722 シェララの暴走 1
『『『『『『おお……』』』』』』
ザルムによる教育を受けつつ、マイルに爪と角の飾り彫りをしてもらった、シェララ。
マイルも、自分にとっては当たり前のことを教えられているシェララの様子をただ眺めているだけというのは退屈であったため、いい暇潰しになると、特に深く考えることもなく引き受けたのであるが……。
その完成した飾り彫りを見た古竜達が、大きくどよめいた。雄と雌を問わず……。
『何と可愛らしく、美しいのだ……』
『素敵……。わっ、私にも是非、お願いするわ!!』
『いえ、私に!』
『私が先ですわよっ!!』
前回のマイルの出張彫り仕事の時に選に漏れた者達、その中でも特に雌達が、群がってきた。
勿論、雄達も騒いでいるが、そちらは自分も彫ってくれと言うより、シェララに対する賛辞中心であった。
なので、雌はマイルに群がり、雄はシェララに群がっている。
騒いでいないのは、自分自身も既に彫ってもらっており、そして教育中にシェララが彫られている様子をずっと見ていたため既に見慣れている、ザルムだけである。
『第2回の、飾り彫り抽選会の開催を要求するわ!』
『『『『『『そうだそうだ!!』』』』』』
「あ〜〜……」
これはもう、拒否のしようがない。
ここで断れば、暴動が起きてしまうだろう。
……古竜の暴動。想像するだに恐ろしい……。
「わ、分かりました! 今は忙しいので、数日後にまた来ます。それまでに、何人かを選んでおいてください。
今回限りではなく、その後も手が空いたら時々来ますから!」
古竜は、寿命が長い。
なので、少し待つくらいは、大した問題ではない。
そのため、マイルの言葉にようやく場が落ち着いたのであるが……。
(シェララさんがモテモテなのは、元々美少女なのと高貴な御令嬢だからでは? 飾り彫りをしたからといって、同じようにモテまくるとは……。
それに、この里の女性竜がみんな飾り彫りをすれば、条件が同じになって、意味がなくなるのでは……。
あ、他の氏族のところへ行けば、モテるか? そこの氏族長の息子とかを狙えば……)
そんなことを考えるマイルであるが、雌古竜達は『角と爪に飾り彫りをすれば、モテモテに!』という幻想に囚われて、頭が回っていないようであった……。
* *
『……では、里に戻りますわ』
『『『『『『えええええええええ〜〜っっ!!』』』』』』
この里に滞在して、7日目。シェララの帰宅宣言に、悲痛な叫びを上げる、古竜達。
別に、おかしな魂胆があったわけではない。
……そもそも、人間とは違って、古竜は年中発情していたりはしない。
長命であるため、古竜達の殆どは成竜であり、彼らから見ればまだ幼い仔竜であるシェララは『可愛い子供』に過ぎず、シェララが『モテている』と思っているのは、ただ可愛がられているだけなのであった。
今の古竜達は、まあ、言うならば『東京から遊びに来ていた孫娘が帰ってしまう時の、田舎のおじいちゃん』みたいな感じであろうか……。
それに、シェララが話す他大陸の古竜達の様子や、異世界からの侵略者との戦いの話は新鮮で面白く、退屈を持て余していた古竜達にとっては久し振りに楽しめる娯楽だったというのも、シェララの帰宅が惜しまれる大きな理由であった。
しかし、まだ子供であるシェララを引き留めるわけにもいかず、その帰宅を惜しみながらも、是非また遊びに来てくれ、と頼み込むことくらいしかできなかったのであるが、それは子供に家出を唆すということなのを自覚しているのかどうか……。
『うむ、人間での遊び方については、全て教え終わった。人間達の言い方を真似るならば、免許皆伝、とでも言うところか……。
シェララも、下等生物を愛でるという高尚な趣味を楽しんでくれると嬉しいぞ』
『はい。色々とありがとうございました!』
この7日間で仲良くなったのか、名を呼び捨てにするザルムと、師匠に対するかのような、きちんとした言葉遣いのシェララ。
いくら子供とはいえ、人間ならば老人以上の齢を重ねているからか、一応その気になれば丁寧な喋り方もできるようである。
……そして、ザルムの『人間との遊び方』ではなく『人間での遊び方』という言葉に、あれだけ下等生物に対して好意的なザルムであっても、やはりそういう考え方なのだな、と古竜にとっての常識というものについて再認識させられたマイル。
『では、里に戻りますわ。……そしておそらく、皆に叱られるのですわ……』
どうやら、黙って出奔したのは悪いことだという認識はあるようであった。
しかし、叱られるのが分かっていても、やらかす。それが、子供というものである。
『マイルちゃん、色々とお世話になったわね。
じゃあ、またね!』
(また来るのですかっっ!!)
シェララの言葉に、思わずそう返しそうになったが、勿論その言葉は飲み込んで、笑顔で当たり障りのない言葉を返すマイル。
「はい、また、いつか!」
そして、ふわりと上空へと浮かび上がり、十分な高度を取った後で、翼を動かして上昇しながらの移動を始めたシェララ。
どうやら、ザルムから教わったばかりの『人間達に迷惑を掛けない飛び去り方』をやって見せたようである。
ここへはシェララの背に乗ってきたマイルであるが、自分ひとりでも簡単に移動できることはシェララにも教えてあるため、現地解散となったようである。
まあ、用もないのに王都の方へ戻る必要はあるまい。
「……って、ちょっと待った! 狐獣人の人が、王都で待ってるじゃないですか!
あの人、どうするんですか! 待って! 待ってくださいぃ〜〜!!」
……既に、シェララの姿は豆粒くらいになっていた。いくら叫んでも、声が届くような距離ではなかった……。
そして、村長や長老達への報告の義務があるであろうあの狐獣人に、王女や『ワンダースリー』による転移システムのことを知られるわけにはいかない。
ということは、『赤き誓い』か『ワンダースリー』がケラゴンに乗って帰省するか、いつかまたシェララがやって来るまで、あの狐獣人はこの大陸でずっと待ち続けるしかない、ということに……。
「うわぁ……」
気の毒な狐獣人のことを考え、心の中で、そっと涙を拭うマイルであった……。
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