711 招かれざる客 3
さすがに腕比べを室内で、というわけにはいかず、みんなで裏庭へ移動した。
そして、皆でひとかたまりになって建物の前に集まり、その中からメーヴィスが、ずいっと裏庭の中央あたりへと歩き出た。
「……では、まずは私から……。
誰か、銅貨を1枚、私に向かって山なりに投げてもらえるかな?」
不正を疑われないよう、押し掛けパーティの方に向かってそう要請する、メーヴィス。
そしてメーヴィスと同じく剣士らしきリーダーが黙ってそれに応え、巾着袋から銅貨を取り出して、指示通りに軽く投げ……。
キン、キキン!
ぱしっ!
目にも留まらぬ速さで振られた剣の二閃と、それに続いて空を走った、メーヴィスの左手。
……そして、皆の前に突き出され、ゆっくりと開かれた、その左手の中から現れたのは……。
4片に分かれた、元は1枚の銅貨であったものの欠片……。
最初の一閃で綺麗に2分割されたらしき銅貨は、次の斬撃ではあまり綺麗には分割されなかったらしく、少々歪な形になっているが、……この神業の前では、そんなことは何の問題にもならない。
まだマイルのようには綺麗に斬れないが、今のメーヴィスとしては、手抜きなしの全力の技であった。
「「「「「…………」」」」」
剣士であるリーダーだけでなく、押し掛けパーティの全員が、凍り付いたかのように固まっていた。
そして……。
「次は、私ですね。
私も、銅貨を……と言っても、皆さん固まっていますから、自分で出しますか……」
そう言って、自分の巾着袋から銅貨を取り出したマイルは、それを右手の親指と人差し指で縦に挟んで……。
くにゃり
表情ひとつ変えることなく、笑顔のままで軽く曲げ、二つ折りに……。
まあ、硬貨を指で曲げることができる者は、いないわけではない。
……その大半は、体格の良い武道家とかであるが、握力、その中でも特に指先の力であるピンチを鍛えれば、外見は細身でも硬貨曲げができなくはないかもしれない。
日本では、硬貨を曲げると『貨幣損傷等取締法』に引っ掛かるため犯罪行為となってしまうが、この世界にはそのような法律はないため、安心である。
ポーリンに怒られるのを除けば……。
この見た目で、力を入れた様子もないのに、硬貨を二つ折り。
ビビる押し掛けパーティの面々であるが、先程の『銅貨斬り』に較べれば、まだ現実味がある。
そう考えて、懸命に平静を保とうとしていたが……。
くにゃり
今度は、先程二つ折りにした銅貨を更に折り曲げ、……四つ折りにした。
「「「「「…………」」」」」
汗、だらだら。
顔に流れる汗だけでなく、腋にも、そして背中にも、嫌な汗が流れ続ける。
……ない。
さすがに、これはない。到底、人間にできるような所業ではない。
「……次は、私ですね」
そう言って、前へ出て来た、ポーリン。
「メーヴィス、マイルちゃん、その銅貨を差しだしてください」
そう言われて、手の平に載せた銅貨をずいっと差し出す、メーヴィスとマイル。
そして……。
「治癒魔法、発動!」
「「「「「え……?」」」」」
何をしているのか、分からない。そんな顔の、押し掛けパーティの面々。
当たり前である。
治癒魔法は、怪我人に対して使用するもの。
病人に掛けると、病状が更に悪化する場合が多い。
……それはいい。それはいいのであるが……。
なぜ、生き物ではなく、モノに治癒魔法を掛けるのか……。
切断され、折り曲げられた銅貨に、治癒魔法を掛けて、どうするのか。
それに、いったい何の意味があるというのか。
ワケが分からない、という顔の面々の前で、メーヴィスの手の平の上の4分割された銅貨が、じわじわと互いに近付き、その切断面をくっつけあい、どろりと溶けて混じり合い、……1枚の銅貨になった。
そしてマイルの手の平の上の、折り畳まれた銅貨が、ゆっくりと解け、開き、……元の姿に戻った。
「「「「「…………」」」」」
愕然、呆然の5人。
「ばっ、馬鹿な……。どっ、どうして、治癒魔法でモノが治る……」
そんなことは、あり得ない。……それが、世界の常識である。そのはずである……。
勿論、これはマイルの仕業である。
マイルは、前世において、両親のコレクションである古いアニメを観ていた。
その中に、あったのである。
看護婦型アンドロイドにしてヒロインである少女が操る、『復元光線』というものが……。
生物の怪我も、破損したロボットも治せる、万能の修復効果がある、復元光線。
アレは、殆ど魔法である。
しかも、どちらかといえば、ファンタジー寄りではなく、ナノマシンによる修復のような、科学系の方の……。
つまり、この世界における、ナノマシンによる魔法との相性が、抜群!!
……勿論、それに気付いたマイルが何もしないはずがなかった。
ナノマシン達に根回しを行い、説得。
そして、ポーリンに対して教育と特訓を行い、……とうとうモノにしたのである。
生物に対する治癒と、モノに対する修復の両方をこなせる、『復元光線』に相当する機能を持つ治癒魔法をポーリンに会得させることに成功した!!
実は、マイル自身は以前からそういう魔法を使っていた。
あの、『省資源タイプ自律型簡易防衛機構管理システム補助装置、第3バックアップシステム』と、ルイエットの搭載艇を修理する時に使った、修復魔法である。
なので、生物以外を魔法で修繕できることは、当然のことながら、知っていたのである。
「じゃあ、『赤き誓い』のラストは、私ね。
マイル、標的を立てて、その後ろに土の壁を造って頂戴」
「はいっ!」
マイルが収納魔法の中から取りだした人型標的を地面に突き刺して立て、その後方に土魔法で大きな壁を造って、流れ弾が裏庭の外へ飛び出すことのないようにした。
勿論、こっそりとバリアも張ってある。
そして……。
「燃えよ、地獄の業火! ……アンド、爆裂弾!!」
ごおおおお〜〜っ! どがががが〜〜ん!!
轟音が轟いたが、勿論、事前にマイルが物理障壁だけでなく遮音シールドも張っているため、近隣に迷惑を掛けることはない。
……そして、口をぱっかりと開けたまま固まっている、押し掛けパーティの面々であった……。




