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第241話「セシルとラフィリアの修業の秘密と、謎の都市調査計画」

 そんなこんなで、セシルとレティシアが落ち着いたあと──


「改めて、久しぶり。セシル、ラフィリア」


「はい! ナギさま。会いたかったです!」


「やっぱりマスターのお隣が、一番安心するですよ」


 僕はセシルとラフィリアの頭をなでた。


 セシルは気持ちよさそうに目を閉じて、ラフィリアは子犬みたいに、こくこく、とうなずいてる。


 ふたりの髪に触れるのは久しぶりで、なんだか僕もうれしくなる。


「聖女さまも、改めて、セシルとラフィリアを預かってくれて、ありがとうございました」


「お世話になりました。聖女デリリラさま」「ですぅ」


「セシルくんもラフィリアくんも、修業によくついてきてくれたね」


 空中で、えっへん、と胸を張る聖女さま。


「ちなみに、どんな修業だったんですか?」


「魔力の強化や、魔力の操作能力を上げるためのものだよ。最初に集中力をきたえてから魔力を操作して、身体の中をめぐらせるんだ。そうすることで、魔力を集中、強化できるようになるんだよ」


「……大変な修業でした」


「……あたしも、色々失敗してしまったのですよ」


「すごいな……セシルもラフィリアも、聖女さまも」


「がんばったのね。セシルちゃん、ラフィリア」


「おふたりがパワーアップしたのも当然ですわね……」


 セシルは──見た目は成長してないけど、魔力はかなり増えたらしい。しかも、魔力で使い魔を作り出せるようになったみたいだ。


 ラフィリアは、一時的に魔力と感覚を増幅できるようになってる。さらに感覚を広げて、ゴーレムを操ったりもできるそうだ。


 一体、どんな修業をしたんだろう。


「その修業って、僕にもできるものですか?」


「難しいね。セシルくんとラフィリアくんのために考えた修業だからね」


 おごそかな口調で、聖女さまは言った。


 僕とリタとレティシアは、ごくり、と息をのむ。


 一体、どんな修業だったんだろう。



「第1の修業は『ナギくんの(・・・・・)ことを(・・・)考えずに(・・・・)、2時間、薬草の調合を行う』だったね」



 ……はい?


「ナギくんのことを考えると、ぼんっ、って、調合鍋のなかの水分が蒸発するようにしたんだ。でも、ふたりとも、さすがにこの課題は無理だったんだよね」


「……はい。すぐに蒸発しちゃいました」


「……あたしには不可能だったったのですぅ」


 セシルとラフィリアは、がっくりとうなだれた。


 ……うん。そうだろうね。


「なにかを『考えないよう(・・・・・・)にする(・・・)』って難しいですからね」


「うん。デリリラさんも、後でそれに気づいたんだ」


 聖女さまは、むむぅ、ってうなってる。


「思い出してみると、デリリラさんも聖女時代に『徹夜(てつや)で祈りを捧げろって命令してくる貴族』のことを考えないようにして、逆に一晩眠れなかったことがあったからね……」


「聖女さまも苦労したんですね……」


「逆に『その貴族をぶちのめすイメージ』に集中して、アンデッドに神聖力をぶつけたら、すごく効果があって、高位の神聖術『大神罰グランド・パニッシュメント』に覚醒したんだけどね」


「嫌な覚醒の仕方ですね!?」


「それを思い出したデリリラさんは、ふたりに『ナギくんのことだけ考えながら、2時間、薬草の調合を行う』って課題を出したんだけどね」


「『ぶちのめす』は入れてないですよね?」


「するわけないだろ。そんなことしたらセシルくんの『古代語魔法』が飛んでくるよ……」


 聖女さまの言葉に、セシルは、こくこく、とうなずいてる。


 まぁ、そうだよね。聖女さまがそんな課題を出すわけないもんな。


 ……万が一出してたら、この洞窟は跡形もなく吹っ飛んでるだろうし。


「ふたりがそれをクリアしたあとで、今度は別の課題を出したんだよ」


「どんな課題ですか?」


「『ナギくんを自由にすることだけ考えながら』2時間、薬草の調合をする、だよ!」


「たいして変わってませんよ聖女さま!?」


「でも、それはうまくいかなかったんだよ」


「……」「……ですです」


 セシルは真っ赤になって、ラフィリアは真面目な顔でうなずいてる。


 ふたりが僕を『自由にするところ』か──興味はあるけど、難しいよね。特にセシルは。


「でも、そんなことではデリリラさんはめげないよ! 次の課題は大成功だったから」


 びしり、と、宙を指さして決めポーズを取る聖女さま。



「次は、『ナギくんに自由にされることだけ考えながら』6時間、薬草の調合をしてもらったんだ! こっちは大成功だったよ!!」



「時間が3倍に伸びちゃってますけど!?」


「しょうがないじゃないか。ふたりともイメージに没頭して、戻ってこなかったんだから」


「「「……なるほど」」」


 僕とリタ、レティシアはうなずいた。


 セシルはそのときのことを思い出したのか、顔を押さえて震えてる。


 ラフィリアは──なぜか、ぴくん、と身体を震わせてるね。


 どんなイメージを思い浮かべてたのか、あとでゆっくり聞いてみよう。事細かに。


「そんなわけで、ふたりともそれで集中力をつけて、その後は魔力操作の訓練に入ったんだよ。そうしてふたりともスキルに覚醒したんだ」


「修業方法には色々言いたいことはありますけど、ありがとうございました。聖女さま」


 やっぱり、聖女さまはすごいな。


 セシルとラフィリアの個性を理解して、ふたりにぴったりのやり方を考えてくれたんだから。


「それじゃセシル、ラフィリア、スキルの中身を見せてくれる?」


「……ど、どうぞ、ナギさま」


「見てくださいですぅ!」


 僕はセシルとラフィリアの胸に触れた。


 そうしてご主人様権限で、ふたりのスキルを開示する。




魔鳥作成(クリエイト・ウイング) LV4』


『魔力と(おもい)い』で『鳥の使い魔』を『作る』スキル


 セシル・ファロットの魔力と願い (常に(おも)っていることが反映される)で、鳥型の使い魔を作成する。使い魔は魔力で編み上げられ、一定のダメージを受けるか、役目を果たすと消滅する。


 使い魔はご主人様、およびご主人様が『魂約(エンゲージ)』『結魂(スピリットリンク)』している相手の居場所を察知することができる。セシルが居場所を知らなくても、使い魔は対象に向かって飛んでいく。


 使い魔は小さな荷物やメッセージを届けることができる。


 ただし、メッセージは「その時セシルが強く(おも)っていること」が反映されるため、制御できないこともある。あぶない。





 これが、セシルの新しいスキルか。


 使い魔を僕や、僕が『魂約』『結魂』してる人に飛ばすことができるみたいだ。


 すごく便利だ。しかも、相手の居場所がわからなくても使えるのはいいな。


意識共有(マインドリンケージ)』系のスキルは距離と使用人数に制限があるからね。


 


 ところで、さっきダンジョンでセシルは、このスキルを使ったって言ってたよね。


 で、レティシアが真っ赤になってた。


 ……なにが起きたのか、わかったような気がする。うん。




瞬間強化(しゅんかんきょうか) LV5』


『魔力と感覚と意識』を『広げて』『共有する』スキル




 ラフィリア=グレイスの魔力と感覚をLV(かける)1分の間、拡大する。


 その間、魔力は強化され、広げた意識や感覚を他の物に付加することができる。


 たとえばゴーレムに意識・感覚を付加すると、そのゴーレムはラフィリア本人と同じように動けるようになる。触覚・味覚・視覚などを共有できる。さらに感覚が鋭敏 (10倍)になるため、遠くの音や、気配なども感じ取ることが可能 (反応できるとは言っていない)。


 無機物などにも付与できるため、例えば、石にラフィリアの感覚を与えて扉の向こうに投げれば、離れた先のできごとをありありと知ることができる。


 弱点は、付与した感覚がラフィリアに伝わってしまうこと。


 先のゴーレム戦で、もしも分身リタにゴーレム4体がくすぐられたりしていたら、感度40倍でくすぐりが襲ってきていた。


 なお、枕や毛布にも感覚付与できるので、ナギの毛布に付与することで「ナギを包み込む感覚」などを楽しむこともできる。ただし、その状態で「再構築」したら、とんでもなく強い刺激が襲ってくるので注意。ただでさえ感度10倍なので。




 ラフィリアのスキルも便利だけど……使い方が難しいな。


 魔力と感度が上がるスキルだからなぁ。確かに魔法は強くなるんだけど、感覚も敏感になっちゃうし。その状態で戦わせるわけにはいかないよなぁ。


 その状態でセシルのときみたいに『魔力合体』したらどうなるんだろう。


 超絶強力な魔力が使えるだろうけど……感覚が10倍になるから……。


 ……そのうち実験してみよう。


 とりあえず、セシルとラフィリアのスキルは確認した。


 ふたりが成長したのもわかった。聖女さまに感謝しないと。


「セシルもラフィリアも、がんばったね。すごいよ」


「……でも、ナギさまに会えなくて……さびしかったです」


「あとで『マスター成分』を補給させてくださいです!」


「……う、うん。いいよ」


 僕はうなずいた。


「『忠誠暴走オーバー・ロイヤリティ』になると困るからね。家に戻ったら……って、あれ? セシル、どしたの!?」


「そ、そうですね。それに、ナギさまには、わたしの使い魔を見ていただきたいですから」


「使い魔を?」


「は、はい。メッセージを伝える実験を手伝っていただければ……」


「うん。もちろん」


「じゃ、じゃあ、使い魔にメッセージを託しますので、ナギさまには……その、メッセージの通りに、して……いただけると……」


「セシル!? どしたの! なんで真っ赤になってるの!」


「だ、大丈夫です。わたし、成長しましたから……がんばります」


 ぼっ、と、湯気を噴き出すみたいに、セシルが全身真っ赤になる。


 とりあえずスキル実験には手伝うこと。メッセージの通りに行動することを約束して──もちろん、ラフィリアのスキル実験にも付き合うことにして──



 


「それじゃ、僕たちが出会った事件について話すね」


 セシルを落ち着かせたあと、僕は説明をはじめた。


「メテカルでなにがあったか、聞いておいて欲しいんだ。セシルとラフィリアの意見も聞かせてくれるかな」


「はい。ナギさま」「うかがいたいです!」


「リタとレティシアは、話の中で足りない部分や間違ってるところがあったら教えて」


「りょーかい!」「承知しましたわ」


「聖女さまは、セシルたちと一緒に聞いてください。結構大きな事件があったので」


「わかったよ。まぁ、いまさらナギくんの話におどろいたりしないけどねっ!」


 聖女さまは腕組みして、ふっふーん、と鼻を鳴らした。


「ナギくんたちが世界の秘密と関わるのは初めてじゃないからね。デリリラさん、もう慣れちゃったもんね。びっくりさせようとしたって無駄だよーっ」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ」


「わかりました。で、これが人を魔王っぽく変えることができる『魔王のオーブ』です」


 僕は荷物から取り出した黒いオーブを、床の上に置いた。


「今はもう、人を魔王っぽくする能力はないですけど、本人の意思はまだ残ってます。あと、これには竜の魔力が使われていました。それを吸収することで、シロが宿った『やわらかゴーレムりとごん』の姿も変化しました」


『シロ、成長したかと!』


 小さな天竜の姿のシロが、荷物の中から飛び出した。


『でも、やわらかくて吸水能力があるのは変わってないよー! おとーさんのお風呂上がりに役に立つかと!』


「『魔王のオーブ』が作られたのは、西の方にある『魔法使いと錬金術師が集まる町』らしいです。そこには、他にも竜の魔力があるかもしれないので、行ってみようと思ってるんですけど、聖女さまの意見を──って、あれ?」


 聖女さま、なぜか遠い目をして壁の方を見てるね。


 どうしたんだろう。


 もしかして、『魔王のオーブ』に心当たりが──


「人生ってなんだろうね。ナギくん」


「いきなりどうしたんですか聖女さま」


「だってさー。デリリラさんの人生って、死んでからの方が事件が多いような気がするんだよね。特に、ナギくんが関係することで。特にナギくんが関係することで」


「なんで二回言ったんですか?」


「困ったなー。デリリラさん、どんどん現実の事件との繋がりが強くなっていくよ……。デリリラさんはもう死んでるんだよ? 現実に対して、願うことも望むこともほとんどないんだよ? デリリラさんが願うことといったら、ナギくんとセシルくんの子どもが生まれるのを見届けて、その子がデリリラさんの友だち──アリスティアとどれくらい似てるか確かめて。むちゃくちゃかわいがって、それからそれから──」


「どれだけ先を見てるんですか、聖女さま」


「それはとにかく、短く言うと」


 聖女さまは、こほん、とせきばらいして、


「びっくりしたよ! ナギくん、メテカルの町でなにしてきたの!? 『魔王のオーブ』ってなに。これ以上デリリラさんをびっくりさせないでよっ!!」


 ──腕を振り回しながら、びっくりしてた。


「死んだ後の方がびっくりすることが多いってなに!? こんなことじゃ、デリリラさんはいつまでも消えられないじゃないかぁ。まったく」


「ごめんなさい。聖女さま」


「いいんだよ。とりあえず、思いっきりびっくりしてみたかっただけだから」


 そう言って聖女さまは、床の上に座った。


「じゃあ、詳しい話を聞かせてくれるかな?」


 僕たちは、説明を続けた。




 ──港町イルガファで起きた『魔王欠乏症』事件のこと。


 ──リタとレティシアが、子爵家に閉じ込められていたこと。


 ──その両方が、メテカルで行われた『武術大会』に関係していたこと。


 ──『武術大会』の目的は、魔王を倒すための『公式勇者』と、魔王軍にするための人たちを選ぶためのものだったこと。そのためのアイテムが『魔王のオーブ』だったこと。


 で、結局『魔王のオーブ』は僕が無害なものに作り替えて──


『武術大会』は中止になり、主催者のケルヴィス伯爵も行方不明になってしまったこと。


 そんなことを、リタとレティシアの情報も交えながら、僕はセシルとラフィリア、聖女さまに伝えたのだった。





「……魔王を作るための儀式を破壊したのか。さすがナギくんだねー」


 話を聞き終えた聖女さまは、ぼんやりとつぶやいた。


「本当にびっくりしたよ。デリリラさんの人生で、これ以上びっくりすることは、もうないだろうね」


「……わたしもびっくりです。そんな大変なときに、お手伝いできなかったなんて」


「……むむぅ。古代エルフが関係しているなら、あたしも行くべきだったです」


 セシルとラフィリアは、がっかりしてる。


 でも、これはしょうがない。


 僕だって、まさか魔王を作り出すために『武術大会』が開催されるなんて思ってなかったからね。


 今回の事件は、本当に予想外だったんだ。


「それでナギくんは『魔法使いと錬金術師が集う町』に行くつもりなのかい?」


「はい。『魔王のオーブ』が教えてくれたんです。自分を作った錬金術師が、その町で竜の魔力を手に入れたって。もしかしたらその町には、先代の天竜……シロのお母さんの魔力があるのかもしれません」


 僕は言った。


「竜の魔力が悪用されるのは嫌だし……シロのためにもできるだけ回収しておきたいんです」


「……ナギらしいわね」


「ナギさんなら、そう言いますわよね」


 なんで優しい目でこっちを見てるの。リタもレティシアも。


「聖女さまは『魔法使いと錬金術師が集う町』について、なにか知りませんか?」


「それはたぶん『魔導探求の城塞都市(アカデミー)』のことだね」


「アカデミー?」


「魔法使いや錬金術師が集まる町のことだよ。研究機関や図書館や、魔法使いのための教育施設があるところだ。この国には他にも『魔法実験都市』なんてのもあるけどね、あっちは『魔導探求の城塞都市(アカデミー)』の支部みたいなもので、たいした成果も上げていない。今、魔法使いと錬金術師(れんきんじゅつし)が集うといったら、やっぱり『魔導探求者の城塞都市』だね」


 聖女さまの指が、空中に地形を描き始める。


 僕は荷物から地図を取り出して、広げた。


 ふわり、と、地図の上に移動した聖女さまが、西の山のふもとを指さした。


 場所は、保養地ミシュリラからさらに西。山の(ふもと)。川の上流だ。


「ただ『魔導探求の城塞都市』──『アカデミー』は許可がないと入れないらしいよ。デリリラさんも前にゴーレムくんたちを送り込もうとしたんだけど……警戒が厳しくて、あきらめちゃったんだ」


「魔法の研究をしている人たちの町ですからね……」


 たぶん、機密情報とかもあるんだろうな。


 それに『魔王のオーブ』を作った錬金術師は、古代エルフの命令を受けていた。


 となると、その町には古代エルフの技術に関わるものもあるのかもしれない。


「わかりました。とりあえず行ってみることにします」


「いやいや。だから難しいんだって。警戒も厳しいし、人も多いんだから」


「人が多いってことは、それだけなにかを消費してるってことですよね?」


「……え?」


「ということは、その町に出入りしている商人がいるんじゃないでしょうか。人が暮らしてるなら食料も必要だし、服や雑貨も必要でしょう? 住んでいるのが魔法使いや錬金術師ばっかりなら、食料を生産する人は少ないってことですよね? だから、他から持ち込むしかないはずです」


 僕が言うと、聖女さまが、ぽかん、とした顔になる。


 リタとレティシア、セシルとラフィリアは、ぽん、と手を叩いてる。


 わかってくれたみたいだ。


「だとすると、商人か荷馬車が出入りしているはずです。で、僕たちの家があるのは『港町イルガファ』──海運をメインにした一大交易地です。直接の取り引きはなくても、『アカデミー』に商品を運んでる人を知ってるかもしれません」


 僕は言った。


「とりあえずイルガファに戻ったら、イリスに相談してみます。つてをたどって、僕たちが潜り込めるかどうか。商人として行けば文句を言われることもないですよね?」


「……すごいことを考えるね、ナギくん」


「そうですか?」


「そうだよ。『アカデミー』にはデリリラさんも入れなかったんだ。そこに商人に化けて潜り込もうなんて、予想外の発想だったよ」


「うまくいくかは、まだわかりませんけどね」


 とりあえず、イリスに相談してみよう。


 彼女なら商人のつてをたどって、合法的に『アカデミー』に入るルートを見つけてくれるかもしれない。


 そうすればあの町の情報も入るはず。


 ここまで関わったんだ。竜の魔力と、錬金術師の秘密を、できるだけ調べておきたい。


『魔王のオーブ・ヴァージョン2』とか作られたら、落ち着いて生活もできないからね。


 それに、もしかしたら、向こうで錬金術関係のスキルが手に入るかもしれない。錬金術とは、文字通り金を作り出す術のことだ。もしもそういうスキルを手に入れることができたら──また、働かない生活に一歩近づく。


 やれるだけやってみよう。無理のない範囲で。


「とにかく。ナギくんの作戦はわかったよ」


 ゴーストの聖女さまは地図の上でうなずいた。


「『アカデミー』の潜入には、デリリラさんも協力するよ。知ってる限りのことを教えるからね」


「ありがとうございます。聖女さま」


「でも、気をつけてね。あの場所は魔法使いと錬金術師の総本山だ。強力な魔法使いもいるんだ」


「大丈夫です。ナギさまは命に代えても、わたしがお守りします」


「パワーアップしたあたしもいるです! マスターになにかあったら、セシルさまと一緒に『アカデミー』を灰にしちゃうです!」


「「ねー!」」


「行く前からぶっそうなこと言わない!」


 まったくもう。


 修業して強くなっても、セシルとラフィリアは変わらないな。


「それじゃ、まずは町の情報を教えてください。それから、イルガファに戻って、イリスたちと潜入計画を立ててみます」


 僕は言った。


 それから僕とセシル、リタとレティシア、ラフィリアと聖女さまは車座になって、作戦会議。


 リトル天竜モードのシロは、僕の膝の上で話を聞いてる。途中で眠くなったのか、寝息を立てはじめてるけど。


「……『魔導探求の城塞都市(アカデミー)』に竜の魔力があるなら、ちゃんと見つけて回収するからね。安心して、シロ」


『うん。おとーさん……ありがと』


 僕はシロの背中をなでながら、そんなことをつぶやいたのだった。




いつも「チート嫁」をお読みいただき、ありがとうございます!

書籍版第12巻の発売日が決定しました。7月10日です。表紙も公開になりました!


今回も、ほぼ全編書き下ろしでお送りします。

(11巻以降は、ほとんどすべてを新しく書き下ろしています)


『なろう版』とは別ルートに入った書籍版『チート嫁』を、どうかよろしくお願いします!

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新作、はじめました。

「弱者と呼ばれて帝国を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました 
−魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大国に進化させます−」

https://ncode.syosetu.com/n0597gj/

魔王の領土に追放された錬金術師の少年が
なんでも作れる『創造錬金術師(オーバー・アルケミスト)』に覚醒して、
異世界のアイテムで魔王領を大国にしていくお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
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