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「マルが、何者かに連れ去られました……!」
夜中にライリーの部屋を訪れたエイデンは、開口一番にそう叫んだ。
「落ち着け、エイデン」
「事前に、マル自身に魔法をかけておいたのです……もし、彼女に何かあれば、僕に知らせが来るようにと」
「おそらく、この城の連中だろうな」
「そう思います。僕とライリーの部屋は隣同士ですが、マルの部屋はここから少し距離がある」
城の者たちは、何があってもマルを取り戻したいようだ。
手段が、なりふり構わなくなってきている。
「とにかく、彼女を追います。魔法で、マルの居場所はわかりますから」
「ああ、急ごう」
エイデンとライリーは部屋を抜け出し、真夜中の城の中を駆け出した。
※
その頃、マルは地下牢に閉じ込められていた。
一応、王族や貴族が入れられる牢屋を用意されている。
季節は初夏だが、真っ暗な地下牢の中は寒く、寝間着のまま放り込まれるのはキツかった。
地下牢の格子は頑丈で網目状になっており、壊すことは難しいだろう。
だが、この牢屋は王族や貴族……つまり体が大きくて強い獣人を対象にしたものだ。
小さく弱いハムスターは、もちろん対象ではない。
(ずさんだな。上部に隙間が空いているよ……)
早速ハムスター姿になったマルは、網の目状の格子を登り始めた。
隙間は高い場所にあり、落ちればハムスター姿のマルの命はない。
けれど、マルは、なんとしても脱走したかった。エイデンに会いたかった。
彼は、マルのことを本当に大切にしてくれる。
獣人国からの使者にマルを返却するように言われても、頑なに拒否してくれた。
複雑な生い立ちが判明しても自分を見捨てず、厄介ごとまで引き受けてくれる。
(私、エイデンが好き。彼と一緒に、エルフの国で生きていきたい)
心はもう決まっていた。
まだ、彼に自分の気持ちを告げていないけれど、きちんと伝えたい。
(そのためには、こんな場所で捕まるわけにはいかない)
格子の最上部まで登りきり、ゆっくりと方向転換して反対側に降りる。
時間をかけて、なんとか地面に降り立つことができたマルは、床の上を一直線に駆け出した。
小さなハムスター姿のまま、ひたすら地上を目指す。
しかし、しばらく進むと大きな鉄の扉が立ちはだかった。
ここを抜けると地上へ続く階段に出られるのだが、扉に隙間はなく鍵もかかっているようだ。
(他に抜け出せる場所はないし、なんとかして扉を突破しなきゃ……)
右往左往していると、不意に鍵が開く音がした。慌てて隅っこに避難する。
地下牢に入ってきたのは、狼の獣人たちだった。




