同時に西側の扉が亡霊でも現れるかのようにひっそりと勝手に開き出した。

「えっ……!?」

今度はこちらからではなく、向こうの方から扉が開かれたのだった。そう、この教室迷宮には俺たちだけでないのだから当たり前だ。どうしてこんなことに気づかなかったのだろう。

向こうの方から開かれた扉の中から人が現れた。またしても女だった。それも金髪の美少女だった。

「ちくしょおおおーーーなぜ、女なのだ! 男は。男はどこにいるーーー!! うおおおおおおおおおお!!!」

自分らしくもない。真顔になってつい発狂してしまった。取り乱すとは自分でも情けない。まだまだ修行が足りていないようだな。自分で言うのもなんだが、だらしねえな。

「いきなり、何事ですの?」

こちらにきた金髪の少女が第一声を放った。

冷静さを取り戻した俺は白人少女に挨拶代わりのこの言葉を発した。

「君はガチムチパンツレスリングシリーズに興味はないか?」

カエル女がスライディングをかましてきた。正直これは痛い。足首がイカレタ気がする。

「アホかー。いきなり何言ってるのよ!」

カエル女は空かさず、金髪少女の方を振り返り、

「気にしないで。こいつはただの変態ゲイ野郎だから! そうそう、あたしの名前は新垣奈々」

「私は綾波六花」

「俺は吉本カズヤだっ!」

金髪少女はかしこまりながら、

「わたくしの名前はクリーチ・シャラポアですわ」

その少女は長い金色の艶やかな髪に碧眼の瞳、俗に言う金髪碧眼というやつだな。長いまつ毛に大きな目、丸みのあるボディに、柔軟性のある腰回りにスラリと長い白い脚と白人少女らしいスタイルの良さだ。……だがそんなことよりも目についたものがあった。そう、大量のパンを抱えていた。女より食い物だ。あと食い物より男だ。だが俺以外に男はいない。

「そのパン……」俺は言った。

「良かったら食べてくださいな。ロシアの代表的なパン『クリーチ』ですわ」

「クリーチ? 何それ?」カエル女は言った。

「そんなことも知らないのか。クリーチとはロシアの伝統的な料理で復活大祭の奉神礼に使われるお菓子みたいなパンのことだ」

「へえ。ところで何でそんなに詳しいの?」

「昔、ロシアにある別荘で食べたことがあったからな」

「別荘? あんたんとこお金持ちなの?」

「まあ、比較的裕福な方ではあるな」

「へえ……イケメンで頭も良くて運動神経もよくてお金持ちの息子なのに……この性格とは……不憫な」

カエル女は軽蔑した眼差しを向けてきた。

「その目をやめろっ」

渡されたパンを男を漁るようにかぶりついた。腹が減っていたので死ぬほど美味かった。

「クリーチか……なるほど(ならこの金髪少女はクリーチャーと名付けよう)」

パンを食べながら、クリーチャー女の入ってきた教室へ足を運んだ。



その次の教室には『他』と黒板には記載されていた。一体何を意味しているんだ? 今までの文字を回想うすると『鬼』『死』『砂』『他』だ。ひとまず、クリーチャー女に話を聞いてみることにする。

「君は何か覚えていないか? 何でもいい。知ってることを教えて欲しい」

「どうしてここにいるのか、わたくしにもわかりませんわ」

「やはりか」

「そういえば、先ほどすごい音がしましたわ。地震でも起きたような」

「音? 誰か他に聞いた人は?」

お互いに顔を合わせて首を傾げている。

すると、スピーカーから小野Gの声が聞こえてきた。

『やあ、待たせたね! 次のミッションを発動するよ。カズヤとシャラポアが抱擁するだ。じゃあ頑張ってねー』

「待て。さっきからどうして俺なのだ?」

……反応がない。屍のようだ。

クリーチャー女はこちらをチラチラと窺っている。おそらく情緒不安定だろう。精神病に違いない。こんな閉鎖的空間内にいるからな。無理もない。

俺はクリーチャー女の手を握りしめた。

「抱くだけだ。他に何もしない。安心しろっ!」

「ええ……。では……その……お願いしますわ」

俺はサンドバッグを抱きしめるようにクリーチャー女を抱いた。彼女は少し照れていた気がするがまあ、気のせいだろう。カエル女や、まな板女もこちらをチラチラと窺っている。

「何だ?」俺は言った。

「いや、何でも……ない」

カエル女は不思議そうな表情で返してきた。すると、

『おめでとう! ミッションクリアだよ。だんだん、コツがつかめてきたんじゃないかい? 古今東西好きな方角の扉を選んでね』

「なら南だ」俺は述べた。

南の方角の扉を選び、ロック解除の音が鳴った。閉ざされていた重い扉を体全体で引っ張りながら、

「もうそろそろ出口に近づいてきた頃合いじゃないか?」俺は言った。

「そうね」

カエル女も輝かしい目をしながら返してきた。初めて意思疎通できた気がする。

みんなで次の教室へ向かった。

しかし、その先には……。


――黒板には『鬼』と書かれていた。

つまり、初めの教室に戻ってきてしまった。俺たちは同じところをぐるぐると回っていただけのようだ。

今までの苦労はなんだったんだ。



第三章 光



俺たちは正直、疲労困憊していた。

「どうして初めの教室に戻ってくるのよ!?」

カエル女が喚いている。まあ、その気持ちはわかるが。

「俺も流石に、精神的にきたものがある」

教室の黒板に『鬼』と書かれた文字を見つめながら重い腰を下ろした。

「そうね」

「ぐるぐる回っていても仕方が無い。ひとまずここで待機だ」

周りも「うん」と頷いている。

「それにしても改めて『鬼』『死』『砂』『他』でまた『鬼』とかどういう意味だ?」

「うーん。おに、し、すな、ほか。さっぱりわからないわね」とカエル女は言った。

「わかりませんわね」とクリーチャー女。

「わかりません」とまな板女。

1時間ほど経過した時、俺たちは休憩と称してお休みタイムとしていた。すると、


ガガガガガガガガっギギッギギ!!



その惰眠を打ち消すような激音が発せられた。

「何の音だ?」俺は言った。

「なになに?」と女たちも声を発した。

体がふわっと浮いたような感じがした。エレベーターに乗っているような感覚に近い。動いているような感覚だ。

そして、激音と共に浮遊感も消えた。

「もしかして、この教室は動いているのではないか?」

俺は考察した意見を述べた。

「わたくしもそう思いますわ。さっきの音といい」

クリーチャー女は意見をかぶせてきた。

「なるほど。動く教室か。なら初めの教室に戻ってきたことも辻褄が合うわね」

カエル女のくせに理解が早いようだ。ますます結婚詐欺師に近づいてきたな。

 俺は閃いた。

「あ!? そうか」

「なになに?」とメス犬たちがこちらを見つめてきた。

「五十音順だ。この部屋は。鬼はキ、死はシ、砂はサ、他はタだ」

 女たちは一同に頷いた。

「ああ。それはあるかも」

 俺は続けて、  

「つまり、ゴールの部屋は漢字が無いンだろうな」

 カエル女が、ケチをつけてきた。

「待って、んは一応漢字あるわよ。兎(変換できない)みたいやつ」

「そうか。だとすると、ヲだろうな」と俺。

「ヲは御があるんじゃないの?」とカエル女。

「いや、御はオのほうだろう」

「まあ、どっちでもいいわ」

 俺は一呼吸置いた。

 そこへスピーカーから音が聞こえてきた。

「やあ、またせたね。小野Gだよ」

「次のミッションはなんだ?」

「その前にロッカーを開けてくれないかい?」

「ああ。わかった。小野G」

 ロッカーを開ける。

「これは!?」

「見てのとおり水着さ。それもビキニ3着。女子の皆さんはこれを着てね。じゃあ」

「待ってよ!」とカエル女。

「……」

「しょうがない。ちょっとあんた覗かないでよ」

「覗くわけがなかろう。男裸ならともかく、女の体など見てもしょうがない。俺にとって女の体なんぞ重油やカーリンングの石なみに興味がない。そもそも意味もない」

 ロシアクリーチャー女が、

「カーリングの石ですか……でも殿方の前で着替えるのは恥ずかしいですわ」

「しょうがない」

 脱いだシャツを顔に巻いて、視界を隠した。

「これなら見えないだろう」

「まあ、それなら問題ないですわね」

 メスたちがおいそれと着替えを始めたようだ。そこそこ知能指数はあるようだな。

「まだか?」

 少し間があり、

「もうちょいよ」

 女の着替えは実に長い。やっぱ男のほうがいいな。男のモッコリこそが大正義だ。

「出来たわ」

 視界を遮っていた布を外した。

「どう? あたしたちの水着は?」

 俺は首を傾げた。

「どうと言われてもな。ただの布切れにしか思わんが、まあ似合ってるんじゃないか」

「あ、ありがと……」

 カエル女は顔を赤らめていた。脱皮だろうか。

 またスピーカーから音が聞こえてきた。

「またまた小野Gだよ。お、ビキニ祭りだね。なかなかいい景色だ。じゃあその姿でカズヤを中心におしくらまんじゅうでもしてもらおうかな」

「まて小野G。なんで俺がそんな目に合わないといけないのだ」

「ミッションだからね。じゃあ」

「まて」

 なんだこれは地獄か。水着の男たちにおしくらまんじゅうされるなら昇天ものだ。わが生涯に一片のくいなしだろう。しかし女となると俺にとってはスライムに引っ付かれるようなものだ。まったくうれしくもなんともない。スライムトリオと名付けてもいいな。

「恥かしいですけどやってみますわ」

「いいよ」

「まあ、出口のためね。今更だわ。しゃーない減るもんじゃないし」

 と女3人が言った。

「しょうがない。割り切ろう」

 スライムたちが体を押し付けてくる。妙に柔らかい感触が肌に当たった。

「いやん」とクリーチャー女。

 女たちは顔を赤らめている。滑稽だ。やっぱり男だ。男がいいに決まってる。ムチムチレスリングで早く口直しがしたい。

「やったぞ。小野G」

「おk。ミッションクリアだ。おめでとう」


つづく


 

以下 ネタバレ (オチ候補)








オチ候補その1 未定

一番最初の教室のロッカーに24時間いるとロッカーが勝手に動き、出口に出る。

同性愛者ガチホモを直す施設だった。謎の大富豪の巨大個人施設。小野Gはただのバイト。

ただカズヤのホモは治らなかった


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