第13話 襲われたとか、襲ったとか。 ※ほぼ閑話
嵐のような風呂が終わったあと、小康状態のような食事タイムが俺を待っていた。
俺は現在、宿屋に併設された酒場のカウンターで、遅すぎる夕食を食べている。
米と小さくて丸い何かの実を一緒に炒めたものを食べていた。
少し夕食としてはしょぼい気がするが、残りもので安くご飯を作ってくれるということで、ありがたくいただいていた。
この実がとてもスパイシーで、炒めた米とよく絡んでいて美味しい。ちょっと辛いのはネックだが。
料理人はカーラさん。
宿屋の営業時間内はぐうたらしているみたいだが、酒場の営業時間になると、テキパキと働いているらしい。
そんなカーラさんはちょうどカウンターの向こう側のキッチンから、こちらへ顔を覗かせていた。
近くからなせいか、一段とカーラさんの顔が整っているように見えた。ちょっと緊張する。
もう酒場の営業時間は終わっているらしい。
宿屋と併設していることを考えて、早めに閉めることにしているそうだ。
「それで、どうしてあの娘達とこんなに離れて座ってるの?」
俺の隣に腰を降ろしているクランさんが、尋ねてきた。
視線は遠く離れたテーブルで食事を取っている、2人の少女へと向いている。ラーニャと茜だった。
「半分ぐらいあんたのせいです」
俺はまだラーニャに変態扱いされたままだった。
俺が襲ったんだと思われていのだろうが、むしろ俺は襲われた側なのである。
「じゃあ半分は自分のせいということだね」
「前言撤回。全部あんたのせいです」
「いっそ潔いね」
うんうん。と、クランさんは頷く。
「潔い潔い」
キッチンのカーラさんも首を縦に振る。あんた何もわかってないだろ。
「あの時にあなたが犯した全ての罪は、この際流すとしましょう。なんであんな意図的な隠し事をしたんですか」
茜が風呂に入りに来たことなんて、クランさんとの会話の中で一言として触れられなかった。
茜は家の風呂が壊れたのだと言い張っていたが、その動機は怪しい限りである。
「ルーくん、男には戦わなければならないときがあるんだよ。そうだよね? カーラ」
「そうだぞ。クランはいつだって男らしいからな。クランの言葉はいつだって正しい」
カーラさん、あんたさっきからクランさんの言葉の肯定しかしてねえだろ。
あと、意外と喋り方男っぽいな。
口調もだけど、喋るとちょっと残念な人だ。
「とりあえず、クランさんが反省する気一切ないことはわかりました」
「いや、反省はしてるよ。ミュリエルさんのことは意図的にそうしたから反省しないけど、ラーニャ様の件は僕の確認ミスだ」
「変なところで潔いな……」
「ところで、この街って人間の方は少ないですよね」
出された料理を完食してから、俺はクランさんに尋ねた。
「そうだね」
「どうしてクランさんってこの街に来たんですか? もしかして、ずっとこの街で過ごしてきたとか?」
「いや、この街に生まれたとか、そういうんじゃないよ。
ここにいる純粋の人間は、みんな外の街から来たのが多いんだ。
僕がここに来た理由を話すとなると、カーラとの馴れ初めから話さなきゃいけないね。
あれは……そう、ちょうど時期としては3年前の今頃だったね。
僕が大陸の東端の森で冒険をしていたときだった。
当時の僕は尖っていてね。団体行動より自分ひとりでの行動が好きだったんだ。当然、冒険するのも一人。
一人さびしく冒険をしていた。その時、僕は出会ったんだ」
「おお」
なんだか興味深い。馴れ初めに、相応しい話になるのだろう。
「ちょうど発情期を迎えていたカーラに」
「ん?」
発情……ん?
「オーグ族は1年に数回、そういうのが来るんだ。ちょうど僕らが出会った時期がそうだったんだ。
それで僕は森でカーラに襲われて、逆レイ」
「ちょ、ちょっと待った。……あんたなんつー話しようとしてんですか!」
今プって続けるつもりだっただろ!
「え、だから馴れ初めを」
「誰がそんな赤裸々に語れって言いましたか!?」
俺はキッチンのほうにいるはずのカーラさんのほうへと目線をずらす。
カーラさんは顔を両手で覆っている。照れてるようにしか見えない。
カーラさんのほうから、小さな呟きが聞こえてきた。
「はずかしいから、やめろって。はずかしいから」
あんたはあんたで、もっとちゃんと突っ込めよ!
「それでめでたく、僕らはカーラの故郷でゴールインしたわけだね」
「あー、うん。そうですか」
つまりは風呂場で俺に同じ目を合わせようとしたんだな、この人。
「はぁ……」
いつもより2倍近く疲れた気がする。ベッドで爆睡したい気分だった。




