727 ルイエットの冒険 2
『11時半方向80メートル、小型目標1。角ウサギである確率、87パーセントです』
「了解。私がやりますわ!」
街道から外れ、森のそう深くない部分を街道に平行に進む、ルイエットとギンガ。
そう積極的に狩りや採取をしているわけではないが、たまたま出会ったり見つけたり、そして襲ってきたりする相手は、狩ってアイテムドッグに収納している。
旅の初期資金は搭載艇で作ったものを売ることによって用意したが、日々の経費はきちんと稼ぐつもりなのである。
あまり珍しいもの、高額なものを売っていると、トラブルの元である。
それに、商業ギルドの方はともかく、ハンターギルドの方は依頼が出ている獲物や素材を納入しないと、ハンター資格の維持や昇級ができない。
ハンター資格は旅の役に立つし、Fランクのままでは、舐められて絡まれるのがいつになっても止まらない。
ここは、早くCランクになって一人前扱いされるようになるべきであった。
少人数の盗賊に襲われた時には、ギンガが戦闘形態……牙が伸び、頭頂部から角が生え、目が吊り上がって、口から炎を吐く……になればみんな逃げ出すので、戦いにすらならないため問題ないが、さすがに、町中やハンターギルドの建物内でそれをやるわけにはいかない。
なお、『11時半方向』とか『80メートル』とかいうのは日本語に訳したものであり、実際にはギンガとルイエットは現地語で、現地の単位により会話している。
そして、自分達が風下側であることを確認し、音をたてずに静かに接近し……。
『前方、18メートルです』
「視認しましたわ。では……」
右手を前方に差し出し、狙いをつけて……。
ピッ!
『命中しました!』
「ふふ、こんなものよ」
この程度、大したことはない、というようなその台詞に反して、得意そうな表情が隠せていない、ルイエット。
……しかし、本当に大したことはないのである。
腕輪型の武器から放たれたビームは光速で直進するため、風や重力の影響を計算する必要もなければ、獲物の動きによる未来位置を推測する必要もない。
思考制御で発射されるので、引き金を引くことにより狙いがズレることもない。
そしてそもそも、目標を自動的にロックする機能があるため、余程のことがない限り、外れることはないのだから……。
そして、いそいそと獲物に近寄り、アイテムドッグの中に収納する、ルイエット。
母星では合成食品ばかり食べていたルイエットにとって、動物の肉はすごく贅沢な食べ物である。
そんなもの、かなりの金持ちしか食べられない、超高級食材である。
……それが、ここでは自分で狩り放題、食べ放題である。
なのでルイエットが、見つけた食用の魔物を見逃すわけがなかった。
殺される小動物が可哀想だとか、死体がグロいだとかいう考えなど、超高級食材の入手に舞い上がるルイエットの頭には浮かびもしていない。
……勿論、食べられない角や毛皮とか、食べられる以上に狩った獲物とかをギルドに売ってお金と昇級ポイントを得る、ということもある。
「あ~、この星、最高ですわ! ……そして、相棒であるギンガちゃん、あなたもね!」
『光栄の至りでございます……』
マイルに拒否されて、拠点警備の仕事をさせられていたギンガ、幸福の絶頂である。
……ギンガに、『幸福』という感情を理解することができていたなら、であるが……。
* *
「……あれ?」
現在拠点としている町、ゴラルコンに戻り、自分が野営の時や宿屋の料理人に頼んで調理してもらう分の肉以外をギルドで売り、既に確保してある宿屋に向かっていたルイエットが、ふと足を止めた。
「あれは……」
20歳前後の、見目の良い女性が、犬を連れて歩いている。
……いや、それはいい。別に、何のおかしなこともない。
事実、ルイエット自身もそうである。
しかし……。
「この町で犬を連れた女性を見るの、やけに多いですわね。それに……」
その先は、口には出さないルイエット。
さすがに、『それが、若くて見目の良い女性ばかりだ』とか、『連れている犬は、みんな不細工なものばかりだ』という言葉は、ギンガには聞かせるわけにはいかない。
「いったい、どうして……。
今までに立ち寄った他の町ではそんなことはありませんでしたし、この町も、つい最近までは犬を連れた女性なんか見掛けませんでしたのに……」
* *
「……え?」
犬……それも、不細工な……を連れた女性をよく見掛ける、ということを、連泊しているため少し仲良くなった宿の女性従業員に話したところ、その理由を教えてくれた。
「何でも、不細工な犬を連れた美人の女性ハンターがいて、強引なナンパや付きまとい、人気のないところで襲ったり、とかいうのを全部撃退、半殺しにしてハンターギルドか警備隊に突き出す、ってことが何度もあったらしいんですよ。
それで、チンピラや素行不良の底辺ハンターとかがビビって手出しできないようにと、不細工な犬を連れて歩き、……まぁ、その凄腕の女性ハンターに偽装してるってワケですよ。
いやあ、みんな、色々と考えますよねえ……。
あ、いや、この宿の者は皆、ルイエットさんがブームの前から不細工な犬を連れていたって知ってますから、別にルイエットさんが『美人が不細工な犬を連れて歩くブーム』に乗っかったというワケじゃないのは分かっていますよ、ええ!」
「……」
『……』
どうやら、自分がこのおかしなブームの原因らしいと知り、固まるルイエット。
……そして、『不細工な犬』という言葉の連発に、あからさまに不機嫌そうな、ギンガ。
「…………」
『…………』
「あれ? どうかされましたか?」
「……あ、いえ、何でもございませんわ。ホホホ……」
『………………』
ギンガは、ただの犬だということになっているので、いくら思うところがあったとしても、喋るわけにはいかない。
この宿屋は、ギンガが客室に入ることを許してくれるし、料理が美味しいし、ルイエットが頼めば持ち込みの食材を調理してくれるし、宿泊料もそう高くはない。
なので、ギンガが喋れるなどということが露見して、ここから出て行く……というか、逃げ出すことになるというのは、望ましくなかった。
それに、そもそも、そんな話が広まってしまうと、この町どころか、この国から逃げ出して名前を変えて、ハンターギルドと商業ギルドにも新たな名前で登録し直し、ということになるであろう。
珍しい『喋る犬』を求める王族や貴族、商人達。そして、それよりもタチの悪い、悪魔を滅ぼそうとする神殿勢力から逃れるために……。
「……あ! ギンガちゃんのことを、『古竜様のペットを、社会勉強させるためにお預かりして人間の世界を見学させている』ということにすれば!
それならば、ギンガちゃんが人間の言葉を喋れることがバレた時とか、もし戦闘形態を盗賊やチンピラ達以外に見られた時とかも、言い訳ができるかもしれませんわね。
古竜は人語を解するそうですし、殆ど神様扱いされているそうですから、何でもアリでしょうからね!」
『……まあ、バレないようにしますけど、万一バレてしまった時には、一応そう説明して試してみるのはいいかもしれませんね。駄目で元々ですし……』
自室に入ってから、名案が浮かんだとばかりに嬉しそうにそんなことを言うルイエットに、仕方なく頷く、ギンガであった……。




