733 『ワンダースリー』の里帰り 6
アース・ネイルによって少し手傷を負わせ、突進の勢いと戦意が低下し。
アース・ジャベリンが1頭の肩に刺さり。
モレンの対魔貫通弾が他の1頭の腹を貫き。
……そして後方から放たれた魔力弾が更に別の1頭の胸を穿ち、焦がした。
「「「「「あ……」」」」」
忘れていた。
重大な危機に際して、ついうっかりと、ここにいるのはいつものメンバーである7人だけだと考えていた。
しかし、今ここには、あの、女神に愛されし少女達が。絶対防衛戦の英雄達の一角である、『ワンダースリー』がいる。
これで、少なくとも王国の至宝、国の未来の護り手であるモレーナ王女の身は安泰である。
……ならば、何の不安も心配もありはしない。
後はただ、己の力の全てを眼前の敵に叩き付けるのみ!
「「「うおおおおおぉ〜〜!!」」」
「ファイアー・ランス!!」
「エア・カッター!!」
詠唱を進めていた魔術師組が、攻撃魔法の第2弾を放った。
片方は、森の中であるにも関わらず、火魔法である。
森林火災発生の危険よりモレーナ王女の生存の方を重視したのか、己が使える中で最も威力の大きな攻撃魔法を使用したようである。
もしかすると、隠れ護衛の存在を知っているため、火災になってもその中の魔術師が水魔法で消火してくれるであろうと考えてのことかもしれない。
……とにかく、後方から攻撃魔法が飛来するより早く詠唱を開始していたため、その魔法を放つしかなかったわけであるが、次の魔法は『ワンダースリー』の援護を前提としたものにすることができる。
5頭のうち、モレンと『ワンダースリー』からの攻撃を受けた2頭は、倒れ伏している。
残り、3頭。
魔術師ふたりからの攻撃は、効いてはいるが、大きな効果ではない。
ならば、近接戦による物理攻撃あるのみ!
前衛の3人がオーガに斬り掛かったが、硬い外皮と分厚い筋肉の層に阻まれ、更に太い両腕で弱点が守られるため、こちらもあまり効いている様子はない。
下手に近付くと腕の一振りで致命傷を喰らうため、連続的な攻撃を加えることもできない。
そして持久戦は、人間側が不利である。
……しかし、何の問題もない。
「魔力弾!」
「対魔貫通弾!!」
今度は完全無詠唱のマルセラの方が僅かに早く、それに続いてモレンの魔法が放たれて、再び2頭のオーガが地に沈む。
……残り1頭。
こうなればもう、タコ殴りである。
前衛3人の物理攻撃と、魔法組ふたりの単体攻撃魔法撃ちまくり。
詠唱時間があるため連射とは言えないが、それでも剣で滅多打ちの合間に撃ち込まれ続ける攻撃魔法は、徐々にオーガの抵抗力を奪っていった。
物理攻撃には、もうモレンに張り付いて護衛をする必要がなくなった女性騎士、レセルも加わっている。
7人の中で、自分だけがまだオーガへの攻撃に参加していなかったのである。それは、自分も参加したいであろう。
後方は『ワンダースリー』が護ってくれているので、モレンが後ろから別の魔物に襲われる心配はない。
それに、レセルは更に後方にいる隠れ護衛が大慌てで距離を詰めていることを知っているので、何の問題もなかった。
さすがに、後方に『ワンダースリー』と隠れ護衛達がいなければ、レセルはモレンの側を離れることなど決してなかったであろう。
そして数十秒後、最後の1頭も大地に沈んだのであった……。
その時には既に隠れ護衛は到着していたが、モレン以外の6人で1頭のオーガをタコ殴りにしている場面を目にすると同時に大木の後ろに隠れ、モレン達に気付かれないようにしていた。
『ワンダースリー』からは位置的に丸見えであったが、モレンにさえ見つからなければそれでいいようである。
他の者達にはモレンの正体は周知のことであり、隠れ護衛が付いていることが知られたところで、どうということはないらしい。
自分の正体がバレていないつもりのモレン本人にさえ見つからなければいい。どうも、そのような様子である。
そんな隠れ護衛であるが、今回もモレーナ王女に見つかりバレることなく済んだのは良いことなのであろうが、王女殿下の危機に颯爽と現れて大活躍、という、隠れ護衛が夢見る憧れのシーンがお流れになったことには、少し、……いや、かなりガッカリしているようである。
「……モレンさん……」
「え? あ、マルセラちゃん……」
タコ殴りには加わっていない『ワンダースリー』が近寄り、同じく万一に備えて攻撃魔法をホールドしたまま皆によるタコ殴りを眺めていたモレンに話し掛けた。
今は王女ではなく『新米ハンター』なので、年下であるマルセラを『ちゃん』呼びするモレンと、様付けで呼ぶわけにはいかないため、モレンを『さん』呼びするマルセラ。
マルセラ達は身分を偽っているわけではないので、逆に、救国の英雄達の一角であり女神の御寵愛を受けている『ワンダースリー』を様呼びするのはおかしくないが、モレン……モレーナ王女にそんな呼び方をされては、マルセラ達が落ち着けないであろう。
「前に言っていましたよね、『特製の収納魔法の中に、常に1個分隊、9人の護衛兵士が入っている』と……。どうしてそれを出さなかったのですか?」
そう。その護衛達のことを知っていれば、必ず疑問に思うであろう。
そして、モレンが兵士達を出さなかった理由を確認しなければ、モレンの安全に関して正しい評価を行うことができない。
これは、『ワンダースリー』にとって、絶対に確認しておかねばならないことであった。
「……そのことですか……。
勿論、『慌てていて、忘れていた』というようなことはありませんわ。
9人の護衛兵士。大規模な戦場においては僅かな戦力ですが、王都内における個人用の護衛としては、かなりの戦力ですわね。
……但し、町のチンピラやゴロツキ達を相手にする場合は、ですけれど……」
「……」
モレンの話を、黙って聞いているマルセラ。
「兵士達は、ハンターと違って対人戦闘を専門としています。
遠出する要人の護衛もありますから、魔物との戦い方を学んでいる者もおりますが、全員ではありませんし、それはあくまでも『魔物とも戦える』ということであって、ハンターのようにそれが本職だというわけではないのです。
戦う場所も、草木が密集しており足場が悪い場所は得手ではないでしょう。
そんな者達を、事前説明もなくいきなり5頭のオーガの前に出したりすると……」
「「あ……」」
モレンの説明に、驚きの声を漏らすモニカとオリアーナ。
……いや、説明の内容に驚いたというわけではない。その話は、充分に理解できることである。
ふたりが驚いたのは、モレンが『それでも、少しでも戦力を増強するために兵士達を取り出す』という選択をせず、自分のせいで兵士達に危険が及ぶのを避けようとした、ということに対してであった。
王女が、護衛兵士の身を案じて、自分を護るべき戦いから遠ざける。
……本末転倒。それでは、護衛がいる意味がない。
ひとりの二等兵を助けるために、将軍が我が身を犠牲にするのと同じである。
美談のように見えるが、以後のことを考えると、完全なる悪手、自己満足に過ぎない。
より重要度が高い者を護るのが、鉄則。そのための護衛なのである。
「何ですか、それはっ!」
……珍しい。
本当に、珍しい。
あのマルセラが声を荒らげる。それも、王女殿下に対して……。
余程、お怒りのようであった。




