第238話「セシルとラフィリアを迎えに行ったら、予想もしない挑戦を受けた」
大変お待たせしてすいません……。
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『港町イルガファ』で、シロの誕生パーティ (仮)を開いた翌日──
僕とリタとレティシアは『保養地ミシュリラ』に転移した。
聖女さまの洞窟に、セシルとラフィリアを迎えに行くためだ。
『古代エルフの都』に行ったあと、セシルとラフィリアは聖女さまの洞窟に残ることになった。
聖女さまが『古代エルフレプリカ』ウリエラ=グレイスさんの魂を入れるためのゴーレムを作るので、その手伝いをするためだ。
ついでに聖女さまは、自分の技術をセシルたちに伝えたいって言ってた。
聖女さまからは、まだ連絡は来ていない。
でも気になるから、様子見も兼ねて迎えに行くことにしたんだ。
「「「せーの。デリリラさ──」」」
僕たちが洞窟の前で呼びかけようとすると──
『ふふふ、ははははははは! まちかねたよっ!?』
いつのものように洞窟の入り口が開いて、ゴーレムの聖女さまが現れた。
背後にたくさんのゴーレムくんを従え、声に妙なエコーを入れてる。
すごく悪役っぽい。あるいは、秘密兵器を開発した科学者って感じだ。
「ラフィリアの影響ですね」
『どうしてわかったんだい!?』
そりゃもう。うちの子のことですから。
「ごぶさたしておりますわ。聖女デリリラさま」
僕の隣でレティシアが膝をついた。
彼女は地面に、細身の剣と円形の楯を置いて、
「聖女さまから頂きました剣と盾は、有効に使っております。これらは正義の貴族として、人々を守るための力となりましょう」
『おぉ! レティシアくんじゃないか!』
「はい。聖女さまにお会いできてうれしいですわ」
『デリリラさんもうれしいよ。じゃあ、ぜひダンジョンに挑戦して行って!』
聖女さまはそれから、リタの方を見て、
『リタくんとレティシアくんには、前にもダンジョンをあっさり突破されちゃったからね。今回はすごいよー。強力だよー』
「聖女さま」
『なにかなナギくん!』
「その前にセシルやラフィリアと話をしたいんですけど。あと、魔王がらみの事件についても、報告があるんです」
『それは後にして』
「えー」
『だって、ナギくんが落ち着いてるってことは、事件はもう解決してるんだろう?』
ゴーレムの聖女さまは、にやりと笑った。
『そうじゃなかったら、もっと慌ててるか、困ってる誰かを連れて来てるはずだからね。そうじゃないってことは、魔王がらみの事件はもう解決してるんだよね? 違うかな』
「そうですけど」
『ほらー』
「でも、大きな事件だったので、一応聖女さまにも話を──」
『君はデリリラさんのダンジョン攻略と、魔王と、どっちが重要だと思ってるんだい!?』
そんなこと言われても。
魔王のオーブは、もう手元にあるし、能力は書き換えて無害化してある。
『魔王欠乏症』はなくなった。
勇者を選ぶための武術大会もなくなった。
あとで『魔法使いと錬金術師が集う町』の調査をするつもりだけど、今はまだ打つ手はない。
そう考えると、重要なのは──
「……ダンジョン攻略、かな?」
『ほらー』
なんで「してやったり」って顔をしてるんですか、聖女さま。
「わかりました。ダンジョンに挑戦します」
『うむうむ。素直でいいよ。ナギくん』
「その前にセシルとラフィリアに合わせてください」
『ふふっ。それはできない相談だ』
なぜか鼻で笑う聖女さま。
会わせられないって……どういうことだ?
「……ふたりになにかあったんですか?」
『だって、新ダンジョンを作ったのはセシルくんとラフィリアくんだからね。攻略前に会わせたら、ネタがばれちゃうじゃないか!』
「なんでそんなことになってるんですか聖女さま!?」
あれ? おかしいな。
セシルとラフィリアは、ウリエラさんの魂を入れるゴーレム作りをするはずじゃなかったっけ?
「ウリエラさんのゴーレムはどうしたんですか?」
『もうとっくにできてるよ。ウリエラくんとライラくんは、一度故郷に帰るって旅立ったよ』
「仕事が早いですね……」
『それくらいできるよ。デリリラさんは聖女だからねー』
「もしかして、そのあと時間が余ったから、セシルとラフィリアにダンジョン作りの指導をした……とか?」
『その通りさ! ふたりには「君たちがデリリラさんの洞窟で学び、どんなふうに成長したか、ナギくんに見せてあげたまえ」って言ったんだ。ふたりとも、張り切ってたよ』
「……なるほど」
それは僕も興味があるな。
セシルもラフィリアも、才能あふれる魔法使いだ。
それが聖女さまの洞窟で修業して、僕にその成果を見せようとしてる、ってことか。
ふたりがそのために、新ダンジョンを作ったのなら──
「これは、挑戦しないとだめだよな」
「セシルちゃんたちが、ナギに成長を見てもらいたがってるのよね。私も興味あるわ」
「それが聖女さまの試練ならば、挑戦しなければいけませんわ」
僕とリタとレティシアは顔を見合わせて、うなずいた。
「わかりました。セシルとラフィリアが作ったダンジョンに挑戦します」
『おお──っ!』
『『『ことことことこと──っ!』』』
聖女さまの、まわりのゴーレムくんたちが拍手する。
入り口に控えていたゴーレムくんたちは左右に分かれて、僕たちに道を開けてくれる。
洞窟の入り口に立つと、中が見えた。
突き当たりに横道があって、そこに『セシル&ラフィリア作、ナギさま用ダンジョン』って書いてある。わかりやすいな。
「これって、私たちも行っていいの?」
「ナギさん用と書いてありますわよ?」
『いいんじゃないかな。セシルくんもラフィリアくんも、ナギくん一人で挑戦するとは思ってないだろうからね』
うん。セシルとラフィリアならそうだろうな。
僕が他のメンバーを連れて入ることを予想してるはずだ。
「じゃあ、行ってきます」
『よっしゃ』
歩き出す僕たちの後ろからついてくる、ゴーレムの聖女さま。
……あれ?
「聖女さまも来るんですか?」
『え? デリリラさんを仲間外れにする気だったのかい?』
「だって、聖女さまは中の仕掛けを知ってるんですよね? 一緒にいたら聖女さまの反応で、どこにトラップがあるかわかっちゃうんじゃ……?」
『いやいや、デリリラさんは新ダンジョンの中身なんか、まったく知らないよ?』
でも、聖女さまは首を横に振っただけ。
それを見た僕とリタ、レティシアの目が点になる。
「……セシルとラフィリアのダンジョンがどんなものか知らないんですか?」
『うん。秘密って言われたから』
「聖女さまの助けなしで、ふたりはどうやってダンジョンを作ったんですか?」
『作業用のゴーレムと使えそうなアイテムを全部渡して、好きにしていいよ、って』
「セシルはなんて言ってました?」
『おっきな目をまん丸にして、「本当にいいんですか?」って言ってたよ』
「ラフィリアはなんて言ってました?」
『「ひゃっほー! あたしの妄想をすべて具現化するです!」って言ってたよ?』
「「「…………」」」
聖女さま、あなたはなんてことを。
「……大丈夫なの? セシルちゃんはともかく、ラフィリアが妄想をすべて組み込んだダンジョンなんでしょ?」
「……どんなものがあるか、わたくしにも想像がつきませんわ」
「大丈夫だと思うよ」
修業して強くなったとしても、セシルとラフィリアだからね。
僕にはふたりのことがわかるような気がするんだ。家族だし。
「……それに、僕たちだって進化してるからね」
僕は聖女さまに聞こえないようにつぶやいた。
バックパックを軽く叩くと、意味がわかったのか、リタとレティシアがうなずく。
「なるほど」「わかりましたわ」
「セシル、ラフィリア、聞こえてる?」
僕は洞窟の奥に向かって声をかけた。
返事の代わりに、通路の奥が、ぼんやりとした光を放った。
うん。あっちにいるみたいだ。
「ふたりの修業の成果、見せてもらうよ。遠慮しなくていいからね」
「セシルちゃんがどれだけ成長したか、確かめてあげるもん!」
「わたくしたちがどんな冒険をしてきたか、教えてあげますわ!」
リタが拳をにぎりしめ、レティシアが細身の剣をつかむ。
「あと、ふたりのために領主さんにお願いして服を仕立てたから。馬車に置いてあるからね。これが終わったら着てみせて欲しいんだ」
「「…… (ちかちかちかっ!)」」
通路の奥で光が点滅した。動揺したみたいだ。
『ナギくん。精神攻撃は禁止だよ! 君はふたりのことをわかっちゃってるからね。いくらでも動揺させられるだろ。でも、そういうのは禁止だからねっ!!』
「わかりました。聖女さま」
いや、動揺させるつもりはなかったんだけど。
ふたりが作ったダンジョンなら、正面から突破するのが礼儀だからね。
「それじゃ行くよ。セシル、ラフィリア!」
「「ふたりのダンジョンに挑戦 (だもん) (いたします)!」」
こうして僕とリタとレティシアは、セシルとラフィリアが作った『新ダンジョン (妄想つき)』に挑戦することになったのだった。
いつも「チート嫁」をお読みいただき、ありがとうございます!
書籍版第12巻の発売日が決定しました。7月10日です!
今回も、ほぼ全編書き下ろしでお送りします。
(11巻以降は、ほとんどすべてを新しく書き下ろしています)
『なろう版』とは別ルートに入った書籍版『チート嫁』を、どうかよろしくお願いします!




