688 面倒を見る 5
「分かりました! 良い案が浮かびましたので、とりあえずルイエットさんはここに10日間程滞在していただき、このあたりでの常識と、方言や訛りの矯正に努めていただきます。
その後、いい旅の相棒を御紹介しますので……」
「「「「「「「えええええええ?」」」」」」」
マイルが何を考えているのかが分からず、思わず驚愕の声を上げる一同であった……。
* *
「……というわけなんですよ……」
ここは、以前マイルが訪れたことのある、『時を越える者』の本拠地である。
本当は、『時を越える者』というのは、この個体や『ゆっくり歩く者』達のような、未来の為に機械知性体を残すという計画全体を指す名称なのであるが、『ゆっくり歩く者』との区別のためにマイルが暫定的に使っている名称である。
メカ小鳥(仮)と同じく、マイルが正式名称を付けてくれるのを待っているのであるが、マイルはその約束を覚えているのかどうか……。
とにかく、皆が寝静まった後、こっそりとクランハウスを抜け出して、重力魔法によって水平方向に落ちる、という反則技を使い、あっという間にここへやって来て、『時を越える者』に説明をしているわけである。
『しかし、その者は造物主様達の血を引いた子孫ではありません。よって、我らの管理者となる資格はありません』
確かに、『時を越える者』も『ゆっくり歩く者』も、移民船が飛び立った後で計画されたものらしい。その他の、エルフやドワーフ、獣人達を生み出した計画や、スカベンジャーやゴーレム、衛星システム等の防衛機構の構築とかも……。
なので、現在の住民達の一部がそれらの計画に携わった者達の子孫であるのに対して、移民として出ていった者達はその血を引いておらず、ルイエットは『この惑星の人々が一番大変な時に、ここを見捨てて去って行った者達』の子孫、というわけであった。
『時を越える者』にとって、印象最悪である。
「……いや、別に、管理者にしたり命令を聞いたりする必要はないですよ?
ただ、持っている武器や知識でメチャクチャなことをやらかさないようにと、見張りを付けておきたいな、と……。
いくら何でも、異星から来た者を力尽くでどうこう、っていうのは、造物主様の意に反するのではないですか?」
『それは、確かに……』
「それに、ルイエットちゃんの搭載艇……。
あれは、移民船を解析して、それを更に発展させた技術によるものですよね?
それに対して、現在この惑星に残されている科学技術は、移民船が旅立ってから文明が衰退を続ける中で造られたあなた達が守ってきた、一部のものだけ……。
当時の科学技術のピークの時代から、更に進んだ技術。
……『搭載艇の維持整備を引き受ける』ということで、それを解析できるチャンスが……」
『……』
『…………』
『………………お引き受けいたしましょう……』
(よし、勝った!!)
勝つも負けるも、管理者であるマイルが命令すれば済むことである。
……しかし、いくら相手が機械であろうとも、意に染まぬことは命じたくないため、あくまでも説得により納得してもらって、ということに拘る、マイルなのであった……。
「では、先程の説明通り、ルイエットちゃんの見張り役兼護衛役兼アドバイザーとして……」
『はい、マイル様の御提案通り、あの者を遣わします』
* *
「……というわけで、この子がルイエットさんの護衛兼アドバイザーの、メカ狼ちゃんです。
ちゃんとした名前はまだないので、ルイエットさんが付けてあげてくださいね!」
「「「「「「「……」」」」」」」
カクカクとした、明らかに生物っぽくないフォルム。
剥き出しの、リベット。
左右ちぐはぐで、どこを見ているのか分からない、不気味な目。
無理に生物っぽさを出そうとしているのか、だらりと口からはみ出した、妙に生々しい舌。
「「「「「「「…………」」」」」」」
「こっ、ここっ、こここ……」
鶏と化した、レーナ。
「こっ、これは……」
「メカ小鳥ちゃんはまだしも、こっ、これはないですよ……」
「「「…………」」」
メカ小鳥を見慣れているみんなですら、そのあまりのインパクトにたじろいでいる。
そして、ルイエットは……。
「かっ、可愛いですわっ!」
「「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」」
あまりにも思いがけないルイエットの言葉に、驚愕の叫びを上げる、クランメンバー達であった。
* *
「……なる程。今まで、ペットを飼えるような生活環境ではなかった、と?」
「ペットを飼うなど、ごく一部の特権階級の贅沢だったと?」
「……そして、つまり、この子がとても気に入った、と……」
メカ狼を抱き締めて、その身体を撫でているルイエットは満面の笑みを浮かべており、幸せそうである。
これが、本物の狼であったなら、臭いや抜け毛、そしてノミやダニ等がいたりして、おそらくそういうのには耐性がないであろうルイエットには厳しかったかもしれないが、金属感丸出しであるメカ狼のボディは清潔感があり、それが却って高度文明世界で育ったルイエットには好ましく感じられるのかもしれなかった。
餌や排便、散歩等の必要がないというのも、ペット初心者にとってはとても便利で楽ちんである。
マイルとしても、自分のために作られたというのに採用を却下したため、護衛とアシスト機能に特化しているのに拠点警備の任に就かされていたメカ狼に本来の能力を発揮できる仕事を斡旋できて、罪悪感が薄れるのでありがたい。
「マイルさん、この子に関しては、あとでゆっくり説明していただきますわよ」
「え……」
ルイエットに小声でそう囁かれ、動揺するマイルであるが……。
説明を求められるのは、当たり前である。
以前聞いたスカベンジャーやゴーレムとは明らかに違う、この世界の文明レベルにはそぐわない高度な科学技術の産物。
口頭での命令に従う、自律型機械知性体。
ルイエットの母星の技術であれば製造可能なものなので、その機能については別に驚くようなことはない。
……しかしこれは、この惑星で、スカベンジャーとゴーレムのような特殊な用途で大昔から維持されていたものとは異なり、明らかに汎用や大量生産されたものではない、ワンオフの筐体である。
なぜ、このような都合の良いモノが存在するのか。
……そして、なぜこのようなモノをマイルが簡単に連れて来られるのか。
あとで、色々と質問責めにされそうである……。




