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664 帰 還 1

「……では、西方大陸へ帰還します!」

「「はいっ!」」

 ここは王宮、モレーナ王女の私室なので、ハンター式の『おおっ!』ではなく、女性近衛兵としての言い方でマルセラに返事する、モニカとオリアーナ。


 今回も、マルセラだけがモレーナ・エスト転移システムで移動して、というやり方でもよかったのであるが、もうバレてしまっているため、素直に3人一緒に移動することにしたのである。

 その方が、マルセラの精神的な負担も少ない。

 ただ、これによりエストリーナ王女にも、『え、何で?』と疑問に思われることになるが、以後のこともあり、もうそのあたりのことは気にしないことにしたらしい。


 既に、『赤き誓い』の4人は、マルセラの収納の中に入っている。

 でないと、またケラゴンに運んでもらわなければならなくなるため、それは申し訳ないと思ったためである。

 ……退屈を持て余しているケラゴンとしては、マイルからの頼み事は大歓迎なのであるが……。


「では、また、面白い話を期待しておりますわよ。

 エストさんによろしくね。……収納!」


     *     *


「ありがとうございます、エストリーナ王女殿下。

 これ、モレーナ殿下からです」

 収納から出してくれたエストリーナ王女に、モレーナ王女からことづかったお土産を渡す、マルセラ。


 お土産といっても、別に高価なものではない。

 両王女の関係は、そのようなものではないのである。

 なので、ふたりが贈り合うのは、相手の国では珍しいが自国では安価なものとか、相手に似合いそうだと思った、ちょっとしたアクセサリー程度である。


 そしてふたりとも、それらの購入費は『国際交流のため、相手国の重要人物に贈るものである』として、王宮の交際費から支出させている。……大した金額でもないのに……。

 そして互いに、自分は国の予算でまかなっているけれど、相手は自らのお小遣いで買ってくれているものと思い、少々罪悪感を抱いているという……。

 そのあたりは、同レベルの、良いコンビであった。


 まぁ、贈り物はアイテムボックス経由でいつでも交換できるので、今回のお土産は、本当に簡単な、『うちの者が世話になりますわね』という挨拶程度のものであり、ただのフルーツ数個である。


「……あれ? 私がお送りしたのは、確かマルセラさんだけだったはず……。

 どうして、他のおふたりも一緒に……」

 ぎくり。

「あ、あああ、あの、そっ、それは……」

 焦るマルセラであるが……。

「まぁ、そんなことだろうとは思っておりましたわよ」

 そう言って、肩を竦めるエストリーナ王女。

 モレーナ王女と、エストリーナ王女。

 ……本当に、良いコンビであった……。


「でっ、では、これにて失礼をば……」

「あ、少しお待ちくださいまし!」

 これ以上の追及を避けるため、さっさと退出しようとしたマルセラ達であるが、エストリーナ王女に引き留められた。


「な、何か……?」

 このパターンで、良い話であるはずがない。

 そう思い、警戒心バリバリで、ツウッと額から汗を流すマルセラ。

「実は、あなた達にお願いしたいことがあるのです……」

(((無茶な『お願い』、やっぱり来たああァ〜〜!!)))


     *     *


 エストリーナ王女の『お願い』というのは、マルセラに、とあるパーティーに出てほしい、というものであった。

 話によると、どうやら次に開かれる王宮でのパーティーにおいて、あまり好ましくない(・・・・・・・・・)企み(・・)はかられている、ということらしかった。

 別に、王位簒奪とか国家転覆とかいうような大それたものではなく、何というか、派閥的なマウント取りというか、権力争いというか、そういう類いの……。


 貴族の派閥争いなど王家としては無視し、有力貴族同士で互いに力を磨り減らし合わせた方が、王族にとっては都合が良いのではないか。

 マルセラがそう言ったところ……。

「それが……、そのマウントの取り合いのダシにされるのが、私なのです……」

「えええ? そこのところ、詳しくお願いしますわ……」


 そして、エストリーナ王女の説明が続いた。

 この国は、政治的にも軍事的にも、そして経済的にも割と安定しており、周辺国との関係もそう悪くはなく、農業も比較的順調。そう大きな野心を抱くような有力貴族もおらず、大きな問題はなかった。

 そう、問題はなかったのである。

 ……ほんの、数カ月前までは……。


 そこに突如として現れた、遠国の王女様御一行。

 それだけであれば、そう大きな問題ではなかった。

 ……その王女が、古竜に乗ってきた(・・・・・・・・)のでさえなければ(・・・・・・・・)……。


 そして、古竜との友好的な交流。

 そこまでであれば、まだ何とかなった。

 しかし、その後……。


 第三王女殿下が女神からの御寵愛と祝福を賜り、大豊作過ぎて農作物の価格が暴落、『豊作飢饉』とか『豊作貧乏』とか呼ばれる状態となり恐慌状態寸前であった農村の人々を救い、大聖女と認定された。

 ……そう、認定されてしまった(・・・・・・・・・)……。


 女神の御寵愛。

 奇跡の力。

 そして遠き国との物資の遣り取りが可能であり、……古竜とのコネができた。

 これはもう、女神が我が国に『周辺国を従え、大陸の覇者となれ』とお命じになっているに違いない!!

 そう考える馬鹿が出現するには充分な出来事であった。

 そして勿論、勝ち馬に乗る(・・・・・・)というか何というか、その『王国の大躍進』において、自分がその中心に居たい、と思うのも……。


 では、王族に連なる者でもなく大貴族でもない、一介の中位~下位貴族に過ぎない者がそういう立場になるためには、どうすれば良いか。

 急に国王陛下や王太子殿下に取り入ることなど、到底不可能。派閥の問題もある。

 ならば、どうすれば?

 ……そう。エストリーナ王女を使うのである。


 王位継承順位が低く、外交用としてもやや価値が低い、第三王女という身分。

 しかし、女神の御寵愛、『大聖女』という平民受けする肩書き、……そして古竜を使役する竜巫女である、異国の王女の友人。

 王族としての順位が低いことから、警護は王太子達に較べれば、それ程厳重ではない。

 また、『大聖女』という立場から、平民や下位貴族の接近が許されない、というようなこともない。


 少し前までは、王女としての人気は2人の姉姫達に独占されており……まだ未成年であるため、婚約者の座を争う戦いが姉姫達に集中していただけ……、状況が変わった今も、まだ自分の価値にあまり気付いていないらしき、世間知らずの扱いやすい子供。

 どうやら、そう思われているらしい、とのことである。


 ……そう、思われているらしい(・・・・・・・・・)、と……。

 確かに、以前はそうだったかもしれない。

 純真な、世間知らずで天然のお姫様。

 しかし今は、日夜モレーナ王女と金儲けのための悪だくみを行う、天然物の振りをしている養殖物(・・・)の王女様、である。


 また、『大陸の覇者』とはいっても、別に戦争で、とかいうわけではない。

 元々この国の評判は悪くはなく、政治も善政の類いである。

 それに、そもそも女神と古竜を味方に付けた国と敵対しようと考える国は少ないであろう。

 しかも、そこが『き国』とあらば……。


 なので、戦争による支配を、とかいうわけではなく、複数の国で同盟を結び、その盟主として、というような、穏便な方法により大陸を纏めるという、誰からも文句を言われることのない、平和的かつ望ましいものであれば、この国が主導権を握ることに対して、表立って反対する国は少ないものと思われる。


 そして勿論、この件……『ワンダースリー』に依頼すること……については、既にモレーナ王女の許可を得てある、とのことである。

 モレーナ王女は、ここ、新大陸における『赤き誓い』の存在は知らないため、『ワンダースリー』に関してのみであるが。


 また、モレーナ王女はエストリーナ王女に、『但し、結果がどうなろうと、私達は一切責任を持ちませんわよ。あくまでも、エストさんの自己責任ですわ』と念を押すのを忘れてはいなかった。

 他国の政治的な問題に巻き込まれるなどという自殺行為に関わるのは、御免であった。

 なので、モレーナ王女は自分からは『ワンダースリー』に何も伝えなかったのであろう。

 それは至極当然のことなので、勿論、エストリーナ王女はそれを了承している。


 そして、エストリーナ王女から状況のあらましを聞いたマルセラは、ただひとつの質問をした。

「……で、殿下は私達に、何を御依頼なさりたいと?」


 そう。

 それを聞かねば、頼みを引き受けるかどうかの返事をすることはできない。

 依頼内容を聞き、それについて仲間達と相談し、じっくりと検討して、そして皆の総意として、依頼を受けるか辞退するかを決める。

 ……それが、いくら王族からの頼みであろうと。

 それが、『ワンダースリー』のやり方であった。

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― 新着の感想 ―
外交関係の交際費だから大した額じゃなくても経費で落とすのはわかるけど相手はお小遣いから出してると思って罪悪感感じてるあたり良い子よね 後、海里ちゃんの妹ちゃんはよう……いたっけ?
[一言] 栗原海里が異世界で行動する姿を見たいですね。
[一言] 馬鹿な謀を企む貴族達にこの諺を ・・・ 『触らぬ神に祟りなし』 どうして不幸を望むのでしょうか?
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