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 大きな木をくり抜いた建物の中にあるカフェでお茶をしていると、少し困ったことが起きた。

 一人の女性が店内に入ってきて、大きな声で騒ぎ始めたのだ。

 彼女は、羊の獣人だった。


 羊や鹿の獣人は、ツノのある者は優遇されるが、ツノがない者は役立たず扱いされるという変わった種族だ。騒いでいる獣人には、もちろんツノがない。

 人間の女性が「あの人、数年前にエルフの国へ連れてこられた花嫁よ」と、こっそり説明してくれた。


「嫌よぉ、許さない! 私はエルフなんかと結婚しないんだから! またエルフの花嫁ごっこに付き合わされるなんてウンザリだわ!」


 マルとサラミは、怯えて顔面を引きつらせながら女性を見る。

 彼女は「また」と口にしたので、今まで結婚しなかったのだろうと察せられた。


 獣人や人間の女性は、祭でエルフとの結婚を拒否すると次の年に回されるらしい。

 つまり、また祭の期間をエルフと過ごし、最終日に結婚するか否かの結論を出さなければならないのだ。それを、結婚できるまで延々と繰り返させられる。

 エルフたちは概ね親切だが、この制度に関しては複雑な思いを抱いてしまうマルだった。


(……結婚を拒み続けたら、一生祭に参加させられるということだよね?)


 それは、かなり嫌である。

 だが、エルフに比べて女性の数は数ない。

 年を取ってからでも、需要があるのかもしれなかった。


「あなたたちも、エルフなんかに気を許しちゃダメよ! 不気味な魔法を使う連中なのだから、信用できないわ!」


 羊獣人の女性が、大きく目を見開いてマルとサラミを見た。瞳孔が縦に裂けた目が、爛々と黄色く輝いている。

 マルとサラミは、何も言うことができなかった。

 エルフについて、まだ判断できかねているのが現状だ。一方的な話だけで、白黒はっきり決めるわけにはいかない。


 それを「二人が自分の意見を拒んだ」と勘違いしたのか、羊獣人が大きな声で叫びながらマルたちの方へ走って来た。ものすごい速度の突進である。

 兎獣人と雌牛獣人は、それぞれ人間の女性を連れて避難し、サラミもその場を離れて壁際に隠れ、マルもチョロチョロと店内を走り回って逃げた。


「裏切り者め! 獣人のくせに、裏切り者め!」


 目を血走らせた女性が、椅子を引っ掴んで振り回している。

 家畜小屋行きにされた獣人とはいえ、羊なので割と力が強いのだ。


 店員たちが、羊獣人の女性を止めようとしている。

 この国では、エルフが中心となって働いているが、女性も希望すれば働くことができる。

 カフェには、男女半々の割合で店員がいた。


 男性店員のエルフは、魔法を放つかどうか迷っているみたいだった。

 近くに来た兎獣人の説明によると、「一応女性相手なので、手荒な真似をしたくない」とのことである。


 ハラハラしながら様子を見守っていると、羊獣人が持ち上げて振り回していた椅子が、勢い余ってマルの方へ飛んで来た。


「……!!」


 急な出来事だったので、とっさに避けることができずにマルは目を瞑る。

 ……しかし、いくら待っても衝撃は来なかった。

 ゆっくり瞼を上げると、目の前に銀色に輝く髪と、新緑のような瞳が見える。


「……あれ、どうして? なんで、あなたがここにいるの?」

「よかった。椅子が君に当たらなくて」


 椅子からマルをかばうように、すぐ傍でエイデンが膝をついていた。


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