第001話 名古屋がまっキンキンだがや!
20XX年、バブル崩壊後の失われたウン十年に喘ぐ愛知県名古屋市で、名古屋城がまっキンキンに染まる事件が発生。
騒動の中現れた男は、かつての尾張藩主・徳川宗春を名乗る。
彼は、斬った物体を黄金に変え、斬られた者に「むだづきゃー」の心を呼び起こさせる魔剣・怒吝嗇斬を携えていた。
20XX年、愛知県名古屋市。
「尾張名古屋は城で持つ」と謳われた天下の名城・名古屋城が、突如金色に輝いた。
観光客や地元住民はどよめき立った。ある者は喜び、ある者は泣き叫び、ある者は頭を抱え、ある者は味噌カツを食べていた。
「なんじゃ、ありゃあ!?」
「まっキンキンだがや! この不景気によくやるがね!」
「イヤッハアアアアア! ザッツゴールデンキャッスル!!」
「そんな… 尾張徳川の名城がこんな悪趣味な色に…!」
「もぐもぐ… 三丁目の珈琲屋はつまみをケチっとるでいかんわ」
野次馬たちが見守る中、名古屋城のコンクリートはその材質を見失っていく。金の鯱、金の瓦、金の壁、金の石垣。堀にまで砂金が流れ出した。
「あらまあ、誰のいたずらだか知らないけど、こんなふうに日本の景気もよくならないものかしら…」
中年の女性は頬に手を当ててつぶやいたあと、自分の姿を見てひっくり返った。
「あらああああ! まあああああ!」
自分の服が、キンキラキンになっているのだ。目の前の名古屋城と同じように。
「がははははは! お前、なんだそりゃ!」彼女の夫らしき男性が、妻の姿を見て大笑いした。
「何言ってるの! あんた、自分の服見てみなさいよ!」妻が、夫の方を見て血相を変えた。
夫は、まだ薄ら笑いを浮かべながら、タバコに火をつけた。
「へへ、何慌ててんだ。俺の服はもっとシックな…うげええええ!」
妻のことを笑えない。夫は、自分の服も、彼女と同じ悪趣味なまっキンキンになっているのに気づいた。
思わずタバコを落としてしまった。それは地面に落ちるが早いか、純金のキセルへ変わっていく。
味噌カツを食べていた男は、その光景をぼーっと見ながら、3本目の味噌カツを口に押し込んだ。しかし4本目に手を伸ばしたところで、彼もまた、目の前の光景が他人事ではないことを知った。
「うぎゃあああ! 味噌カツがまっキンキンだがや!」
揚げ物の衣に対してきつね色だとか黄金色という形容がよく用いられるが、これは喩えではない。味噌ソースに、びっしりと金箔がこびりついているではないか。
「なんじゃあ! せっかくの味噌カツが台無しだぎゃ!」
しかし、もったいないので食べてみることにした。
「ま、死にゃあせんだろ…もぐもぐ…味はそんなに変わっとれせんがね…」
男は、何事もなかったかのように味噌カツを飲み込んだ。残った金色の串を、大事そうにお絞りで拭きながら。
名古屋城ばかりではない。大須観音も、熱田神宮も、名古屋の主要な建物はおしなべてまっキンキンになった。
Jリーグの試合が行われていた瑞穂スタジアムでは、ボールも選手のユニフォームも、サポーターのレプリカユニフォームも全て金色になってしまった。
誰がホームで、アウェイで、審判だかわからない。ゴールキーパーさえわからなくなり、審判がキーパーにハンドを取ってしまう。
ユニフォームの色で判別していたコンコース規制が意味をなさなくなり、サポーター同士で喧嘩が始まってしまった。
ナゴヤドームにいた中日ドラゴンズも、青いユニフォームがまっキンキンになってしまった。ビジターの阪神タイガースは、縁起がいいと大喜びしていたようである。
大須通商店街の売り物も、金一色に塗り替わった。
白と黒のシックなゴシックロリィタを売っている店は、売り物が全部金色になってしまい、頭を抱えた。
おばちゃん服を売っていた婦人洋品店は、売り物をどぎつい赤だの青だのピンクから、どぎつい金色に変えられてしまった。つまり、大して変わりはなかったので、誰も気にしなかった。
名古屋ういろうは、白・黒・抹茶・あずき・コーヒー・ゆず・さくらのラインナップが、金・金・金・金・金・金・金。
名古屋は、上を下への大騒ぎになった。尾張の終わりか、はたまた日本の中枢が名古屋に代わる日が来たか。
人々は、希望と不安を抱え、事件の発端である名古屋城天守閣を、ただ見つめていた。
***
すると、天空より何者かの声がした。
「おみゃーさんたち、何しとりゃーす!」
人々が声のする方を見上げると、金の鯱を、波止場の船乗りのように踏みつけて立っている男がいた。
時代劇の傾奇者のような服をまとい、腕組みをし、金色の味噌カツの串を咥え、斜に構えてふんぞり返っている。
群衆の一人が、怒鳴り返した。
「何しとりゃーすはおみゃーの方だがや! 名古屋をこんなまっキンキンにしたのは、おみゃーか!?」
「その通り」
天守閣の男はほくそ笑むと、屋根伝いにひらひらと飛び降りた。
男は、先ほど怒鳴り返した男の目の前に降り立ち、居丈高に答えた。
「わしのいん間に、天下の名古屋城があんなに安っぽくなっとるから、直してやっただけだぎゃ」
「安っぽい?」怒鳴り返した方の男は、眉間にしわを寄せた。
「名古屋城のどこが安っぽいっていうんだぎゃ!」
「はっ! そんなこともわからんとは、名古屋も地に落ちたもんだで」
天守閣の男は、群衆の方を向き、呆れ返ったという態度を隠さずに話し始めた。
「ええか、この時代の名古屋城は、"こんくりーと"でできたハリボテだがや! 尾張名古屋は城で持つっちゅうのに、味も素っ気もない外ヅラだけの天守をこしらえよって! それですら、こんなオンボロになっても建て直しもせず、そのまんまとはどういう了見だぎゃ!」
言いたい放題の傾奇者に、群衆もいきり立ち、猛烈に反論した。
「うるせー! お前なんかに何がわかる!」
「もとの名古屋城は、戦災で焼けたっちゅうことも知らんのきゃ!」
「大体、お前誰だよ! 知ったような口きいて、肝心なことは何も知らねーじゃねーか!」
「わしか」
男は、再びにやりと笑うと、金の味噌カツ串を吐き捨て、先ほど屋根から降りてきたのを逆回しにしたかのように 、ひらりひらりと名古屋城の屋根を登っていった。
「おみゃーら! やっとかめだなも!」
男は仁王立ちになると、天も地も割れ砕けよとばかり、大音声をあげた。
「わしは! 尾張藩主! 徳川宗春だぎゃ!」
「とくがわ… むねはる?」
群衆の反応は、真っ二つに割れた。その名を知る者と、知らぬ者とで。
「徳川? 家ナントカじゃねーのかよ! 知らねえよそんなやつ!」
「将軍じゃにゃーのきゃ。テストに出もせんのに、いちいち覚えとれんわ」
「宗春って…時代劇で、よく賄賂や贅沢やって斬り殺されるやつだよね、えーと…吉宗に」
「確か、吉宗の倹約令に逆らって幽閉された、金遣いの荒い殿様だよな」
「こないだ社会科で習ったぎゃ。ムダヅカイしてばっかりいる殿様だったて」
地域教材で習ったという小学生から、年がら年中BSで時代劇を見ている老人まで。城下は大騒ぎになった。
「うるせゃあ! 少しは黙りゃあ!」徳川宗春を名乗る男は、一喝した。
「所々まちごうとるのはともかく、なんじゃ、吉宗、吉宗って! おみゃーら、ハチボク公方さんがそんなにええのか!」
群衆の声も、負けじと大きくなっていく。
「あったりみゃーだぎゃ! 吉宗言うたら、『むだづきゃー』のせいで傾きかけた幕府を立て直した、名君じゃにゃーきゃ!」
「おめえとは器が違うんだよ、この小悪党!」
「大体、お前ほんとに宗春かよ! 300年前の人間だぞ!」
宗春は、それらの罵倒に高笑いで応えた。
「ふふふ…はーっはっはっはっは! おみゃーさんたちは、揃いも揃ってケチがでゃあすきだなも!」
群衆の怒りは最高潮に達し、とうとう天守に向かって石を投げ出した。
「ふざけんなあああ! ケチで何が悪い!」
虚しいかな、石は最上階までは愚か、二階の屋根すら越えられない。石は黄金に変わりながら、放物線を描いて落ちていく。
「江戸時代の頭じゃわかんねえだろうけどなあ! 今の日本は"バブル"ってもんが崩壊して、何十年も不景気なんだよ!」
「使おうにも、使う金がねえんだ! 好きでケチやってんじゃねえ!」
「無駄遣いは敵だ! もちろんてめえもだ!」
人々は、石だけに飽き足らず、そこいらへんのものを手当たり次第にぶん投げだした。味噌カツの串、ひつまぶしのワッパ、味噌煮込みうどん、ドラゴンズの応援メガホン、ドアラのぬいぐるみに木彫のグランパスくん、名古屋ういろうにエビフリャー。
しかし、山本昌でもない市井の名古屋市民に、宗春を撃墜できるほどの強肩はいなかった。すべての投擲物は、遙か下方で宗春の目を賑やかす黄金の花火となるばかり。
「あー、こりゃー重症だがや… 自分が何をしとるのか、わかっとりゃーすのきゃ…」
宗春は頭を掻き、今度はひとっ飛びに地面に降り立った。
「あ! 降りてきやがった!」全員の視線が、宗春に突き刺さる。
「おみゃー! ええ度胸しとるがや!」豆菓子をつまみにコーヒーを飲んでいた男が、立ち上がった。
「これでも、くらえええええ!」
ひとつかみ、豆菓子を宗春に投げつけた。名古屋の珈琲屋では、節分と見まごうほど大量の豆菓子が、サービスでつくのである。
「ふひゃひゃひゃ! おみゃーでも知っとりゃーすだろ! 日本の伝統! "鬼は外"だぎゃ!」
しかし、豆は「鬼」の胸の先で、ぴたりと止まった。
「豆か。ありがとよ」宗春は眉毛ひとつ動かさない。「お返しの"福は内"だぎゃ!」
言うや否や、豆菓子は黄金に変わり、元来た方向へ雨あられと降り注いだ。
豆菓子を投げた男は、黄金の弾丸を雨あられと浴びせられ、仰向けにひっくり返った。
宗春は、倒れた男を一瞥すると、再度群衆に向き直った。
「さあ、今度は誰が相手してくれるんだぎゃ?」
今度は、誰も答えない。代わりに、どこからかどんぶり鉢が飛んできた。
「せゃあ!」
宗春は飛んできたどんぶり鉢を叩き落とす。見事な瀬戸焼のそれは真っ二つになり、切り口から黄金へと変わっていった。
その切り口は、刀で斬ったように真っ二つだった。いや、彼は、本当に日本刀で叩き斬ったのである。
「泰平の世の生まれとはいえ、わしも侍だがや! こんなもん斬るぐらい、お茶の子さいさいだがね!」
どんぶり鉢を投げつけたのは、彼の背後にいたおっさんだった。かれは、その姿勢のまま硬直し、震えていた。
「なんで… なんで真剣なんて持ってるんだぎゃ…」
その目は、宗春の手にある一振りの日本刀を見ていた。その色は、現在の周りの風景と同じく、鮮やかな黄金色。
「ひぃ…命ばかりは…おたすけえええええ!」
得体のしれない武器を持っていると知るや、群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「どわあああ! どえりゃーおそぎゃーことになってまったがやー!」
「ありゃーほんまもんのアレだぎゃ! 死ぬ! 殺される!」
「安心せゃあ! この『怒吝嗇斬』は、人は斬らん」
そんな言葉、信じるものなどいるわけがない。名古屋城の全ての門は、脱出しようとする群衆で大混乱に陥った。そのさま、蜘蛛の糸を取り合う地獄の亡者の如し。
「人は斬らんが…心はぶった斬る! せやああああ!」
宗春は、空中を袈裟に斬った。黄金の衝撃波が発生し、大須通の方に逃げていった群衆をなぎ払う。
「ぎゃああああ! 斬られたがやああああ!」
衝撃波が直撃したおばちゃんは、大げさに痛がるしぐさをしたが、すぐに我に返った。
「…あれ? 何ともねゃあ」持ち物こそすべて金に変わってしまったが、全く痛みを感じない。
同様に衝撃波を受けた者も、痛くも痒くもない事に驚いていた。しかし、別の異変に気づくのに、そう時間はかからなかった。
「う…ああううう…・」
先ほどのおばちゃんは、斬られた痛みと無関係のうめき声をあげた。
「おかね…おかねええええ!」
唐突に叫び声を上げると、目の前の商店街に向かって奮然と走りだした。同様の理由で悶えている通行人を跳ね飛ばし、冒頭に登場したおばちゃん服の洋品店に飛び込んだ。
「はい、いらっしゃいませ…って、なんでゃあ! そんなに血相変えて!」
店の女主人は、とてつもない形相で叫ぶおばちゃんを見て腰を抜かした。
「おばちゃん! ここの店のもん…右から左までぜんぶよこすぎゃあああ!」
「うわあああああ! 持って行ってくださいいいいい! 命ばかりはお助けをおおおおお!」
女主人は縮み上がった。この店、強盗に入られるのも初めてだが、おばちゃんの強盗なんてニュースでも見たことがなかった。
「違う! ここのもん、全部売ってちょーって言うとるんだがや!」
「はい? えーとととと、ということは、おおおお客様ですか?」
「そうだぎゃ! はよしてちょ! お金使いたくてしょうがないんだがや!」
女主人は、混乱しすぎて事態が飲み込めなかった。考えてみれば、強盗にしては格好があまりに普通のおばちゃんだし、手には何の凶器も握られていない。
彼女が握っていたのは、クレジットカードだった。女主人は、彼女が奪いに来たのではなく、買いに来たのだと気づき、努めて普通に接客しようとした。
「いいい色はすべてまっキンキンですが、よよよよろしいでしょうか…」
「なんでもいいぎゃあああ! おかね使わせろおおおお!」
「わかりましたああああ!」
店主は、震える手ですべての商品を棚から下ろし、ハンガーから外し、マネキンからひっぺがした。なるべく迅速に電卓を叩くものの、客が早くしろと喚き立てる。
「お値段しめて…90万9800円…ぐらいになります! 計算間違ってるかもしんないけどおまけだぎゃ! もってけドロボーありがとうございました!」
店主のおばちゃんは、クレジットカードの手続きをすると、すべての商品をダンボールに詰め、台車に乗っけて引き渡した。客のおばちゃんは、高笑いをしながら台車を押し、店を出て行った。
「うふふふふ…『むだづきゃー』しちゃったで…うふふふふ…すっきりした…」
台車を貸し出すほど買う客なんて、この店始まって以来である。客が台車を返してくれるかどうか危ぶまれたが、返って来なくとも十分もとが取れる売上だった。
ゴスロリ屋の方も、状況は同じだった。
冒頭で、宗春にまっキンキンにされたロリィタ服。これでは売り物にならないとマネージャーが頭を抱えていた服が、飛ぶように売れていた。
「金はいくらでも出すがや! そいつを売りゃああ!」
「お客様、落ち着いてください! 順番守って!」
「うるせゃああ! そんなもん守ってたら、売り切れてまうがね!」
「お客様、この服はお客様には小さすぎると思うのですが、プレゼントですか?」
「使い道なんかどうでもええ! 欲しいもんは欲しいんだぎゃあ!」
店の売上こそかつてない数字を叩き出しているものの、店員たちの心境は複雑だった。買っていく客は、いつもの客層である若い女性も多かったが、かなりの割合で、先ほどのおばちゃん服洋品店の方が似合いそうな女性が交じっていた。
男も相当の割合で交じっている。たまに女装目的の客が来ることは来るが、今日の客はそうではない。太ったおっさんもヒゲのナイスミドルも、揃いも揃って「使い道なんか知らない」というばかり。
心血注いで作ったものを、使いもしない客に売るなんて。ましてや、異常事態で変な色になってしまったものを売るのなんて、彼女らのプロ意識が許さなかった。
それでも、売るしかない。こんなになってしまったものが売れる機会は、今をおいて他にないのだから。
宗春の一閃を受けた通行人は、金の亡者と化していた。
普通、「金の亡者」とは、金を溜め込んで離さない者のことだが、ここでは、真逆の意味だった。
目を赤く光らせ、クレジットカードや札ビラを振り回しながら、何に使うのかわからないものを、多すぎて使い切れないだろう量、買っていく。
やがて、大須通商店街から一切の売り物が消え失せた。
店という店はがらんどうとなり、代わりにレジの中に、収まりきらないほどの札ビラが突っ込まれていた。
経営者たちは、おしなべて呆然と立ちつくした。小売店はすべて臨時休業である。次に問屋さんが来るまで、店は開けられないだろう。
「どえりゃーことだがや… こんなに売れたの、見たことにゃーでよ…」
「ありがてゃーけど、お客さん、あんなにいっぺゃー食いきれりゃーすかのー…」
八百屋と魚屋が顔を見合わせている。久々の「商売繁盛」は、自分たちが思い描いていたのとは全くの別物で、後味の悪さが残った。
閑散とした商店街に、騒動の張本人・徳川宗春が姿を現した。
「おう、おみゃーら! 商売繁盛だったみてゃーだなも! どうでゃあ、怒吝嗇斬の力は!」
しかし、宗春を見る人々の視線は、複雑だった。少なくとも、彼が予想していたようなものではなかった。
「なあ、おみゃーさんよ…こんなに、素直に喜べにゃー儲かり方したのは、初めてだぎゃ」
八百屋が、疲れきった表情で宗春を見やった。
「この不景気に、こんなにどえりゃー客を作ってくれたのは、とりあえず感謝するで。でもよ、わしらは、稼げりゃええっちゅうもんじゃねーでよ」
「そうだぎゃ。使いもせん、食いもせんもんを売りつけて、お客さんに『むだづきゃー』させるほど、わしらは腐ってにゃー」魚屋が同調する。
「悪いけど、おみゃーさんのやり方、好きになれんわ。そういうことは、どっか別のところでやっとくりゃーす」
商店街の人々は、宗春に背を向けると、店内に引き上げ、片付けを始めた。
宗春は、しばし狐につままれたような顔で立ちすくんでいたが、やがて、高笑いをしだした。
「はっはっはっは! わし、どえりゃー嫌われもんになってまったぎゃー!」
商店街の冷たい視線を意にも介さず、宗春は悠然と歩き出した。
「嫌われるんは慣れとるがね! 閉じ込めんだけ、享保の世よりマシだぎゃー。しかし…」
宗春の表情が、真剣なものに変わった。振り返ると、まだ宵の口だというのに、商店街にはシャッターがかかっている。
「わしの膝元にまで、八木公方の呪いがあるてゃー、なさけにゃーのー。老いも若きも、使わん金をありがてゃー、ありがてゃーっちゅうとる。みんな、『むだづきゃー』の心を忘れてしもうたんかのー…」
宗春は、ブツブツ言いながら、名古屋城へと歩き出した。
***
一方その頃、都内某所。
とある料亭の秘密の部屋で、2人の男性が相談をしていた。
「上様、今期の『上米』にございます。全国200の小学校を統廃合し、教育費を200億円削減致しました」
「ご苦労。その方の『倹約』、見事である」
「ははっ!もったいないお言葉でございます。この調子で『ムダ』を削減すれば、国庫は金であふれまする」
「うむ、そうすれば、実現も近いのう…」
呼ばれた男は猪口をあおりながら、ほくそ笑んだ。
「江戸幕府、復活の時が!」
(つづく)