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641 『ワンダースリー』+ポーリン 4

 就寝は、商人達は馬車の側でゴロ寝。雨が降る様子はないので、草の上に防水布を敷いて、服を着たままで寝転がるだけである。

 夜営で、寝着に着替えたりして、すぐに逃げたり戦ったりできない状態で寝るような馬鹿はいない。


 3人組も『ワンダースリー』もその近くで寝るが、『ワンダースリー』が他の2グループと異なっていたのは、自分達用のテントを張って……、いや、出して(・・・)いたことである。

 商人達も馬車にテントを積んではいるが、それは雨宿りできる場所がない時にやむなく使うものであり、自分達がギュウ詰めでくっつき合ってギリギリ入れる程度のものに過ぎない。

 大きなテントを積むくらいなら、その分、積荷を増やす。

 商人として、ごく当たり前のことである。


 そして3人組は、当然テントなど持っていない。

 商人に積荷を減らして自分達のテントを積んでくれなどと頼めるはずもなく、そして勿論、そんなものを担いで馬車についていけるはずもない。

 なので、護衛としては、それはごく普通の、当たり前こと。そのはずである。

 ……目の前に、大きなテントが張られていなければ。


 少女4人が使うには、明らかに余裕がありすぎる大きさ。

 そして、中から聞こえてくる、『ベッドをもう少しくっつけましょう』とか、『着替えた服は、ちゃんとチェストにしまいなさいよ』等の、理解できない言葉。

 ……いや、決してその言葉の意味が分からないというわけではないが、今、この状況でその言葉が口にされるということが、理解できなかった……。


 ベッド。チェスト。

 旅の途中で。夜営で。馬車にはそんなものは積んでいなかったのに。

 いくら収納魔法が使えても、限度というものがある。

 100歩譲って、マントや毛布ならば、まだ何とか納得できなくはない。

(((……しかし、ベッドやチェスト。てめーらは駄目だ!!)))

 3人の男達は、心の中でそう絶叫していた。


 マルセラ達は、さすがに今回は、マイルに作ってもらった『携帯式要塞浴室』を出すのは自粛した。

 そして、トイレも、自分達だけの時に使う安全性の高い『携帯式要塞トイレ』ではなく、もっと小さくて目立たない、『携帯式簡易トイレ』を使用している。

 ……テントの隅に設置しているが、一応、ちゃんと板で囲われており、ドアも付けてある。


 3人組は、不寝番は自分達がやると申し出てくれたが、勿論、『ワンダースリー』は自分達も別途不寝番を立てることにしていた。

 3人組は、素人に毛が生えた程度の小娘に自分達の命を託すのが怖かったのと、子供達はぐっすりと眠らせてやろうという厚意との両方でそう申し出てくれたのであり、それはマルセラ達も理解はしていた。


 しかし、マルセラ達もまた、3人組に自分達の安全を任せる気はなかったため、一応は申し出をありがたく受けたものの、テントの中で自分達の不寝番も立てていた。

 そして魔物や盗賊の襲撃だけでなく、勿論、3人組に対してもしっかりと警戒していた。

 マルセラ達は、馬鹿でもなければ、初対面の者を信じるようなお人好しでもなかった。


「まあ、女性ハンターとしましては、一番の警戒対象は魔物や盗賊ではなく、素行の悪い他の男性ハンターですからね。そして勿論、いくら雇い主とはいえ、商会主や御者を務めておられます従業員の方々も、信用するわけには参りませんからね。

 見栄え用の護衛の方達も、そういう触れ込みであるだけで、商店主さんの手の者であるとか、見た目通りに盗賊の一味だという可能性もありますしね」


 マルセラの言葉に、大きく頷くモニカとオリアーナ、そしてポーリン。

『赤き誓い』の中で一番胸が大きいポーリンは、男性達からの不躾ぶしつけな視線や強引なナンパの被害に遭うことが多く、少し男性不信や男性忌避を発症しているようなのである。

 そのため、変に警戒心が薄いマイルやメーヴィスより、マルセラ達のこの慎重さの方が共感でき、安心できた。

 しかし、ここでもまた、ポーリンにとってはショックな出来事があった。


「シールド! 虫除けバリア! 侵入者警戒魔法! オリアーナさん、モニカさん、テントの周囲に鳴子を。その後、テントの出入り口に台を置いて、その上に安物の壺を」

「え……」


 テント内とはいえ独自の不寝番を立てるというのに、更に、これでもかという程の警戒措置。

 しかも、魔法と物理的なものの両方で、何重にも……。

 オマケに、虫除けだけのために難度の高い自動継続魔法をひとつ追加するという余裕っぷり。

 これなら、安定した自動継続が最大の難関である収納魔法も、簡単に使えるはずである。

 ポーリンがまだ突破できていない、あの難関を簡単に越えて……。


 実は、『ワンダースリー』が使う収納魔法はマイルがナノマシンにお願いしたというズルであるし、本当は収納魔法ではなくアイテムボックスである。

 そのため、出し入れの時以外は魔力を消耗しないし、亜空間を維持し続ける必要もない。


 それに、魔法の効果が大きいのも、同じくマイルの依頼により『ワンダースリー』には専属のナノマシンが常時大量に随伴しているせいであって、決してマルセラ達がポーリンやレーナより魔法の腕が優れているからではない。

 ……しかし、ポーリンはそれを知らなかった……。


     *     *


 2日目も、移動中は特に何事もなく、野営地へと到着した。

 壊れやすいものや重量物をマルセラのアイテムボックスに入れているため、商隊の移動速度は予定より少し速く、当初予定の野営地よりひとつ先まで進んでいた。


「いやあ、おかげさまで到着は明後日の夕方ではなく、昼過ぎになりそうですよ。

 こりゃあ、着いた日に荷を全て納入できそうです。大助かりですよ!」

 見栄え用の3人の依頼料……半額なので、実質的にはひとり半の報酬額……が余分に掛かっているが、マルセラの収納魔法に入れた追加分の荷やら諸々で、今回の輸送に関しては大満足らしく、商店主の機嫌は良好である。


 それは即ち、手ぶらで王都へ戻る護衛達に対する慰労金……正規の報酬とは別に払う、帰路の路銀の足しにと渡される、チップのようなもの……が貰える確率が高くなるということであり、お金に困っている3人組にも笑顔が浮かぶ。


「では、私達は食事の準備をしますので、護衛の皆さんはゆっくりしていてください」

 商店主の言葉に、3人組は柔らかい草の上に腰を下ろすが、『ワンダースリー』+1の面々は、アイテムボックスから昨日の鹿肉の残りやら野菜やらを出して、調理を手伝い始めた。

 ……食材だけ渡して、後は商人達に任せても良いのであるが、自分達が手伝った方が早く、そして美味しく作れるからである。

 時間が掛かるのは別に構わないが、少しでも美味しいものが食べられるなら、手伝った方がいい。

 マルセラ達にとっては、当然の判断であった。

 そしてマルセラ達が料理を始めようとした時……。


「敵襲ですわ! 総員、戦闘態勢!!」

 突然そう叫ぶと、手にしていた包丁をその場に置き、左腰に佩いていた短剣を右手で抜き放ち、左手にはワンドを手にしたマルセラ。


 食事の準備中であっても、護衛なのである。少し邪魔にはなっても、腰の短剣を外したりはしないし、さすがにスタッフはテントの中に置いているが、左腕に仕込んでいた鉄製のワンドを手首を捻るような特殊な振り方をすることによって留め金を外して振り出し、しっかりと握り締めている。


 ワンドは振り出して武器としても使えるが、鉄製なので腕に仕込んだままの状態で敵の刃物を受け止める、という使い方をすることもできる。魔法以外の攻撃力も防御力も弱い魔術師にとっての、最後の護身用武器となり得る隠し武器、暗器(・・)の類いであった。


 別にスタッフやワンドがなければ魔法が使えないというわけではないが、近接戦闘においては護身のための手数てかずは多いに越したことはない。

 それに、こういう時のために、幾分重くて邪魔に感じるのに隠し武器としてずっと左腕に装着していたのである。今使わずに、いつ使うというのか。

 そして、モニカとオリアーナも、同様に短剣とワンドを手にし、迎撃態勢を取っている。ちゃんと、商人達を馬車と自分達で囲むような位置取りをして……。


(レーナの隠し武器と同じ……)

 ポーリンが、驚きの目でそれを見た。

 そう。レーナも同じような隠し武器……、暗器を左腕に仕込んでいた。

 同じような立場の者が、同じようなことを考えた結果、同じような結論に達する。

 ……何の不思議もない、ごく当然のことであった。

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― 新着の感想 ―
おれたちの戦いは始まったばかりだ、と言ったらそこで試合終了ですよ
[一言] 再び横逸れで申し訳ないですが そうなんですね。ねこみんと先生の無事な復帰と連載再開に大きく期待したいと思います。
[一言] この依頼が終わった時、ポーリンはどう変わるのか? 先が愉しみになってきます。
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