673 パーティー 8
「……お礼?」
あの後、王城へ出向いてエストリーナ王女に依頼遂行の首尾に関しての確認を行ったマルセラは、戻ってきてから皆に結果を報告していた。
「ええ、依頼遂行の結果には充分に満足していただけたようで、それに対してのお礼をしたい、とのことですわ」
「え? あれは、ハンターに対してのギルドを通さない直接依頼である、自由依頼じゃなかったの?」
マルセラの言葉に、そう返すレーナであるが……。
「いえ、王女殿下には、私達はあくまでもモレーナ王女の側近、そしてマイルさんとメーヴィスさんも、パーティーで紹介した通りの身分の方だと思われておりますわ。
……事実、その通りなのですけど……。
レーナさんとポーリンさんのことは、王女殿下をお護りするために雇ったハンターだと紹介しておりますが、貴族や準貴族の娘がお遊びで平民ごっこや接待ハンターごっこ……充分安全に配慮した状態で、ハンターの真似事を体験するお遊び……をするのはよくある話ですから、もし本国での身分を教える必要ができましても、問題ありませんしね。
それに、モレーナ王女の側近だと知られておりますモニカさんとオリアーナさんがメイド組でしたから、一部の方はそのあたりのことにも気付かれていたかもしれませんけど、黙認されておりましたし……」
「なる程……。私達『赤き誓い』はハンターに対する自由依頼だと思っていたけれど、『ワンダースリー』をハンターではなくモレーナ王女の側近だと認識しているエストリーナ王女にとっては、『お友達である他国の王女様の側近にお願いした、個人的な頼みごと』だったってことか……。
そりゃ、国からの正式な『依頼に対する報酬』じゃなくて、私的な『お礼』になるよねぇ……」
「ええ、その通りですわ。それで、そのお礼なのですが……。
お友達に助けていただいたことに対して金銭で、というわけにも行かず……」
ここで、ポーリンから『全然構わないですよ、金貨で!!』という発言があったが、皆に完全にスルーされた……。
「そこで、国とは関係なく、エストリーナ王女個人としてできるお礼としまして、私達『ワンダースリー』と、マイルさん、メーヴィスさんの5人に対して、『いつでも王宮に登城して、第三王女エストリーナ姫に会える権利』を……」
「「「「要らんわああぁ〜〜っっ!!」」」」
そんなお礼がなくても、現状で、『ワンダースリー』はいつでも王宮に行ってエストリーナ王女に会える。そして……。
「それって、メーヴィスとマイルを取り込みたいだけじゃないの!」
レーナが言う通りであろう。
おそらく、エストリーナ王女には悪気はないと思われる。
……いや、メーヴィスとマイルを自分の陣営に、と考えることが『悪気』であると考えるならば、そう断言することはできないかもしれないが……。
「まぁ、いくら王女殿下とはいえ、国の予算を自由にできるわけじゃないんだ。個人的に使えるお金なんて、そんなにないだろう。
自分でできるお礼なんて、名誉的なものを与えることくらいしかないのだろう。仕方ないよ……」
「……まぁ、それもそうよね……」
自分達も、伯爵として領地を与えられているが、かといって領の資産を全て自由にするわけにはいかないし、もし結婚して子供ができたとしても、その子が成人するまでに自由にできるお金など、殆ど与えられるはずがない。
それから考えて、第三王女も自由にできるお金は持っていないのであろう、と納得するみんな。
……ここに、エストリーナ王女とモレーナ王女がアイテムボックスによる密輸やら凶作と豊作飢饉で荒稼ぎしたことを知っている者がひとりもいなかったのは、幸いであった……。
マルセラも、両王女がアイテムボックス転送で両大陸の危機を救って大聖女に叙せられたということは知っているが、それで大儲けをしたということまでは聞かされていなかったのである。
王女達は、そのような余計なことまでペラペラと喋るような馬鹿ではなかった。
「……とにかく、報酬……お礼は、別のものにして頂戴」
「ええ、次にお会いしました時に、エストリーナ王女にそう伝えておきますわ。
まあ、次に飢饉や豊作になった時に、王女転移システムを使って私達の領地との交易を、とでもお願いしておくのが無難かもしれませんわね」
「そのあたりが、落とし所かしらね……」
マルセラの案に同意する、レーナ。
他の3人も、こくりと頷いている。
……モニカとオリアーナは領地がないため、全く関係がない話である。
それに、前回は国レベルどころか、周辺国まで含めて、自発的に支援してくれたのである。なので、そのようなことを頼まなくても、飢饉の発生を知ればまた同じように支援してくれるに違いないであろう。
……つまり、今回の件は実質的には全員がただ働きであるが、別に儲けようとして引き受けたわけではないので、誰もそのようなことは気にしていない。別に、経費がかかったわけでもないし。
特にマイルは、あれだけ楽しんだ上、料理を食べまくっていた。充分に元は取れたと言えるであろう。
『ワンダースリー』にとっても、あれだけエストリーナ王女に貸しができたということは、後々役に立つであろうから、決して損な行為ではなかったはずである。
* *
「エストリーナ王女に、パーティーの件のお礼は次に飢饉が起こりそうになった時に、と伝えましたところ、快諾していただけましたわ」
王宮から戻ってきたマルセラが、皆にそう伝えた。
王女側からは連絡しづらいからと、定期的に顔を出すよう迫られて、マルセラが断り切れなかったための王宮訪問であった。
本当は『ワンダースリー』の3人全員で行くべきなのであるが、モニカとオリアーナが辞退したため、マルセラひとりでの訪問となっている。
ふたりに『平民である私達がいると、カマ掛けや誘導尋問に引っ掛かって秘密を漏らしてしまうかも……』と言われては、マルセラとしては同行を強要できなかったのである。
勿論、ふたりが同行を辞退したのは、ただ単に『王宮なんかには行きたくない』、『数回会っただけの王女様と何時間もお話しするとか、平民にとっては拷問以外の何ものでもない』と考えているからである。
その分、マルセラひとりに負担が掛かることになるが、それは『高貴なる者の義務』である、ということらしい。
いつもはあんなにマルセラを慕い献身しているというのに……。
どうやら、王女殿下の話し相手は、平民にとってはかなりキツいようである。
「お疲れさまでした!」
本当に疲れ果てた様子のマルセラを労う、マイル。
他の者達も、手を挙げたり頷いたりして、身振りや表情でマルセラを労った。
「……そしてこれが、エストリーナ王女からメーヴィスさんとマイルさんへと言付かった、王宮への常時立ち入り許可証ですわ」
「「要らんと言ったでしょうがあぁ〜〜!!」」
マルセラに向かって吠える、メーヴィスとマイル。
「……断り切れなかったのですわ……」
「「…………」」
ショボ~ンとした顔で俯くマルセラに、それ以上は責められないメーヴィスとマイル。
まぁ、マルセラ達『ワンダースリー』の3人はとっくに押し付けられているらしいし、王女殿下からのゴリ押しには抵抗できなくても仕方ない。
「まぁ、他の大陸に住んでいる上級貴族、っていうことになっているから、そうそうやって来ることなんかできやしない、って言えばいいでしょ。
特にメーヴィスは、貴族家の御当主様ってことになっているんだから……」
「あ、それもそうか! 他国の王族から呼び出しが来るわけじゃないし、心配することはないよね!
何だ。あはは……」
レーナの言葉に、安心して笑い声を上げるメーヴィス。
しかし……。
「「「「「…………」」」」」
他の者達は皆、そっとメーヴィスから視線を逸らせていた。
……そう。メーヴィスは、『女性ホイホイ』なのである。幼女から、老婆まで……。
そのスーパー磁力は、王女様をストーカーにするくらい、簡単なのであった……。




