616 再 会 2
「……いえ、別に『赤き誓い』の皆さんからアデ……マイルさんを奪おうなどとは思っておりませんわよ。
そんなことをしたのが向こうの大陸の人達にバレたら、どうなると考えていらっしゃいますの?」
「「「「あ……」」」」
「そうですわよ! 救国の4英雄、御使い様と聖騎士、大聖女、大魔導師の4人を引き裂いて御使い様を奪い取った、世紀の大悪党になってしまいますわよ、私達!
……まあ、マイルさんをブランデル王国に連れ帰れば、国内でのみは絶賛されるでしょうけど、一歩国を出れば、神敵扱いでマイルさんの狂信者達に命を狙われるかも……、いえ、確実に狙われますわよ!!」
「「「「…………」」」」
……あり得る。
そう思い、無言になる『赤き誓い』の4人。
「それに、皆さん、もしマイルさんから離れても、国元に帰っておとなしく領地経営をする気なんかないのでしょう? 皆さんのことを知る者が誰もいないこの大陸で、『私が考えた、楽しい理想のハンター生活』を送るおつもりですわよね?
……まぁ、マイルさんと別れるつもりなんか皆無でしょうけど……」
「「「「…………」」」」
マルセラの言葉に一切反論できず、何も言えない『赤き誓い』の4人。
「……じゃあ、どうしてマルセラさん達は、この大陸へ……」
至極尤もな疑問を口にした、マイルであるが……。
「そんなの、マイルさんのことが心配だからに決まっていますわよ!」
そして、こくこくと頷く、モニカとオリアーナ。
「え……」
マルセラの言葉に、じんわりと目尻に涙を浮かべるマイルであるが……。
「そんなの、この連中も領主の仕事とか殺到する婚約話とかが嫌になって逃げてきたに決まってるわよ!」
「「「うっ……」」」
レーナの指摘に、眼を泳がせるマルセラ達。
どうやら、図星のようであった。
「その歳で、事務仕事に追われたり政略結婚の餌食になったりするのを嫌がらない女性は少ないわよ。それも、楽しい自由な生活を知っていて、オマケに自分達だけで暮らせる能力を持っている女性だと、特にね」
「「「あ〜……」」」
レーナの説明に、納得の声を漏らすマイル達。
そもそも、自分達がそうなのである。納得するに決まっている。
オマケに、マルセラ達はマイルと同年齢である。
……つまり、メーヴィスどころか、レーナやポーリンよりも年下ということである。
「じゃあ、皆さんはこれからどうされるのですか?」
マイルの問いに、マルセラが胸を張って答えた。
「マイルさんと一緒に、面白おかしくこの大陸を旅して廻りますわ!」
「「「さっきと、言ってることが違うっっ!!」」」
そして当然のことながら、レーナ、メーヴィス、ポーリンの3人から怒鳴りつけられたのであった……。
* *
「し〜っ! 宿の人か他の宿泊客に怒鳴り込まれますよっ!!」
「「「あ……」」」
そう言って叱るマイルであるが、今回は普通に話すだけだと思い遮音結界を張らなかったマイルの大失敗である。
慌てて結界を張ったので、この後はいくら叫んでも問題ない。
「い、いえ、別にマイルさんをあなた達から奪おうなどとは考えていませんわよ。
ただ、私達もマイルさんと一緒に、と思っているだけですわ」
「「「…………」」」
マルセラの説明に、黙り込むレーナ達3人。
マイルは、嬉しそうな顔をしているが……。
「7人じゃあ、パーティとしては多すぎるわよ!」
「魔術師5人に、剣士ひとりと、魔法剣士ひとり……。バランスが悪すぎるよ……」
「商人ふたり、そして全員が貴族と女準男爵……」
ポーリンがそんなことを言ったが、モニカは商家の娘であるが、別に商人だというわけではない。
そして、モニカとオリアーナは女準男爵であり、それは世襲称号ではあるが貴族ではなく、身分は平民のままである。
まあ、『平民の中では最も貴族に近い身分』ではあるが……。
とにかく、レーナ達3人が言っていることは、全てその通りであった。
そして、それに反論できず、黙り込む『ワンダースリー』……、と思われたが……。
「クランですわ」
「「「「え?」」」」
クラン。
それは、『氏族』という意味の言葉を語源としたものである。
ハンターの間では、それは複数のパーティが集まったものを意味する。
普段は各パーティごとに活動するが、大きな依頼の時には複数のパーティが合同で受けたり、緊急事態……魔物の暴走が発生しそうな時とか、権力者から理不尽な強要が行われた時とか……には、クランに所属する全パーティが力を合わせて全力で立ち向かったりする。
また、平時においては、情報の交換、パーティ間の親睦、パーティ対抗の模擬戦、資金面や人材面での支援とか、様々なメリットがある。
……勿論、資金を貸し付けたパーティが全滅して貸し金が回収できなくなったり、加盟パーティから犯罪者が出るとクラン全体の信用が失墜したり、他のパーティを騙す者、良い人材の引き抜き、パーティ間の男女関係の縺れ等、デメリットもある。
しかし、デメリットの多くは、クランに加入していなくともパーティ内とか他のパーティとの間とかで普通に起こるものであるから、そのあたりについてはあまり気にしない者が多い。
「『赤き誓い』と私達『ワンダースリー』は、クランとして一緒に活動してはどうかと考えておりますの。
いつもべったりと一緒ではなく、姉妹パーティとして仲良くして、普段はそれぞれのパーティとして活動しますが、大きな依頼の時には合同受注したり、時には戦力を融通し合ったり……」
「「「「あ……」」」」
マルセラからの、いや、『ワンダースリー』からの提案に、眼を見開く『赤き誓い』の4人。
「そして先程お話ししましたが、私達と組めば『王女転移システム』と、『ワンダースリー転移システム』が利用できますわよ。
『王女転移システム』で私達のうちのひとりが旧大陸に転移しますと、あとは両王女に知られることなく、皆さんをいつでも両大陸を行き来させて差し上げられますわよ。
一度私達全員がどちらかの大陸に集まりますと、次はまた王女達を介する必要がありますけれど、それは元々そういうシステムであることを王女達に説明してありますから……というか、そのために王女達に共用の収納魔法を教えたのですから、それをどうこう言われることはありませんわ。
救国の大英雄である皆さんのことさえ知られなければ、何の問題もありませんわよね。
そして皆さんは、比較的気軽に御家族のところに顔を出せるというわけですわ」
「「「「……」」」」
レーナとマイルには、家族がいない。
しかしそれでも、お世話になった人達や、会いたい人達はいるし、領地のこともある。
家族がいるメーヴィスとポーリンは、尚更である。
ケラゴンに頼めば帰省はできるが、そうしょっちゅう頼むのも申し訳ないし、移動には時間もかかる。
……だが、マルセラ達が開発した、『収納魔法転移』を使えば……。
「「「「…………」」」」
その、あまりにも魅力的な提案と、そしてあまりにも凄まじい『ワンダースリー』の手に入れた能力に対する応用力に、言葉もない『赤き誓い』の4人であった……。




