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672 パーティー 7

「今のは、インチキだ! マルセラが投げた銅貨を収納魔法で取り込んで、あらかじめ用意していた切断済みの銅貨を取り出しただけ……、って、え?」

 そこまで言って、ようやく気が付いたらしい、メーヴィス。


「空中を飛ぶ銅貨を、顔色ひとつ変えずに確実に収納。

 そして、同じ場所に正確に、ふたつの銅貨の破片を出現させる。

 ……しかも、かなり前から銅貨を入れたままで、普通に振る舞っていましたよね、レーナさん。

 それって。それって……」

 そう言いながら、マイルの顔が次第に綻んでゆく……。


「収納魔法って、とっても便利よね……。

 ……だから、使っているのよ、私も……」

 そう言いながら、空中からヒョイと取り出した椅子に座り、にやり、と会心の笑みを浮かべるレーナ。


「お、おめでとうございますっ!」

「やったね、レーナ!」

「おめでとうございます、レーナさん!」

「「おめでとう!!」」


 抱き付かれ、背中を叩かれ、痛いわよ、とか言いながらも、満面の笑みを浮かべたレーナ。

 レーナ、幸福の絶頂である。

 ……そして……。


 どんより……。

 遂に、7人中ただひとりの『収納魔法がまだまともに使えない者』となってしまったポーリン。

 それも、商人として、あれ程収納魔法を熱望していた、ポーリン。

 そのポーリンの表情に皆が気付くのは、もう少し経ってからであった……。


     *     *


「それじゃあ、その時に収納魔法の能力に目覚めた、と?」

「ええ。自分じゃよく分からないのだけど、あの時……、あの、『赤き稲妻』のみんなの仇を討たねば、という思いで頭がいっぱいになって、視界が真っ赤に染まった時のような、そんな感じで……」


 どうしてすぐに教えてくれなかったのか、と文句を言うマイル達に、『みんなでブランデル王国の王都で遊ぶ時はまだ黙っていて、新大陸こっちのクランハウスに戻ってから言うつもりだったのよ。なのに、その前にエストリーナ王女からの依頼の話になって、言いそびれちゃったのよ』、と弁明したレーナは、その後、収納魔法会得の経緯を皆に話してくれた。

 そして『ワンダースリー』とポーリンは、それをひと言も聞き漏らすことなく拝聴していたのであるが……。


「…………」

 やはり、ポーリンの表情が暗かった。

 おそらく、『自分だけが……』とでも思っているのであろう。

 大陸屈指の治癒魔法の使い手であり、ホット魔法が使え、伯爵領の領主であり、領地で最大、国内でもトップクラスの商会を経営しているくせに……。


 この時点で、既に皆はポーリンの心情を察してはいた。

 しかし、それに触れるのはマズいと思い、敢えてスルーしていたのであるが、マイルは色々と複雑な思いをしていた。


(この中で、ズルじゃないのは、メーヴィスさんとレーナさん、そしてあとひと息のポーリンさんだけなんだよねぇ……)

 そう考えているマイルであるが、実は、本当にズルがないのはレーナとポーリンだけであった。


 マイルは、権限レベルが5、後に7となったし、元々ナノマシンからは特別待遇であった。

『ワンダースリー』は、マイルの口利きによるアイテムボックスの供与。

 王女コンビは取引によってアイテムボックスを与えられたし、メーヴィスは左腕と剣の整備のために常駐しているナノマシンによる影響が大きいと思われる。


 このクランがインフレなだけであり、本当は収納魔法はハードルがとても高いのである。

 収納魔法は、持続性が必要な特殊な魔法であり、そんなに簡単に、ポンポンと会得できるものではない。

 勿論、レーナの収納は、権限レベルが2であること、マイルの仲間であること等で多少の優位はあったかもしれないが、その殆どは才能と努力、つまり実力によるものであり、『ワンダースリー』や両王女のような、完全な貰い物(・・・)というわけではない。

 やはり、このクランで最も魔法の才能が優れているのは、『赤のレーナ』であろう。


 そしてポーリンが、『収納魔法が会得できていないのは、自分だけ……』と落ち込むのは無理のないことであるが、そもそも、不完全ながらも亜空間の形成とある程度の維持ができる時点で、数十万人にひとり、というレベルである。

 それに、完全にマスターできるのも、そう先の話でもないであろう……。


「……ところで、王宮でのパーティーでは思い切り目立っちゃったけど、大丈夫なのかな……。

 私達の、これからのハンター活動に支障が出たりは……」

 ポーリンを気遣って話題を変えるためか、メーヴィスがそう言って、心配そうな顔をした。


「大丈夫よ。王宮のパーティーに招かれるような貴族が、町でCランクハンターとバッタリ出会う、なんて確率はとても低いわよ。

 それに、服装が全く違うから、もし万一ハンターとしての『赤き誓い』や『ワンダースリー』があの時の貴族達と出会ったとしても、超至近距離で顔を合わせるとか会話するとかしない限り、気付かれる心配はないわよ」


「そうですよね。それに、逆にハンターやギルド関係者達に、私達の王宮での貴族としての行動を知られる可能性も、ほぼ皆無ですよね。

 あの場に居合わせた貴族達は、政治的に、そして外交的にも非常に重要な情報である私達に関することを、平民どころかあの場にいなかった貴族達にすら喋ることはあり得ないし、メイドや給仕の使用人達には守秘義務が課せられていますよね。

 王宮内で知り得た情報をペラペラと喋ったりすると、解雇どころか、本人、家族のみならず、一族郎党、ただでは済まないでしょう。

 さすがに、承認欲求や小銭稼ぎ程度のためにそんな危険を冒す者はいないと思いますよ」

 レーナの説明に、そう付け加えるマイル。


「あ、なる程……」

 確かに、上級貴族と顔見知りのCランクハンター、というのは、滅多にお目にかかれない。

 それらは、以前指名依頼を受けたことがあるとか、貴族出のハンターだとかの、特別な事情がある場合だけであるし、上級貴族が指名依頼を出すのは、Bランク以上のハンターだけである。

 Cランクのハンターが受けられる程度の依頼であれば、一族の若手か領軍の兵士に任せるであろうから、それも当然のことであろう。

 ……どうやらメーヴィスの心配は、レーナとマイルの説明によって解消されたようである。


「とにかく、今回の依頼内容であった、4人の王女達に対する婚約要求の圧力からの防護とか、エストリーナ王女への神殿勢力からの取込み工作やら婚約のゴリ押しやらの排除は、完全に成功したわよね。

 それらの企みは、パーティーがぐだぐだになっちゃったせいで、全て実行されることなく終わっちゃったからね、メーヴィスとマイルのおかげで……」

「あはは……」

「えへへ……」


「マイルは、自慢そうな顔をしない!!」

「あ、ハイ……」


 斯くして、ぐだぐだではあったものの、無事、エストリーナ王女からの依頼を完遂した『赤き誓い』と『ワンダースリー』であった。


 そしてこの後マルセラは、顔を合わせる度に『またメーヴィス様を連れてきてほしい』と強請ねだるエストリーナ王女に、辟易へきえきするのであった……。

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― 新着の感想 ―
本編がちょっとずつ進んでるのは、いいことです。 しかし、収納魔法の話になると度々出てくる『実は、本当にズルがないのはレーナとポーリンだけであった。』って降りからくる、説明文はいらないと思います。 毎回…
 なんだか、ポーリンの精神汚染攻撃が。
「敵を収納しては、高所から出す。」 を繰り返せば低コストで、戦意を挫ける。 外道の所業。
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