626 閑話 第三王女、大聖女になる 2
『エストさん、準備は整っておりますわよね?』
『はい。現在地、我が国の穀倉地帯。既に大量の農作物を集めさせており、倉庫は満杯、外にも山積みです。
このような集積場所が周辺に何カ所もあり、私の移動に合わせて各地で同様に集積される予定です。
更に、農作物の買い取りと支払いの実績を積めば、周辺国からも買い取りの申し込みが殺到するものと思われます。何しろ……』
『暴落前の価格の2割引で引き取る、という条件ですものね。そりゃ、穀倉地帯の領主が飛び付いてきますわよね。
こちらも、現在位置は凶作地域の空っぽの倉庫の中ですわ。
では、始めますわよ』
収納魔法を介した手紙でのやり取りなので少し面倒ですが、常に収納魔法の中を確認しておりますので、タイムラグは殆どありませんわ。
倉庫の中には、私の他に、私の護衛の兵士達、周辺の村の村長達、そしてここの領主とその家臣、及びその護衛達がおりますわ。
……事前にした説明を、誰も信じている様子はありませんわね。
いくら半年前の戦いで私が有名になったとはいえ、あれはただ、魔法で戦っただけです。別に、奇跡の力を示したというようなことはありません。
そして私がつい最近女神様から授けていただきました、この常識外れの収納魔法のことは、お父様とごく一部の方達にしか教えておりません。
……それを今、公開いたします。
狙われる? 利用される?
そんなこと、民草の命に較べれば、考慮するまでもない些細なことですわよ。
女神の御寵愛を受けし私に敵対する勇気がおありでしたら、いくらでも受けて立ちますわよ。
……時間です。
収納魔法を開き、中にある荷を取り出します。
見物人達は、無言です。
収納魔法から物を取り出すのは、珍しくはありますが、それなりの立場の者であれば何度も目にしているでしょうし、別に驚くようなことではありません。
まぁ、王女である私が収納魔法を使えることを隠していたこと、そしてそれを今公開したことには驚いているでしょうけど……。
収納の中のものを取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
倉庫の中は、咳払いひとつない静寂が続いています。
そして……。
「うおおおおおお! 奇跡じゃ、女神様の奇跡じゃ!!
何をしておる! 御使い様の足元が埋まって、次の荷が取り出しにくくて困っておられるじゃろうが! 荷を動かして奥から並べるのじゃ、御使い様のお手伝いをするのじゃ!
急げえぇ!!」
村長のひとりがそう叫び、他の者達も慌てて荷を運び始めてくれました。
……助かります。
護衛達や領主、家臣の人達は……、あんぐりと口を開けて、固まっておりますわね。
まあ、そっちは気にせず、放置でいいでしょう。
私は、自分が成すべきことを……。
向こうでは、エストさんが開けっ放しの収納に次々と荷を取り込んでおられます。
私はそれと同じ速さで、次々と取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。取り出します。
「ああ! あああ! あああああああああ!!」
「おおお、女神よ! おおおおおおお!!」
何だか、後ろの方から、感極まったかのような声が聞こえます。
領主と家臣、そして護衛の皆さんですわね。
別に、食料が無限に湧き出すというわけではありませんわよ。
仕入れには経費がかかっているのです、ちゃんと後で代金は払っていただきますわよ。
無料ではないのです、無料では!
それに、困ったら女神様から無料で食べ物が貰える、などと思わせると、皆が楽観し、危機感や勤労意欲というものがなくなってしまいます。それは大変いけないことですわよね。
それは防がねばなりませんわよ、ええ。
あ、家臣の皆さん、お暇なら、私の足元の荷を運ぶのを手伝っていただきたいのですが……。
そう思っていたら、私の視線にお気付きになったのか、護衛も家臣達も、そして領主自らもが、上着を脱ぎ捨てて荷運びを手伝い始めてくれました。
よし、これで作業が捗ります。
エストさんは積んである荷を取り込むだけですから、荷運びの必要がないので速く……、って、馬鹿ですか、私!
私も、荷を取り出しながら自分が移動すれば良いのですよ! 間抜けですわ、恥さらしですわ!
* *
あれから、皆さんに丁重に扱っていただき、次の備蓄倉庫(空っぽ)があるところへと移動しました。向こうでは、エストさんが次の倉庫(満杯)へと移動されておりますわ。
そして、それから不作が酷い沿岸地域を回り、その後、大変な状況である隣国、オーブラム王国へと向かいますわ。
エストさんに向こうで穀物を買い占めるための資金を渡すために、私の資産全てに加え、更に借金をして金のインゴットや宝石、その他向こうで高く売れるものを買い集めて、収納経由で送りましたわ。
お父様も、国庫と個人資産の両方から出資してくださいました。
それら全てを使ってエストさんが買い集めてくださいました、向こうの大陸での余剰食糧。
片や、凶作のためいくら払おうが入手不能。
片や、豊作のため価格が暴落。
その双方を、共用の収納魔法でトンネルとして繋ぐ。
女神に与えられた、この奇跡の力の応用による裏技により、多くの民草を救う。
女神にもお褒めいただけるはずですわ!
* *
我が国の沿岸地域を回り、現在、オーブラム王国を回っております。
驚きましたことに、私の活動に感化されまして、この国と長い国境線で接しております南方の隣国、マーレイン王国とトリスト王国からの食料支援が行われ始めたそうですの。
その両国も、凶作ではないものの、それなりに不作であり、そんなに余裕はないはずですのに。
何でも、『自分達の食事量を3分の2にすれば、支援に回す分が何とか捻出できる』とのことで、全国民が一丸となって支援に努めているそうですわ。
……皆さん、馬鹿ですわね。
でも、私、そういうお馬鹿さんは、嫌いではありませんわ。
あ、勿論、それらの支援も無償ではなく、後払いだそうです。
そりゃそうですよね、支援物資を集めるのにも輸送するにも、お金がかかっているのですから。
そして将来、逆に自国が凶作になるということもありますから、その時の相手国政府の良識に期待するのではなく、ちゃんとお金の形で支払っておいていただかないと。
そして何より、隣国からの支援物資が無料などということになれば、有料である私達の立場がなくなりますからね。
良かったですわ。何とか、セーフですわ……。
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