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 あれから3日。

 無事街道に出たマイルとルイエットは、しばらく歩いた後、通り掛かった商隊の荷馬車に便乗させてもらった。

 商隊とはいっても、馬車3台の小規模なものであり、商人にも護衛にも魔術師はいなかった。

 なので、マイルが『護衛も手伝うし、火種も水も出し放題、使い放題ですよ!』と言うと、大喜びで乗せてくれたのである。


 馬は、大量の水を必要とする。

 なので、野営地に水場がある場合を除き、商隊にとって水は貴重品である。

 そして、水は重く、その容器もまた重くて壊れやすい。

 水をたくさん積めば、それだけ搭載できる荷が少なくなる。

 なので魔術師がいない商隊にとって水は貴重品であり、それが使い放題、しかも護衛まで引き受けてくれて依頼料なしというのは、それは大歓迎されて当たり前であった。


 ルイエットは、調査隊の一員であるため普通の市民よりは身体を鍛えていたが、それでも、未開の地を何日も歩き続けることができるような体力はなかった。

 現地調査には勿論乗り物を使う予定であったし、搭載艇にも、小型の乗り物は積んである。

 しかし、それは道のない森の中を走れるようなものではないし、原住民の目に触れる街道上を堂々と走れるようなものでもなかった。

 なので、歩けなくなって街道脇にへたり込んでいたところに通り掛かった商隊は、本当に救世主のように見えたことであろう……。


 そして休憩番……荷馬車に随伴して歩くのではなく、交代で荷台に乗って休む番……の護衛の者と話し、自分やマイルが喋っている言葉がここの者達にとっては『地方から来た者が喋るような、かなり訛りが強くて意味が分かりにくい単語が多い、方言』であることに気付き赤面したり、この世界の未開具合に驚かされたりの、ルイエット。

 そして、やはり割と自分の話が通じるマイルが特殊例なのだということを、改めて思い知らされたのであった。


 ルイエットは、母星の衛星軌道上にあった移民船を調べることによって得られた、移民当時の言語を完全にマスターしている。

 そしてこの大陸で現在使われている言語は、その当時の言葉が衰退し、文法の変化や多くの単語が失われたりして変化したものである。

 なので、一応はある程度の形が残ったものであるため、何とか意味を伝えることは可能であるが、かなりの訛りや方言があると受け取られるものであった。

 ……そう、マイル達の出身地である東の大陸の言葉よりも、更に酷いド田舎の言葉であると……。


 まあ、大陸間の交流が失われたのは、移民時代に較べると比較的最近のことであるし、断絶後も何度かは探検船やら遭難船やらが辿り着いた可能性もある。

 それに、移民時代以降は何度も文明が失われたわけではなく、ゆっくりと衰退しただけなので、言語の差異がそんなに大きくなくてもおかしくはない。


 もし現代日本の文明の進歩が完全に停止し、ごくゆっくりと衰退を始めた場合……。

 現代人にとって、1000年前の日本人と1000年後の日本人、どちらが話が通じやすいであろうか……。


「お代わり、どうぞ!」

「おお、すみませんねぇ……。いや、料理まで作ってもらえて、本当にありがたいですよ。

 それに、食材の提供まで……。

 本当に、いい拾いものを……、って、落ちていたモノ扱いは失礼ですな」

「いえいえ、本当に街道脇でへばっていたんですから、その通りですよ。お気遣いなく……」


 マイルがそう言って謙遜するが、食材の原価すれすれの価格で提供された温かい食事は、保存食が続く商隊にはとんでもなくありがたいものであった。

 それが、町の飯屋より安く食べられるとあっては、護衛の者達だけでなく、御者を務めている商人達にとっても喜ばれるに決まっている。


「……しかし、本当にハンターをお続けになるのですかな?

 その若さと収納魔法があれば……」

 毎度お馴染みの、うちで働かないか、もし良ければ大店に紹介してあげることも可能だ、という勧誘があり、断ったばかりなのである。


「はい。いくら月に金貨10枚のお給金をいただきましても、色々と縛られることの多いお店務めは、ちょっと……」

 さすがに、今はいつもの大型テントや要塞浴室、要塞トイレとかではなく、小型のテントや簡易シャワー室、簡易トイレとかしか見せていないが、それでも馬車数台分の容量がある収納魔法が使えるというだけで、月に金貨10枚……現代日本での、100万円相当……の給金というのは決して高いものではない。


 少女ひとりを早馬で運ぶだけで、それだけの荷を高速輸送できるのである。

 使い方によっては、それくらい端金はしたがねだと思えるくらいの利益を生み出すことが可能であろう。……それも、かなり簡単に……。


 勿論、この年齢としの少女が、自分の価値に気付いていないはずがない。

 なのに、ハンター稼業を続けているのである。

 それなりの事情があるに決まっている。

「……まぁ、そうでしょうなぁ……。すみませんな、無理を言いました……」

「いえいえ、いつも言われますから、お気になさらず……」


 マイルにとっては、いつもの会話である。

 そして、どうやら大容量の収納魔法持ちは本当に稀少なのだということが確認できて、少し安心したような顔の、ルイエットであった。


     *     *


「お世話になりました~!」

「何の何の! また、正式な護衛としてお願いしますよ!」

 パーティ名を教えてあるので、ハンターギルドで指名依頼を出してもらえば、勿論護衛依頼を受けることも可能である。スケジュールや報酬額等が折り合えば、であるが……。


「……というわけで、ここがこの国の王都です。

 まぁ、この大陸の中では最も文明が進んでいるところ、と言っても過言ではないと思いますよ」

「ここが……」

 マイルの説明に、キョロキョロと周りを見回すルイエットであるが……。


「……ショボいですわ……」

「あはは……」

 ルイエットがそう思うのも、仕方ない。

 恒星間航行ができるだけの文明がある世界で勝ち組として暮らしてきたルイエットにとって、ここは、現代の日本人にとっての江戸時代どころか、弥生時代、縄文時代に相当するレベルの文明に見えるのであるから……。

 そして、それが分かるマイルは、力なく笑うことしかできないのであった。


「……で、では、行きましょうか……」

「まずは、宿を取るのですわね?」

 少しはこういう世界の常識を知っていたのか、それとも長時間馬車に乗っていたため疲れ果てているのか、とにかく早く宿へ行きたそうな、ルイエット。


 それも、無理はない。

 馬車とは言っても、客車キャビンではなく、4輪荷馬車(ワゴン)の荷台である。

 クッション付きの座席などないし、道は舗装されていないデコボコ道。

 そして、そもそも馬車にはサスペンションもダンパーも付いていない。

 歩くよりはマシ、という程度であり、馬車に乗っていても、尻が痛いし身体から力を抜くことができないため、かなり疲れるのである。


 今回はマイルが尻の下に敷くクッションを貸していたが、それでも気休め程度に過ぎなかった。

 ハンターの中には、荷馬車に乗るくらいなら歩いた方がマシ、と公言する者もいるくらいである。

 なので、とにかく宿を取って休みたい、と思うのは、当然であった。


「いえ、私達はクラン……、パーティで家を借りていますので、そこへ……。

 元宿屋だった建物なので、部屋数は十分ありますから大丈夫ですよ」

「……え?」

 マイルの説明に、驚き顔のルイエット。


「……い、今、何と?」

「部屋数は十分ありますから、ちゃんと個室で休めますよ?」

「そっ、その前ですわ!」

 何だか、変に食い付く、ルイエット。


「え? 私達のパーティで借りている、元宿屋だった建物……、ですけど?」

「マ、マイルさん、あ、あなた、お友達がいらっしゃるの?」

 愕然としたルイエットの様子に、さすがのマイルも大声で叫んだ。


「私にも、お友達くらいいますよっ! 誰がボッチですか、人格破綻者ですか、コミュ障ですかっ!

 人を何だと思ってるんですかああああぁ〜〜っっ!!」



『のうきん』書籍20巻、ポーションスピンオフコミックス『ハナノとロッテのふたり旅』2巻(完結)、共に先週刊行されました!

先々週に刊行されました、『ろうきん』書籍10巻と合わせて、よろしくお願いいたします!!(^^)/

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― 新着の感想 ―
 2月14日   宿の食堂の一隅のテーブル。 面白くない顔で席についている、レーナ、ポーリン、マイルの三人。 少し離れた一画では、数人の女性に取り巻かれるメーヴィスの姿があった。 取り巻く女性は10歳…
ルイエットよりは社交性はあるはずだ。うん。、
まーアデル初期に友達ができにくい自覚はあったようだからちと過剰反応
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