731 『ワンダースリー』の里帰り 4
(ゴブリンかコボルトらしきもの3匹、急速接近中……)
短間隔で発振している探索魔法で探知した情報を、モニカとオリアーナにだけこっそりと伝える、マルセラ。
怪我人が出ないよう、いつでも援護できる態勢は整えておくが、その情報を他の者達に伝えることはしない。
早期に探知情報を伝えてしまうと、皆の対処能力が確認できなくなるので……。
ゴブリンやコボルトの3匹や4匹、『ワンダースリー』を除いた7人で楽々対処できるはずである。
向こうの倍以上の人数がいてこの程度の魔物に手こずるようでは、お話にならない。
それに、ちゃんと事前に『私達抜きで問題ない相手の時は、手出ししない』と伝えてある。
こちらが5人組に対して『モレンを託すのに問題のない者達か』ということを確認しようとしていることは分かっているであろうし、逆に、向こうが『ワンダースリー』の実力を確認しようだなどという不敬な考えは持っているはずがない。
あの、対異次元世界侵略者絶対防衛戦の英雄の、何を確認しようというのか……。
それくらいのことは、マルセラ達にも理解できている。
そして、しばらく経って……。
「魔物だ! 中目標、脅威度Eが複数!」
はっきりとした声でしっかりと、しかし声量は抑えて皆に伝える、先頭を歩いているリーダー。
(探索魔法なしでこの距離で発見できるなら、探索能力としてはCランク相当ですわね)
(はい。特に問題はありませんね。
向こうに先に発見されてこちらに近付かれているようですけど、探索魔法なしで魔物や野獣より先に相手を発見するのは不可能ですからねえ……)
マルセラとモニカの言葉に、こくりと頷くオリアーナ。
今の陣形は、5人組の男性陣がリーダーを先頭にした三角形で索敵と前衛、その後ろに女性ふたりがモレンの左右を守るように位置取りし、その後ろに剣士の少女が付いている。後方からの物理攻撃を引き受けるポジションなのであろう。
そして『ワンダースリー』は、その剣士の少女の少し後ろに、3人固まって付いている。
これがひとつのパーティであれば、こんな陣形にはしないであろう。
しかし、今回は『いつもの7人』がいつもの通りに行動し、『ワンダースリー』は手出しせずにそれを見学する、ということになっているため、7人だけのつもりで陣形を組み、『ワンダースリー』はその後ろに付いていくだけ、というわけである。
「ゴブリン3、こっちに向かってる、俺達を襲うつもりだ。
こっちの人数を把握していないな。魔法で先制攻撃、その後前衛が各自1匹ずつ担当して迎え撃て。後衛は伏兵に備えつつ魔術師の護衛、前衛が危なくなればフォロー!」
「「「「「「了解!」」」」」」
敵に発見されていることが確定したため、もう声を潜める必要はない。
しかし、向こうがこちらの人数を少なく見積もっているなら、油断させるためにも、人数が多いと知られるような愚行は避けるべきである。
なので、返事は短く、しっかりとした発音ではあるが、声量は抑えて。
「アイス・ニードル!」
「アース・スピアー!」
リーダーの指示を待つことなく、ゴブリンを視認すると同時に、既に詠唱を終えてホールドしていた攻撃魔法を放つ、ふたりの女性。
ひとりは、低威力であるが広範囲を攻撃できる、たくさんの小さな氷の針を放った。
そしてもうひとりは、土を固めて形成された槍状のものを発射した。
森の中では火系統の魔法はあまり使うべきではないため、余程の必要性に迫られない限り、避けられる。
アイス・ニードルはゴブリン達を怯ませ、一瞬立ち止まらせたが、大きな効果はない。
しかし、立ち止まったゴブリンの左肩に固い土の槍が命中し、貫通するほどの威力はなかったものの、大きく戦闘力を削いだ。
それを確認してから、モレンがホールドしていた攻撃魔法を放つ。
「ストーン・アロー!」
アース・スピアが当たったのとは別のゴブリンの腹に石の矢が命中し、信じられない、というような驚愕の表情で自分の腹に刺さった石の矢をまじまじと見詰め、矢を抜こうとしたのか、矢を握り、……その場に頽れた。
抜こうとしても、鏃の部分には返しが付いており、簡単には引き抜けないのであるが、そもそも引き抜くだけの力が残っていなかったようである。
一般的に、鏃に返しが付いているのは狩猟用であり、戦争用のものには付いていない場合が多いようであるが、その場で魔法により創り出す場合には、製作工程が多くて作るのに時間とお金が掛かるとか、たくさん持ち運んだり矢筒から素早く取り出したりするのに邪魔になるとかいうデメリットがないため、付けているのであろう。
その方が抜きにくく、無理に引き抜こうとすると傷が大きくなって、より大きなダメージが与えられる。
そして、まだ戦闘力を維持しているゴブリン2匹に向かって、前衛の男性陣3人が両手剣や片手剣で襲い掛かった。
……瞬殺。
元々、ゴブリン程度は同数のDランク以上のパーティにとっては大した脅威ではない。
しかも、奇襲されたわけでもなく、攻撃魔法の使い手が3人もいて、更に人数が『ワンダースリー』を抜いても相手の2倍以上。
これで苦戦するようでは、Eランク以下である。
(実力を見られるような相手ではありませんでしたわね)
小声でのマルセラの呟きに、こくりと頷くモニカとオリアーナ。
(次は、複数のオークかオーガが出てくれるといいのですけど……)
複数のオークかオーガ、といっても、幅が広すぎる。
オーク2頭とかであれば、この7人であれば問題ないであろう。
……しかし、オーガが4~5頭とかになると、無理ゲーである。
オークやオーガ相手だと、ゴブリンに対してはそれなりに効果があったアイス・ニードルも牽制程度の役にしか立たないであろうし、ロック・スピアー、それも高威力で回転でもしていればともかく、いくら固いとはいえ土を固めただけのアース・スピアでは大した効果は期待できないであろう。
まあ、先程は相手がゴブリンだから低威力の攻撃魔法を選択しただけで、もっと強力な攻撃魔法を使えるのかもしれない。
魔力温存のため、ネズミに向かって大砲を撃つというような馬鹿な真似をせず、ゴブリンに合わせた魔法を使い、前衛職の出番も作ってあげるという心遣いを見せただけである可能性もある。
ゴブリンは素材として使えるような部位はないし、肉も食べられない。
別に毒があるわけではないが、ゴブリンを食べるような人間はいないのである。
まあ、魔物や野獣を飼っている物好きな者が餌用に買ってくれるという確率はゼロではないが、そんな者は滅多にいないし、そもそも王都の町中でそんなものを飼うことはできない。
特定区域の間引きや駆除の依頼を受けたわけではないので、討伐証明部位を持ち帰っても意味がない。
ゴブリンをこのままにしておくと他の魔物の餌になってしまうが、それを阻止するために埋めたり燃やしたりするのに使う魔力も時間も惜しい。
なので、ゴブリンの死体はそのまま放置して先へと進む、一行。
討伐報酬対象区域以外でのゴブリン狩りは、自分達の身を守るということ以外は、ボランティア同然なのである。
そのため、こんな場所で自分達に向かってくるもの以外のゴブリンを狩るのは、お人好しで余裕のあるパーティか、お遊びや憂さ晴らし、もしくは若手の訓練くらいである。
同じ脅威度Eの中目標でも、コボルトであれば、毛皮が売れるし、肉も少し固いとはいえ売れなくはないし、孤児院に寄付したりスラムや河原で暮らしている連中にあげれば大喜びされるのであるが……。
まあ、ゴブリンは獲物としては外れである。
(……さて、次は何が出てくるでしょうか……)
この辺りでは、あまり高ランクの魔物は出ないはずである。
しかし、『高ランクの魔物は住んでいない、小さな森』というのと、『高ランクの魔物は滅多に出ない、大きな森の外縁部』というのは、違う。
……そしてここは、後者である。
『いない』というのと『滅多に出ない』というのは、危険度が全く違うのである。
『滅多に出ない』ということは、……つまり、『たまには出る』ということであった。
そしてマルセラ達には、少し心配なことがあった。
(……モレンさん達、私達に良いところを見せようなどとお考えになって、調子に乗ったり無理をしたりされなければ良いのですけど……)
『ポーション頼みで生き延びます!』書籍12巻、3月2日、刊行予定です。
よろしくお願いいたします!(^^)/
そして来週は、私の誕生日があったり、確定申告があったり、通院があったり、書籍化作業があったりするので、「なろう」更新を1回お休みさせていただきます。(^^ゞ




