730 『ワンダースリー』の里帰り 3
「あれ、モレンちゃん、どうかしたの?」
「あ、皆様……」
『ワンダースリー』と言い合っているモレンに後ろから声を掛けたのは、いつもモレンと臨時パーティを組んでくれる、あの若手パーティであった。
今日も、モレンと一緒に活動すべく待ち合わせをしていたのであろう。
「いえ、私が所属しておりますパーティが戻ってきたというのに、私に声を掛けずに依頼を受けようとしているみたいでしたから、少し苦言を……」
パーティ名を明言することを避けたモレンであるが、『ワンダースリー』を知らないハンターなど、この大陸にはいない。
「「「「「あ~……」」」」」
それは、無理もない。
Cランクパーティである『ワンダースリー』が依頼を受けるとなれば、それなりの難度のものであろう。いくらDランクになったとはいえ、モレンが同行するのは厳しいかもしれない。
そして何より、一国の王女殿下のところへ『ひと狩りいこうぜ!』と誘いに行くことなど、できるはずがなかった。
『ワンダースリー』の知名度と、ハンター資格を維持しているとはいえその本職がモレーナ王女の護衛である女性近衛分隊であると知っていても、そう判断するのが当然であった。
……つまりそれは……。
(((((モレーナ王女の苦言の方が、無茶だ……)))))
そう。『ワンダースリー』が王宮に、王女を誘いに行けるわけがない。
しかし、モレンが王女殿下であることを知らないことになっているため、それを指摘するわけにはいかない。
なので、『ワンダースリー』を擁護する発言を行うことはできないのである。
そのため、何も言うことができない5人であった。
「……あ、そうですわ! 今日はみんなで一緒にやりませんか? 通常依頼は受けずに、常時依頼や採取とかで自由に……」
「あ、いいね! それなら特定の魔物を探すために行動が縛られることも、ノルマに追われることもないから、のんびりと自由にやれるからね」
モレンの提案に飛び付いた、5人組のリーダー。
この王都、この国、……いや、この大陸全ての国々において、『ワンダースリー』を知らないハンターなどいない。
その『ワンダースリー』と合同でハンター活動を行うなど、一生自慢できる勲章モノである。
……モレーナ王女殿下をお護りして一緒に活動しているというだけでも、充分以上に名誉なことだというのに……。
やはり人間の欲望というものは、限りがないようであった。
そしていつの間にか、いつものお仲間のひとり、剣士の少女も合流している。
どうやら最初からギルド内にいたようである。
モレンには本人も知らない隠れ護衛がついているため、少女は先回りしてギルド内で待ち受けていたのであろう。
護るべき対象が入る前に、現場の安全を確保しておく。
護衛として、ごく当然のことである。
「「「…………」」」
この5人……、いや、6人のことは、マルセラ達も知っている。
あれだけ長時間に亘ってマルセラ達『ワンダースリー』の行動を根掘り葉掘り聞き出した、モレーナ王女である。さすがに、その間自分のことを全く話さなかったはずもなく、自分のハンター活動について色々と喋っていた。
そしてモレーナ王女が喋っている間はマルセラが喉を休めることができるし、モニカとオリアーナがうっかり失言する心配もないため、相づちや適切な質問を挟むことにより、マルセラ達はその時間をできる限り引き延ばそうとしていた。
なので、この5人組と剣士の少女のことは知っていたし、剣士の少女がおそらく本当の立場を伏せた護衛であろうと推測していた。
そのため、一瞬考え込んだマルセラ達であるが……。
「分かりましたわ。今日は、よろしくお願いいたしますわ」
モレーナ……モレンの安全のためには、この連中の実力を確認しておくべきである。
そう考え、了承の返事をしたのであった。
* *
5人組、剣士少女、モレン、そして『ワンダースリー』の3人で、総員10名。
大物相手の合同受注か、大人数のパーティやクランが臨時に編成したもの以外としては、あまり見ない大人数での行動である。
こんなに人数が多いと全体統制が難しいし、報酬の分け前が減るため、新人の育成以外ではもっと少ない人数にするのが普通であった。
また、人数が増えると、素性の怪しい者が紛れ込んだり、人間関係で揉め事が起きたりもする。
……まあ、『ワンダースリー』は身元がハッキリしているし、5人組の方も、今までのモレンとの活動実績から信用できることは分かっているため、揉め事等が起きる心配はないであろう。
そう考え、気楽に考えている『ワンダースリー』であるが、5人組の方、特に3人の男性達は、そうはいかなかった。
(わ、『ワンダースリー』……。あの、対異次元世界侵略者絶対防衛戦の英雄達……)
(御使い様の親友にして、女神の祝福を賜ったという、あの……)
(((『ワンダースリー』……)))
モレン……モレーナ王女殿下も、その点では同じである。
……しかし、モレーナ王女殿下は『お姫様』であり、自分達とは別の世界の、別種の生物である。
なので、敬い、全力でお護りする。その役割が与えられたことを、女神に感謝しながら……。
だが、『ワンダースリー』は違う。
Cランクのハンターとして活動する、貴族ひとり、平民ふたりのパーティ。
もしかすると、自分達にも、手が届くかもしれない、3人の少女達。
……いや、実際にはそれは不可能であろう。
子爵家当主であるマルセラは当然として、モニカとオリアーナにしても、貴族家や大店からの養女や婚約の話が殺到しているはずである。
いくらマルセラ以外のふたりが世襲称号である女準男爵ではあっても、あくまでも身分は平民であるため、結婚相手は貴族ではなく平民であろうと考えたのか。
そして、大商人は商売のイロハも知らない平民を跡取り息子の正妻になど迎えないとでも思っているのか……。
とにかく、『自分達にも可能性がある相手』だと考えているようであった。
女性陣は、そのような夢物語とは関係ないため、普通に英雄達に対して畏敬の念を抱いているだけであり、男性陣が抱いているとんでもない夢想になど、気付いてもいなかった。
あまりにも実現性のない妄想の域なので、本気でそのようなことを考える程の馬鹿だとは思ってもいなかったのであろう……。
しかし、男性陣も妄想逞しいという点以外はごく普通のまともな若者達であるため、別にけしからぬ行為に及んだりすることはない。
ただ、幸せな夢想に浸るだけである。
「そろそろ魔物が出る辺りだ。総員、警戒態勢!」
小声でのリーダーの指示に、黙って頷くみんな。
魔物がいるところで、大きな声を出す者はいない。
(ちゃんと、要所での注意喚起をしておりますわね。
慣れてくるとそういうのをやらなくなるパーティが多いと聞きますが、きちんと初心を守り続けているのは、好感が持てますわね……。
では、最初のうちは『ワンダースリー』は手出しせず、皆さんのお手並みを拝見させていただくとしましょうか……)
マルセラの、両隣にいるモニカとオリアーナにしか聞こえない小声での呟きに、こくりと頷くふたりであった……。




