689 面倒を見る 6
「……で、どういうわけですの? あの子について、詳しい説明を要求しますわ!」
皆での色々な話……ルイエットの身の上に関する嘘話が中心。話の内容は、事前にマイルと相談済み……が終わり、皆がそれぞれの自室に引き揚げた後、こっそりと自分の部屋へやってきたルイエットに説明を要求されている、マイル。
「え、え~とですね……」
探索魔法で、クランメンバー達はそれぞれの自室にいるのを確認しているし、念の為、この部屋には遮音フィールドを展開しているので、他の者に話を聞かれる心配はない。
ルイエットは、メカ狼は部屋に残してきたようなので、マイルとふたりだけでの会話である。
ルイエットが聞きたいのは、おそらく、メカ狼の存在理由……何のために造られたのか、何者によって造られたのか、等……と、なぜ、マイルがそれを自由に使役することができるのか、ということであろう。
「そ、それはですね……」
『時を越える者』と『ゆっくり歩く者』のことは、そのまま全て話すことはできない。
そんなことをすれば、ルイエットは自分がそれらの管理権限を受け継ぐべきであると考えるに決まっているし、現在それらの管理者であるマイルが今までの説明通りの立場、能力、そして知識量ではないことが露見してしまう。
しかし、メカ狼の存在理由を納得させたり、搭載艇の整備……を兼ねた、技術調査……を了承させたりするためには、ある程度の科学設備があることは説明せざるを得ない。
(ど、どう説明すれば……)
必死で設定を考えつつ、何とか説明らしき言葉を口にするマイル。
「ええと、そのぉ、……あの子、メカ狼ちゃんは、せいびきちというところで造られたらしくて……」
「えええっ、整備基地!!」
マイルがぶら下げた餌に、がっぷりと食らい付いた、ルイエット。
「はい、何でも、機械を修理する場所、とか……」
ルイエットは、当然のことながら、自分が冷凍睡眠による眠りに就いてから目覚めるまでに過ぎた年月のことは確認している。
ルイエットがそれでも他の調査隊員のことをさほど心配していないのは、彼らも母船か他の搭載艇で冷凍睡眠状態でこの地に向かっているか、それとも母星に引き返しているかのどちらかだと思っているからか、それとも、ただの同僚に過ぎないためそれ程気にしていないのか……。
とにかく、たとえ彼らが来なくとも、その内、第二次調査隊が来るはずである。
新たな調査船の建造にはそれなりの年月が掛かるであろうが、既に長い年月が経過しているのであるから、それは問題ではない。
明日にもこの惑星に到着するとか、既に到着しており、密かに調査を進めていたとしても、何の不思議もない。
再び愚かな争いが起こり、文明が失われでもしていない限り……。
なので、いくら年月が過ぎ去っていようとも、自分は与えられた任務を果たすつもりなのである。
そしてルイエットは、長い年月が経過したことは知っていても、搭載艇と内部の機器がナノマシンによって完全に修復されたことは知らない。
そのため、何とか無事に惑星上に着陸できたものの、船体や機器にかなりガタが来ていると思っていた。なので、それらの整備ができる器材や物資がある整備基地があるという情報は、聞き流すことなどできはしない。
「そっ、それはどこにあるのですかっ! 統括コンピューターは生きているのですかっっ!!」
思わず席を立ち、マイルの両肩を掴むルイエット。
……まぁ、当然の反応であろう……。
(よし、釣れた!)
そして、捏造した話を聞かせる、マイル……。
* *
「……では、大昔の文明の遺物の一部が、まだ生きていると?」
「はい。昔、そこに所属する、動物の姿を模した調査機械を助けたことがありまして……。
その時に、そこの偉い存在から、『借り、ひとつ』と言われました。
それで、その時の貸し分としまして、ルイエットさんの護衛とガイド役ができるお供をお願いしたわけです」
「ええっ! そんな貴重な権利を、私のために?
マ、マイルさん、あなた……」
うるうるとした目で感動している様子のルイエットに、少し後ろめたそうに視線を逸らす、マイル。
「メカ狼ちゃんは、スタンドアローン、自律型ですが、せいびきちを介して、このメカ小鳥ちゃんに連絡することができるそうです。
なので、困った時には私に連絡できるということですね」
『連絡、デキル……』
マイルの胸元からちょこんと頭を出して、そう付け足すメカ小鳥。
「ぐふっ! かっ、可愛いですわ……」
やはり、ルイエットの美的感覚は少しおかしいようであった。
そして、マイルが『整備基地』という言葉を、知らない言葉のようにわざと不自然に喋っているくせに、『自律型』という言葉は普通にすらすらと喋っているというちぐはぐさには、全く気付いていないようである。
* *
翌日の朝食後、皆が寛ぐ中には、メカ狼の姿もあった。
メカ狼は、マイルが皆に紹介した時にはあまり喋らなかったが、既に皆はメカ狼がかなり流暢に喋れることを知っている。
古竜やメカ小鳥が喋ることに慣れている皆にとっては、別に驚くようなことではなかった。
ルイエットは昨夜、自室でメカ狼と色々な話をしたようである。
なのでルイエットは、メカ狼が自分を護ることができるだけの能力を有しているということを知っている。他の者達には、そのことは秘密であるが……。
そしてメカ狼は、マイルが用意した首輪を着けている。
これを着けていれば、動物であろうが魔物であろうが、ペットか番犬、護衛用だと判断されるので、兵士やハンターからむやみに攻撃されるようなことはないから安心である。
その特異な外見も、『人間に慣れやすい、新種の動物か魔物』とでも思われることであろう。
魔物の中にも、角の尖端部を丸めて殺傷能力をなくした角ウサギを小さい頃から育ててペットにしたり、森林狼を子供の時から育てて猟犬代わりにしたり、というような事例もあり、そう珍しいことでもなかった。
メカ狼は、管理者に冷たく拒否された自分を護衛として受け入れてくれた上、自分のことを気に入ってくれているルイエットに感謝しているように見えた。
本当にそういう感情があるかどうかは分からないが、『感情があるように見える』のであれば、ルイエットにはそれだけで充分であった。
メカ狼は、いくら自分が採用を拒否されたとはいえ、管理者であるマイルを恨むようなことはプログラム的な規制によって不可能であろうが、自分を受け入れてくれた、護衛対象である少女に対して、単なる仕事としてではなく献身的に仕えるという想いを抱くくらいのことは可能なのかもしれなかった。
「あなたの名前は、……そうですね、『ギンガ』にしましょう!
星の海を渡ってきた私の相棒にふさわしい名前ですわ!」
そして、昨夜から色々と考えていたらしい、自分の相棒となったメカ狼の名を告げる、ルイエット。
自分の上司達ですら貰えていない個体名を、戴けた。それも、素晴らしい名を……。
メカ狼……、いや、ギンガのルイエットに対する忠誠心が、爆上がりとなった。
……護衛とガイドとしての任務もあるが、本来の仕事はルイエットに対する見張りと警戒であるというのに……。
勿論、だからといって、上司である『時を越える者』や、管理者であるマイルを裏切るようなことはできないのであるが……。
まあ、ルイエットとギンガ、仲が良いのは良いことであった。
(ギンガ……。何だか、熊と戦いそうな名前ですね……)
そして、どうでもいいことを考えている、マイル。
それは作品名であって、名前ではない。あの犬の名前は、『銀』である……。
本作、『のうきん』のイラストを担当していただいております亜方逸樹先生の相棒である、茉森晶先生の小説連載が始まりました。
十数話までの短編の予定だそうです。是非、御一読を!(^^)/
『スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩』
https://ncode.syosetu.com/n4555ke/
亜方先生の、キャラデザイラスト付きです。(^^)/




