623 クラン 7
「常時依頼の納品ですわ」
ドサドサドサドサドサ〜〜!
「常時依頼の納品ですわ」
ドサドサドサドサドサ〜〜!
「常時依頼の納品ですわ」
ドサドサドサドサドサ〜〜!
「常時依頼の納品ですわ」
ドサドサドサドサドサ〜〜!
「常時依頼の……」
「……待て! 待て待て待て待て待てええぇ〜〜!!」
大容量の収納魔法のことを公開しているマルセラが、仲間達と共に膨大な量の素材納入を始めてから、5日目。
遂に、納品窓口のオヤジが切れた。
「テメーら、いい加減にしやがれ! 角ウサギの価格が大暴落だっ!!」
「戦闘証明済みの作戦は、安心感がありますねぇ……」
その騒ぎを眺めつつ、飲食コーナーで果実水を飲みながらそう呟いたマイルに、うんうんと頷く、『赤き誓い』のメンバー達であった……。
* *
今回、『ワンダースリー』は納入する獲物を角ウサギのみに絞っていた。
魔物ではない普通の動物……鹿とか猪とか……だと、乱獲すると個体数が激減してしまい、下手をすると数年間に亘りこのあたりでは獲れなくなってしまう可能性がある。
なので対象は魔物一択であったが、その中で、ギルドが一番早く音を上げそうなのが、角ウサギなのである。
10歳未満の準会員である子供達や、Fランクの駆け出しの連中が何とか食っていくための、最低限の命綱。
それが、比較的安全に狩れて、そこそこの値で買い取ってもらえ、そして自分達が食べる分も確保できる、角ウサギ狩りなのであった。
その角ウサギの価格が大暴落すると……。
自分達が食べる分だけ狩る村の子供達や孤児達は、まあいい。多少個体数が減ったところで、角ウサギはどんどん増えるため、大した影響はない。
……しかし、買い取り価格の大暴落は、駆け出しハンターにとっては致命傷であった。
これがオークやオーガの暴落であれば、まだいい。
そのあたりを狩る連中なら、狙いを他の獲物に変えてもいいし、それくらいの実力があるパーティならば数カ月食っていくくらいの蓄えもある。
……しかし、角ウサギで生活を支えつつ経験を積み、上を目指そうとしている駆け出しの連中。
彼らには、致命傷である。こんな真似をされては、堪ったものではない。
買い取り担当である、納品窓口のオヤジが。そしてギルドマスターがキレるのも、当然であった。
そして、2階のギルドマスターの部屋へと連行された、『ワンダースリー』であるが……。
「どういうつもりだ、お前達……」
「いえ、どういうつもりも何も、ハンター登録したばかりの駆け出しFランクハンターですので、頑張って角ウサギ狩りに努めているだけですわよ?」
「「「…………」」」
マルセラの返答に、黙り込むギルドマスターと、納品窓口のオヤジ、そして『ワンダースリー』のハンター登録を担当した受付嬢。
確かに、マルセラが言う通りである。
Fランクパーティが受ける依頼と言えば、町の中での雑用と、薬草採取、そして角ウサギ狩り。それが、駆け出しハンターが受ける、3大依頼である。
その中のひとつである角ウサギ狩りに邁進するのは当たり前のことであり、非難されたり疑問に思われたりするようなことではない。
特に、その3つの中では角ウサギ狩りが一番実入りがいいため、森の中での行動と角ウサギ狩りを安全にこなせるだけの実力を身に付けた者達は、もう雑用や下級ポーション用の薬草採取を受けることはない。
……稀少な薬草は、群生地が遠く危険な場所であったり、滅多に見つからなかったりと難易度が高いため、また別の話であるが……。
とにかく、『ワンダースリー』が角ウサギを狩りまくるのは駆け出しFランクハンターとしてはごく当然の行為であり、呼び出しを受けたり非難されたりする謂われはない。
……これっぽっちも、全く。
そう主張したマルセラであるが……。
「……物事、限度と常識というものがあるだろうがああぁっ!!」
怒鳴るギルドマスターと、こくこくと頷く納品窓口のオヤジ、そして受付嬢。
(((あ、やっぱり……)))
そして、マイルの提案に乗ったものの、やはり限度と常識を超えているよねぇ、と思っている、『ワンダースリー』であった……。
しかし、これはそれを承知で乗った、『作戦』なのである。
ここぞとばかりに、マルセラが攻めに入った。
「Fランクである私達には、これが一番効率的な稼ぎ方であり、功績ポイントを貯める方法なのですわ。安全確実に角ウサギ狩りができ、収納魔法のおかげで獲物を大量に持ち帰れる私達が、他の駆け出しの方々と同じように町の中での雑用や薬草採取で小銭を稼がねばならない理由はありませんわよね?」
「「「…………」」」
勿論、ギルド側がハンターに対してそのような理不尽な命令を下すことはできないし、そもそもそのような権限はない。
そして、困り果てたギルドマスター達に対して、オリアーナが助け船を出した。
「そう言えば、最近、とある港町で新人Fランクハンターが特例措置で3ランクの特別昇級を果たしたとかいう噂を聞いたことがありますね……」
何気なく呟かれたその言葉に、ギルドマスター達が心の中で悲鳴を上げた。
(((それが狙いかああああぁ〜〜っっ!!)))
……嵌められた。
それを、誤解の余地なく理解した、ギルドマスター達。
確かに、ごく最近、ある港町でそういうことがあった。
その件は、『特進事件』とか『あの件』とか言われており、話題になる時にはパーティ名は特に口にされなかったため、ギルドマスター達は一度書類で見ただけの当該パーティの名を覚えてはいなかった。
いくら珍しい特進を果たしたとはいえ、所詮はCランクである。BランクやAランクのパーティをいくつか抱え、滅多に戻っては来ないが一応この街が本拠地であるSランクハンターも所属している王都のギルドとしては、珍しくはあっても、パーティ名が国中に轟くという程のことではなかった。
……しかし事件そのものは、この国のギルド関係者で知らぬ者はいないほど有名である。
自分が処罰される危険を冒して町とギルド、そしてハンター達のためにそれを決断したその町のギルドマスターは、褒め称えられて昇格したという。
……当たり前である。
町やギルド、そしてハンター達のために自分の不利益を顧みず行動した者を処罰すれば、以後、それに続く者がいなくなってしまう。
皆、自分ひとりではなく、妻子を養う身なのである。自分の身と立場は守りたい。
……しかし、そんなに簡単にひよっこ共の術中に陥ってもいいものか。
「「「…………」」」
3ランク特進など、そうそうあっては堪らない。
しかし、前例があるだけに、先駆者に較べるとハードルは遥かに低い。
それに、たとえこれを認めたとしても、この連中と同じ真似ができる新人がいるとは思えない。
……特に、馬鹿容量の収納魔法持ちが必要だという点において。
なので、悪しき前例となり、模倣者が続出するということは絶対にない。
ただの、一回限りの単発事象として終わるのは、間違いない。
だが、いいのか。
Fランクの年若き少女達を、2ランクか3ランクも飛び級させて、本当にいいのか。
それは将来性のある若者達を殺すことになるのではないか。
「「「…………」」」
苦渋の選択。
こんなことでそれを迫られることになるとは、思ってもいなかったギルドマスター達であった。
お知らせです!(^^)/
拙作、『ポーション頼みで生き延びます!』の書籍版イラストレーターと、同スピンオフコミック『ポーション頼みで生き延びます! ハナノとロッテのふたり旅』の執筆を担当してくださっておりますすきま先生がイラストを担当された小説が、9月15日に刊行されました!
『物理型白魔導師の軌跡〜ソロの支援職、自分にバフを盛って攻撃特化無双。後方支援? そんな事より暴力です!~』1巻(一二三書房)
著者は、桜ノ宮天音先生です。
ソロの殴り白魔導師(支援職)のルーミア、爆誕!
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とりあえず、ネット検索して表紙を見よう!!(^^)/




