685 面倒を見る 2
「い、いえ、その3人は、私が教えて訓練した者達です!
他の人達は、ごく僅かな容量しかありませんよっ!
てっ、天才である私にしか、超大容量の亜空間貯蔵庫たる収納魔法のコツを伝授することはできませんから、安心ですよっ!!」
「…………」
ツバを飛ばしながら必死で説明するマイルを胡乱げな表情で見ている、ルイエット。
あまりにも必死すぎるマイルは、明らかに不審であった。
なので……。
「何か、怪しいですわ……」
ルイエットを納得させることはできなかったようである。
「……まあ、マイルさんの狭い行動範囲内では、他に化け物じみた容量の亜空間貯蔵庫持ちはいない、ということは分かりましたわ。
他に、同じような方々がどれくらい存在するかは、マイルさんにも分かりませんわよね……」
マイルが大陸を股に掛けて行動しているなどということを知らないルイエットがそんなことを言うが、ルイエットの言葉を否定することもできず、黙っているしかないマイル。
「……では、マイルさんのお誘いをお受けいたしますわ。
今、時間は……」
「あ、夜が明けたばかりですよ」
「では、すぐに準備にかかりますわ」
いくら搭載艇ごと運べるとはいえ、ある程度の荷物は持っていなければならない。食料、水、夜営具、……そして武器等を……。
「あ、服は私が持っているものを着てください。その服は、ここではちょっと……」
今、ルイエットが着ている服は、この世界では目立ちすぎる。
そしてマイルのアイテムボックスの中には、マイルの服だけでなく、他のメンバーの服も預かっているため、ルイエットが着られるサイズのものもあるので、安心である。
レーナとメーヴィスも収納魔法が使えるようになったが、やはり超大容量であり安心感があるマイルの収納魔法に入れたままになっているものも、かなり多いのである。
なので、自分の服では小さすぎると思ったマイルは、おそらくポーリンかメーヴィスの服を貸すつもりなのであろう。
メーヴィスの服は丈が、ポーリンの服は胸部の布が余りそうであるが、町に着けばすぐに服屋に行けばいいので、問題はないであろう。
* *
「では、行きましょうか」
「ええ……」
マイルから借りたメーヴィスの服に着替え、水筒と保存食を入れたリュックを背負ったルイエットと、いつもの恰好でショルダーバッグを肩に掛けた、マイル。
ポーリンの服は、胸の部分のたるみが嫌だという理由により拒否されたため、メーヴィスのものが選ばれた。
まともな道があるところまで結構距離があるので、革のブーツにパンツスタイルのメーヴィスの衣服の方が適しているということもあり、マイルはルイエットの選択に黙って頷いたのであった。
……自分も、胸の部分の布地が大量に余るポーリンの服は着たくない、と思ったので……。
そしてルイエットは、荷物だけではなく、護身用の武器や防具を身に付けている。
勿論、剣や革の防具とかではなく、腕輪型の光線銃とか、ベルトのバックル型のシールド発生装置とかの類いである。
そしてさすがにマイルも、飛行魔法だとか『水平方向に落ちる』だとかの移動方法は自重するだけの良識があったため、王都に戻るには数日掛かる。
搭載艇を着陸させるには、人里離れた場所でなければならなかったため、当然のことである。
ふたりがリュックやバッグを持っているのは、不意に誰かと出会ったときに、手ぶらでは怪しまれることと、ルイエットだけが荷物を持っているというのは何だか申し訳ないような気がするため、マイルも荷物を持つことにしたからである。
ルイエットは、水が飲みたくなる度にいちいちマイルに出してもらうのが面倒であるため、少なくとも水筒は自分で持つ必要があった。
搭載艇は、既にマイルのアイテムボックスに収納済みである。
その収納シーンを見ていたルイエットは、ただ、遠い目をしていた……。
そして、ここから一番近い街道へと歩き出した、マイルとルイエット。
ここは人間が立ち入らない場所なので、勿論道などない。そして道の有無は、歩く速さに大きく影響する。なので、真っ直ぐ近くの町へと向かうのではなく、まずは街道がある方向へと向かうのであった。
それに、街道を歩いていれば、通り掛かった馬車に乗せてもらえる確率は、ゼロではない。
マイルはともかく、ルイエットが長距離を歩き続けることができるとは思えなかったし、道がないところを歩かせると、速度はともかく、転んだり足を挫いたりされるのが目に見えているため、マイルはとにかくまともな道に出ることを最優先したのである。
……まあ、怪我をしても治癒魔法を使えば問題ないが、治癒魔法を見れば、またルイエットが騒ぎそうである。
収納魔法と火魔法は見せたが、科学力で代替手段が取れるものと、治癒魔法ではインパクトが違うであろう。
手術や人工臓器、義手や義足、またはバイオ合成された手足は造れるかもしれないが、治癒魔法、特にマイルやマルセラ達が使える部位欠損の修復とかは、ルイエットが食い付きそうである。
さすがに、マイルもそれくらいのことは予想がついていた。
(なるべく、魔法関連の情報は与えないようにしよう……)
そんなことを考えるマイルであるが、魔術師がそこそこいるこの世界で、魔法に対して興味津々のルイエットに、それがどこまで可能であろうか。
魔術師というものは、自分の知識や技術を他者に教えたがらないくせに、それを誇示し得意げにしたがるという、少し矛盾した性癖の持ち主が多いというのに……。
* *
どん!
どどん!!
「テントと、浴室とトイレです!」
「…………」
組み立て済みの大きなテント、巨大な岩をくり抜いて造られた携帯式要塞浴室と要塞トイレ。
それを見る、死んだ魚のような目をしたルイエット。
搭載艇の収納を見せられて、マイルの亜空間の大きさは十分認識しているはずのルイエットであるが、やはりそう簡単に慣れることはできなかったようである。
そして、ルイエットを放置するわけにはいかないため、食事はこの場で調理するのではなく、もう出来てるやつをアイテムボックスの中から取りだした、マイル。
……そう、温かく、湯気が立っている料理を……。
『魔法に関する情報は、なるべく与えない』と考えていたのは、何だったのか……。
これでは、マイルの収納魔法の中は時間が停止していることが丸分かりである。
……まぁ、搭載艇で温かい雑炊を提供した時点で、既にアレであるが……。
ルイエットは、あの時は亜空間貯蔵庫たる収納魔法の存在に驚愕して、そこまで頭が回っていなかったようなのである。
「…………」
しかし、今はしっかりとその事実を認識しているようである。
そしてマイルは、そんなことには全く気付いていないのであった……。
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レーナ、遂に覚醒!!
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