第226話「番外編その17『ナギとレティシアによる、聖女さまからのプレゼント実験』」
今回は番外編です。
リタとレティシアと合流したナギは、聖女さまからの預かり物のことを思い出します。
レティシア向けのプレゼントなので、ふたりでアイテムの能力を確かめることにしたのですが……。
リタとレティシアと合流した翌日。
僕とレティシアは、聖女さまからもらったアイテムの効果を確認することにした。
「……本当に、わたくしが聖女さまからアイテムをいただいてもいいんですの……?」
「聖女さまは『レティシアくんに』って言ってたよ。ほら、手紙もついてる」
僕はレティシアに丸めた羊皮紙を手渡した。
レティシアに会ったら渡してくれって言われていたものだ。
「……『拝啓、レティシアくんにこれを贈る』……本当ですわ」
レティシアは羊皮紙を開いて、ふぅ、とため息をついた。
それから、それを胸に抱きしめて、目を閉じる。
「聖女さま……ありがとうございます。このレティシア=ミルフェ……聖女さまのご期待に添うように、このアイテムは正義のために使いますわ」
「よかったね。レティシア」
聖女さまは『ダンジョンをレティシアくんにあっさり攻略されたのが悔しいから、逆に彼女を強化することにした』──って言ってたけど、手紙にそれは書いてないみたいだ。
……黙っておこう。うん。
「聖女さまが下さったのは、剣と盾、ですわね」
レティシアは袋に入っていたアイテムを取り出した。
剣の方は、柄が格子状の編み目になってる。
軽量化のためだって聖女さまは言ってたけど、強度はしっかりしてる。さすが。
もうひとつは、鎖のついた円形の盾だ。
レティシアには盾を使ったチートスキルがあるからね。気を遣ってくれたんだろうな。
「それではナギさん。実験につきあっていただけませんか?」
そう言ってレティシアは、僕の方を見た。
「わたくしは、今回のことで実感しましたの。もっと強くならなければいけない、と」
「……あれ? レティシアはあっさり屋敷を抜け出したんだよね?」
「ええ。屋敷は問題なく抜け出せました。タナカ=コーガたちが襲って来たときも……正直、勝てるとは思っていましたわ。けれど、カトラスさんがいなければ、もっと時間がかかっていたと思います」
レティシアは聖女さまの剣を見つめながら、そう言った。
「タナカ=コーガ相手に手間取れば、屋敷からの追っ手も来ていたかもしれません。もちろん、リタさんなら全員まとめて倒せていたでしょうけれど……あなたの大事な『結魂』の相手を、危険にさらすわけにはいきませんもの」
「だから、強くなりたい、ってこと?」
「わ、わたくしはあなたの奴隷ではありませんからね。強くなるチャンスは、できるだけ活かしたいのですわ。貴族として、成長するためにも」
そう言って、レティシアは剣を捧げ持った。
まるで、ここにはいない聖女さまに誓っているみたいに。
……やっぱりすごいな。レティシアは。
「わかった。じゃあ、アイテム実験をしてみよう。聖女さまがくれた剣と盾がどういうものか、僕も興味があるからね」
「ありがとうございます。えっと……説明書には、まずは剣の能力を確かめるのがおすすめ、と書いてありますわね」
レティシアは羊皮紙を見ながら答えた。
説明書がついてるのか。すごいな、聖女さま、気配りも完璧だ。
「この剣の名前は『ブーストソード』と言うそうですわ」
「名前からすると、威力が増す剣、ってところかな?」
「触って確かめてごらんなさいな」
「……僕が触っていいの?」
「ええ。説明書に『ナギくんにも予想外の能力だもんね。どんなのか当てられたら、デリリラさんはほめてあげるよー』って書いてありますもの」
「聖女さまはなにと戦ってるんだろう……」
「いいから、聖女さまの指示通りになさいな」
「この剣は僕の所有物じゃないから、触れても概念はわからないんだけどな」
とりあえず許可を得て、触れてみた。
柄が編み目になってるのは見た通り。刀身の真ん中には、奇妙な文様が描かれてる。
編み目を見てるとなんとなく、いつも使ってる『魔力の糸』を思い出す。
直感で効果を当ててみると──
「魔力を溜めておける剣、かな?」
「……どうしてそう思いましたの?」
「編み目になってる部分が、なんとなく魔力が通りやすそうに見えたんだ。それと、中央の文字が魔力量を示すインジケーターみたいなふんいきだったから。聖女さまだったら、レティシアの魔力量を考えて、こういうものを作ってくれるんじゃないかな、って」
「……説明書には『け、剣の方はデリリラさんが常識的な発想で作ったものだからね! 能力を当てられても悔しくなんかないんだから!! 盾の方はもっと挑戦的なアイテムだもんねっ!!』って書いてありますわ」
「だから聖女さまはなにと戦ってるの!? というか、当たりなの!?」
「次に聖女さまにお会いしたら、ナギさんの予想は外れたってお伝えしましょうか……?」
「聖女さま、前に嘘を見抜くスキルを持ってたけど」
「…………まぁ、と、とにかく実験してみましょう」
「…………そうしよう」
とりあえず問題は棚上げして、僕たちは『ブーストソード』の実験をすることにした。
まずはレティシアが、両手で剣の柄を握りしめる。
目を閉じて、魔力を込めると──
ふぃぃぃぃぃぃぃん
刀身に刻まれた文字が、下から順番に光り始めた。
「「おおおおおおおおおおっ!!」」
思わず声が出た。
やっぱりすごいな。聖女さま。こんなもの、僕には作れないもんなぁ。
さすが偉大なる聖女デリリラさまだ。
「刀身の光の位置で、魔力残量がわかるそうですわ。ふむ、光を隠すこともできるですわね」
「魔力があるときは、剣の威力も上がるの?」
「ええ。溜めておいた魔力を、スキルに使用することもできるようです。ちょっとやってみます」
レティシアは剣を握りながら、すぅ、と、深呼吸した。
剣のインジケーターが、徐々に上がっていく。
それが一番上に達したところで、レティシアは目を開いて──
「発動『強制礼節』! こんにちは、レティシア=ミルフェですわ!!」
部屋の窓の方を向いて、頭を下げた。
『にゃー』『にゃ、にゃー』
おとなりの塀の上を歩いてた猫が「これはこれはごていねいに」と、頭を下げた。
使用した魔力は──
「3分の1くらい、ですわね」
「相手が猫だからなぁ」
「人間や魔物相手なら、半分くらいでしょうか。前もって剣に魔力を貯めておけば、『強制礼節』を使える回数が増えますわね」
「それに、剣を身体の前に構えてあいさつ、って、騎士みたいでかっこいいよね」
「なんとなくわかりますわ。剣を手にしてあいさつする、というのは、貴族の礼儀作法としてもありますもの。本来は鞘をつけて、柄を地面に向けてするのですけれどね」
「じゃあ、これからはそうする?」
「そうですわね。やってみてもいいかもしれません」
『ブーストソード』を鞘に収めて、レティシアはほほえんだ。
「わたくしも貴族のはしくれですもの。礼儀作法は大切にしたいですわ。他人の前で、恥ずかしい姿は見せられませんものね」
「……僕もレティシアに礼儀作法を教えてもらおうかな」
僕自身が、社交の場に出ることはなさそうだけど。
でも、この世界の礼儀作法を学ぶのも悪くないよな。そういう知識が必要になることもあるかもしれないからね。
「いいですけれど、わたくしの教育は、かなり厳しいですわよ?」
「覚悟してるよ」
「ふふっ。では、機会がありましたらね。わたくしがお手本を見せて、それからナギさんに教えて差し上げましょう。礼儀にかなった行いをするのは、貴族にとっても大切なものですものね」
笑いながらレティシアは、もうひとつのアイテムを手に取った。
鎖のついた円形の盾だ。
大きさは、両手で抱えられるくらい。でも、結構軽い。
銀色の金属でできていて、ところどころに水色の模様が入っている。
身体にふれる部分は、その水色のやわらか素材で作られているみたいだ。
「その盾は、どんな能力があるの?」
「せっかくだから当てっこいたしましょう。わたくしは『投げたら戻って来る盾』だと思いますわ」
「なるほど。鎖がついてるからか。じゃあ僕は、振り回すと巨大な魔力の盾になるアイテムで」
「鎖を握りしめて、ぐるぐる回すのですわね。聖女さまならそういうものも作られるのでしょう」
「それで、正解は?」
「ちょっとお待ちなさい。えっと……」
レティシアは盾についていた羊皮紙を広げた。
説明書に書いてあるアイテム名は──
『ビキニアーマー・シールド』
「…………はい?」「…………え?」
僕とレティシアの目が点になった。
レティシアは真っ赤な顔で、説明書を見つめてる。
何度も読み返してるみたいだ。でも、内容は変わらない。
この盾の名前は、『ビキニアーマー・シールド』だ。
その能力は……。
「決まった言葉を唱えることで、『ビキニアーマー』に変形するそうですわ……」
「ちょっと待って。なんで盾が『ビキニアーマー』になるの? 鎖の意味は!?」
「鎖は、身体を覆う部分を繋ぐのに使うそうですわ。つまり、ビキニの紐代わりですわね」
「予想外すぎる!」
「説明文の途中に、聖女さまからのメッセージがありますわ。読み上げますわね──
『ふふふ。これは予想外だっただろう。ナギくん。なんたって、適当に単語を組み合わせることで思いついたんだからね。文字ひとつひとつを刻んだプレートを作って、それを何回も何回も……単語になるまで引いたんだ。苦労したよ』」
「苦労の方向性が間違ってませんか、聖女さま」
「『今回はナギくんの意表を突くことだけに全力を尽くしたんだ。まさかナギくんも、この盾がビキニアーマーに変形するとは思わないだろう?』」
「思いませんよ。むしろ斜め上すぎて感動してますよ」
「『もちろん、ちゃんと最高の機能を付け加えてあるよ。装着者の魅力を、防御力に変換する機能をつけておいたんだ! すごい? デリリラさんすごいかな。いやー、まいったなー』」
「すごいですけど聖女さま、レティシアのセリフがだんだん、棒読みになってますよ……」
「『ぜひぜひ、あとでつかいごこちをおしえてねー。でりりらさん、いつまでもまってるよー。じゃあねー』……ですわ」
「…………」
「…………」
僕はいつの間にか、聖女さまを追い詰めてしまっていたのだろうか。
なんだかすごく、責任を感じる。
でも……頭に浮かぶのは、どや顔の聖女さまだ。
確かに、この『ビキニアーマー・シールド』は予想外だもんな。すごいよ、聖女さま。
「この『ビキニアーマー・シールド』……着てみますわ」
レティシアは決意を帯びた目で、宣言した。
「無理しなくていいと思うよ。普通に盾として使ってもいいんじゃないかな」
「いいえ。あの聖女さまがわたくしのために作って下さったのです。その機能をすべて確かめなければ気が済みません!」
だよね。聖女デリリラさまは、レティシアにとっては憧れの存在だもんな。
「じゃあ、僕は別室にいるから。終わったら呼んで」
「駄目です」
「駄目なの!?」
「これは聖女さまがナギさんへの挑戦として作ったアイテムです! ナギさんは責任を持って、最後まで能力を確認しなさい!!」
「えー」
「えー、じゃありません。ちょっと待ってなさい!!」
レティシアは盾を手に、部屋を飛び出して行った。
しばらくして、隣の部屋から、がちゃんがこん、と音がする。
盾が変形する音だ。本当にあれが、ビキニアーマーになるのかな……?
「…………お待たせいたしましたわ」
しばらくして、レティシアが戻って来た。
恥ずかしそうに頬を染めて、僕の前にやってくる。
白い腕が、むきだしになってる。
肩には細い鎖がついてる。盾についてたものだ。盾の状態では太い鎖だけど、あれはいくつもの細い鎖が集まってできあがってたらしい。
さらに鎖骨の下あたりに、銀色のビキニのようなものが見えている。
その下は白い布に覆われていて見えない。レティシア、身体にシーツを巻き付けてるからね。
「せ、聖女さまが作られたアイテムですもの。この状態でも、能力の確認はできるはずですわ」
「……うん、そうだね」
「なんで遠い目をしていますの? ナギさん?」
……実は、ちょっとだけ期待していたんだ。
かなり前に、リタがビキニアーマーを着たことがあったからね。
あれがすごく似合っていたから、レティシアが着たところも見てみたかったんだけど……。
単純に、レティシアにもすごく似合うと思ったから。
……でも、しょうがないか。さすがに人前でビキニアーマーはないよね。
「いいと思うよ、レティシア。上に薄手の服を着れば、動きやすそうだね」
「ええ。これで普通の鎧のような防御力があれば、かなり使えますわ」
「動きも速くなるし、重い鎧を着なくていい分、体力の消耗も少ないからね」
「聖女さまの説明書によると『着用者の魅力を魔力に変換して、障壁を張ることができる』となっていますわ。それによって、ビキニアーマーがない部分も守られるようです」
「よかった」
「なにがですの?」
「防御力を試すために、ビキニアーマーで守られてる部分に触れて、って言われたらどうしようかと思った」
「……さすがにそれはありませんわよ」
「……だよね」
「「…………」」
沈黙が落ちた。
僕たちは顔を見合わせる。
……僕がレティシアの胸に親友として触れるのは……あれ?
なんだろう。普通にできそうな気がするんだけど。
レティシアの方も、顎に手を当てて考え込んでる。同じことを考えてるみたいだ。
「そ、それより。防御力の確認だね?」
「そ、そうですわね。じゃあナギさん、わたくしのお腹に触れてみてくださいな」
「わかった。お腹だね?」
「そう、お腹ですわ」
「……じゃあ」
「……はい」
僕はシーツ越しに、レティシアのお腹にふれた。
やわらかかった。
「ひゃあっ!?」
「……あれ?」
防御障壁が、展開されてない?
レティシアのお腹が普通にやわらかくて、レティシアにも僕に触れられた感触があるってことはそういうことだよな。
これは……もしかして。
「も、もしかして、わたくしに魅力がない……ということですの……?」
「いや、それはありえない」
「……え?」
「それはない。それはありえないんだ」
「あ、ありえないって、ナギさん!?」
「まぁ、それはおいといて」
「おいとかないでください! ちゃんと説明なさい!」
「レティシアに魅力がないというのはありえない。聖女さまのアイテムが能力を発揮しないということも考えられない……これはつまり……」
「……あー、ナギさん。もう分析モードに入っちゃってますわね」
「つまりこのアイテムは、『ビキニアーマーを着たレティシアの魅力』を防御力に変換してるんじゃないかな?」
「? どういうことですの?」
「言いにくいいけど……身体をシーツで隠してたら駄目、ということじゃないかな」
「あ……」
レティシアが、ぽん、と手を叩いた。
わかってくれたようだ。
「確かに、偉大なる聖女デリリラさまが作ったアイテムですもの。ビキニアーマーであることにも意味があるはずですわよね……」
「うん。レティシアが聖女さまを信頼してるのはわかった」
「失礼ですわね。ナギさんのことも信頼してますわよ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「おそらく、聖女さまは、わたくしの勇気を試す意味でこのアイテムをくださったのですわね。ナギさんの前で、肌をさらす勇気があるかどうかを。確かに、親友の前で『ビキニアーマー』姿になれないようでは、正義の貴族なんかになれるわけありませんものね」
「いや、その理屈はどうかと」
「……ごらんなさい。これがわたくしの『ビキニアーマー・シールド』ですわ!」
しゅる、と、レティシアがシーツを床に落とした。
ビキニアーマーが、姿を現した。
完璧だった。
ビキニ本体は銀色の金属で出来ていて、肌にふれる部分は、水色のやわらか素材が使われてる。
なんで水色なのかって思ったけど……そうか、ビキニアーマーになったとき、レティシアの髪の色に合わせるためだったのか……。だからレティシア専用なんですね聖女さま。
金属製のパーツは小さめで、胸と腰回りをなんとか隠している状態だ。
各部品を繋いでいるのは細い鎖だから、その下は肌が露出してる。
レティシアが少し身動きするたびに、しゃらん、と、金属のパーツが音を鳴らす。
確かに、魅力を防御力に替えるって意味が、よくわかる。
このビキニアーマーを着たレティシアの魅力を防御力に変換したら、魔法防御つきのフルプレートメイルくらいはあるんじゃないだろうか。
「ど、どうですの」
「う、うん。きれいだと思うよ」
「……そ、そうなんですの?」
「……うん。びっくりした」
「…………」
「…………」
無言のまま見つめ合う僕とレティシア。なんだこれ。
「とりあえず、実験しようか」
「そうですわね」
僕は再び、レティシアのお腹に手を伸ばした。
そのまま指を近づけると──
ばちんっ。
弾かれた。
「「おおおおおおおおおっ!!」」
すごい効果だった。
目をこらすと、確かにレティシアのまわりにうっすらと障壁──半透明の防御フィールドがあるのが見える。
すごいな。聖女さま。こんなものまで作れるんだ。
「確かに、とんでもない防御力だな。これ……」
「ちょっと棒でつついて見てくださいな」
「わかった」
僕は羽根ペンの柄を、レティシアに近づけてみた。
……やっぱり弾かれた。
剣の鞘とか、本の角で突っついてみても弾かれる。
すごい。これが『ビキニアーマー・シールド』の真の能力か……。
「これを使ったら無敵になれるんじゃないかな」
「残念ながら、防御障壁を作るには魔力を消費するようですわ。消費は少ないですけれども、永久にこれだけで戦い続けるというわけにはいきませんわね」
「聖女さまのことだから『ブーストソード』の魔力を『ビキニアーマー・シールド』に使えるんじゃないかな」
「……すごいですわ、ナギさん。確かにそう書いてあります」
「だったら完璧だ。レティシアはこれを着て、正義の貴族として戦うことができるじゃないか」
「そうですわナギさん。わたくしはこの姿で、正義の貴族として人々の前で……」
「…………」
「…………」
僕とレティシアは、ふたたび顔を見合わせた。
それから、軽く天井を見上げて……たぶん、同じことを想像したと思う。
つまり──
──ビキニアーマー姿のレティシアが。
──魔物に襲われている人を救うため、さっそうと登場して。
──『強制礼節』で、魔物の動きを止めて。
──『ブーストソード』で、魔物を倒して。
──貴族らしく礼儀正しくあいさつして。
──さっそうと去って行く。
『ビキニアーマー』姿で。
「無理ですわ────っ!!」
「だよねぇ」
「親友のナギさんの前でも恥ずかしいのに、見ず知らずの人の前で、こんな姿で戦うなんてできるわけありませんわっ! 礼儀作法もあったもんじゃありませんわ──っ!!」
「たぶん、聖女さま。僕の予想を外すことだけ考えてて、他のことが頭から抜けちゃってたんだと思う」
「……聖女さまのせいじゃありません。このアイテムの能力そのものは素晴らしいのです。能力そのものは……」
後ろをむいてしゃがみ込み、ぶつぶつとつぶやきはじめるレティシア。
ほとんど鎖しか見えない背中を見てると、葛藤してるのがよくわかる。
この『ビキニアーマーシールド』は、アイテムとしては最高なんだ。
魅力を防御力に変換してるから、魔力の消費も少ない。防御力は最強だ。
ただ、着て人前に出るのがむちゃくちゃ恥ずかしいだけで。
「…………これは、人のいないクエストで使うことにしますわ」
「……そうだね」
「こんな姿で人前には出られませんもの」
「僕も、その姿のレティシアを、あんまり人には見られなくないかな」
「…………そうなんですの?」
レティシアが振り返る。
僕はうなずいて、
「うん。なんとなく、そんな気がするんだ」
「そうですの……じゃあ、やっぱりこれは、ナギさん以外の人がいない、秘密のクエスト用ですわね」
「そうだね」
「……楽しそうですわね。ナギさん」
「いや、その姿で活躍するレティシアも見てみたいかな、って」
「ふっふーん。楽しみにしてなさいな」
「防御用の障壁についても、もっと実験してみようよ。マントくらいなら着けてても、障壁を張れるかもしれない」
「いいですわね。でも……」
レティシアは恥ずかしそうに胸を押さえて、僕に背中を向けた。
「さ、さすがに今日はそろそろ、限界ですわ。着替えてきます」
それから、説明書を読みながらドアを開けて──
「ふむふむ。さすが聖女さまですわ。この『ビキニアーマー・シールド』は、自動で盾の姿に戻るんですわね」
「自動で?」
「ええ。秘密の呪文を唱えればいいそうです。『わが身をまとう衣よ。円形の姿へと戻れ』──」
ぱきゃん
レティシアの身体から『ビキニアーマー』が外れた。
床の上に落ちた。
がちゃん、がこん
自動で寄り集まって変形して、円形の盾に戻った。
「「…………あ」」
時が止まったみたいだった。
レティシアは僕に白い背中を向けたまま、硬直してる。
やがて──
だだだだだだだだだだっ! ぱたんっ!
廊下を駆け足で、部屋へと戻っていく音がして──
しばらくして、服を着て戻ってきたレティシアは──
「……ナギさん」
「……うん。レティシア」
僕とレティシアは視線を交わした。
さすが親友だ。なんとなくだけど、考えてることがわかる。
「「最初からやり直 (そう)(しましょう)!!」」
それから僕とレティシアは、聖女さまの荷物を開けるところからやり直した。
「これはぶーすとそーどですわ」
「なまえからすると、いりょくがますけんかなー?」
……って感じで、なにごともなかったように。
でも……
「……ナギさん。顔が赤いの、なんとかなりません?」
「……レティシアこそ」
「「…………うぅ」」
お互い、むちゃくちゃ照れてしまうのは、どうにもならなかったのだった。
いつも「チート嫁」をお読みいただき、ありがとうございます!
9月9日にコミック版「チート嫁」の4巻が発売になります。
今回もカバー裏に書き下ろしSSを書いてます。
ナギとアイネ、レティシアの表紙が目印です。ぜひ、読んでみてください。




