638 『ワンダースリー』+ポーリン 1
あの後、何とかレーナを言いくるめて、『7人分の食材や消耗品を運ぶのは大変だから、買い出しは、レーナとポーリンは収納持ちの者と一緒に行く』ということに落ち着いた。
……ポーリンの、『収納なしだと、そんなに大量の食材は絶対に運べないですぅ!』という必死の演技のおかげで……。
勿論、後で『ワンダースリー』には事情を説明し、レーナと一緒に買い出しに行った時には必ず、レーナが買おうとした食材を確認するように厳命したのであった……。
* *
「え~と、片道4日の町への商隊護衛。往復で8日、向こうでの滞在2日で、合計10日間。
私達も、経験のためそろそろ護衛依頼を受けても……、って、駄目ですわね。この依頼、受注資格がCランク以上というのは当然ですけど、条件が『人数が4~6名のパーティ』となっていますわ……」
マルセラが経験を積むために護衛依頼を受けようとしたらしいが、その人数制限だと、『ワンダースリー』単独での受注も、クランとして『赤き誓い』と一緒に受注することもできない。
それに、この募集人数だと、複数のパーティではなく単独パーティでの受注を前提としているはずである。
複数のパーティによる合同受注だと、どうしてもパーティ間の連携とか、色々と面倒なことがある。7人以上の護衛を雇うのでない限り、少人数なのにわざわざ複数パーティを雇いたがる商人はいない。
「他の依頼を……」
「あの、私が御一緒する、というのはどうですか?」
そこに、後ろから声が掛けられた。
「……え? ポーリンさん?」
経験を積むため、今回は『ワンダースリー』単独での長期依頼……本当の『長期依頼』というのは数カ月単位のものを指すが、マルセラ達は5日以上のものをそう呼んでいる。そのため、他のハンターやギルド職員と話が合わない時がある……を受けるつもりであり、今日は休養日にしている『赤き誓い』とは別行動なのである。
なので、ここでポーリンに出会うとは思っていなかったため、マルセラ達は少し驚いていた。
「私達は構いませんけど、『赤き誓い』の方はよろしいですの? ポーリンさんが10日間も抜けてしまわれて……」
当然のことながら、その点を心配するマルセラ達。
明らかに、今のポーリンの申し出は『赤き誓い』の中で合意を得られたものではない。
……というか、マルセラ達がつい先程クランハウスを出た時には、そんな話は出ていなかった。
どう考えても、勝手にマルセラ達の跡をつけてきたポーリンの独断であろう。
ひとりでこっそりついてきたという時点で、ポーリンにとっては予定通りの行動なのであろうと思われるが……。
「……普段はマイルちゃんが剣士としてメーヴィスと一緒に前衛を務めていますけど、治癒魔法も支援魔法も攻撃魔法も、私よりマイルちゃんの方がずっと上なんですよね……。
そもそも、Cランク下位くらいの治癒魔法と支援魔法が少し使えるくらいだった私に、色々と教えてくれたのはマイルちゃんですから……。
レーナの攻撃魔法も、同じです。
つまり、私とレーナは、いなくても誰も困らない……」
「大歓迎ですわっ! 是非、一緒にこの依頼を受注してくださいませっっ!!」
これ以上、ポーリンに喋らせてはいけない!
そう考えて、慌ててポーリンの言葉を遮ったマルセラに、こくこくと頷くモニカとオリアーナであった……。
* *
「う〜ん……」
両腕を組んで、困ったような顔で唸る、商人。
「確かに、Cランクで4人。依頼の条件は満たしているのですけどねぇ……。
でも、うちが出した依頼は、荷馬車の護衛ですよ? 盗賊や魔物から人員と馬車、そして積荷を護るための戦闘要員として、……そして当然のことながら、『うちの商隊には護衛が付いているぞ!』と盗賊達に見せつけて襲撃を断念させるという、威嚇効果も期待しているわけです。
それが、同行者が未成年の可愛い少女4人だなんて、その気がなかった盗賊達まで襲い掛かって来ますよね……」
ポーリンは15歳以上に見えるが、ひとりだけ年が上だと指摘するのは女性に対して失礼だと考えて、全員を未成年扱いしてくれる、紳士的な商人。
……どうやら、いい人のようであった。
そして、商人の指摘は、尤もである。
荷馬車の積み荷は、襲ってみないと分からない。
金目のものや、酒や食べ物であれば、当たり。
職人が使う特殊な道具や、農具とかであれば、外れ。
道具類は売り捌ける相手が限られるし、ひとつひとつが手作りであるため、盗品であることはすぐバレる。
なので換金が難しい上、買い叩かれて大した儲けにならない。
だから、どの商隊を襲うかは、慎重に決めなければならないし、一種の賭けのようなものである。
……しかし、若くて可愛い少女が4人もいれば、話は違う。
もし積荷が外れだったとしても、その4人を違法奴隷として売れば、確実に大儲けできる。
そして勿論、売るのは自分達が十分楽しんだ後である。
「それに、4人パーティで、4人全員が魔術師?
いや。
いやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
こんなバランスの悪いパーティ、初めて見ましたよ! こんな構成で今まで生き延びて、しかもそんなに若くしてCランクになれたなんて、とんでもない奇跡ですよ。魔法でも使ったのですか!
……って、皆さん、魔術師でしたね! ははは!」
上手いことを言ったつもりで笑い声を上げる、商人。
どうやら、雇ってくれる気は皆無のようである。
まあ、それも無理のない話である。
若手のハンターに仕事を与えてやるために、護衛として役に立たないばかりか、却って盗賊達を誘引するであろう者を、お金を払って雇わねばならない理由など、欠片もない。
ここ、王都に店を構える商人であれば、『ワンダースリー』や『赤き誓い』の噂を聞いている者が割と多い。
しかし、この商人は地方都市に店を構え、その都市と王都を商隊で往復するのが商売の中核であり、どうやらその2パーティのことはまだ把握していないようである。
そして、はっきりと断ってしまえばいいのに、面と向かってその言葉を口にするのが心苦しいのか、どうやらマルセラ達が察して、自分から引き下がるのを待っているようである。
……人が好いのか、気が弱いのか……。
とにかく、財産が、店の命運が、そして自分達の命が懸かっているのである。
商売は、慈善事業ではない。
そして、自分達から引き下がる様子が見られない受注希望者に、商人がさすがにそろそろハッキリと拒否の言葉を口にしようとした時、それまで交渉はパーティリーダーであるマルセラに任せて黙っていたポーリンが口を開いた。
「……あの、私達は対人戦闘も対魔物戦闘も、かなりの経験があります。
さすがに、騙し討ちとかで、超至近距離でいきなり襲い掛かられた場合は少し厳しいですけれど、荷馬車の護衛だとそういうことはありませんよね。
ならば、対人ならば30~40人、オーク程度であれば40~50頭くらいまでは大丈夫だと思います」
「……え?」
「そして、水はいくらでも出せますし……」
「えええ?」
「治癒魔法は得意で……」
「えええええええ〜〜っ!」
「リーダーは大容量の収納魔法が使えます」
「雇ったああああァ〜〜!!」
……商人は、割とチョロかった。
2週間の年末年始休暇、終了です!
本年も、よろしくお願いいたします!(^^)/
そして、1月12日、本作『私、能力は平均値でって言ったよね!』のスピンオフコミックである、『私、日常は平均値でって言ったよね!』(全4巻)を描いていただきました森貴夕貴先生のオリジナル作品、『女神と魔王(♀)から迫られて生まれて初めて女の子とフラグが立ったので、意地でも異世界転生を回避したい件!??』のコミックス第2巻が発刊されました!
1巻と2巻、まとめて、よろしくお願いいたします!(^^)/




