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第236話「番外編その18『レギィの秘密計画と、ナギパーティの「伝統芸能」』」

今回は番外編です。

無事に商業都市メテカルを脱出したナギたちですが、レギィにはなにか計画があるようで……。


ただいま第14章の準備中です。

本格再開まで、もう少しだけお待ち下さい……。


 僕たちは朝を待って、商業都市メテカルを出発した。


 イリスとレティシアには『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』で、話をすることができた。ふたりもすぐに、僕たちを追いかけてくるそうだ。


 色々とメッセージをやりとりして、とりあえずは途中の町、温泉地リヒェルダで合流、ということにした。


 イリスは『港町イルガファ』の代表として来てるから、町を出るのに少し時間がかかるけど、そのあたりは (変装した)レティシアがサポートしてくれることになってる。


 ほんとに、この旅でもレティシアにはお世話になっちゃったな。


 レティシアはイリス経由で『気にすることないですわ。わたくしもパーティの一員なのですから、仲間外れは嫌ですもの』って言ってくれたけど。


 でも、あとでなにかお返しをしないとね。


 そんなわけで、僕とリタ、アイネとカトラスは、のんびりと旅をはじめたのだった。






「そういえば、前にラフィリアさんに聞いたことがあるんだけど……」


 旅の途中で、ふと、アイネがそんなことを言い出した。


「リヒェルダの温泉で、なぁくんとラフィリアさんが『お風呂でバッタリ』したって本当なの?」


「「詳しく聞かせて(くださいであります)!!」」


 ぶん、と、リタとカトラスがこっちを見た。


 ちょっと待って。なにその食いつき。


「『お風呂でバッタリ』って、ナギの世界の伝統芸能(でんとうげいのう)なのよね?」


「仲のいい家族には必須って聞いてるであります!」


「片方が(はだか)だと略式(りゃくしき)、ふたりとも裸なのが正式って聞いてるの」


「ちょっと待って。その話は誰に聞いたの!?」


「「「レギィ(ちゃん)(ちゃんなの)(どのであります)!!」」」


「こら──っ! レギィ──っ!!」


 僕が魔剣のレギィを握りしめると、ぽん、と音がして、フィギュアサイズのレギィが現れる。


「おいこらレギィ」


『なんじゃな、主さま』


「なんで『お風呂でバッタリ』が伝統芸能なんだよ!?」


『前に主さまが、元の世界の「あにめ」や「げぇむ」について話してくれたではないか』


「したけどさ」


『そのときに「お風呂でバッタリ出くわすシーン」のことも教えてくれたじゃろ?』


「……教えたけど?」


『そこから考えたのじゃ。「お風呂でバッタリ」とは、異世界に転移した主さまの記憶に残るほどインパクトのあるもので、重要なものであると。つまり主さまの世界の伝統芸能(でんとうげいのう)か、家族には必須のものに違いないと!!』


「「「お────っ!!」」」


 ぱちぱちぱちぱち。


 拍手するリタとアイネとカトラス。


「たいした説得力だよ。すごいな、レギィ」


『じゃろ?』


「『お風呂でバッタリ』が伝統芸能か……確かに、レギィならそう考えてもしょうがないよな」


『じゃろじゃろ?』


「で、本心は?」


『主さまとほわほわエルフ娘が『お風呂でバッタリ』したのに居合わせなかったのが悔しくて、いかなる手段を使ってでも再現しようと考え抜いた結果、まずは奴隷少女(どれいしょうじょ)たちを言いくるめて──やめて主さま! 槍投(やりな)げのポーズで我を構えて助走するのやめて投げないで──────っ!!』


「……まったくもう」


 魔剣レギィを手に15メートルほど助走したところで、僕は足を止めた。


 振り返ると、リタは真っ赤になって獣耳をぴこぴこ、アイネはメイド服のエプロンを握りしめて、カトラスは……うん、背後霊(はいごれい)みたいに浮かんだフィーンと一緒に、期待に目を(かがや)かせてるね。


「……ナギ」「ご主人様」「「あるじどの」」


「あのね。『お風呂でバッタリ』は伝統芸能でも、家族に必須のものでもないからね」


「そ、そうよね」


「わかったの。アイネ、理解したの」


「レギィどのの冗談だったのでありますね」「わかりました。あたくしも、よーくわかりました」


 リタもアイネも、カトラスもフィーンもうなずいてる。


 レギィも僕の肩につかまって、「そうじゃな」って答えてる。


 よかった。わかってくれたみたいだ。


「「「「…………でも、偶然そうなっちゃったら仕方ないですよね」」」」


「聞こえてるからね!?」


『うむ。その意気や()し!!』


「レギィも、()きつけないの!」


 そんな感じで、僕たちは『温泉地リヒェルダ』に到着したのだった。






「とりあえず、みんなを説得するのが大変だというのがわかった」


 ここは、温泉地リヒェルダの宿。


 往路で泊まった別荘 (イリスが借り切ってくれてた)で、僕とレギィは部屋に入っていた。


「もう覚悟して、普通に一緒にお風呂に入ろうかな……」


『わかっておらぬな。主さま』


「わかってないって?」


『みんながときめいておるのは、主さまとバッタリ出会うというシチュエーションじゃ。日常に起こるなにげないイベント……それこそが乙女の魂を震わせるのじゃ。主さまにはそれに応える責任があろう?』


「責任があるのはレギィでは?」


『では、我は主さまと一緒に責任を取るとしようかのう』


「それって、一緒に『お風呂でバッタリ』したいだけじゃないの?」


『ふふっ。さすが主さま。我の考えなどお見通し……って? あれー? 主さま。どうして我の本体を柱に(しば)るのじゃ? まさか主さま。我を置いて『お風呂でバッタリ』しないじゃよね? ああっ!? なんで毛布をかぶせるのじゃ!? 見えぬ。なにも見えぬぞ──っ! ちょっと──っ、主さま────っ!!』


 さて、それじゃ町を散歩してこよう。






 数時間後。


 セシルとラフィリア、聖女さまへのお土産を買い、僕は宿に戻った。


 そろそろみんなも落ち着いた頃かな。


『イリス=ハフェウメアからメッセージが来ました』


 ……と、『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』のメッセージだ。


 ウィンドウに表示してみると……。




 ──────────────────




 イリス:『お兄ちゃん。温泉地リヒェルダに着きましたか?』


 ナギ:『着いたよ。イリスたちはどのあたり?』


 イリス:『ただいま馬車で移動中です。レティシアさまと一緒に、今日の夕方にはそちらに着きます』


 ナギ:『そっか、よかった』


 イリス:『そこで、お兄ちゃんからみなさんに伝えて欲しいことがあるのです』


 ナギ:『伝えて欲しいこと?』


 イリス:『はい。実はリヒェルダの小さな温泉施設を、イリスが手を回して借り切っておきました。昨日のうちに、そろそろメテカルを脱出することになるだろうと、早馬を飛ばしておいたのです』


 ナギ:『すごいなイリス!』


 イリス:『この程度のことができなければ、お兄ちゃんの奴隷(どれい)はつとまりません。えっへん!』




 ──────────────────




 メッセージと共に、動画が送られてくる。


 でも、映ってるのは苦笑いしてるレティシアだ。


『真・意識共有』の動画はイリスが見ているものが映るからね。しょうがないね。




 ──────────────────




 イリス:『なので、こちらの施設は今日は貸し切りです。思う存分お楽しみください』




 ──────────────────




 今度は施設の場所までの地図が送られてくる。


 ふむふむ。この別荘のすぐ近くか。




 ──────────────────




 イリス:『では、お兄ちゃん。どうぞごゆっくり。後ほどお会いいたしましょう』




 ──────────────────




 イリスのメッセージは途切れた。


 ……と、思ったら、もう一通メッセージが来た。今度はなにかな……?




 ──────────────────




 イリス:『リタさま。伝統芸能の「お風呂でバッタリ」については、レギィさまよりうかがっております。温泉施設を手配したのもそのためです。みなさん、がんばってくださいね。ご健闘をお祈りしております!!』




 ──────────────────




 ……あのね、イリス。


 前にも説明したけど、『意識共有(マインドリンケージ)』系のメッセージを他の人に送ると、僕にもメッセージが来るからね? そういう仕様だって説明したよね?


 どうしてイリスが、こんな初歩的なミスを──


「……違う。これは、僕に読まれること前提のメッセージかもしれない」


 あのイリスが、そんな基本的なことを忘れるとは思えない。


 だとすると……このメッセージは「仕様を忘れたふりで」送信された可能性がある。


 最後のメッセージの宛先(あてさき)はリタだ。


 つまり、このメッセージはリタと、一緒にいるアイネとカトラスに()てて送られている。


 さらに『お風呂でバッタリ』作戦を行うことまで書かれている。


 これを読んだ僕が、みんなに「作戦禁止」と言わずにお風呂に行ったら……作戦を黙認(もくにん)したことになる。


 だって、メッセージはしっかり僕にも送られてる。


 イリスは「僕に読まれる」のを知らない振りができるけど、僕は無理だ。


「つまり、イリスは、主導権を僕に渡したわけか……」


 僕は部屋を出た。


 リビングには誰もいない。みんなの部屋をノックするけど……反応なし。


 つまり、みんなはすでに『お風呂でバッタリ』作戦のために動いている。


 僕がそれを止めるには、リタに『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』でメッセージを送るしかない。


 みんなが楽しみにしてるイベントを、僕が奪うのはどうなんだろう……。


「…………考えたな、イリス」


 しょうがない。


 とりあえず、みんなの様子を見に行ってみよう。


 僕は温泉施設に向かうことにした。






 イリスが借り切った施設は、小さいけど立派だった。


 受付に女性がひとりいるだけで、他には誰もいない。


 施設の中には家族向けの大浴場と、休憩用の大部屋があるだけだ。


 受付の人に聞くと、ここは家族旅行や友だち同士の旅行なんかに使われているらしい。


 僕は受付の人にあいさつして、そのまま中へ。


 そのまま男性用の脱衣所に向かうと──




「…………わぅんっ」




 金色の(おおかみ)がいた。


 バッタリと出くわした。


 狼は脱衣所の床に座って、ぱたぱたと尻尾を振ってる。


「狼かー。狼じゃしょうがないな」


 僕はシャツのボタンを外した。


「うん。女の子がいたら、僕も服を脱ぐのに抵抗あるけど、狼だったら大丈夫。まったく問題ない……って、そんなわけあるか──っ!」


「わううぅんっ!?」


「リタ、なんでこんなところで『完全獣化(ビーストモード)』を使ってるの!?」


 金色の狼の正体はリタだ。


 リタはスキル『完全獣化』を使うと、狼の姿になることができるんだ。


 お風呂でバッタリをやるはずのリタが、なんで狼になっているかというと──


「いきなりお風呂の方でバッタリ顔を合わせるのは恥ずかしいから、脱衣所にした、とか?」


「わぅわぅ」


 うなずくリタ。


「貸し切りで他に誰もいないとはいえ男性用の脱衣所に来るのは恥ずかしい。でも、人間じゃなければオッケー。だから狼の姿になった……のかな?」


「わぅー、わぅっわぅっ!」


「……そんな、うれしそうに飛びついてこなくても」


「くぅぅん」


「うん。わかるよ。リタのことだから」


 僕はリタの背中をなでた。


 もふもふだー。


 獣人の姿もいいけど、狼の姿のリタもいいよね。


 僕はもふもふリタの喉をなでて、頭をなでて、手と足をなでて……。


 ……そういえば今のリタって全裸(ぜんら)だったね。


 …………まぁいいか。


「わぅん?」


「……え? お風呂でバッタリを済ませたので満足?」


「わぅわぅ」


「本当は、むちゃくちゃ恥ずかしかった。僕にもふもふしてもらったので満足……これ以上は……歯止めがきかなくなっちゃうので戻ります……そうなの?」


「わぅぅん……」


 そっか。それじゃしょうがないな。


 リタ、尻尾を振る角度が、恥ずかしそうな感じになってるもんな。


「いいよ。じゃあ、戻って」


「わぅ」


 狼のリタが、ロッカーの影に移動する。


 そして気合いとともに、人間の姿に戻って──


「…………大変」


「どしたのリタ」


「……服と下着、大広間において来ちゃった」


 来るときは受付さんの目に付かないように、狼の姿で素早く来たらしい。


「……ど、どうしよう。さ、さすがに裸で廊下(ろうか)は歩けないよぉ」


「……しょうがないなぁ」


 僕は大広間にリタの服と下着を取りに行くことにした。






 僕はリタに服を着せて送り出した。


 さてと、今度こそお風呂に……。


「……って、これで終わるわけないよな」


 僕は浴室に通じる扉を開けた。




『デス公』がいた。




 (よろい)モードで、洗い場の椅子に座ってた。


 関節の隙間(すきま)から肌色が見えてる。


 これは──


「お風呂場でいきなりバッタリするのは恥ずかしいからデス公を着てる?」


「…………」


「……えっと」


 僕はふと考えてから、


「『デス公』、鎧状態(よろいじょうたい)を解──」


「あわわわわっ!」


「やっぱりアイネかー」


『デス公』はアイネの収納(しゅうのう)スキルの中にいるからね。


 アイネなら、お風呂場に簡単に持ち込めるんだ。


「……作戦失敗なの」


「だよね」


「…………見抜かれてしまっては伝統芸能にならないの」


「別に伝統芸能にする必要もないんだけど」


「そんなわけで、もっと作戦を練ってから次回に持ち越すの」


 がちゃり、と、デス公をまとったアイネは立ち上がる。


「……なぁくん、お願いがあるの」


「はいはい。服と下着を広間に置いてきたんだね」


 僕は大広間に戻ることにした。






「……さすがに、もういないよね?」


 僕は脱衣所を見回した。


 まわりには、着替えを入れるロッカーが並んでいる。木製で、扉がついてる。


 僕の世界にもあるやつだ。


 ただ、サイズが僕の世界よりも大きい。


 たぶん、貴族の礼服やドレスを入れることを想定しているからだ。


 大きな服を、たたまずに入れられるようになってる。


 だから大きい。まるで掃除用具入れだ。小柄な人なら、中に隠れられるかもしれないな。


「……小柄(こがら)な人なら」


 僕は息を潜めて、耳を澄ませた。


 やっぱりだ。


 奥の方のロッカーから、人の気配がする。




「……ど、どうしてボクに目隠しをしたのでありますか? フィーン」




 ……カトラスの声だ。


 奥の方のロッカーに隠れてるらしい。


 フィーンの声もする……なにを話してるんだろう……。




「……なにも見えないであります。どうして目隠しを……」


『カトラスはあるじどのに肌を見られると、あたくし(フィーン)になってしまうではありませんか。それを防ぐための措置(そち)です』


「それとボクの目をふさぐのと、どういう関係が……?」


『視界を塞げば、あなた自身、あるじどのに肌を見られたことに気づかないでしょう?』


「両手を(しば)ったのはどうしてでありますか?」


『あなたが無意識に目隠しをほどいたりしないようにです』


「……ロッカーにボクを隠してるのは?」


『あるじどのが来たらロッカーを開けて、バッタリと出会うためです』


「で、でも、ボクにあるじどのが見えなければバッタリにならないんじゃ……?」


『あるじどのの生まれたままの姿は、あたくしが拝見いたします』


「……え?」


『カトラスとあたくしは同一人物なのですもの。あなたはあるじどのに見られる役。あたくしはあるじどのを、じっくりと拝見する役です』


「ず、ずるいであります。フィーン!」


『「お風呂でバッタリ」は伝統芸能なのですよ。伝統芸能とは、型が大切なのです。あるじどのにじっくり指導して…いただき…………って、あれ? いつ戻られたのです、あるじどの? いえ、違うのです。カトラスを(はだか)にしてロッカーに押し込んだのは、伝統芸能である「お風呂でバッタリ」を会得するため。そう、あるじどのの指導により、カトラスを今まで感じたことのない高みへと押し上げるためで……あ、ちょっと? あたくしをロッカーに閉じ込めてどうするのです!? 反省するまで脱出禁止? そ、そんな。カトラスがあるじどのの寵愛(ちょうあい)を受けるところを見るつもりでしたのに────っ!?』


「……なにが起こっているのでありますか。フィーン……?」


 まったくもう。


 フィーンにも困ったもんだ。


 レギィと相性良すぎるから、すぐに影響を受けちゃうんだよな……。


 僕はカトラスを救出して、大広間へ運んだ。








「……と、いうことがあったんだよ」


「そういうことになったのですか」


「……大変でしたわね」


 夕方。


 イリスとレティシアが、温泉地にやってきた。


 ふたりは僕の部屋で、今日あったこと出来事を聞いている。


「まぁ、レギィが変なこと吹き込んだから、しょうがないんだけどね」


「レギィさまの本体がベッドマットの下に挟まっているのは、そういうわけだったのですね。お兄ちゃん」


「というか、イリスだってレギィの影響で温泉施設を手配してたよね?」


「お兄ちゃんの世界の伝統芸能であれば、再現したくなるのはやむを得ないでしょう?」


「伝統芸能じゃないんだけどなぁ」


「お嫌いですか? お風呂でバッタリ」


「それとこれとは話が別」


「こちらの世界にいらっしゃっても覚えていたのですから、印象が強いことは間違いございません。奴隷(どれい)のイリスたちとしては、そんなふうにご主人様の記憶に残ることをしたいと思うのは、自然なことでしょう」


 そう言ってイリスは、いたずらっぽく笑った。


「それにしても、皆さん、成功されたようでなによりです」


「成功って?」


「理想的なのは正式の『お兄ちゃんと自分が裸でバッタリ』ですが、師匠(ラフィリアさま)のように、略式でバッタリすることには成功されたのでしょう?」


 ……言われてみれば。


 リタは僕が出かけてる間も狼の姿で待ってたみたいで、人の姿に戻ったあと、うまく服を着られなかった。結局僕がいろいろ穿()かせることになった。


 アイネから『デス公』を脱がせたのも僕だし、縛られてたカトラスを解放して、目隠しを取ったのも僕だ。


 結局みんな『お風呂でバッタリ』には成功してるんじゃ……。


「ふっふーん。イリスと皆さんの作戦勝ちでしょう!」


「……そうなるのかなぁ」


「ちなみに、イリスはすでにこの町で、お兄ちゃんがお風呂に入ってるところに乱入しております。師匠(ラフィリアさま)の次に『お風呂でバッタリ』に成功している身です」


「そういえば、そんなこともあったね」


 僕とイリスは顔を見合わせて笑い合う。


 イリスと初めて出会ってすぐ、僕は温泉施設に無料招待された。そのとき、お風呂に入ってたらイリスが乱入してきたんだっけ。なつかしいな。


「ということは、ここにいるメンバーは全員、お兄ちゃんと『お風呂でバッタリ』しているわけですね?」


「正確には、主従契約(しゅじゅうけいやく)してるのは全員、だけどね」


「レギィさまは仲間外れですか?」


「確かレギィも……似たようなことをやってた気がする」


 なんだかんだ言って、レギィはいつも一緒だからね。


「ならば『お風呂でバッタリ』は、まさにパーティの『伝統芸能』と言えましょう。イリスたちに子どもができたら、代々語り継ぐことにいたします」


「それって、僕たちがどんな旅をしてきたか、子々孫々語り継ぐことにならない?」


「はい。すごく楽しいと思います」


「……そうだね」


 観光したり、美味しいものを食べたり、『お風呂でバッタリ』したり。


 そういう楽しい旅をしてきたって子どもたちに伝えるのは……うん、確かに楽しそうだ。


「……あれ? ところでレティシアは?」


「そういえば、いらっしゃいませんね」


 さっきまでいたよね。「大変でしたわね」って言ってたもんな。


 みんなのところに行ったのかな?


 僕とイリスは部屋を出て、リビングに向かった。


 リビングで反省してるリタ、アイネ、フィーンに聞いてみると……出かけたみたいだ。


 買い物にでも行ったのかな?


「まぁいいや。じゃあ、今度こそお風呂に入ってくるよ」


「行ってらっしゃいませ。お兄ちゃん」


「……イリスはもう、なにもたくらんでないよね?」


「もちろんでしょう。夜まではなにもいたしませんよ?」


 ……じゃあ大丈夫か。


 僕は着替えを持って、温泉施設に向かうことにした。




 その後、貸し切りの温泉施設でなにがあったのかは省略するとして──




『お風呂でバッタリ』が文字通り、ここにいる(・・・・・)メンバー全員(・・・・・・)()伝統芸能(・・・・)になったのは……僕の子供たちに語り継がれることになるんじゃないかと思う。






いつも「チート嫁」をお読みいただき、ありがとうございます!


おかげさまで書籍版第11巻の発売日が決定しました! 来月の3月10日です!

今回はほぼ全編、書き下ろしのお話になってます。

「なろう版」からちょっと分岐した別ルートの「チート嫁」を、ぜひ、読んでみてください!

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新作、はじめました。

「弱者と呼ばれて帝国を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました 
−魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大国に進化させます−」

https://ncode.syosetu.com/n0597gj/

魔王の領土に追放された錬金術師の少年が
なんでも作れる『創造錬金術師(オーバー・アルケミスト)』に覚醒して、
異世界のアイテムで魔王領を大国にしていくお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
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