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第205話「リタとレティシアによる、高難易度『逃走スキル実験』」

2019.02.02:「真・意識共有」を使うシーンを、一部修正しました。




「それじゃ、わたくしたちも行きますわよ」


「はい。レティシアさま」


 ナギたちが出発した1時間後、リタとレティシアも『港町イルガファ』の家を出た。


「それじゃ起動するわね。『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』!!」


 リタはスキルを起動した。


 じっと手元を見つめながら、扉の鍵を掛ける。そのまま門を閉じ、さらに錠前でロックする。


「このスキルは『動画(どうが)』を撮れるって言ってたけど……これでいいのかな?」


 リタがつぶやくと、目の前にウィンドウが現れた。


 映し出されたのは、真っ白なリタの手だった。それがドアの鍵をかけ、門を錠前でロックするまで、リタが『録画したい』って思った場面がそのまま映し出される。


「……すごい。『動画』って、こういうこと……?」


「どうなりましたの? リタさん」


「うん。私が見た場面が、そのまま残ってるの。家の鍵を掛けて、門をロックするところが。あとはこれを、ナギに送信して、と」


 リタが『動画』を送信すると、すぐにナギのメッセージが帰ってくる。『お疲れさま。確認したよ』と。リタはすぐに『ナギたちも気をつけて』と言葉を返す。すぐにナギから返事がきたから、こっちからもお返事を──


「リタさんリタさん! どうしちゃいましたの!?」


「……はっ」


 リタは我に返った。


 これはいけない。この『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』は危険なスキルだ。


 このスキルで繋がった相手には、会話形式で言葉を送ることができる。動画だって送信できる。


 だけど、忠誠心の高いリタにとっては、会話の切り上げ時がわからない。ご主人様と繋がっている実感がありすぎる。いつまでだってお話ができそうだ。


「……『真・意識共有』を終了……っと」


 リタはスキルを閉じ、ため息をついた。


「とにかく、スキルの実験は成功しました。レティシアさま」


「そ、そう? よかったですわ」


 不思議そうな顔のレティシア。


 彼女は荷物を背中に担ぎ、腰に提げた剣を確認して、それから門の錠前を見た。


「それにしてもすごいスキルですわね。鍵をかけた場面を、そのまま記録できるなんて」


「うん。これで『鍵を掛けたかどうか』気にしなくて済みますから」


「これって、ナギさんとアイネのアイディアなのですわよね?」


「戸締まりしたところ『記録』すれば、心置きなく出かけられるって言ってました。私の方にも『ログ』が残ってるから、気になったらチェックもできるって」


 ナギたちはまだ出発したばかりだから、『真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー』で連絡が取れる。こうしてメッセージと動画のやりとりができる。まるで目の前にいるナギとお話しているみたい。本当にすごいスキルだって思う。


 でも、新たな『意識共有』スキルの最初の使い道が『戸締まりの確認』ってのがナギらしい。そうつぶやいてリタは微笑む。自分はご主人様とこのパーティが大好きだって、再確認するみたいに。


「さてと、では『商業都市メテカル』まで、護衛をお願いしますわね。リタさん」


「お任せください。レティシアさま」


「……あのね、リタさん」


「はい」


「この旅の間だけ、敬語はやめません?」


「……え? でも、私はナギの奴隷で、レティシアさまは貴族ですよね?」


「わたくしはあなたたちのパーティの一員ですわよ。それに、今さら貴族とかどうとか、規格外の皆さまに言われても説得力はないですわ」


「で、でも……」


「そ、それにね……」


 レティシアは頬を赤くして、視線を逸らした。


「わたくしはナギさんと約束をしましたの。『ナギさんたちの最初の子どもの名前は、わたくしにつけさせてください』……って。リタさんも、聞いてますわよね?」


「は、はい!」


 どくん、とリタの心臓が鳴った。


 そのことはずっと前に、『港町イルガファ』にクローディア姫が来た頃、ナギから聞かされている。


 その時はまだ、現実感のない話だった。


 でも……今はもう、違う。いつ、そうなってもおかしくない。


「で、ですからぁ。わ、わたくしが……名付け親になった子どもに……あなたのお母さんを、奴隷扱いしていました……なんて、言いたくないのですわ。ちゃんと対等で……あったと…………そういうふうに言いたいのです」


「…………は、はい……じゃなかった……うん」


 リタとレティシアは真っ赤になってうつむく。


 ふたりとも、心臓がどくん、どくん、と高鳴っているのを感じていた。


 おかしい。なにかがおかしい。


 これから旅に出るというのに、どうしてこんな雰囲気になっているのだろう……。


「…………というわけで、旅の間は……」


「…………う、うん。敬語はなし、ってことね。レティシア」


「「…………ふぅ」」


 リタとレティシアは長いため息をついた。


「な、なんだかおかしな空気になってしまいましたわね。行きましょう、リタさん」


「そうね。今日のうちに次の町に着かないと、だもんね」


 ふたりは顔を見合わせて、それから、思わず噴き出した。


 そして港町から街道へ向かい──


 リタとレティシアは『商業都市メテカル』をめざして、旅をはじめたのだった。








「さてと、メテカルに着く前に、やっておくことがありますわね」


「ナギからもらった『逃走スキル』の実験ね」


 レティシアとリタは、自分の中にあるスキルを呼び出した。


「わたくしがもらったのは『快速育成(かいそくいくせい)LV1』ですわ」




『快速育成LV1』


『植物』を『すばやく』『育てる』スキル




 植物に魔力を送り込むことで、一時的に成長を早めることができる。


 対象の植物は、一定時間が過ぎると元の状態に戻る。




「障害物を作ることができるわけですから、逃走には便利ですわね」


「私のは、ちょっとわかりにくいかな?」




華麗逃走(かれいとうそう)LV1』


『危険な状況』から『きれい』に『逃げる』スキル




 逃走のための、最適なルートを表示することができる。


 レベルが上がると所要時間や天気、乗り換え案内も追加される。




「……確かに、よくわかりませんわね」


「でも、ナギがくれたものだもんね。使ってみればわかるわよ」


「そうですわね。魔物が出てくれば……」






『ピギャアアア!!』






 レティシアがそうつぶやいた瞬間、森から魔物が飛び出してきた。


 角の生えた大ウサギたち──『ホーンドラビット』だった。


『ピギャアア!!』『グアアア!』『グガアアア!』


「「…………はぁ」」


 リタとレティシアはため息をついた。


『ピッギャ?』


「ピッギャ……じゃないわよ。まったく」


「あなた方が相手では、逃走スキルの練習になりませんわ」


「走れば逃げられるもんね……」


「戦ったら勝てちゃいますもの。まったく。どうしてこんな時に出てくるんですの?」


『ピギャ?』『グギャ?』『ギギギギッ?』


「……え? なにか悪いことした?」って感じで、『ホーンドラビット』たちは顔を見合わせた。


 それから、互いにうなずき合って──


『『『ピギャアア────ッ!』』』


 角を突き出し、リタとレティシアに襲いかかった!




「必殺! 『回転盾撃(シールドスクランブル)』!!」


(つの)なんか通じないわよ! 『神聖力掌握しんせいりょくしょうあく』!!」






『『『ピィギィアアアアアアアア────!!』』』






 街道に『ホーンドラビット』たちの断末魔(だんまつま)が響きわたった。










「……練習になりませんでしたね」


「……仕方ありませんわ。次に期待しましょう」






『グゥオオオオオアアアアア!!』






『ブラックハウンド』があらわれた!!






『ブラックハウンド』


 犬に似た肉食獣。サイズは3メートル弱。


 武器は牙と、高速移動による体当たり。


 かなりの強いので、初心者は戦闘を避けた方がいい。





「レティシア! 強敵が来たわ!」


「街道の旅人を襲う、邪悪な猟犬(りょうけん)ですわね。足も速いですし、『逃走スキル』の実験にはちょうどいいですわ」


「…………」


「…………」


「あの、私、思うんだけど」


「たぶん、わたくしも同じことを考えてると思いますわ」


「ここで『ブラックハウンド』から逃げたら、こいつ、別の人を襲うわよね」


「ですわね。正義の貴族を目指すわたくしとしては、放置できませんわ」


 リタは(こぶし)を、レティシアは剣を握りしめた。


『グォ? グガ? グガガガ?』


「「せーの!」」








『グギャ──────ッ!!』






 街道に『ブラックハウンド』の断末魔(だんまつま)が響きわたった。








「……リタさん。わたくし、『逃走スキル実験』の根本的な欠陥(けっかん)に気づきましたわ」


「……私も」


 レティシアとリタは肩を落として、街道を歩き続けていた。


 2回の戦闘で気づいた欠陥とは──


「弱すぎる魔物だと簡単に逃げられるから、『逃走スキル』の実験にならないんですわ」


「かといって、私たちが逃げられない強敵なんか、放置できないもんね……」


「「……はぁ」」


 弱い魔物相手なら、リタとレティシアは簡単に逃げられる。


 強い魔物相手に逃げたら、その魔物は別の人を襲うかもしれない。


 つまり、どちらにしても『逃走スキル』の実験はできないのだ。


「……どうしようレティシア。いざというとき、ぶっつけ本番で『逃走スキル』を使うのは、危険すぎるわよね」


「……なにかいい方法があればいいのですけれど」


 2人がそうつぶやいたとき──








「魔物だ──! た、たすけてくれ────っ!!」






 街道の前方から、叫び声が聞こえた。


「レティシア!!」「リタさん!!」


 リタとレティシアは同時に走り出す。


 先に、声の主を見つけたのはリタだった。獣人の聴覚(ちょうかく)嗅覚(きゅうかく)が、前方で起きていることを教えてくれる。


 街道の先に、荷物を載せた馬車が走っていた。


 左右には護衛の冒険者。だが、傷を負っている。街道脇から、魔物が襲って来ているからだ。


『グゥオオオオ!』『ギギャッ!!』


「『ブラックハウンド』の背に──ゴブリンが乗ってる!?」


「魔物同士の連携──やっかいですわね。リタさん」


 さっき倒した『ブラックハウンド』は、奴らの仲間だったのだろう。


 黒い猟犬にまたがったゴブリンたちは、冒険者たちに向かって剣を振り回している。


『ブラックハウンド』の動きは速い。応戦する冒険者の剣をたくみに避け、ヒットアンドアウェイを繰り返している。そのたびに冒険者たちは傷を負っていく。このままでは長くは保たない。そう思ったリタは、走る速度を上げた。


「レティシア! 『強制礼節(マナーギアス)』を!」


「だめですわ! あれは向こうがこっちを見ていないと。それに、距離がありすぎます!!」


「わかった。私はゴブリンたちを足止めするから、その後でスキルを使って!」


「わかりましたわ!!」


 レティシアの返事を聞きながら、リタはさらに速度を上げる。馬車を追う『ゴブリン』と『ブラックハウンド』に並ぶ。その横腹に問答無用で──


「てえええええいっ!!」


『ギギャ!?』


 がいいんっ!


 リタの蹴りを、ゴブリンの剣が受け止めた。


「やるわね……こいつ『達人ゴブリン』か」


『達人ゴブリン』はゴブリンの上位種だ。騎乗や剣術スキルに長けている。


 敵は4匹。すぐに倒すのは無理──そう判断して、リタは右側の2匹に回し蹴り。1匹の腕をへし折り、もう1匹の剣を飛ばす。そのまま速度を上げ、リタは御者に話しかける。


「こっちは通りすがりの冒険者よ! ここは私たちは防ぐから、とにかく距離を取って!」


「あ、ああ。だが、奴らは予想外に速いんだ。この馬車では逃げ切れない!」


 御者は涙目で叫び返す。


「……だったら──起動! 『華麗逃走(かれいとうそう)LV1』!!」


 リタは『逃走スキル』を起動した。


 彼女の視界に、半透明の矢印が映し出された。


 矢印は、目の前の地面と重なっている。色も、太さもそれぞれ違う。


 よく見ると矢印の上には『速度上昇率』って書いてある。一番速いのが、街道の右端に沿った矢印だ。そこが一番地面が安定していて、雑草も、道のでこぼこも少ない。


(きれいに逃げるって……こういうこと!?)


 リタは即座に理解する。


華麗逃走(かれいとうそう)』は道の状態などを計算して、最も速度がでるラインを示してくれるスキルだ。たぶん、獣人のするどい五感を利用して、地面の状態を分析しているのだろう。さすがご主人様のくれた『逃走スキル』──心の中でナギに感謝しながら、リタは御者に指示を出す。


「街道の一番右を走って! 道の端から、だいたい2歩分くらい内側よ! そこの路面が一番走りやすいわ!」


「な、なんだそれは!?」


「いいから速く!」


「わ、わかった……って、うわあああああああっ!!」


 リタの指示に従った馬車が──急加速した。


「な、なんだこれは! 速い! 揺れない! 車輪が路面に吸い付くようだ!! これはわあああああっ!!?」


「そのまま5分走ったら、内側に3歩分移動して! それで距離は稼げるはずよ!!」


「わかったあああああああっ!!」


 馬車はあっという間に遠ざかっていく。


 それを見送って、リタは『ゴブリン』『ブラックハウンド』のコンビに立ち向かう。


「ていっ! ていていていっ!!」


『ゴギャっ!?』『グガアアアっ!!』


 傷ついた冒険者たちをかばいながら、素早く攻撃を加えていく。


『ブラックハウンド』とは、さっき戦ったばかりだ。攻撃パターンは覚えている。その上、こいつらは背中に『達人ゴブリン』を乗せている分だけ動きが遅い。リタの動きを捉えることもできない。


「『ブラックハウンド』と『達人ゴブリン』──高速で移動する魔物を、翻弄(ほんろう)しているだと!?」 


「……な、なんてすごい動きだ」


「……『ブラックハウンド』を素手で……?」


(…………いけないいけない)


 目立ちすぎるわけにはいかない。ここは距離を取った方がいいかな。


 そう思ったリタは、再び『華麗逃走(かれいとうそう)』を起動した。


 魔物たちに背を向け、そのまま街道を走り出した──けれど、


「──なにこれ。速っ!!」


 地面に描かれた矢印は、最適のコースを示している。地面はやさしくリタの足を受け止め、かつ、十分な弾力で押し返してくる。まるでリタだけのために整地されているかのように。


『────ゴギャ──っ!!』『ブォオオオオオオ!!』


「くやしかったら追いかけてきなさい!! 魔物たち!!」


 背後で叫ぶ『ゴブリン』と『ブラックハウンド』に向かって挑発。


 後ろを向いて走っても、まだリタの方が速い。追いつかれる気がしない。


 それでも4組の『ゴブリン』&『ブラックハウンド』は、まっすぐにリタを追いかけてくる。冒険者たちからは十分引き離した。チートスキルを使っても、ごまかせるくらいの距離に。


 リタは前方に目を向ける。


 前方。街道の脇にあるくさむらに、不自然なくらいに伸びた場所がある。


 あれはたぶん『促成育成』で、すばやく成長させたくさむらだ。


 だったら──彼女は(・・・)そこで(・・・)待ち伏せ(・・・・)しているはず(・・・・・・)


「お願い! レティシア!!」


 リタは地面を蹴った。


神聖力掌握しんせいりょくしょうあく』で強化したジャンプ力で、一気に空中へと舞い上がる。


 次の瞬間、街道脇のくさむらを、銀色の長剣が切り払った。


「こちらですわ魔物ども! わたくしを見なさい!!」




『『『グギャ!?』』』




 草が舞う。魔物たちが一斉に視線を向ける。


 その先にいたのは、剣を収めて、礼儀正しく背筋を伸ばした少女の姿。




「発動! 『強制礼節(マナー・ギアス)』!! 騎乗(きじょう)したままのあいさつは許しません! こんにちは! レティシア=ミルフェですわ!!」




 ずしゃあああ────っ!




『ブラックハウンド』が急停止した。


 がくん、と身体を揺さぶられながら、『達人ゴブリン』たちが『ブラックハウンド』の背中から降りる。


 そして──




『グギャ』『グォォ?』『グググ』『ギギギィ!!』『グギャ────っ!!』




 主人と乗騎(じょうき)はきれいに整列して、お辞儀(じぎ)を返した。






「今よ! 発動『分身攻撃エクステンド・アーミィ』!!」






 そこに、3人に分身したリタの跳び蹴りが降ってきて────








『『『『『『『『ギィアアアアアアアアアア────ッ!!』』』』』』』』








 街道に、魔物の断末魔(だんまつま)のコーラスが響き渡ったのだった。










「……なんとか、『逃走スキル』の実験ができたわね」


「……便利なのはわかりましたわ」


 あの後、傷ついた冒険者たちを馬車と合流させて、お礼をされて、使ったスキルのことは、適当にごまかして──


 リタとレティシアは、再び街道を進みはじめた。


「冒険者の方からも、情報が聞けたものね」


「あんな強敵は見たことがない、でしたわね。確かに『ブラックハウンド』と『達人ゴブリン』の組み合わせなど、聞いたことがありませんもの」


「魔物が魔物に乗るなんてね……『騎乗(きじょう)する魔物』か……。ナギだったら、魔物が進化してる、なんて言うのかもしれないわね」


 やはり、異常なことが起きているのかもしれない。


 複雑な表情のまま、リタとレティシアは並んで歩き続ける。


 ここまでの旅の間で、十分な成果はあった。


 困った人を助けることもできた。


華麗逃走(かれいとうそう)』と『促成育成(そくせいいくせい)』の実験もできた。


『華麗逃走』があれば、いつもより『きれいな』ライン取りで敵から逃げることができる。


『促成育成』で、素早く植物を育てれば、そこに身を隠すことができる。


 ふたつとも、とても便利なスキルだった。


「でも……これって」


「どう考えても……『逃走スキル』というより」




「「凶悪(きょうあく)な『待ち伏せ(アンブッシュ)スキル』(よね)(ですわ)!!」」




 リタとレティシアの声が重なった。


『華麗逃走』で距離を取り、体勢を立て直したところで『促成育成』した植物の陰から攻撃。


 それは完璧な『待ち伏せ(アンブッシュ)コンボ』だった。


 このコンボが決まるなら、ぶっちゃけ、逃げる必要なんかない。


 だからこれは『逃走スキル』ではなく、『逃げたふりして待ち伏せスキル』なのだった。


「……どうしてナギさんってば、こんな桁外(けたはず)れに強力なスキルばっかり……」


「しょうがないじゃない。だってナギだもん」


達観(たっかん)しすぎですわ!」


「……ナギのことだったら、私は全部受け止めるつもり」


 リタは胸を押さえて、つぶやいた。


「ナギの作ってくれたスキルも、ナギが強くしてくれた私のことも、なにもかも、ね。私はもう、ナギと一緒に生きるって決めたんだもん。『逃走スキル』だろうと『待ち伏せ(アンブッシュ)スキル』だろうと、ナギを守るのに役立つならそれでいいんだもん!」


「……時々、わたくしはあなたたちがうらやましくなりますわ」


 まぶしいものを見るように目を細め、レティシアは笑った。


「そこまでナギさんを愛せること、信じられること……そういう想いをいだけることこそが……本当の幸せかもしれませんわね」


「レティシアだっていつかどこかで、そういう気持ちになる時が来るわよ。きっとね」


「い、いえ、わたくしとナギさんは親友ですもの。そ、そういう関係になるとは限りませんわ!」


「……え?」


「え?」


「「…………」」


「あ、ああ、そうですわね。わ、わわわ、わたくしにも、あなたにとってのナギさんのような方が見つかるって意味ですわよね? わかってます! ええ、わかってますとも!!」


「…………レティシア」


「わ、わわわわわっ! 失言ですわ! 忘れなさい! お願いですから忘れてくださいな!」


「あ、ちょうどナギからメッセージが来たわ。『本家勇者』と『元祖勇者』──ふむふむ」


「へ、変な返信をしたら許しませんわよ! リタさん、聞いてますの!?」


「わかってる。こういう話をするのは、アイネの方がいいもんね」


「絶対だめですからねっ。リタさん! ちょっと、話を聞きなさいな──っ!!」


 顔を真っ赤にしたレティシアは、リタを押さえようと手を伸ばす。


 リタはそれをするりとかわして、小走りで街道を進んでいく。


 こうして、リタとレティシアの『逃走スキル』実験は終わり──




 ふたりは『商業都市メテカル』を目指して、旅を続けるのだった。






・今回使用したスキル


華麗逃走(かれいとうそう)LV1』


 危険な相手から「きれいなコースで」逃げることができるスキル。

 使用すると視界に矢印が浮かび上がり、最もすばやく移動できるコース (ライン取り)を教えてくれる。体感的にはかなりスピードが上がるが、スキル自体が低レベルのため、速度上昇率は10%から20%程度。それでも、時速25キロが30キロになると考えると、かなり速い。


 なお、レースゲームをしながらこのスキルを起動すると、CPU顔負けの最速コースで走れるようになります。対戦で使うと間違いなくケンカになるので、気をつけましょう。



促成育成(そくせいいくせい)LV1』


 自分の周囲にある植物を、すばやく成長させることができるスキル。

 レティシアが所有。今回はまわりの草を伸ばして、身を隠すのに使っている。植物があるところならどこでも使えるので『隠密(ハイディング)スキル』としてはとても優秀。レベルが上がると成長率・効果範囲とも上昇する。なので、どんどん草を成長させてその上を飛ぶ『忍者ごっこ』にも使える。


 ただ、あくまでも対象の植物を一時的に成長させているだけなので、伸びた部分を食べても栄養にはならない。また、一定時間で元に戻ってしまうので、成長した植物に隠れて着替えたり、水浴びしたりするのはおすすめしません。万一のこともあるので「こっち見ないで」と伝えてからにしましょう。



いつも『チート嫁』を読んでいただき、ありがとうございます!


『チート嫁』書籍版は2月9日発売です。ドレス姿のレティシアとセシルが目印です(表紙はのちほど『活動報告』にもアップする予定です)。ナギとアイネが目印の『チート嫁』コミック版3巻は2月8日に発売となります。

「なろう」版と合わせて、こちらもよろしくお願いします!

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新作、はじめました。

「弱者と呼ばれて帝国を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました 
−魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大国に進化させます−」

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魔王の領土に追放された錬金術師の少年が
なんでも作れる『創造錬金術師(オーバー・アルケミスト)』に覚醒して、
異世界のアイテムで魔王領を大国にしていくお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
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