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67 作戦

 乗合馬車の旅、初日の夜。

 マイル達四人はある程度打ち合わせを済ませていたが、ティリザとユアンが加わったため、再度すり合わせのための確認を行った。場所は、例によって、マイル持参の簡易テントの中である。念のため、マイルがこっそりと防音の魔法をかけている。


「……というわけで、まずは罪状の確定をしなきゃいけません。あの男達が本当のことを言っているのかどうかの確認や、たとえ嘘は吐いていないにしても、商会の者だと騙った者からの依頼を受けたのかも知れませんから、そのあたりも裏を取らないと……」

 マイルの再度の説明に、レーナは、悪い奴だと分かっているんだからいいじゃない、と溢していたが、内心では納得していた。前回の打ち合わせの時も同じようなことを言っていたが、結局は賛成したのである。それに、依頼の事実を確認するのに大した手間がかかるとも思えない。昔の強盗の件であればともかく、あのCランクハンター達を雇ったかどうかは少し聞き込みをすればすぐに分かるであろう。王都民に対する誘拐・殺人教唆だけで充分な犯罪行為なので、それだけ確認できれば断罪しても何の問題もない。勿論、ついでに拷問して昔のことを吐かせるよう官憲にお願いすることも。

 ティリザは元々マイル達の行動に口出しするつもりはなく、あくまでも計画を聞いておく、という姿勢であり、ユアンも事前の慎重な調査は必要だと考えていたため反対することはなかった。

 そして王都を出発してから四日目の夕方、馬車はポーリンが生まれ育った町、ボードマン子爵領領都タルエスへと到着した。


 領都とは言っても、子爵領で一番大きな町、というだけであり、主要街道が通っているためそこそこの規模ではあるが、とても『都』と言えるような規模ではない。

「じゃあ、とりあえず宿を取るわよ」

 いつものようにレーナが仕切り、一同は少し寄り道をした後、宿屋へと向かった。

 宿は、ポーリンお勧めの、「客層があまり良くなく、胡散臭い者がいても目立たない宿」である。そこに、四人部屋をひとつ、ひとり部屋をふたつ取るつもりであった。ユアンが別室なのは当たり前として、ティリザも「私がいますと、お話がしづらいでしょうから」と言って別室を取ることとなったのである。


「四人部屋ひとつと、ひとり部屋ふたつ。空いてるかしら?」

 レーナが受付の男にそう聞くと、男は少し驚いたように目を見開いた。

 この宿は、あまり若い女性が泊まりたがるような宿ではない。しかし、安いこと、少し胡散臭い客でも目立たず普通に泊まれることから、たまには女性客も来る。男が驚いたのは、客が若い女性のパーティであったことではなく、レーナの後ろにいる少女の容貌にであった。

 被ったフードから溢れる短めの黒髪。そして、顔中に巻かれた包帯の隙間から覗くふたつの眼。

 胡散臭い客には慣れている受付の男にとっても、希に見る胡散臭さであった。恐らく、今月で第一位である。

 しかし、男も受付のプロである。少し驚いただけで、すぐに平然と答えた。

「大丈夫です。何泊の御予定でしょうか」

「未定よ。発つ時には、前日のうちに伝えるわ」

 レーナはそう言うと、宿泊料、食事等について確認し、鍵を受け取った。


 黒髪の怪しい少女は、勿論ポーリンである。

 髪は馬車に乗る前から染め粉で染めていたが、仕上げの包帯は、乗り合い馬車を降りてから物陰で巻いた。馬車に乗る前から巻いていると、移動中に他の乗客からの注目を一身に浴びて都合が悪いし、ポーリンが羞恥に耐えられなかったであろう。

 髪の色は、魔法で変えると持続の問題があり、無難に、コンバットプルーフ(実戦証明)というか、多くの先人がその実用性を証明済みである『染め粉』という便利なものを使用することにした。

 染め粉を使うと髪が傷むが、ポーリンならば自分で修復、というか、治癒できる。色を落とすのも、清浄魔法で染め粉の成分を分解消去すれば済む。

 マイル達四人は、さっさと部屋へはいり、夕食の時間までひと休み。馬車に乗っているだけであっても、激しい振動や痛むお尻、身体に力もはいり、かなり疲れるのである。ユアンも自分の部屋にはいって休んでいるようであった。ティリザは、荷物を部屋に置くと、ギルドに顔を出すとかで出掛けていった。


 翌朝、朝食の後にみんなでお出掛け。

 六人もがぞろぞろと移動するのは目立つので、チームを3つに分けた。今日は情報収集だけなので、分散した方が目立たず、情報もたくさん集めることができるからである。

 チーム分けは、まず、メーヴィスとユアン。ユアンが他の者と組むことを承諾するはずがなかった。次に、レーナとティリザ。そして、マイルとポーリンである。まだ何も行動を起こしていない今、ポーリン以外の者が危険に陥る可能性は低い。なので、レーナとメーヴィスはポーリンには四人の中で一番の実力者であるマイルを付けることにしたのである。ティリザはマイルと組みたそうな素振りをしていたが、さすがに自分の立場を弁えており、口を出すことはなかった。

 それに、パーティメンバーとして最低限の役割は果たすが積極的に揉め事に関わるつもりのないティリザが、一番揉め事になり易いポーリンと組むのは問題があったので、ティリザとレーナ、マイルとポーリン、という組み合わせ以外は考えられなかった。

 年配の者を派出すると、その者がリーダーとして振る舞わないと疑問に思われるため、見た目が『赤き誓い』の四人に近いティリザがこの役目に選ばれたのである。目立たず、主導権を取らずに脇役に徹せるように。なのに主役とコンビを組んだのでは意味がない。


 3組のチームは分散し、それぞれの調査目的に応じた場所へと向かった。

 レーナ達はギルド方面へ。メーヴィス達は商店が密集した区域へ。そしてマイルは、フードを深く被って俯き、包帯を巻いた顔がなるべく見えないようにしたポーリンと共に居住区域へと。


 そして夕方。

 それぞれの調査を終えて宿に戻った面々は、夕食を済ませた後、四人部屋へと集まった。

「じゃあ、みんなが集めた情報を纏めるわよ」

 例によって、場を仕切るレーナ。

「まず、私達が廻ったギルド方面の情報ね。

 ベケット商会が時々雇っていたCランクハンター五人組の姿が、ここ十日くらい見えないらしいわよ。ギルドを通さない、非合法っぽい仕事の時によく雇われていたとか。名前や風貌から、あの連中のことに間違いないわね。あと、それとは別に、ハンター資格のない者を護衛に雇っているらしいわ。こっちは、他の仕事をさせるんじゃなくて、護衛専門だって」

「商店街の方は、ポーリンから聞いた六カ月前までの状況とほぼ同じだ。相変わらず、ベケット商会が強引な商売や犯罪すれすれ、いや、どう見ても犯罪と思われることをやっても、なぜか官憲に処罰されるのはいつも被害者の方らしい。ベケット商会から迷惑を被った商店、反感を持つ人々は多いようだ。下兄様が女性店員達からうまく聞き出して下さった」

 メーヴィスの報告に、ドヤ顔のユアン。そして、聞き出す相手が女性限定であることに引く、メーヴィス以外の女性四人。

「王都で捕らえた者達の証言も、変わっていないようですね。もし話が違っていた場合、手遅れにならないように、すぐにギルドマスターから連絡がはいるはずですの。警備兵に引き渡してから既に七日。早馬ならば王都から一日半、つまり、少なくとも五日半は証言が覆っていないということですの。警備兵の取り調べ、それも恐らくは王宮から直接派遣された拷問吏直々の取り調べに、そんなに耐えられる者はいないと思いますの」

 ティリザの説明が決め手となり、商会長が冤罪である可能性はほぼ無くなった。


 当初マイル達は、雇った男達が戻らないことに焦れる商会長にうまく取り入って雇われて、などと考えていたのだが、非合法な仕事を請け負う食い詰めハンターの振りをして、と言いながら互いの顔を見て、『無いわ~……』と、思い直したのであった。明らかに、ミスキャストであった。

 もう、現代地球の司法制度とは違うのだから、状況証拠だけで充分である。マイルはそう思った。


 そしてマイルは、あの、超能力で敵を挟み殺す少女殺し屋のお話、『滅殺挟み人』のようなやり方で、恐怖を与えながらぎりぎり殺さないように捕らえることを提言したが、みんなに却下された。店を潰すことなく、また、ポーリンや母親、弟がきちんと店を取り戻せるようにするには、悪い連中を暗殺モドキで倒すだけでは駄目である、と言って。

 正論であった。下手をすると、こちらが犯罪者である。

 ただ商会長一味を倒すだけではなく、ポーリン一家の復権を果たさねばならない。

 『赤き誓い』の面々は知恵を絞った。



 翌日、町に朝2(午前九時)の鐘が響いた時。

 店を開けたばかりのベケット商会の前に、四つの人影があった。

 それは、四人の少女達であった。そして、その内で一番小柄な、十一~十二歳くらいの少女が、どこからともなくシンバルのようなものを取り出した。


 ジャ~ン!


 突然響いた、聞き慣れぬ大きな音に、人々が立ち止まって少女達に注目した。


 ジャンジャン、ジャ~ン!


 更に音を響かせた後、少女が大声で叫んだ。

仇討あだうちでござる! 仇討ちでござる!

 父親を殺され、母親と弟、そして父親が残した店までも奪われた少女の、仇討ちでござる!

 皆々様、お邪魔をなされぬよう、そして流れ魔法に当たって怪我などされぬよう、お気を付け下さいませ!」


 討ち入りであった。雪も降っていないし、朝っぱらであるが。

 人々は、眼を輝かせた。

 娯楽の少ない世界である。このような面白そうなこと、しかも一生に亘って何度も語り聞かせられそうなネタはそうそうあるものではない。おまけに、主役は可愛い少女達で、敵は日頃から評判の悪い悪徳商人である。もう、どちらが正義でどちらが悪かなどと、確認するまでもなかった。

 人々が集まり始め、商会の者が何事かと出てきた時には、ベケット商会の周りは大群衆で埋められていた。


 そしてレーナがぽつりと呟いた。

「『ござる』って何よ?」

結石が発症、のたうち回ったり病院へ行ったりして、更新パターンが崩れました。申し訳ありません。

大きさが1センチ弱であったため、自然排出の可能性があるからこのまま様子見、と言われ、痛み止めすら貰えず帰宅。(^^ゞ

また、痛みやら病院やら他の用事やらで更新が遅れるかも知れませんが、御容赦を。(^^ゞ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 腎臓結石で、砂粒大でも激痛だったので1cm大・・・((;゜Д゜)ガクガクブルブル お大事になさってくださいませ。
[一言] 話の内容が結石の話で全てぶっ飛んだ… 痛そう…
[一言] 胡散臭さ『今月』の第一位って所に闇を感じる…。歴代一位はどんな奴だったんだろうか…。
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