6
「ここは、エルフの国の中心にある街よ。あなたたちを選んだエルフは、二人ともここの出身。結婚するとしても、大きな移動はしなくていいわ。私たちも同じ街に住んでいるから、困ったことがあれば言ってちょうだい」
兎の獣人が先頭に立って街を案内する。
「隣は野菜や果物が売っている店、向こうは肉を売っている店よ。その手前は魚介類を売っている店。この辺りは、海から離れているから、海産物の流通は少ないわね」
「そうなんだ……」
「そして、集会所の傍にあるこの大きな木の家は、街の病院……これからのお姫様の住処ね」
エイデンの家を指差した彼女は、説明を続ける。
「向こうにある大きな建物は、酒場。ここは、ライリー様の実家なの。すごいわよね、酒場の息子が、今やエルフの国をまとめる代表なのだから」
途中、雌牛の獣人が「小腹が空いたのでカフェに寄りたい」と言い出したことで、全員でお茶する流れになった。
そこで予期しない恋愛トークが始まる。
兎の獣人が、急に旦那自慢を始めたのだ。
「……でね、そういうわけで、私の旦那はとっても優しいの!」
兎の獣人が、元気よく惚気た。雌牛の獣人も、自分の旦那自慢を始める。
「私の主人も優しいわよ。それにとっても力持ちで、可愛いの」
人間たちも、遠慮がちに夫となったエルフのことを話し始めた。
「私の旦那様も優しいです。というか、エルフは皆優しいですよね。女性が少ないから、国が女性に親切ですし」
「ええ、私の夫も優しい。家族を、とても大事にしてくれるわ……今は、幸せ」
そうして、彼女たちは旦那自慢から一転、マルたちの近況に興味を示し始めた。
「ねえ、あなたたちの旦那はどうなのよ。あ、旦那候補か」
「えっ……!?」
「よほどのことがない限り、祭り最終日で破局することはないし。上手くいっているの?」
「上手くいくも何も、昨日出会ったばかりなのに」
聞かれて慌てるマルとは対照的に、サラミは落ち着いている。
「ええ、ライリー様は、とても優しい方だったわ。今日だって、こうして気を遣ってくださって。私をきちんと一人の獣人として見てくれた。マルちゃんだって、エイデンさんは親切だったでしょう?」
「……うん。ちょっと変わっていると思うけれど、優しかったよ」
とはいえ、戸惑うことの方が多いのだが……
(いつか、彼女たちみたいになれるのかな?)
与えられる優しさを疑うことなく受け取る行為は、まだマルには難しかった。
二人の報告に、女性たちは「キャア」と嬉しそうに声をあげて盛り上がる。
獣人の国で、家畜小屋の住人たちは恋愛どころではなかった。
だから、こういう話をするのは、とても新鮮だ。
「ねえ、こうして出会ったのも何かの縁だし、仲良くしましょうね?」
兎の獣人が身を乗り出してそう言うと、マルとサラミは、少し照れつつも嬉しそうに頷いた。