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第15話 男冒険者達

 3人の男冒険者の助太刀をした俺は、後衛を襲おうとしたワイバーンの噛みつき攻撃を、剣で受け止めた。

 そこまで重い一撃ではない。しかし、虚勢を張るようなワイバーンの威圧感は、少しこちらの腰を引かせるレベルだ。黒くてごつごつした顔もいかつい。


「助かる。オレ一人じゃ前衛がキツかったんだ」

 前衛を張っていた軽装の鎧の男が息を整えながら言った。治癒術じゃ体力は回復できないようだ。

「ええ。まあ、これぐらいなら!」

 語尾を強めると同時に、俺はワイバーンの口を剣で払って押しのけた。

 ワイバーンは身を翻しながら、翼をはためかせて態勢を整えた。


「怪我をしたら言ってください。すぐに治療します」

 後ろの白ローブの男が言った。

「とりあえず、俺が盾になる。その隙に一撃を食らわせてくれ」

 鎧の男が俺に言った。

「僕の攻撃術で援護するよ」

 後衛の帽子の男がそう言った。



 まず鎧の男はワイバーンの注意を引き付けるように、剣を前に空振りする。

 モンスターは基本的に、賢くはない。ワイバーンは鎧の牽制を攻撃の前触れと受け取ったらしい。

 奴は空中から翼を折りたたんで、鎧の男のほうへ頭から突進した。

 鎧はその攻撃を、左手の盾でなんとか受け止める。

 どうやらワイバーンの一撃は重かったようだ。受け止めた後、鎧は弾くことも出来ずに一瞬止まった。


 俺はその間にワイバーンの背中へと回る。

 全長にしても人間2、3人分の身長のワイバーンの背に回るのは、それだけで一苦労を要する。


 鎧の男に攻撃を止められたワイバーンは足を地面につけて頭を盾から戻した。

 注意を引き付けるため、攻撃に移ろうとした鎧。しかし、それに至る前にワイバーンの翼が鎧の体を襲った。

 そのまま鎧の男は地面を転がっていった。白ローブはそちらへ駆け寄ろうと走り出す。


 ――マズい。

 背後に回りこむ前に、鎧がいなくなってしまった。一旦鎧の回復のために守りに戻ろうかと思った。

 その時だった。黒い球体のようなものが宙を泳ぎ、ワイバーンの顔面を襲った。

 少しワイバーンが地面に足を付けたままよろめいた。


「今だ!」

 帽子の男の魔術だったらしい。空に向かって杖を突き出していた。


 ワイバーンに出来た、その一瞬の隙で十分だった。

 すでに背後に回りこんでいた俺は、大きくジャンプする――そのまま、ワイバーンの背中に剣を突き立てた。奴の骨を抉ったような、硬い感触がした。

 そのまま俺は2度、3度、4度、5度、何度も何度も背中に剣を突き刺した。

「グォオォオオ……」

 俺の体がワイバーンの傷から吹き出てきた黒い液体に少し濡れ始めてきたころだった。

 ワイバーンが声を上げながら大きく体勢を崩した。

 俺はその瞬間に、ワイバーンの体を蹴って地面に降りた。

 そのままワイバーンは地に突っ伏し、動かなくなった。


「ふぅ……」

 俺は顔に張り付いた黒い液体を拭った。少し臭くて嫌だった。


「助かったよ。本当に」

 鎧の男が手を差し出して握手を求めてくる。特に拒否する理由もないので、俺はその握手に応じた。

「あのまま前衛が1人だったら、ジリ貧で敗走してたかもしれません。感謝しなければなりませんね」

 少し遅れて白ローブがやってきた。


「でも、俺もさっきは助かったよ。魔術がなければあいつを倒せなかった」

 俺は黒い帽子を被った魔術師に言った。

「ははは。僕の魔術でも役に立てたなら良かったよ」

 帽子の男はニコりと笑って、

「君、もしよければ名前を教えてくれないかい? 腕もよかったし、名前を聞いたことがあるかもしれない」と付け足した。

「……っと、ルークリッドだ。呼ぶときはルーって呼んでくれ」

 最初からルーと名乗ろうかと思ったが、帽子の質問に答えには一応しっかり答えておこうと思った。


「ルー……クリッド。……もしかしたら、アークで聞いたことがあるかもしれない」

 アークというのは、俺が当初行くつもりの街の名前だった。この霊山から、森よりも更に南東に向かった場所にある。

 俺の名前を聞いたことがある? 本当に、そうなのだろうか。アークの街に行った経験はない。

 その上、俺は冒険者としては見習いの見習いだ。


 帽子の男はあごに指を据えて考えていた。でも、「やっぱりわからない。ごめんね」と漏らした。


 話の流れを切るように、鎧の男は言った。

「で、でさ。ルーだっけ。もしもお前は良ければなんだけど、俺達と一緒にこの山を登らないか? 

 またモンスターに出会ったとき、こっちも助かるし。

 そっちは1人だろ。俺達と一緒にいた方が戦闘面でも都合がいいと思うんだ」

「あー、うん……それは」

 俺は少し苦笑いをしてしまう。彼らと一緒に行くことはできなかった。

 ふと、俺は茜とラーニャが隠れているはずの岩の方を見た。

 彼女達は顔こそ出していなかったが、茜の少し尖ったように伸びていた尻尾が出ていた。


「その前にさ、君らはなんでこの山を登ってるんだ?」

 俺は尋ねた。この霊山に登る、なんて、普通は避けるべき行動だった。

「ついこの間、神竜が出たっていう目撃情報が出たんだよ。しかも、このあたりの草原一面を何か巡るように飛んでいたらしい。

 それで、俺らは竜退治に来た……ってわけなんだけど。さっきの小さな竜との戦いですらキツかったし、神竜を退治するなんて夢のまた夢だな」

 鎧の男はしゃべりたがりならしい。一回一回の語りが少し長い。

 彼らは神竜と呼んでいるが、それは恐らく俺とラーニャが指す竜に当たるのだろう。

 この山が霊山と呼ばれているのにもそういう部分に理由があった。竜は一部の人間にとっては、神のような存在になっている。


「ん? じゃ、結局山から下りるのか?」

「いや……ここまで来たからには、神竜を一目見るだけでもしようって話は、街でしてたんだ」

「なるほど。そういうことか。……俺は一緒に行けないな、それじゃ」

 まあ、それとは関係ない理由だが。

「なんでだ?」

「単純に、目的が違うからだよ。俺はここに武器の素材があるって噂だから来たんだ」

 とりあえず、適当に理由をでっちあげることにした。


「そうなんですか? そんな話、聞いたことはないですが……」

 白ローブの男が首を傾げる。どうやらそういう噂は実際にはなかったらしい。

「ああ。俺、ちょっと武器屋とかそういう素材に詳しい知り合いが多いんだ。それで、誰にも知らない情報として聞いたんだ。あ、素材の名前とか聞かないでくれよ。奴とは独占契約を結んでるんだ」

 適当に語ったらそれっぽい理由になった。少し踏み込まれたら中身スカスカな嘘だったが。

「そっか。それじゃ仕方ないね」

 帽子は「残念」と付け足した。


 その後、俺は彼らが山を登っていく背中を眺めていた。ちょうど3人の背中が見えなくなったころに、後ろから声をかけられた。


「あいつら、無礼。火で燃やして退治してやろうかな」

「竜が言うと、とてつもなく物騒だからやめなさい」

 その後、あの男達に怒ったラーニャをなだめるのは大変だった。

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