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「話が違うじゃありませんか! マイルさん、あなたも私と同じく、一部の年配の上司以外には理解されず、話が合う同年齢の者もおらず、孤独な人生を歩んできた同志じゃなかったのですか!」


「あ……、今の仲間達と出会うまでは、家族以外の人達とは、確かにそんな感じでしたね……」

 前世での話であるが、マイルの言葉に嘘はない。

 確かに、マルセラ達や『赤き誓い』の仲間達と出会わなければ、マイル……、アデルの人生は、もっと詰まらないものになっていたはずである。

 その、『マルセラ達や「赤き誓い」のみんなと出会わなかった場合の、自分』が、ルイエットだとすれば……。


「ご、ごめんなさい……」

「あっ、謝らないでくださいまし! ここで謝られると、わっ、私がみじめになるではありませんかっ!!」

「……ごっ、ごめん……、あ……」

 頬を赤くして怒るルイエットに、返す言葉がなくて言葉を詰まらせる、マイルであった……。


     *     *


「ここが、私が所属するパーティと、お友達のパーティが共同で借りている、クランハウスです」

 建物の前で、ルイエットにそう説明するマイル。


 ちなみに、『ホーム』というのは住んでいる場所とか家庭とかいう意味であり、一軒家であろうがアパートの一室であろうが、そう呼んで構わない。

 しかし、『ハウス』というのは一戸建てを指すので、『宿屋の一室を長期契約で借りているのではなく、ちゃんとした一戸建てに住んでいる』というステータスを誇示するために、一戸建てを借りている者達は、決して『クランホーム』とは言わず、『クランハウス』と呼称する。

 そういうことを知らなかった『赤き誓い』のみんなは、以前は『パーティホーム』とか『クランホーム』とか言っていたが、今はちゃんと『クランハウス』と言っている。


「ただいま~! 戻りましたよ~!

 さ、どうぞ中へ!」

 ドアを開け、中に向かって声を掛けた後、ルイエットを招き入れるマイル。

「え、ええ、分かりましたわ……」


「おかえり。長かったわね、いったい何をして……、って、誰よ、その人!」

 奥から出て来たレーナが、ルイエットを指差して、そう叫んだ。

「レーナ、人を指差すんじゃありません!」

 レーナに続いて出てきたポーリンが、そう言ってレーナをたしなめた。

 そして、騒ぎに気付いて、他のみんなも次々と2階の自室から下りてきた。


「紹介しますから、皆さん、食堂に……」

 どうやらクランメンバー全員が在宅だったようなので、皆にそう告げて、ルイエットを連れて食堂へと向かう、マイルであった。


     *     *


「……ってことは、何? マイル、あんたがその子の面倒を見るってこと?」

「あ、ハイ、まぁ、成り行きで、何となくそんな感じに……」

 ルイエットのことを、たまたま出会った『田舎から出てきた、頭はいいけれど世間知らずで少々常識に欠ける、危なっかしい少女』と皆に説明したマイル。

 ルイエットはその紹介に不服そうであったが、その不満を口に出さないだけの分別はあったようである。


「マイルちゃん、あなたが面倒を見るということは、それはすなわち、『赤き誓い(わたしたち)』が、いえ、『ワンダースリー』も含めた、クラン全体が面倒を見るということですよ。それは分かっていますよね?」

「う、うん……」

 非難するのではなく、ただ事実を確認するだけ、という口調で淡々とそう質問するポーリンに、少し申し訳なさそうに俯き、そう答えるマイル。

 はい、ではなく、うん、と答えるあたり、マイルの弱気さが表れている。


「で、ルイエットには、ハンターとして私達と行動を共にできるだけの能力はあるのかい?」

「そっ、それは……」

 ルイエットは、身に着けている武器を使えば、Aランクの魔物を倒すこともできるであろう。

 しかし、いくら攻撃力があっても、襲ってきた盗賊を迎え撃ち、平然と殺すことができるかどうか。人の情より依頼事項の遂行を優先できるかどうか。

 ……そして、長距離移動や、森や山岳部の踏破に付いてこられるかどうか……。


 襲い掛かって来る原住民に対しては、結構平気で攻撃しそうな気はする。

 しかしルイエットは、何日も徒歩で移動するどころか、馬車での移動ですら苦手そうである。


クランハウス(ここ)の住み込み管理人……というわけにもいかないでしょうね……」

 マルセラの言葉に、こくこくと頷くモニカとオリアーナ。

 メーヴィスの服を着たままであるが、どう見ても、ルイエットはただの平民には見えなかった。

 手入れの行き届いた、長い髪。傷ひとつない、すべすべの顔や手。

 ……どう見ても、いいトコのお嬢様である。

 そして、料理や洗濯、掃除等ができるお嬢様など、マルセラのような超例外を除いて、そうそういるものではない。


 それに、みんなが仕事で長期不在の間、ひとりポツンとクランハウスに残すのも可哀想であるし、何より、戦闘力皆無(とマイル以外の皆が思っている)のお嬢様がひとりで留守番をしていれば、悪い連中に目を付けられかねない。

 ただのぬすであればともかく、ルイエット自身が目当ての、タチの悪い連中とかであれば、大事おおごとである。


「私達よりもここの言葉に対する訛りと方言が酷い、というのは好感が持てるのだけどね。

 でも、それだけじゃあねぇ……。

 マイルの頼みだから引き受けてあげたいけれど、人の命や一生に拘わることを、何も考えずにホイホイと引き受けるわけにはいかないわよ……」

「ううっ……」


 レーナの指摘に、ぐうの音も出ない、マイル。

 なお、『訛りと方言』というのは、レーナ達の出身地である東の大陸と、この大陸との言葉の差異のことである。

 そしてルイエットが学んできた、移民船にあった資料による大昔の言語と現在のこの大陸の言語との差異の方が、それより大きいということである。

 共に、なんとか意思を通わせることは可能であるが、遠方から、もしくはド田舎から来たな、と思われるのは間違いなかった。

 ……ちなみに、ルイエットの母星で現在使われている言語では、変化が大きすぎるため、この惑星の者と会話することはほぼ不可能である。


「マイルさん、結構ですわよ。元々、私は調査のためあちこちを旅して廻らねばならないのです、ずっとここにいるわけには参りませんわ。

 とりあえず人里まで連れてきていただいただけで十分ですわ。

 あとは、当座の生活資金にするために、私の持ち物をいくつか売却するお手伝いをしていただけましたら、その後は自分で何とかいたしますわ。

 元々、そうする予定でしたので……」


 マイルのアイテムボックスに入れてあるルイエットの搭載艇の中には、この世界であれば金貨数十枚で売れるものがいくらでもあるし、自動工作機械で様々なものを作ることもできる。

 そしてお金さえあれば護衛を雇うこともできるし、サスペンション付きの特製馬車を作ることも可能であろう。

 盗賊や魔物に襲われても、ルイエットが本気を出せば、ビーム武器で薙ぎ払える。


 そう考えると、マイルが無理をしてルイエットの面倒を見続ける必要はない。

 しかし、ここでルイエットをひとりきりで放り出すのも寝覚めが悪いし、何より、心配であった。

 ルイエットが悪い奴らに騙されたり利用されたり、……そして自分で暴走したりすることが……。


(……う~ん、何か、いい方法が……、って、そうだ!)


 ……何やら思い付いたのか、頭の上に電球が灯ったかのような顔で両手を打った、マイルであった……。



来週は、私の誕生日があることと、確定申告その他、色々な書類仕事があることから、1回お休みとさせていただきます。

すみませんが、よろしくお願いいたします!(^^)/

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― 新着の感想 ―
段々と主人公が嫌いになってきた。 評価が低い理由を理解しました。
ルイエットは搭載艇で惑星を調査する気なのかな? 馬車を扱う事も無理そうだしアイテムボックスも無いからのこのこと船外に出てきた時点で攫われて終わりそうな気もする。 マイルの閃きに期待したいところですね。
凄い価値観だ。(本文の最初の会話) マイルも気圧されるな。
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