冒涜的神話体系。
それは、神殺しの刃だった。
虫の鳴き声。
疑似的平面に広がった星々。
爽やかな風と共に摩擦の音が走っていく。
初夏のある夏。
彼は木々生い茂る山頂で、天球儀の様な空を見上げながら、その刃を見つけた。
他に誰も居ない。
獣の気配がする。
碧い夜空が彼を包み込む。
ならば、彼はこれから殺しに行くのか。
神を、殺しに行くのか。
けれど彼は、無神論者だった。
彼は、その内に神を持たなかった。
彼は山を降りる。
舗装された混凝土の車道。
点滅する旧型の信号機。
擦れた横断歩道。
彷徨って彼は、小さな神社に辿りつく。
これが、神殺しの刃なら。
そうだと云うのなら、土着の八百万は、彼の前に平伏するのか?
白いシャツに、じわりと血赤色の斑点。
御神体に、そっと柔に突き立てた刃。
―――どくん。
確かに一つの拍動の後、社は崩壊した。
瓦礫の中に立ち竦む彼。
掌に伝わる感触を、忘れる事は出来ない。
つん、と焦げた匂い。
神を焼いた匂い。
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彼はその後三年掛けて、神々を屠った。
八百万は七百万になり、何れ一になった。
やがて彼は海を渡る。
大陸には、多くの神が居た。
その後十年掛けて、彼は神々を屠った。
気が付くと辺りは純白で覆われ、其処には何も無かった。
出来ない事は何もない。
一つ上の物理法則が適当されて、世界は崩壊した。
地球が電子。電子が地球。
無限の宇宙は微小の区間に無限分割されて、
私達は漸く、人間になった。
/
彼女は無心で夜道を歩く。
やがて彼女は獣道へと足を踏み入れた。
辿りついたのは、道も無き山頂。
蒼い月夜に移された白い相貌。
彼女は、神殺しの刃を手に取った。