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集会所に来ていたのは獣人だけではなかった。
途中から、おずおずと人間の女性たちも中へ入って来たのである。
彼女たちは、獣人の女性よりもやや緊張した面持ちで立っていた。
人間を見ることが初めてのマルは、注意深く彼女たちの様子を観察する。
「こちらのお二人は、昨年度に人間の国から来た花嫁ですよ。この国では、エルフと人間と獣人が、それぞれ仲良く暮らしています」
横から、エイデンが説明してくれた。
このエルフの国では、獣人と人間が一年交代で生贄としてやってくるのだ。
エイデンの言葉にサラミが反応する。
「あの、三つの種族が一緒に暮らしていて、問題は起きないのですか?」
「うーん……今のところ、特に大きな問題は起きていないですね。獣人が獣型になった時に、周囲がびっくりするくらいで……」
獣人は、人型と獣型の両方の姿を取ることができる。
とはいえ、普段は人型でいることが多く、獣型は信頼する相手にしか見せない。
マルの獣姿は、生まれた時に周囲にいた者以外、まだ誰にも見せたことがない。
ハムスターは、獣人、エルフ、魔族に比べて最弱と言われている人間よりも、さらに弱い生き物だ。
万が一、誤って踏みつぶされたら、たまったものではない。
エイデンが期待を込めた目でこちらを見ているような気がしたが、マルはハムスター姿なんぞになる気はなかった。
「この国のエルフは全員、人間や獣人と結婚できるの?」
マルも、ついでに質問する。
「全員ではないですよ? 女性の数は少ないですので。十八歳になった者で、かつエルフの国で行われる大々的な抽選に通った者だけです」
「エイデンは、抽選に通ったの?」
「はい、今回の抽選に通りました。僕は元々、獣人のお嫁さんが欲しかったので嬉しかったです。とはいえ、祭りの最終日に相手と結ばれなければ、一生独身確定なんですけど」
「……え、どういうこと?」
「抽選に通るのは、一生に一度。一度花嫁を迎えることに失敗したエルフは、後がありません。失敗したエルフの挽回よりも、新たな別のエルフを抽選に当選させる方が重要ですからね……だから、皆必死なのです」
にっこりと微笑んでこちらを見るエイデンが、何故か屈強な肉食獣人よりも恐ろしく思えた。
怯えるマルに気づいたのか……人間の女性が会話に割り込んだ。
「あの、私たちも今は幸せなのですよ。人間の国では、罪人や貧しくて売られた者がエルフの国へ嫁ぎます。ですが、ここの方は私たちに親切に接してくれました。結婚相手だけではなく、関係ない人も優しいです」
彼女たちも、エルフに好意的な様子だ。
「女性陣だけで、近くを散歩してきますか? これから、ここで暮らすことになりますので……食べ物や日用品を買う店、各施設なんかを教えてもらうといいですよ」
「う、うん……そうする」
この「獣人と人間の女性にマルたちを預ける」という選択が、連れてこられたばかりの二人を気遣っているように感じられる。
マルとサラミは、ありがたくエイデンの好意を受けることにした。
強引に獣人を持ち帰った彼らだが、マルたちにかなり気を遣っている。